その5
この物語はフィクションであります。
実在する人物・名称・地名・団体とは一切関係ありません。
又、何となく聞いた事あるような、無いような曲名ぽいナニカは作者の創造上の曲名であり、現実には存在しませんので悪しからずご了承下さい。
豫州沛国譙県付近
徐州から豫州に入った糜芳達一行は、徐州内で紹介をして貰った豫州の有力商家を道すがら訪問して、一夜の宿を借りながら洛陽に向かっていた。
「う~ん、中々上手く行かないな~。」
糜芳は、はぁと溜め息を吐く。
豫州内でも伝手を辿って訪問して、紹介を幾つかして貰えたのだが、洛陽の商家を紹介してくれたのが最高で、十常侍クラスに繋がる伝手を得られなかった。
「いやいや坊。
これだけたんまりお礼品を貰ってるのに、上手く行かないって嘆く事ねーだろ・・・。」
騎乗して近くに侍っている李軻が呆れ顔で、後ろに何台も続く馬車を見つめる。
因みに李軻や聞冬達は、当初は糜芳の指摘に恐怖とストレスに苛まれ、その上厳しい警戒態勢を敷いていた為に疲弊し士気が低下、日に日にやつれていっていたのだが、見かねた糜芳がシフト制を提案して負担と疲労の軽減化を図った上、私兵団・州兵連中に洛陽に着いたら「花代」=大人の歓楽街の代金を個別に支給する事を宣言したら、あっという間に士気がV字回復、元気溌剌になり、活き活きと行動している。
ついでに慰労を兼ねて「良い旅立ち日和を歌ったと思われる曲」と「山河を想って故郷を偲んでいると思われる曲」を歌ったのだが、
「「「「「止めろ~~!ヤメテくれ~~!!望郷の歌をこんな状況下で歌うか普通?鬼かアンタは!?」」」」」
涙を流しながら猛抗議されてしまった糜芳であった。
それはさておき、
「いや李軻さん。それは副次的な物で、本来の目的を果たしていないからね?
このままの調子だと、洛陽に着いてから主上に謁見出来るまでの日数と、諸経費がどれくらい掛かるやら判らないし・・・。
下手すると、これだけの資金があっても不足する可能性が有りそうで怖いんだよね。」
「え?そうなのか?」
こんなに金品有るのに?と言った顔で、李軻は糜芳を見つめる。
「ええ、凡その概算だけど、この調子である程度資金を得ても、食費・宿泊費・報奨金を除けば大体半年保てば良いぐらいかな?」
脳内で今まで掛かった1日の経費を思い浮かべ、取り次ぎ人の仲介料(礼金)・取り次ぎ人を紹介してくれた人への紹介料を除いた残金をざっと計算して、大雑把な答えを出す。
「それだったら芳。
今までみたいに訪問先で、絵を描いたら良いだけじゃないか。
絵1枚描くだけで、元々持ってた金銭の倍以上稼いでいるだろうに。」
「いやいや、嬰。
偶々成り行きでそうなっただけで、意図してそうなった訳じゃないし、洛陽に入ったら、下手すると何ヶ月も宿泊する羽目になるのに、絵1枚で余所の家に長逗留は出来ないよ。
自分だけならともかく私兵団込みは流石になぁ。」
士嬰の提案を退けて、再び溜め息を吐く糜芳。
糜董から貰った元々の金銭が、何故倍以上に膨れ上がったのかは、徐州内は一宿一飯を求めて紹介された家に訪問して、家主ではなく使用人に宿泊費を渡そう(家主に直接渡すのは、家主を金銭に強欲な卑しい人と貶めてしまい、失礼になるから)としたら、
「主上からお召しを受けた、名誉ある同郷から金銭を取ることは、同郷の道義に悖る。」
断られて家主に受け取りを拒否されただけでなく、
「些少だが路銀の足しにしてくれ。」
と逆にお金を渡される始末だった。
最初は断っていたのだが、「好意として受け取らないのは、相手に却って失礼になる」と士嬰に助言されたので、有り難く頂戴する事にしたのだった。
次に豫州内では、最初に訪問した先が富豪の品の良い老夫婦で、おもてなしをしてくれたお礼として、キチンと一宿一飯の謝礼を払い、老夫婦も礼儀として受け取ってくれたのだが、食事の世間話の合間に不幸が重なり子供に先立たれ、辛うじて孫は残って家門を残す事は出来たが、淋しい・辛いと言った話を聞いた糜芳は、
(あ~、前世の親父やお袋も俺が多分死んじゃって、こんな気持ちにさせてるのかなぁ・・・)
老夫婦と前世の両親を重ね合わせてしまい、感情移入した結果、食後に屋敷の年配使用人を捕まえて、亡くなった老夫婦の子供の姿形を聞き、子供の姿絵を白い布を貼り付けた木楯に描いて、老夫婦にプレゼントしたら夫婦共々姿絵に抱きついて号泣。
「ありがどう・・・本当にあり゛がどお糜芳君!」
嗚咽混じりに感謝されて、プレゼントして良かった良かったと思っていたら、翌日出立する時に馬車と馬車に満載の金銭を渡そうとされて、びっくり仰天。
流石に貰い過ぎと固辞していたら老夫婦が、「私達の精一杯の感謝の気持ちを、受け取ってくれ!あの世にいる倅に手ぶらで送ったと知られたら、あの世で倅に会った時に申し訳が立たん!」と強引に押し切られて受け取る事となったのであった。
それからというもの、老夫婦の紹介を皮切りにどうやら似た境遇の、親子夫妻に先立たれた人達を次々と紹介され、姿絵と言うより最早遺影を訪問先の家主に懇願されて描き、謝礼に金銭を貰うという流れがルーチン化した結果、出費は移動中の食費だけ(州兵は最寄りの軍駐屯地で補充、又は州の予算で宿泊・購入している為、実質費用ゼロ)で済み、謝礼金がドンドン積み重なって行く事となった。
資金的には潤う反面、肝心の伝手の紹介先が、同郷心が働いたのか州内に集中してしまい、洛陽方面の伝手が殆ど得られない結果になってしまった。
(う~ん、世の中そんなに甘く無い・・・か。
洛陽に入って伝手を探るべきかなコレは・・・)
はぁ、と三度溜め息を吐く。
そうこうしている内に譙県の城門に辿り着き、簡単な取り調べを受けて、城内に入った。
城内に入った糜芳は、士嬰達楽士連中に向けてにこやかに、
「んじゃ嬰、何時ものを宜しく~。」
と告げる。
「ええ~?又やんのかよ・・・。」
「キチンと銭払ってるんだから、問題ないだろ?」
「まぁ、そりゃそうなんだけど・・・ハァ・・・。」
士嬰は溜め息をついて、懐から口周りが空いているお面を取り出してカポッと装着し、後続の若手楽士達に合図を送ると、
プ~プップ♪ププ~プ♪プッププププ~♪
昭和メトロチックな、気の抜けた軽快な音色(糜芳監修)を奏でながら、譙県城内の主要道路を、糜芳集団の先頭に立って練り歩く。
ザワザワ・・・ザワザワ・・・
「おい、何だありゃ?」
「んなもん俺が知るかよ。流れ楽士(各地を放浪して生計を立ててる、無所属の楽士)連中じゃねーか?」
譙県城内の人達はひそひそと、突如現れた胡散臭いお面を被った集団に視線が自然と集まる。
そうして耳目を集めた頃合いを見計らって、
「え~~譙県の皆様方!我々は徐州・東海郡の老舗商会・糜家商会でござ~い~~!!
徐州・東海郡に商用でお越しの際は~、誠実無比・明朗会計の糜家商会、安心安全の糜家商会にてご商談をされますよう、宜しく奉り~~!!」
声を精一杯張り上げ、糜芳の実家・糜家の宣伝をしながら、反対の城門(出口)に向かって歩いていく。
「なあ、坊。豫州の城市(市街)がある所の度に、士嬰の坊主にさせているアレは何なんだ?
端から観るとこっぱずかしいんだが・・・。」
「え~と、確かチンドン屋だったっけ?」
「いや坊、やらせている当の本人が、何で疑問を浮かべて俺を見るんだよ。
聞きたいのはこっちだよ・・・てか、沈丼屋ってなんだそりゃ?」
李軻の疑問に対し、うろ覚えのあやふや前世知識を披露する糜芳に、ますます怪訝な顔をする李軻。
「え~と、ああいう奇抜な格好をして周囲の視線を集めて、音楽を演奏する事で耳を傾けさせながら、依頼主の宣伝をする職業の人・・・だった筈?」
「坊、お前・・・。
そんなうろ覚えの胡散臭い事を、仮にも友人にさせんなよ・・・。」
責める目線を送る。
「大丈夫、大丈夫。
旅の恥は掻き捨てって言うでしょ?
それにちゃんと契約を結んでお金もキチンと払ってるから、士嬰達楽士連中の収入と修行にもなる、って言う一石二鳥の話何だから。」
「う~ん、まぁ、当人達が納得しているのなら、良いんだけどよ。」
糜芳の説明に渋々納得する李軻。
因みに私兵団連中は、流石に商家の専属兵なだけは在り、結構ノリノリで手を振ったり、護身用の槍や矛をブンブンと大車輪したりして、宣伝に貢献していた。
逆に州兵連中は、「あの集団とは無関係、我々は別の集団です」と離れて一定の距離を取っている。
・・・残念ながら所属を示す旗印に「徐」の文字が入っている為、周囲からは同類と観られているが。
それはさておき、
チンドン屋擬きをしながら、糜家の宣伝をしているとパッと、
「すまない!突然ながら、私の話を聞いて貰えないだろうか!?」
横から若い男が飛び出て来て、糜芳集団を手を広げて遮って来た。
「何者だ!?怪しい奴め!!」
まず間違いなく「お前達には言われたくない!」と十中八九思われる台詞を言いつつ、私兵団は士嬰達と入れ替わって若い男に近付き、後詰めとして州兵達が糜芳の周囲を固めて警戒態勢になる。
「待て、待ってくれ!この通りだ!」
若い男は腰に差していた剣を地面に置き、両手を広げて害意が無い事をアピールする。
一応警戒しつつ、糜芳は若い男に接近して、
「それで私共に何用なのでしょうか?」
確認をする。
「おお、聞いて貰えるか!
私はここ譙県の在、夏侯添と申す者。
実は・・・・・・。」
「ちょっとお待ちを、このままでは往来の邪魔になるので、そこの酒家(居酒屋兼喫茶店)でお話を伺いましょう、夏侯添殿。」
夏侯添と名乗る男の話を遮って、酒家に移動して詳しく話を聞く事にした糜芳。
李軻や士嬰を始め、聞冬達も護衛を兼ねて酒家に入り、同席して夏侯添を警戒する。
そうして改めて夏侯添の話を聞くと、つい先日父親が亡くなり、急遽葬儀を執り行う事となったのだが、色々手配を整えていた折りに、地元の楽士達が運悪く他方に依頼を受けていて不在。
慌てて近所の楽士に依頼するも、様々な悪条件が重なり集まらず、これでは葬儀の儀式が整わないと身内一同頭を抱えていた時に、士嬰達の音楽が聞こえたので無我夢中で飛び出して来た、という次第だった。
「どうか、どうか、父の葬儀を全う出来る様、抱えの楽士達を貸して頂けないだろうか?
この通り、お願い致す!」
深々と頭を下げて、糜芳に頼み込む夏候添。
「ああ、夏侯添様。頭を上げてください!
え~と、実は此処にいる楽士の士嬰は友人であって、僕のお抱え楽士では無いのです。
ですから士嬰が良いと言うのであれば、それはそれで僕達には異存はありませんので。」
自分の洛陽行きに同行している友人と夏侯添に説明して、後は士嬰と交渉して欲しいと伝える。
「いや、そりゃあ依頼を受けるのもやぶさかじゃ無いけども、お前はどうするんだよ芳。」
「それは当然先に洛陽に向けて出発するつもりだけど・・・。」
「おいおい!俺達を置いていくつもりか!?」
士嬰が薄情言うなよと非難する。
「ゴメン、士嬰には悪いけど、俺や私兵団だけならともかく、公務で同行してくれている聞冬様達を、私事に巻き込んで迷惑をかける訳にはいかないよ。」
あくまで士嬰と夏侯添との私事と判断した糜芳は、聞冬達に迷惑を掛けられないと士嬰に話す。
「うぐぅ・・・確かに。」
正論に肩を落として頷く士嬰。
「別段ずっと別れ放しになるわけじゃ無いんだから、夏侯様の父君の葬儀が済み次第、合流してきたら良いだけだろう?
進む道順や目的地も判っているんだから。」
慰め気味に諭す。
「あ~糜芳殿宜しいか?」
「はい?何でしょう聞冬様。」
コホンと咳払いして糜芳に呼び掛ける聞冬。
「実は兵達の消耗がかなり激しくなっておりまして、出来れば2~3日程の休養日を取りたいのです。
宜しいでしょうか?」
「お、そうそう。
坊、ウチら私兵団も誰かさんのせいで疲労困憊でなぁ。
聞冬殿同様、休養させて欲しいんだわ。」
両者が口裏を合わせたかの様に休養を言い出した。
同時にパチンと片目を閉じてアイコンタクトを糜芳に送る。
(あ、士嬰が仕事を終えるまで待ってやれって事か)
糜芳は瞬時に2人の意図を察し、
「あ~士嬰。
予定変更で休養する事にしたから、安心して仕事をしたら良いと思うよ。」
仕事が終えるまで待機する事を士嬰に告げる。
糜芳の言葉を聞いてパァと表情を明るくして、
「本当か!?よっしゃ!
夏侯添様、喜んで依頼を引き受けましょう。
お任せください!」
笑顔で依頼を了承するのであった。
「おお、引き受けてくれるか!助かる!」
「それでは具体的な話をしましょうか。」
「いやスマンが私の一存では決めれないから、屋敷まできてもらって、ウチの長兄で喪主を務める淵兄上と話をしてくれ。」
夏侯添が申し訳なさそうに士嬰に告げる。
(うん!?夏侯に淵!?マッサーカ??)
スッゴく聞き覚えのある人名が頭をよぎる。
「あの~添様?」
恐る恐る尋ねる。
「うん?何だ?」
「添様の長兄様は夏侯淵妙才って言う方ですか?」
気持ちを落ち着かせようと、卓上に注文して置いてある果実水を、震える手でゴクゴクと飲む糜芳。
「ああ、左様だが、長兄を知ってるのか?」
訝しげに首肯する。
ブフォッ!!
「うわ!汚ねぇ!!こっちに水飛ばすなよコラ!?」
思わず李軻に向けて果実水を飛ばしてしまった糜芳。
「ゴホッゴホッ、ゲヒュゲヒュ・・・ゼーゼー。
あのついでに、御親戚に惇とか元譲とか名前の人いますでしょうか?」
「おお!本家の惇兄の知人か!?
惇兄なら今葬儀に参列する為にウチに来ているから、是非会っていってくれ!」
夏侯惇の知人と思い込み、目を輝かせながら面会を勧める夏侯添。
(盲夏侯と弓夏侯の身内だぁーコイツ!!
・・・て事は、マッカーサーあの小さな巨人も居るんか、居てるんか!?)
心臓がバクバクと脈打つ音を幻聴する。
「いえ、全く見た事も聞いた事もない未知の人ですだよ。
後は士嬰と話合って決めて下さいね。
全く無関係なオイラは宿で待機しておりますので。
アディオス、グッバイ。」
余りの動揺に完全に言葉が混乱している糜芳。
そそくさと離席してこの場を脱出しようとするが、
ガシッ!
「おいおい何処に行かれるのですか団長。
貴方様がいないと話が始まらないでしょうが。
君は友達だよな。」
ガッシリしっかり糜芳の肩を掴んで、清々しい笑みを浮かべる士嬰。
レアモ○スターゲ○トだぜ~とばかりにニヤニヤ笑って懐から縄を出し始めた。
「は、離せよコラ!俺には宿に入って惰眠を貪る仕事が有るんだよ!
お、おい、縄を取り出して何するつもりだよ!?
止めろぉぉぉぉ・・・。」
即座に縄で縛られ拘束される。
「いや~夏侯様。
貴方様は運が宜しいようで!
恐らく最高級の楽士を見つけましたよ。」
にっこりギリギリと糜芳を縛り上げながら、夏侯添に話し掛けた。
「さ、左様か・・・。」
あまりの急展開に呆然としていたのであった。
譙県城内夏侯邸
「兄上、只今戻りました。」
「おお、添。どうだった首尾は!?」
「はい、首尾良く楽士を見繕う事に成功したのですが・・・あの、その・・・。」
言いづらそうな顔で、長兄の淵を見る。
夏侯添が躊躇している間に、夏侯添の後ろに隠れていて見えなかった、怪しい仮面を被った子供が前に進み出てきて、
「どうも~、この度依頼を受けて参上した、「定刻歌宴団」団長・士景です。
宜しくお願いしま~す。」
仮面と同じく怪しい笑顔で、にこやかに、フレンドリ一に挨拶してくるのであった。
「・・・・・・へ?」
思わず目が点になっている、後に魏国1番の弓の名手と讃えられ「弓夏侯」と呼ばれる夏侯淵であった。
続く
え~と、夏候淵の弟として登場した「夏候添」は創作上の人物です。
実在したらしいのですが、名前が不詳なので、適当に付けました。
読んで頂いている方々へ
此処最近仕事が忙しく、更新が遅延気味で申し訳ありません!
大変申し訳ないのですが、しばらくは遅延気味になると思われます。
働かないと食っていけないので(泣)・・・。
どうかご理解ご協力をお願いします。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価と寛容な気持ちをお願いします。




