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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
32/111

その4

この物語はフィクションです。


実際に存在する人物・地名・組織・団体とは何の関係もありません。


誤字脱字報告ありがとうございます!


正→士嬰・士景  誤→子嬰・子景


間違った表記をしてしまい、申し訳ありません!

直ぐに訂正させて頂きました。


これからも誤字脱字が多々あると思いますが、寛容なお気持ちと、優しい指摘をお願いします。

        徐州・豫州の州境付近


徐州州牧史・沈賀の勧めに従い、糜芳は下邳にて州兵の編成が整うまでの間凡そ一週間程滞留し、途中から合流した士嬰と共に下邳を発ち、3日程掛けて漸く州境近くまできていた。


因みに士嬰の父・士景は、野放しにして予測不能な行動をされると危険だし、同行させるのは糜芳・士嬰共に胃腸に多大なダメージを負うのが確実なので、「見知らぬ初対面の不審者だけど心当たりは在るので、迎えの者が来るまで牢に入れといて欲しい」と州役人に話して、今現在絶賛投獄中である。


なんか巨大芋虫みたいな物体が、「ちょっと!?えっなんで!?」とか「オ~イ嬰?父だよ父!!絶対気付いてるよね!?理解してるよね!?オ~イ!?」とかじたばた騒いでいたが、きっと空耳に違いない。


それはさておき、


州兵が護衛を務めてくれるお蔭で、安全上の不安がほぼ無くなり、州兵・私兵団の人達と糜芳・士嬰は、和気藹々(わきあいあい)と移動していて、現在州を跨ぐ手前で休憩中であった。


「いや~、州兵さんのお蔭でこんな気楽な護衛任務は初めてだわ。

ありがたや、ありがたや。」

今回糜芳を地元から洛陽までの間の、護衛任務を受け持った糜家私兵団の代表・李軻が、リラックスした顔で州兵達に拱手して頭を下げた。


「いやいやそう言われると面映ゆいな。

こっちもお前達私兵団が、糜芳殿の近辺周囲を護衛してくれているお蔭で、外周りの警戒をするだけで済んでいるからお互い様だ、李軻とやら。」

李軻に拝まれた州兵(州軍)の代表者・聞冬は、痣だらけのボコボコに腫れ上がった顔で、(多分)照れながら(恐らく)微笑んだ。


見れば州兵達の殆どが聞冬と同じ面相をしており、聞冬と(予測的に)同じく微笑んでいる。


何故お化け屋敷にノーメイクで出演出来る面に、聞冬達州兵はなっているのかというと、


「「「「タダ(公費)で洛陽に(女遊び等に)行ける!」」」」

と言う欲望に駆られたからである。


彼等は、「とある子供を徐州から洛陽までの間を護衛するだけで、タダ(州税)で洛陽まで(女)遊び等に行ける往復権」を巡って、天下・・・じゃ無くて州下一武闘会が若手を中心に密かに開催され、泣き落とし・裏取引・実家や軍部内での上下関係の圧力・嫁さん及び婚約者と婚約者の実家への密告等が入り乱れる激しい戦いを潜り抜け、「(助平)力こそ正義」の下、(煩)脳筋一直線で戦って勝ち残った結果、そういう面相になったのである。


まさしく、実力と下半身に優れた精鋭と言えよう。


因みに李軻達私兵団連中も、地元朐県から下邳県に行くまでの間は似たような面相をしていたので、同じ穴の狢だと思われる。


そういった経緯からか、私兵団と州兵達は同じ田舎の若者達の欲望と願望の理想郷、洛陽の無料往復切符を手にした同志としてエンパシーを感じるのか、身分立場に限らず仲良く談笑していた。


「なぁ、芳。」

「うん?何?」

「何か今の州兵さんてよ、下邳県の宿舎にいた、同じ軍部の人と思えない程緊迫感に差があるよな。」

士嬰が周囲の州兵達を観ながら、糜芳に尋ねる。


「う~ん、多分だけど宿舎の人達と聞冬様達は、同じ軍部でも所属が違うからだと思うけど・・・。」

「所属?」

「ああ、宿舎にいた人達は恐らく軍政所属=後方支援を主に活動している人達で、あまり重要人物とかの護衛任務に慣れてなかったり、場所が不特定多数の人達が出入りする所だったりしたから、余計に緊張していたんじゃないかな?」

「ふ~ん、なる程な~。」

糜芳の予想に頷く。


「じゃあ、此処にいる州兵さん達は?」

「聞冬様達はバリバリの軍戦所属=軍の前線を担う実働部隊だよ。

盗賊討伐とかで実戦経験を積んで、護衛任務なんかも手慣れているみたいで、俺に万一何か有ったら一族処か、三族皆殺しになるのに、全く緊張感無しで余裕綽々で任務をこなしているんだから、すげーよな!」

ハッハッハと笑いながら聞冬達を絶賛する。


シ・・・・・ィ・・・・ン


先程までの談笑がピタリと止み、辺りが息苦しいぐらいの静寂に包まれた。


「あ、あああの糜芳殿?・・・今、なんと?」

ボコボコの顔を蒼白にして、全身を震わせて盛大にどもり、まるで祈るような目で糜芳に尋ねる聞冬。


「えっ、流石州の精鋭だなって言ったんですけど?」

「いえ!そうじゃ無くて!い、い一族がどうとか。」

「ああ、一族処か三族皆殺しの件ですか?

ええ万一僕に何か有れば可能性は非常に高いかと。」

今更何言ってんの?と首を傾げる糜芳。


「何故ですか!?何故なのですか!?」

「いや、何故ってそれは聞冬様達は「勅命に準ずる任務を請け負っている」からですけど・・・。」

「へ!?えっ?えっ?」

理解出来ずに混乱状態の聞冬。


「え~と、聞冬様達は勅命を受けた僕の洛陽までの護衛任務を、僕を主上に推した州牧史・沈賀様からの命を受けて此処にいる訳ですよね?」

「ええ、左様ですが・・・。」

糜芳の解説にコクリと頷く。


「つまり聞冬様達は「僕が受けた勅命を全うさせる」任務を受けている訳です。

それなのに僕に万一が有って全う出来なくなったら、「勅命を全うさせる事に失敗した」事になり、当然任務失敗になるわけですよね。」

「た、確かにそうなりますな・・・。」

声が震え始めていく。


「結果的に主上の勅命を「反故」にしてしまい、貴方方は主上の不興と怒りを買い、同時に沈賀様の「面子」を潰すことになり、同じく怒りと責任追及されますよね。

・・・国家の最高権力者と州の最高権力者の怒りを買って、本人だけや御身内だけで済むと思いますか?」

「・・・・・・済む筈がありません・・・。」

搾り出す様に糜芳の問いに答える聞冬。


話を聞いていた周りの人達は、絶望的な表情を浮かべてへたり込み、うなだれる。


「ち、因みに芳坊ちゃま様?ワタクシ達めはどうなりますですかね?」

へんてこな言葉遣いで恐る恐る糜芳に尋ねる李軻。


「え?まぁ李軻さん達は万一があったら、間違い無く僕と一緒に死ぬ事になるでしょうし、ご家族の人達は連帯責任負わされてタダ働き(奴隷落ち)になるだけですよ。」

そんな事ないないと、手をヒラヒラさせて語る。


「まぁ大丈夫ですよ、万一ですから万一。

聞冬様達からすれば、容易な任務でしょうから楽しくのんびり行きましょう!ね。」

にっこりと(悪魔の)微笑みを浮かべる。


「「「「「イヤァァァァァァッッッッッ!!??」」」」」

恐怖と絶望に彩られた絶叫が響き渡った。


数時間後・・・


            豫州(よしゅう)


「おい、芳・・・。

州兵さんと私兵団さんが別人の様にキビキビ動いているのは良いんだけど、何か凄く悲壮感が漂っていて、可哀想に思っちゃうんだけど・・・。」

馬車の中で、糜芳の隣に座っている士嬰が周囲を見回して、ポツリと糜芳に呟いた。


「まぁ、下手に警戒心が弛緩した状態で隙を突かれるよりはマシだから、これで丁度良いんじゃねーの?」

士嬰の呟きに、素っ気なく答える。


糜芳の周囲にいる私兵団・州兵連中は、休憩前の緩い雰囲気は霧散し、まるでジャングルに潜むゲリラを警戒するが如く、死角を埋め尽くす様に密集陣形を協同して組み、外周部は槍を突き出した状態で臨戦態勢のまま前進、血走った目で四方八方を警戒していた。


四方500メートルは障害物の無い、見晴らしの良い平地の街道を進みながら。


「それに私兵団も州兵の人達も、自分達が進んで選んだ結果だから、今回は同情の余地が無いし。

表向きの良い所だけを見て飛びついて、裏の事情を考えたり、探らなかったのが悪い。」

「まぁ、そりゃそうだけど・・・。」

糜芳の意見に頷く士嬰。


糜芳から観れば、私兵団・州兵連中は「ちょっと護衛任務をするだけで行ける、男の理想郷・洛陽往復無料切符」という表面だけを見て飛びつき、「但し、しくじれば本人・家族・親族諸共問答無用・地獄への片道切符」という裏面を確認しなかった、自業自得のアホ軍団である。


又、事情を知っていても、無理矢理強制されたのなら同情の余地も有るが、四谷怪談風顔面になってまで地獄切符を手にしているという、アホの極みであった。


「父上がちょくちょく言っていた、「美味しいだけの話には、大概裏が在るから気を付けろ」の典型例だよな、どう考えてもこれ。

州兵さんはともかく、私兵団は曲がりなりにも商家に所属してるんだから、気付こうよ・・・。」

はぁ、と呆れ半分に溜め息をつく糜芳。


ウッウッウ・・・しくしく・・・グスグス

糜芳の周囲から、すすり泣きの声がこだまする。


「芳・・・お前は鬼か?

傷口に塩を塗るような事言ってやんなよ・・・。

・・・うん?おい、芳。お前の理屈で言うと、俺もタダで馬車に同乗している美味しい状態になってんだけど、何か裏が在るのか?」

糜芳に苦言を呈した後、ふと思い付いたとばかりに確認する士嬰。


それを聞いた糜芳は、ポンと士嬰の肩を軽く叩いて、


「何言ってんだよ、そんなもん在るわけねーだろ?

お前は俺の大事な友達(身代わり)だから、一緒に乗せてるんだよ。」

にっこりと士嬰に微笑みかける鬼。


いざ危急の際には、影武者として利用する気満々である。


「そ、そうか?へへ、何か面と向かって言われると照れるな。」

糜芳の真意に気付かず、照れ笑いをする幸せな男・士嬰。


「ま、まぁいいや。

それで芳、州境越えたけどこれからどうすんだ?

今までみたいに、手当たり次第に伝手を求めて、いろんな人が紹介してくれた相手を訪問するのか?」

「うん、そのつもり。

徐州内では、直接洛陽(十常侍)に繋がる伝手を得られなかったけど、その反面豫州内で有力な伝手を幾つか紹介して貰えたから、道すがら訪ねていくよ。」

士嬰の問い掛けに頷く。


「了解。・・・しかし、何でわざわざ宦官閥に取り次ぎを頼もうとするんだ芳?

名家閥の方が旧家が多い分、伝手が広くて良いんじゃねーの?」

素朴な疑問を聞く士嬰。


(流石に信任云々は、話すとヤベーな・・・)

外部に漏らすと危険と判断した糜芳は、


「いや、単純に宦官閥の方が繋ぎが取りやすいから、宦官閥に頼もうと判断したんだよ。」

咄嗟に誤魔化した。


「そうなのか?」

「うん。そうなんだよ。

ウチって名家としては兄上が初代の新参者だから、地元以外だと下に見られて、そもそも相手にされなかったりとか、かと言って商家として繋がりを持とうとすると、大概の名家って贔屓筋(専属・得意先)の商家がいるから、揉めて面倒事になりやすそうだしな~。」

それらしい理由を述べる。


(まぁ、宦官閥を選択した理由の1つには違いないんだけどね・・・)


「あ~、分かる分かる。

ウチも営業かけたけど、相手にされなかったり、贔屓筋に粉かけたとか言われて、余所の楽士一門と喧嘩になった事も遭ったしな。」

ウンウンと深く頷く。


「でしょ?

反面宦官閥は殆どが新興(一応、宦官でも養子縁組みが認められていて、家門を遺す事は可能だった)だから、贔屓筋も固定されてない可能性が高い分、繋ぎを取りやすいし、お互いに新興の家だから話し易くて頼みやすいからね。」

「成る程な~。

それなら俺でも宦官閥の方に頼むわ。

そういう事だったのか。」

糜芳の説明に得心がいった士嬰。


上手く誤魔化せた事に安堵する。


そして、脳内で現状整理を思考して、


(う~ん、ただなぁ・・・。

予測はしていたけど、やっぱり地方になれば成る程、宦官閥の影響力が小さくて弱いな~)

世の中そんなに都合良く無いか、と溜め息をつく。


何故地方では宦官閥が弱小かと言うと、宦官自体がほぼ洛陽限定の職種であり、活動範囲が極めて狭い為に地方のシンパが少ない事と、前漢・後漢から連綿と続いている歴史を持つ名家閥と違い、最近になって興った新興勢力な為地方との地縁が薄く、地方の地元勢力(地方豪族・名家)から、自分達の縄張りを荒らす敵として認知されているからである。


まぁ、洛陽でしか活動した事が無く、宦官閥自体が地方=鳥も通わぬ僻地といった認識で興味が無いので、洛陽周辺部にしか力を入れていないという事実も在るのだが・・・。


(とりあえず徐州よりは豫州の方が、司隷(洛陽)に近い分宦官閥の影響が強い筈だから、上手くいけば十常侍の誰かに繋ぎが取れるかもしれないしな)

手当たり次第伝手を手繰ろうと決意する。


(ヨシ!オペレーション・コネクター諭吉を始動!

福○諭吉の如く、人脈を手繰って宦官閥の大物目指して頑張るぞ!サッサと田舎に帰る為に!!)

グッと握り拳を作る糜芳であった。


                    続く
















え~と、補足です。


作中に「エンパシー」という単語を表記していますが、「シンパシー」の誤表記では有りませんのであしからず。


エンパシー・・・同調的な共感


シンパシー・・・同情的な共感


という意味だそうで、前後の文章的には「エンパシー」の方が適切かな?と思い、敢えて表記させております。


長々とすみません。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


優しい評価をお願いします。

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