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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
31/111

その3

この物語はフィクションです。


実在する人物・地名・団体・組織とは一切の関わりはありません。


何処かで聞いた事あるな~と感じても、気の所為ですので気にしないで下さい。

         徐州下邳郡下邳県


地元東海郡朐県を、盛大な壮行会に加え万歳のエールと共に送り出された糜芳一行は、朐県から約10日程かけ行く先々で歓待されながら、凡そ420里(1里=約400m=約170km)離れた徐州の州治所(州都)である下邳(かひ)県を訪れていた。


下邳を訪れたのは別に糜芳の都合では無く、バ○殿擬きの州牧史・沈賀に呼ばれて来たのであった。


「お~良く来たのう糜芳よ。

此度の主上のお召しの件、誠に目出度い!

まぁ、儂が主上に、この儂が喧伝したからであるからじゃからな、感謝せえよ?」

地元と同じく、此処でも沈賀主催の壮行会の宴が催され、何かと自慢気に話を振ってくるのであった。


うざく絡んで来る沈賀に対し、糜芳は、


(このクソバ○殿がぁ~!!

てめぇが要らんことしてくれたお蔭で、こちとらのんびり田舎で商人になって、金持ちになって不労所得でウハウハ計画がパーになっちまったんだよ!コノ野郎!!

此の怨み、晴らさで置くべきか(怒))

要らんことをした沈賀に激しい怒りを内心抱きつつ、


「はい!ありがとうございます!

沈賀様に受けた「(おん)」は忘れません!・・・ボソッ(絶対に)。

出来る限りの「怨返し」をしたいと思っています!」

外見は笑顔を浮かべ、さり気なく真っ黒な怨み発言をする。


「ホホホホ、そうか、そうか。

殊勝な心掛けであるぞ糜芳よ・・・う~む、はて?何か背筋がゾワゾワするのじゃが・・・。」

「大丈夫でございますか?

風邪をひかれかけておられるのでは?

ご自愛なされますよう。」

意外に鋭いなこのバ○殿擬き、と思いつつ糜芳はさぞ心配そうな表情をして、表向き気遣いをする。


「おお・・・、優しい事を申してくれるのう。

そうじゃ、お主の家の私兵だけでは心許なかろう。

州軍から、洛陽までの護衛を付けてやろうか?」

糜芳の(似非)気遣いが嬉しかったのか、沈賀は州軍の護衛を提案する。


「はぁ、ありがたい申し出だとは思いますが・・・。」

何とも言えない顔をする糜芳。


(う~ん、洛陽までの州軍の護衛に掛かる費用を考えると、ちょっと躊躇してまうなぁ~)

脳内で、損得勘定を算盤でパチパチ弾く。


1日の移動距離は平均15キロぐらいであり、現代的感覚で観れば「遅!?」と感じるが、現代では道路が整備されて軽装であるからこそ速く移動出来るのであって、この時代では道路は未整備・未舗装の上、私兵団選抜の護衛達は武装して移動かつ、自分も含めて馬車も使用しており、馬の食事等の世話を考えると、それぐらいの平均速度になるのである。


それに加えて自分を含めた食費・宿泊費という必要経費があり、私兵団選抜の護衛20人と先導役等の洛陽到着までの経費を見越して、余裕を持たせて資金は持って来てはいるものの、州軍の護衛が加わると、恐らく手持ちの資金を洛陽到着までに(下邳から洛陽まで約550キロ=凡そ40日前後)使い果たしてしまう公算が高い。


そうなると現代みたいに、最寄りの銀行にいってATMで楽々現金調達!・・・なんぞは出来る訳も無いので、早馬を飛ばして実家の糜家に追加資金を持って来て貰うか、糜董親子に紹介状を書いて貰った相手にお金を借りて、後払いで糜家から返す事になるかのどちらかになる。


前者は追加資金到着まで身動きが取れなくなって、待機状態になってその分経費と日数が嵩む事となる為、余分な経費とさっさと苦行(皇帝謁見)を済まして、田舎に帰りたい糜芳のストレスが増大し、後者は金を借りた相手に金銭面だけで無く、家同士の「借り」を作る事になる為、余計な迷惑を田舎に居る糜董達にかけることになる。


(う~ん、そうなると州軍の護衛はナシだなぁ。

安全性を考える(軍に手を出すアホ)は先ずいないから)と助かるんだけど・・・。

あんまりイレギュラーな行動をして、父上達に迷惑を掛けるのも悪いしな~)

脳内計算を終え、結論を弾き出す。


「あの~、沈賀様、ありがたい申し出・・・。」

「無論、経費等は此方(州)持ちじゃ。」

「ありがたく受けさせて頂きます!

いや~流石天下の州牧史様!!懐が大きい!

太っ腹で御座いますな!」

速攻で手の平を返し、ヨイショする糜芳。


先程までの怨み?ナニそれ?とばかりに沈賀を持ち上げて、タダだラッキー!と喜んでいたのだが、


「ちょっとお待ちください、沈賀様!

いきなりその様な事を申されても、急には手配が出来ませんし、掛かる経費等の問題があるのですぞ!?」

沈賀の脇に座っていた老齢の軍政官らしき人が、沈賀に慌てて抗議をする。


「ふむ。それもそうじゃな。

糜芳よ、州軍の準備が整うまでの間、下邳に逗留せい。

準備が整い次第、共に洛陽に赴くのが良かろうて。」

老軍政官の抗議を聞いて、糜芳に準備が整うまで下邳に留まる事を勧める沈賀。


「いえ、そういう事ではなく!・・・。」

「のう、お主よ・・・お主は薄情者なのか?」 

老軍政官の発言を遮り、沈賀は老軍政官に諭す様な口調で話し始めた。


「は?薄情者とは?」

「同郷でない儂が「護衛なぞ必要ない」と言うのならともかく、同郷の子供が主上のお召しで洛陽に少人数で赴いて行くと申すのに、何もせずに見送るだけとは同郷の者にあまりにも薄情ではないかの?

又、万一何かこの者に不幸が有れば、主上の怒りを買うぞ?その時に貴様はどうするつもりなのか?

寧ろお主の方が、儂の言ったことを儂に提言すべきではないのかのう。」

同郷の者に対して冷たいと(なじ)ると共に、主上の不興を買う事を指摘する沈賀。


「それにもし儂等が護衛を付けずに、隣州が糜芳を憐れんで護衛を付けたら何とする。

儂は国中から吝嗇(ケチ)(そし)りを受け、貴様等徐州者は薄情者と侮蔑を受けるぞ。

それでも貴様は良いと申すのか?」

どうなのだ、と鋭い目線を老軍政官に送る。


「あ!あの・・・その・・・。」

しどろもどろになって、何も言えなくなる老軍政官。


「ふぅ、もう良い。

お主の言い分も分からぬでもないが、時には「見栄と面子(メンツ)」が大事な時もある。今がその時じゃ。

それが分からぬ者に言っても詮無き事。

そこな者、お前に改めて命ずる。

100人程の人数を選抜し、洛陽までの予算等諸々の編成をせよ。急げよ。」

何も言い返せない老軍政官に、溜め息をつきながらヒラヒラと手を振って話を打ち切り、老軍政官の側に控えていた、丁老師の弟子の1人雷成に指を指し、命令を発する。


「ははっ!直ちに取り掛かりまする!!」

指名を受けた雷成は拱手して、すぐさま部屋を出ていった。


「そういう訳で糜芳よ、暫し下邳に逗留せよ。

当然逗留費用も此方(州)が出すから安心せい。」

「はぁ、ありがとうございます。

・・・しかし、100人は多すぎなのでは?」

流石にちょっと・・・と糜芳は沈賀に苦言を呈すが、沈賀は首を振って、


「馬鹿を申すな。

これでも最小限の人数に抑えておるのだぞ?

これ以下じゃと見窄(みすぼ)らしく観られて物笑いの種になりかねんし、かといってあまりゾロゾロ引き連れても、徐州内はともかく、隣州に入った時に要らん騒動になっても困る故、ギリギリの人数に絞ったのが100人程じゃ。」

これでも最小限だと理由を述べた上で、


「糜芳よ。お主が気にする事ではない。

儂は主上にお主を推した「見栄」がある故、州兵の護衛を付けさせ、徐州の者は名誉ある同郷者を、懸命に護る事で「面子」を保つ為にやる事じゃ。

それ故にお主の成すことは、儂や同郷者に恥を掻かさぬ様、主上に拝謁しお主の才を披露して、お褒めの言葉を頂戴するのが務めじゃぞ。」

よいな?と糜芳に笑顔を向けて話す。


「はっ!では遠慮無く、ご厚意に甘えさせて頂きます。」

沈賀に拱手して、厚意を受ける事にした糜芳。


(うおぉぉ・・・。

バ○殿面で至極真っ当な事言っているから、違和感が半端ねぇ~。

変に気になって全っ然頭に入んねえんだけど)

内心でド失礼な事を思いながら。


         下邳城内宿舎


沈賀の勧めに従って下邳城内に留まり、州兵の護衛編成が整うまでの間、糜芳は役人達が公用で出張した時に使用する宿舎をあてがわれ、3日程寝泊まりをしていた。


未だに州役人から連絡が来ない事から、まだ暫くは掛かりそうな気配だった。


「うぇ~、ヒマだよ~暇だなぁ。」

備え付けの机に頬を押し当て、ぐて~と退屈そうにしている糜芳。


初日・2日目こそ下邳城内をうろうろ見物して、地元の朐県城内から殆ど出た事が無かったので、物珍しさも手伝って退屈しのぎになったが、3日目にもなると

見尽くしてしまい、する事がなくなってしまったのであった。


これが実家だと糜董の書類整理・決裁の手伝いだの、武術・学問の稽古勉強等々が在るので、わりかし時間が過ぎるのが早いのだが、此処ではそれが無いので、時間を持て余す事になっている。


「かと言って基礎運動とか何かをしようとすると、護衛の人達に迷惑掛けちまうし・・・。」

はぁ、と嘆息する。


あまりにも暇だったのでランニングを始めたら、ガシャガシャと音を立てて武装した護衛の人達まで、槍を持ったまま走って付いてきたので、ビックリしたのだった。


やんわり「無理して付き合わなくてもいいですよ」と告げると、「万一糜芳殿に何かあったり、見失ったら、物理的に首(斬首)になるから一緒に居させて下さい!」と半泣きで言われて唖然とした糜芳。


「え?けど城内見物の時は誰もいなかったですよね」と聞くと、どうやら一般人に扮した影供(かげとも)(コッソリ対象者を護る護衛)が付いていた様で、知らず知らずの内に迷惑を掛けていたようだ。


現状糜芳は州役人達からVIP扱いになっていて、専用の護衛を付けられているばかりか、宿舎の入り口には歩哨(ほしょう)(見回り番)まで立っている有り様だった。


「はぁ、これじゃあ何も出来ねー、したくてもやれねーよ。」

ぐで~と机に突っ伏す糜芳。


ダラダラと暫く、ぐで~としていると、


「失礼します、糜芳殿。

楽士の士嬰を名乗る少年が、糜芳殿に面会したいと訪ねて来ておりますが、如何なさいましょうか?」

丁寧な口調で、糜芳に護衛の人が伺いを立てに来た。


「え?嬰が来たのですか?すいませんが通して下さい。

僕の友人ですので。」

思ってもいない所に、思ってもいない人物が来た事に驚きつつ、弾んだ声を出す。


「承知しました。此処にお連れ致します。」

拱手して退室する護衛。


(ラッキー!これで話し相手が出来て良い暇潰しになるぞ!)

内心で喜ぶ糜芳。


暫くして護衛に連れられて来たのは、久し振りに会う友人の姿だった。


「よう。久し振りだな芳。」

「応。本当に久し振り嬰。」

お互いに手を挙げて軽い挨拶を交わした後、机を挟んで対面に着席する。


「しかしすげー厳戒体制だな、ビックリしたわ。

此処の部屋に来るまでに2回も身体検査されたぞ。」

「あ~そうなの?

何かさ~いきなり貴賓扱いになっちゃってて、俺もビックリなんだよ。」

「いやまぁ、皇帝陛下に謁見するっつうんだから、ある意味妥当な措置だろう。

万一が在ると何処まで首が飛ぶか判ったもんじゃねーからな。」

ペチャクチャと士嬰との会話を楽しむ糜芳。


暫く楽しく話をしていると、(おもむろ)に、


「あ~すまないんだけど芳、お前に頼みが有るんだけど・・・。」

士嬰が切り出して来た。


「うん?何?」

「お前、洛陽に行くんだろ?それなら俺も同行させてくんねぇかな?

欲を言えば若手の楽士数人も・・・頼む!」

手を合わせて、拝む様に頼み込んで来る士嬰。


事情を聞くと、来年には元服(成人)する事になり、そのまま当主になる予定だそうだ。


まぁ、現当主が自由奔放と言うかアレなので、一門が一致して決定したらしい。


その為自由に過ごせる時間に限りが出て、当主になる前に後漢音楽の総本山・洛陽に行って勉強しようと考えていた所に、友人の糜芳が洛陽に赴く事を知って、慌てて旅支度を整えて追い掛けて来たようだ。


士嬰曰わく、「糜芳と一緒に行ければ、洛陽の音楽の勉強と共に、糜芳独自の音楽も身近で学べて、一石二鳥でありがたい。ついでに護衛も付いてるから安全面も抜群だしな」とのこと。


あまりにストレートに、明け透けに言う士嬰に思わず笑った糜芳は、「うん、了解」と士嬰の頼みを快諾したのだった。

但し、旅費は自分持ちの条件を付けて。


「おお!ありがたい!ありがとな芳。」

糜芳の了解を得て大喜びの士嬰。


それからなんだかんだと話していると、護衛の人が駆け込んで来て、


「失礼します!糜芳殿!

あの、その、不審者が糜芳殿を訪ねて参りましたのですが、え~と、どうしましょう?」

戸惑っている様子の護衛。


「不審者、ですか?」

「はい、本来なら問答無用に叩き出すのですが、糜芳殿の名を呼んでいる上、知人と言っているので念の為確認しに来たのです。」

どうしますか?と目線で尋ねる。


「おい、嬰。まさかと思うけど・・・。」

「いや、ウチのクソ親父なら宿泊している宿屋に、ぐるぐる巻きにして床に転がして来たから、違う筈だけど・・・。」

「お前、容赦ねーな・・・。つうか連れてくんなよ。」

半眼でつっこむ糜芳。


「容赦してたら俺や周囲が痛い目見るからな。

それと連れて来たんじゃなくて、俺がお前に会いに行くのを何処からか嗅ぎ付けて来て、勝手に付いてきたんだよ。

下手に撒くと、どういう行動を取るか読めなくなるから、直前まで同行して始末したんだぞ・・・はぁ。」

疲れた顔で、物騒な言葉を言いつつ溜め息を吐く。


「う~ん、すると別人か?

すいません、名前は聞いてないですか?」

「いえ、それが「会えば判るから」の一点張りでして。」

「う~ん、分かりました。

僕が会いに行きましょう。

宿舎の玄関前に居るのですね?その人物は。」

「はい、そうです。」

とりあえず会うことにした糜芳。


護衛に先導されて玄関前に行くと、


「おお、糜芳殿お久しぶりですな!

おい、嬰!!実の父を縛り付けるなと何度言ったら解るのだ?おい、聞いているのか!?」

案の定、蓑虫から芋虫に進化(?)を遂げた士嬰の父、士景が複数の役人に囲まれて、地面に転がっていた。


「あの~本当に知人なのですか?この者と。」

マジか?と言った表情で先導してくれた護衛が、おそるおそる尋ねて来たので、2人同時に首を左右に振り、


「「いえ、全くの初対面です。

会った事も、見た事も有りません。

只の不審者ですね。」」

異口同音に言って、芋虫を視界からデリート(消去)して、スタスタと部屋に戻る2人であった。


                     続く
















































え~と、友人枠の士嬰とその父士景の登場です。


因みに士景が此処まで身内にされるのは、音楽関連になると無我夢中になり、常識を吹き飛ばして南船北馬、何処にでも飛び出して行方知れずor音信不通になる為、必ず「士景当番」と呼ばれる監視役を一門で担当した結果、悉く碌でもない目に振り回されて、大なり小なりの私怨を持っているから。


という裏設定が有るからです。

普段は普通の良き親で一流の音楽家。


長々とすみません。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


優しい評価をお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >時には「見栄と面子」が大事な時もある。今がその時じゃ。 沈賀様かっこいい! こういう「愚者の一得」的な描写、大好きです。
[気になる点] 最初に登場した時は「士嬰」や「士家」だったはずですが、今回の話では「子嬰」と姓が違っているのが気になりました。 [一言] これだけ濃密な時間を過ごした糜芳少年が、青年になってどうなるか…
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