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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
37/111

その9

この物語はフィクションです。


実在する人物・人名・団体・組織とは一切関係ありません。


又、何処かで聞いたことがある単語があるかも知れませんが、気のせいです。


読んでくださっている方々へ


感想・イイネありがとうございます!


最近忙しくなり、更新が遅れてしまい申し訳ありません。


寛容なお気持ちで御寛恕頂けますよう、宜しくお願いします。

         洛陽内曹家邸客間


「あ~、ヒマだ、暇だ~・・・。」

夏侯惇と曹操の熱心な勧めにより、曹操の自宅に逗留する事になった糜芳は、曹操の御目見得工作が実を結ぶまでの間、無聊(ヒマ)をかこつ事になり、時間を持て余していた。


「逗留し始めてもうと言うか未だ1週間、か・・・。

まだまだ3ヶ月程はかかんのかなぁ・・・。

はぁ~、徐州に帰りて~な。」

ホームシックになっている糜芳は故郷を懐かしみ、ため息を漏らして嘆く。


聞冬達州兵と士嬰達とは上洛した翌日に別れ、李軻達私兵団も曹家の屋敷近くに宿泊して、交代で糜芳の警護に来る以外は基本的に会わない為、同郷人達とワイワイ楽しんで移動していた事を思い出し、余計にホームシックになっていた。


「後、曹操の歌曲のおねだりが凄くしつこいし・・・面倒くせぇ。」

再びため息を吐く。


糜芳の歌曲の大ファンとなった曹操は、職務をほったらかしにして歌曲をねだり、執着心全開で糜芳にまとわりついてきたのだった。


(まさか、此処まで執着されるとは・・・)

乱世の姦雄の欲深さを甘く見ていた糜芳。


曹操の執着心と欲深さを()の当たりにして、「そう言や関羽が自分の元を離れるのを惜しんで、ワザと面会謝絶をして、逃げ回ったエピソードがあったよな確か?」と、昨晩ふと思い出し、


「まさかワザと遅滞して、僕の歌曲を聞き続けようとかセコい事思っていませんよね?」

念の為確認してみると、


「馬鹿を申すな。

そんな卑怯な事を、仮にも一族の恩人にする筈が無いに決まってるだろう。」

キリッと真顔で告げられたのだが、じ~と観察していると、目が泳ぐ処か魚群が走ったのを見た糜芳は、「あ、コイツぜってー考えてやがる」と確信。


曹操の牛歩戦術を避ける為、これ見よがしに屋敷の主曹嵩(未だ隠居前)と夏侯惇に、お礼と称して亡父の遺影を描き上げてプレゼントして渡し、ついでに夏侯淵の亡父の遺影も描いて夏侯惇に預けると案の定、絵を見た曹操は、「欲しい!自分も欲しい!」と目を輝かせてねだって来たので、


「御目見得の目途が立ち次第、曹操様にも描いて上げますね。」

にっこり微笑んで、「サッサと工作しねーと、お前だけお預けだぞ?解っているな?」と暗に示唆して、しっかりと保険を掛けていた。


因みに曹操は今現在、サボっている所為で職務が滞って困った部下が屋敷に陳情しに来て、


「操、貴様!職務を怠けるとは何事だ!!」

適当な理由でサボっているのを知り、キレた夏侯惇にシバかれて、職場に強制連行されている。


(う~ん、このまま手をこまねいて待つのも、落ち着かないし・・・。

よし、気休めぐらいにしかならないかも知れないけど、練習がてらストリートライブをして、知名度を上げてお声掛かりが掛かる様に頑張ってみるか・・・)

よっしゃ、と決意した糜芳。


「そうと決まれば、と・・・。」

衣服の入った葛籠つづら)を引っ張り出して、1番草臥くたび)れた衣服に着替えて二胡を背負い、編み笠を被って台所で使い古したざる)を拝借。


隣室にいた夏侯惇に外出をする事を言付けて、サクラ兼護衛の李軻達私兵を連れて、東門が有る東大路に向かう。


てくてく・・・ざっざっざ・・・ピタッ・・・ピタ


「あの~夏侯惇様?

何故僕達に付いてくるのですか?」

後ろを振り向いて、ドラ○エのパーティーメンバーの如く糜芳の後ろを追随する夏侯惇に問い質す。


「いや、なに。

私も糜芳殿の護衛をしようと・・・。」

ついさっきまで曹操にキレていたキレ顔とうって変わり、涼やかな物腰で柔らかに微笑む夏侯惇。


「へ?いや~、流石に名家の御当主に護衛をして貰うのは、いくら何でも・・・。」

「だからこそですよ、糜芳殿。

此処洛陽に於いては、地方と違い心ない名家や宦官連中が大勢おります。

そういった連中に絡まれた時には、「夏侯」の家名が少しはお役に立つと思いまして。」

「おお、なる程。」

夏侯惇の意見に頷く。


(確かに対アホ名家&アホ宦官に有効そうだな。

最悪従兄弟の地獄の門番長(曹操)を召喚して貰えれば、大概の輩は撃退出来そうだしな)

脳内思考で有効と判断し、


「では夏侯様。

お言葉に甘えさせて頂きます。」

「なんのなんの。

少しでもご恩返しが出来れば何よりですよ。」

こうして夏侯惇も護衛に加わって、東大路に繰り出した糜芳であった。


        洛陽内東門筋東大路


洛陽は王城(皇城)を中心に東西南北に大路が伸びていて、南を除く(南側は河が在るため)東西北に門が有り、糜芳が向かった東側は、洛陽を訪れた人達が宿泊する宿場街となっており、多くの宿屋とそれに付随する穀物・野菜・肉魚等の食料品を売る店と、旅行客向けのお土産や旅に必要な雑貨品を扱う屋台が建ち並んでいる。 


糜芳はそんな東大路の様子をキョロキョロと見回し、人の良さそうな恰幅の良いおばちゃんが店番している八百屋の屋台に近づいて、


「こんちは~。その美味そうなそれくださいな。」

愛想良く挨拶をしながら野菜を購入する。


「はいよ、毎度。

あんた流れ楽士・・・にしては幼いね。

修行中の見習い楽士かい?」

「あっはい、そんなところですお姉さん。

それで厚かましいお願いなんですけど、店先で演奏させて頂けませんか?」

恐る恐るといった体で、上目遣いにおばちゃんにお姉さんとごますりしながら頼み込む。


「あらやだよこの子は!?

しょうがないねぇ、好きにしな。」

バシンと糜芳の肩を叩き、サムズアップして笑顔で許可を出してくれた。


「ッゥう~・・・あ、ありがとうございます!

では早速、失礼してと・・・。」

鉄砲(張り手)を喰らった衝撃に耐えつつ、いそいそと笊を地面に置いて即席の銭入れにし、おばちゃんが好意で貸してくれたオークサイズの椅子を借りて、演奏準備に入る。

一応李軻や夏侯惇は他人を装いつつ、何時でも対応出来る距離を保っている。


因みに笠を被っているのは、士嬰曰わく流れ・見習い楽士が顔を見せて演奏するのは顔を売る=名を売ると見做され、流れ楽士は地元楽士の仕事を奪うつもりに観られ、見習い楽士は失敗すれば同門に恥を掻かせる事になる為、双方共に袋叩きにされるので、それを回避する為の暗黙の了解だそうだ。


(さて、とりあえず定番の曲を弾きますかね)


~~~♪~~~~~♪・・・

糜芳は、定番の自振の曲を二胡でゆっくりと弾く。


「浮遊城」・「機動城」・「トロル」・「今鹿」・「違法労働及び違法交通宅配便」・「おだててないのに空を飛ぶレッドピッグ」をメドレーで繋ぎながら、演奏する。


~~~~♪~~~~~♪・・・・・・

演奏を終えて周囲を見ると、ポカンと口を開けて聞いている大勢の人達がいた。


「ふぅ、ありがとうございました。

え~、もしよろしかったら、寸志すんし)(投げ銭)をお願いします。」

ぺこりと頭を下げ、笊を指し示す。


ウォォォォッッッッ!!!!

チャリン、チャリン、チャリン・・・・・・

雄叫びの様な歓声の後、次々と銭が笊に投げ入れられた。


「すげーよ坊主!!」

「鳥肌立ったわ俺!」

「その腕で見習い!?嘘だろう?

坊主の所属している一門てどこだよ?こんな桁違いの楽士一門がいるなんて・・・。」

矢継ぎ早に糜芳に賞賛・質問が飛び交った。


「いえ、すみません。お答え出来ない決まりですので平にご容赦を・・・。」

周囲の質問をかわしながら、どんどん積み上がっていく笊の銭を見て、


(うぉぉぉ、文字通り投げ銭や~。

うひひ、たまんねえ・・・がっぽりやん)

本来の目的を忘れ、目を¥にして喜ぶ小市民の糜芳。

実際豫州内で、数十から数百倍の銭を稼いでいるのだが、嬉しいモノは嬉しいようだ。


そうこうして喜んでいると、


「おうおうおう!?

俺達華印一家の挨拶もせずに、シノギ(商売)をするたぁいい度胸じゃねーか。オイコラ!?」

観衆を掻き分けて、如何にもその筋の人と判る外見をした3人の男達が、ドスの利いた声で糜芳に近づいて来る。


近づいて来る筋者ヤーさん)を観て糜芳は、


(ふぉぉぉぉ!!リアルヤーさんや!

前世では地元の田舎でもほぼ生息してへんかった、絶滅危惧種が活き活きと活動しとる!

コレはあれか!?映画や漫画でしか見た事無い、伝説の「みかじめ料要求」イベントか!?)

キラキラと珍獣を見る目で見つめる。


「あ、お勤めご苦労様です!鳥の巣頭さん!」

パッと見の外見で、先頭のヤーさんが天パーで鳥の巣みたいな髪型から適当に名付けて、大声で挨拶してぺこりと頭を下げる。


ブフォ・・・ドッ・・・ぎゃはははは・・・

糜芳の的確な表現に、吹き出し笑い始める観衆。


「誰がじゃコラ!?地毛じゃほっとけや!

ふざけた事ぬかすと、いてまうどオドレは!?」

「す、すいません。

じゃあ鳥頭さん、僕に何か用ですか?」

謝罪してから、首を傾げて尋ねる。


あ~はははは!・・・わ~はははは!!・・・

糜芳の発言を聞いて、ますます笑い出す観衆。

観ればお供の子分AとBも笑っていた。


周囲から笑われた鳥頭(仮)は、顔を真っ赤にして、「オノレ等まで何笑っとんじゃい!?」と子分AとBを全力で殴り倒してノックアウトした後、


「このクソガキ、人を虚仮にしくさりやがって!!」

掴み掛からんと近付く。


瞬間、シャッ・・・チャキ・・・


「動くな、動けば問答無用で斬る。」

夏侯惇が鳥頭の首筋に、素早く抜いた剣を当てて牽制し、それに併せて李軻達私兵は剣を抜いて素早く糜芳の周りに展開して、臨戦態勢に入る。


「な、なんじゃおのれ等は!?

ワシに危害を加えたら、オヤジや一家のモンが黙ってせんぞ、判っとるのかワレ等?

ワシ等のケツ持ち(後ろ盾)には大物が居るんやから、下手な事すれば洛中から生きて帰れへんぞオドレ共。」

剣を突き付けられてビビりつつも、バックを強調して強気な発言をする鳥頭(仮)。


「ほう、それは由々しき事だなあ。オイ。」

「誰じゃあって、げっ、鬼曹おにそう)!?」

ポンと肩を叩かれて鳥頭(仮)が振り向くと、曹操と部下数人及び衛兵が多数、鳥頭(仮)を囲んでいた。


「さて、念の為に聞くが貴様等一家のケツ持ちとやらは、貴様がやっている所業を知っているのだな?」

「ああ、当然知っているぜ!

いくら鬼曹の旦那でも、反目(敵対)するのはヤバいと思うけどなぁ?」

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる鳥頭(仮)。


「ふむ。・・・おい!この者は「国家反逆罪」の現行犯だ!直ちに捕らえよ!!」

ビシッと鳥頭(仮)を指差して、捕縛を命じる曹操。


「・・・・・・は?・・・・・へ?え、え??」

とんでもない重罪に問われ、呆然とする鳥頭(仮)。


鳥頭(仮)だけでなく部下や衛兵達も、滅多に聴かない最重罪の宣告に戸惑っている。


「貴様が乱暴狼藉を働こうとしたその方はな、主上即ち皇帝陛下がお召し=招いた、言わば皇帝陛下の客人なのだよ。

賓客又は国賓に類する方に乱暴狼藉を働く事は、主上の面子を潰すこと即ち漢帝国に傷を付けるのと同義になる訳だから、国家に対して反逆の意思有りとなる訳だ。」

「「「「「えええぇぇぇェェェ!!!???」」」」」

曹操の説明にびっくり仰天し、とんでもないⅤⅠРだった糜芳をマジマジと見つめる周囲一同。


「さぁ大変だ大変だ。

貴様等のケツ持ちも知っているのなら、そのケツ持ちも当然反逆罪に問われる事になる訳だ。

一族処か、三族いや五族皆殺しが相当になるか。」

ニタァ、と鳥頭(仮)より数倍邪悪な笑みを浮かべる姦雄。


「おい、何をしている、さっさと捕縛しろ。

こやつが属している一家も徹底的に捕らえるのだ!

此度の事は、主上の面子及び国家の体面に係わる重大な問題である。

間違っても躊躇・遠慮・手心をするなよ?

下手をすれば、貴様等も怠惰をして主上の面子を潰したと見做されて、同罪になりかねないからな。

疾く急げ!!」

「「「「「ヒィ!?は、はは!!」」」」」

曹操の発言を聞いて、慌てて動き出した衛兵達。


「え?あれ?伝説の「みかじめ料要求」イベントは?折角活きたヤーさんに出会えたのに・・・。」

絶滅危惧種が捕縛(消滅)されるのを観て、しょんぼりする糜芳であった。


後日、「とある大物政治家」の名を騙り、悪行三昧していた「とあるヤーさん一家」は悉く捕縛され、即日全員処刑されたそうな。



         洛陽内曹家邸客間


ヤーさん伝説イベントを逃し、しょんぼりした糜芳だったが、多額の投げ銭を貰って雑貨屋で買った風呂敷に包んで、ホクホク顔で銭の音を聞きながら帰った日の翌日・・・


「う~ん。東側は当分近づけないな。」

はぁ、と溜め息をついた。


曹操の発言により大騒ぎになり、「主上お召しの伝説的楽士」のライブを聞こうと噂を聞きつけた人々が押し寄せ、東大路が大渋滞を引き起こす程の事態になった。

結果的に周辺地域の店舗に、実質営業妨害をしてしまい、大迷惑を掛ける事になったからだ。


(曲がりなりにも商家の出身なんだから、商売の邪魔をするような仁義外れは駄目だよな)

大いに反省する糜芳。


「適当にぶらつくか・・・。」

とりあえず外出する事にした糜芳は昨日と同じく変装して、隣室の夏侯惇の部屋を忍び足ですり抜けて、私兵団の護衛だけを引き連れて行くことにした。


てくてく・・・スタスタ、ザッザッザ・・・


「あの~夏侯惇様はまぁ良しとして、曹操様?貴方様は何しているのですか?お勤めは?」

クルッと振り向きざま、夏侯惇と同じく後ろから付いて来る曹操に、「仕事しろや」と暗喩する。


「うん?ああそれなら昨日づけで栄転になってな。

今は次の役職の辞令が下るまで、待機状態だから問題ない。」

短体を精一杯胸を張って自慢気に答える。


「昨日の破落戸ごろつき)一家を捕縛したら、後ろ盾にとある人物の名前が挙がったのだが、どうやら勝手に名前を使われていたようでな。

私がその迷惑な破落戸共を検挙した事に大層喜んで、その御仁の口利きで栄転が決まったのだよ。」

クックックと、どす黒い笑い声を上げる曹操。


(ああ、なる程。

バックの大物とやらを強請ゆす)ったんだな)

黒い笑みを観て察した糜芳。


「あ、そうだ糜芳殿。

糜芳殿の話をしたら、その御仁も喜んで協力してくれると約束してくれたぞ。

その御仁幸いな事に目標である趙忠の派閥幹部でな、予想以上に御目見得が早まりそうだ。」

「え?本当ですか!?」

思ってもみない朗報に喜ぶ。


(う~ん。流石は治世の能臣。

一石二鳥、三鳥を狙って、確実に好機をモノにしてるわ)

曹操の抜け目のなさと有能ぶりに感心していると、


「なぁ、糜芳殿?そろそろ約定を果たして貰っても良いと思うのだが・・・。」

絵画を描く事を強請ねだ)ってくる。


「はい、そうですね。

じゃあ、御目見得が決まったら描きましょうか。」

素気なく保留を告げる糜芳。


「そ、そんなぁ・・・。」

「約定はあくまで「御目見得が決まった時点」での話ですので、未だ確定していない以上、条件を満たしているとは言い難いですから。」

「む、無念・・・。」

糜芳の意見に肩を落として無念がる曹操。


「ちっ、止むを得んか・・・はぁ~仕方無し。

じゃあとりあえず同行して、歌曲でも聴かせて貰うとするか。」

渋々と言った表情で、当然の様に付いて来る気満々の暇人。


「お断りします。」

「何故に!?」

「何故もクソも、貴方様は良くも悪くも顔が知られている有名人でしょうが。

貴方様が近くにいると、間違い無く周囲に人が集まらなくて、辻演奏(路上ライブ)にならないからですよ。」

憤る曹操に、ド正論を告げる糜芳。


「うぐぐ・・・。」

「確かに左様ですな。

おい、操。貴様は留守番をしていろ。

何時任命状が来るのか判らないのだから、当然の話だろうが。」

公私のけじめをつけろと、夏侯惇にもダメ出しされる。


「そう言わずに同行させてくれよ~なぁ、惇~。」

「ええい、気色悪い声を出すな操。見苦しいぞ!」

とり縋ってくる曹操を、躊躇無く蹴り飛ばす。


(なんか夏侯惇達を観てると、「こんじきやまた?」「きんいろやしゃ?」の有名なワンシーンみたいだな・・・)

うろ覚えの知識でそう思った糜芳であった。


        洛陽内北門筋北大路


仲間になりたそうな目を送って来るコ○ンに、遠慮なく「いいえ」を選択して、てくてく北大路にやってきた糜芳達一行。


此処北大路は東大路が宿場街だったのに対して、大路を境目に東西で、全く様相の違う街並みをしていた。


大路から西は、練兵場などの軍施設が多い為か武器・防具を扱う武器屋と軍関係者をターゲットにした飯店メシや)が建ち並ぶ商工街になっていて、朝餉の匂いと武器を手入れする油の匂いが入り混じった、何とも言えないごった煮の体を成している。


そして大路から東は、仕事帰りの人達をターゲットにした酒家が表通りに建ち並び、裏奥には色々とお楽しみが出来る、連れ込み宿(ラブホ)・遊廓等が点在する歓楽街になっていた。


糜芳個人としては、お姉様方がいらっしゃる東側で路上ライブをしてキャーキャーとされたかったが、流石に朝であるため、殆どの酒家や遊廓は閉まっていたし、母糜香に李軻達からチクられると、宙吊りにされてギャーギャーと泣かされそうな気がするので諦めて、汗臭い野郎共が大勢生息する西側に歩み寄る。


通り沿いに建ち並ぶ店を冷やかしつつウロウロ歩き、武器屋から発する鎚の音や喧騒が遠退いた所にある、掘っ建て小屋に毛の生えたと言うか、屋台の様なこぢんまりとした飯店に、店先での演奏許可を貰うため入る。


「は~い、いらっしゃい。

あら珍しい、かわいいお客さんね。」

店に入ると、10代中頃から少し上ぐらいの、妙齢の綺麗と言うより可憐なお姉さんが、明るい快活な声で糜芳を出迎えた。


(おお、掃き溜めに鶴とはこの事だな。

徐歌に比べたら美貌は1~2枚落ちるけども、女性としての魅力はダンチでこのお姉さんが上だわ)

徐歌に聞かれたら、シバかれそうな思考をする糜芳。


「え~と、お薦めは?」

「それだったら、麦粥がお薦めだよ。

ウチ秘伝の工夫がしてあって美味しいわよ。」

「じゃあそれで。」

「は~い、父ちゃん麦粥一丁ね。」

お姉さんの呼び掛けに「あいよ~」と間延びした声で返事する父親と思しき店主。


料理が出来るまでの間にも、お姉さんは客である糜芳を不快にさせないように気を配りながら、せっせと店内の清掃を一生懸命丁寧にしていく。


「おいおいりん)

何度掃除すれば気が済むんだよお前は?」

「だって父ちゃん。

今日は私が働く最後の日だから、今まで育てて貰ったお店にお礼をしようとしたら、あちこち気になっちゃって・・・。」

呆れ顔の父に、照れた顔で言い返す娘。


なんとなしに親子の会話を聞いていると、どうやら臨と言う名のお姉さんは、明日結婚して嫁ぐようだ。

しかも、相手が中々の金持ちで玉の輿であるという。


そんな喜ばしい慶事にも関わらず、父親の表情は暗く沈んでいた。


「すまねぇ臨。お前にまともな花嫁衣装も用意してやれねぇ不甲斐ない父親で、ホントにすまねぇ。」

俯いて、唇を噛み締める臨父。


なまじ相手が裕福なので、余計に娘に惨めな思いをさせる事になるのを、何も出来ずに送る事しかない自分を責めているようだ。


「もう!父ちゃんこそ何度同じ繰り言を言えば気が済むのよ!?

向こうさんは、「此方で全て準備するから、身一つできて貰えば良い」って言ってくれてるんだから、父ちゃんが気に病む事無いでしょ?」

「そりゃそうだけどなぁ~。親としてはなぁ~。」

未練がましくブツブツ呟いている臨父。


「もう、あ!ごめんなさい僕。

つまらない話を聞かせちゃって・・・。」

いつの間にか糜芳の存在を忘れていた臨は、慌てて糜芳に謝罪する。


「あ、いえお気になさらず。

それよりも、お姉さん・・・。」

ガタッと椅子から立ち上がると、


「この度はご成婚、誠におめでとうございます。

心よりお慶び申し上げます。

お姉さんに於かれましては、幾久しくお幸せに。」

拝礼して臨に祝辞を贈る。


「え~と、ありがとうございます?

なんかバカ丁寧なお祝いを言われちゃった・・・。」

糜芳の丁重なお祝いに混乱状態になっていた。


その後飯代を先払いで払い(この時代だけではないが、注文と同時に支払うのが常識)、秘伝の麦粥(鶏ガラ出汁が効いていて美味)をもそもそ食べながら、


(親を気遣う孝行娘に、子を思う慈愛の父、か。

ええ~話やなぁ。ウンウン)

この手の話に前世から滅法弱い糜芳は、感動していた。


(う~ん。何かしてやりたいなぁ。

つっても精々ご祝儀を渡すぐらいしか・・・うん!?

待てよ、ああして、こうして・・・うん。

上手くやればお姉さんはハッピー、俺も知名度が上がって御目見得に近づいてハッピーになれるぞ!

銭は掛かるけど、宣伝費用だと思えば安いもんだろう、多分)

突然天啓が舞い降りた糜芳は、脳内算盤で利害得失を計算し、成算が立つと判断。


急いで麦粥をかっこみ、急ぎ算段を整えるべく席を立って出ようすると、ガシッと袖を掴まれて、


「娘の為に頭を下げて祝ってくれて、ありがとうさん坊主。

娘の結婚祝いとお礼に銭はいらねえ、返すぜ。」

朗らかな笑みを浮かべて、返金する臨父。


「ありがとうございます親父さん。

この美味しい麦粥のお礼は必ず・・・。」

「ハハハ、ああ、期待して待ってるよ。

明日は結婚式に出るから開いてないからな、気を付けてくれよ。毎度あり。」

臨父の声を背後に聞いて店を出た糜芳は、さり気なく近くの店にひやかしつつ警護している李軻達に、


「李軻さんお願い。

此処のお店の店主・娘さんの周囲の評判、及び娘さんの嫁ぎ先の家を探って来て貰えないかな?」

「あん??そんなもん調べてどうすんだよぼん)。」

訝しげに聞き質す李軻。


「うん、あのね、上手く行けば知名度向上になって御目見得に近づくと共に、あの店の娘さんも幸せになれるっていう、一挙両得の策を思い付いたんだ。

それにはある程度の情報が必要だから、李軻さん達にお願いしたいんだよ。」

手を合わせて懇願する糜芳。


「まぁ坊が突拍子もない事を考えるのは、今に始まった事じゃねーから馴れてるけど。

しかし坊、地元じゃねーから土地勘が無いんで、ちと時間を喰うぞ?」

李軻が眉間に皺を寄せて困っていると、


「うむ。あの店の娘と言うと、林臨の事かな?

あの娘なら近隣からも兵士達からも、非常に評判の良い美人だぞ。」

いきなりぬるりと、ぬらりひょんの如くいつの間にか現れた姦雄。


「操、貴様いつの間に・・・?」

「フッ、最初から近くにいたぞ?惇もまだまだだな。」

ストーキングというかスニーキングを得意気に自慢する後の魏王。


「え~と、じゃあこう)家商会は?」

「うん?侯家に嫁ぐのか林臨は。

結構な大店だぞ、洛中でも上の下か中の上と言った所だな。

ふ~む、又一輪名花が手折られるか・・・。」

糜芳の質問にスラスラと答えた後、感慨深そうに呟くと、懐から竹簡を取り出して広げ、ガリガリと持っていた小刀で削っていく。


「あの~曹操様、何ですそれ??」

「ああこれか?

コレは「洛中美人美女100選」の虎の巻だが。」

「洛中美人美女100選!?」

「ああ、編集者等の詳細は不明だが、洛陽内の美人美女を網羅した書物でな。

端的に簡単に名前が書かれているだけの通常版と、ある程度の来歴(プロフィール)が書かれている希少版が有って、私が持っているのは希少版の虎の巻だ。」

フンスと興奮気味に、饒舌にまくし立てるコ○ン。


「操・・・貴様という奴は・・・ハァ。」

従兄弟の助平心に、呆れ果てる夏侯惇。


「まぁまぁ、夏侯惇様。

とりあえず役に立っているのですから。

では曹操様、ご協力お願いしますね。」

調査する手間が省けてラッキーと喜ぶ。


「う~む、どうしようかな~。」

ちらちらと糜芳を観ながら躊躇する曹操。


(ちっ、これ幸いと値段を釣り上げに来てやがる)

意図を悟って内心舌打ちする。


「おい、孟徳。」

「何だ元譲?コレは私と糜芳殿の話だ。

部外者は口を挟むなよ。」

夏侯惇を牽制する。


「では、一言だけ。

糜芳殿に協力せねば・・・。」

「せねば?」

「奥方殿に、虎の巻の存在をバラす。」

「何でも聞いて下さい!喜んで協力します。」

態度が豹変して、縋る様に嫁にだけは!と懇願する、三国志の覇者。


(まぁ、結果オーライということで・・・。

良し、じゃあオペレーション=灰被り姫開始だ!)

拳を握り締め、内心で高らかに宣言する糜芳であった。


                     続く
















































え~と、更新が遅れて申し訳ありません。


気が付いたらかなり長文になってしまいました。


2話分一気に書き上げた形になっています。


後2~3話程で、この章を終わらせたいと思っております。・・・予定は未定ですが。


長々とすみません。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


優しい評価をお願いします。



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[気になる点] キャラ一人一人のノリが軽すぎる。話のベクトルが見えない・・ [一言] 屯田制の時は期待してたけど、すみません。ここで脱落します・・
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