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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
30/111

その2

この物語はフィクションであり、創作です。


実在する、思われる人物・人名・地名・組織・団体とは、一切の関係ありません。


又、作中で述べられている歴史的見解は、個人的見解であり、史実と異なっている事も多々あると思いますが、あしからずご了承くださいます様、お願い申し上げます。


後、方言は適当です。


突然だが、「ジョン万次郎」という人物をご存知だろうか?


ジョン万次郎は江戸時代末期、土佐=高知県の出身の漁師さんだったのだが、詳しい経緯は省くが、なんやかんやあってなし崩し的にアメリカに渡り、自習勉強だけで小・中・高校をすっ飛ばして大学を一発合格、大学課程を修了してコッソリ帰国した(別名密入国)。


当時は鎖国状態だったので、極刑になってもおかしくない事態だったのだが、貴重な海外の知識を知る者として興味関心を持った土佐藩藩主に匿われて、ジョン万次郎の存在は「公然の秘密」として扱われていたのだった・・・筈なのだが、


「ワシ等んとこにゃあ、メリケン(アメリカ)に渡ってメリケンの言葉や知識を持っちょる、万次郎ちゅう奴がおるんじゃ!凄かろがい!?」


「公然の秘密」・「鎖国」という概念と、下手をすると主君の土佐藩主にも累が及ぶというのに、危機意識の欠片も無いパッパラパーなアホ藩士達が、あちこちにジョン万次郎の存在を自慢気に我が事の様に吹聴して回った結果、幕府に即バレするという珍現象を引き起こした。


ジョン万次郎は幕府に召喚され、江戸に護送されて死刑になるのかと戦々恐々としていたのだが、案に相違して幕府の直臣=旗本として召し抱えられた。


まぁ、そうなったのは当時の政治状況という裏事情が在ったのだが割愛して、結果的に旗本=武士になった万次郎の話を、万次郎の地元・土佐藩の人々が知って、


「ウチらと同じ地元出身の万次郎が旗本になった!!

万次郎万歳!万次郎すげぇぇぇ!!」

大騒ぎになり、土佐藩内で万次郎フィーバーが巻き起こったそうな。


何を言いたいのかというと、ジョン万次郎に起こった現象と酷似した現象が、現在進行形で糜芳に起こっていた・・・。


       徐州東海郡朐県内繁華街 


ザワザワ・・・ガヤガヤ・・・

「オイ、聞いたか?糜董さんとこの次男坊の話。」

「ああ、聞いた聞いた!なんでも皇帝陛下の使者が来て、陛下直々に招かれたって話だろう?

スゲーよな、皇帝に声を掛けられるなんてよ!」

「ああ、同郷にそんな凄い奴がいるなんて誇らしいよな。」


ガヤガヤ・・・ザワザワ・・・

「聞きまして奥様?糜香さんの息子さんの話。」

「ええ、それはもう・・・。

皇帝陛下に召し出された件でしょう?

凄いわよね~、長男さんは県から州の役人に大出世、糜香さんの息子さんは、皇帝陛下のお声掛かりですものね~。」

「けれど糜香さんの息子さんはどうして皇帝陛下のお声が掛かったのかしら?」

「なんでも聞く人が感動の涙を浮かべる程の歌と演奏に、まるで生き写しの様な絵を描くみたいで、その評判が皇帝陛下の耳に届いたからだそうよ。」

「へ~そういう理由でしたの。

ホントに糜家さんはこの世の春で羨ましいわねぇ。」


地元の街中は糜家(糜芳)の話で持ちきりとなり・・・


         糜家邸玄関口


「ちわっす、この度はおめでとうございます!

コレ、ウチの旦那様からのお祝品です。

御当主の糜董様にお渡しください。」

「ああ、これはこれはご丁寧に。

ウチの当主は、芳坊ちゃんの上洛の準備に追われててお礼が言えなくて申し訳無い、と言っていたと其方の旦那様にはお伝え下さい。」

ゲッソリと疲弊した糜家の使用人が、贈り物を届けに来た他家の使用人に、定例句の如く返礼の言葉を述べた。


「はい、承知しました。

・・・しっかし凄い贈り物の数っすね。

これだけ有れば倉が建つんじゃないすか?」

はすっぱな言葉遣いの他家の使用人が、所狭しと積まれている贈答品を見て、驚きつつも糜家の使用人に話し掛ける。


「ええ、確かに・・・。

まぁ、あまりに多くて、整理が追いついてないので実際の所は分かりませんけどね・・・。」

「はぁ、それはま・「こんにちは!○家から贈り物を届けに来ました!」


家の門前では、ひっきりなしにやってくる贈答品と届け人に溢れ、門前に列をなす有り様だった。


そして・・・


         糜家邸糜董執務室


外部の騒がしい喧騒とは裏腹に、ここ執務室は静けさを保っていた。


何時もの糜家一家だけでなく、今回は私兵団の団長兼武術師範を務める笵師範が同席し、額を寄せてボソボソと話し合いをしていた。


「・・・という事ですので、芳様が主上(皇帝)に謁見出来るのが早いか遅いかは、誰に取次(とりつ)いで貰うか次第になりますな。」

謹厳実直を絵に描いた様な、厳めしい顔付きをした笵師範が、糜家一家に説明している。


これは何故かと言うと、糜董を始めとする糜家一家が徐州以外に出た事が殆どなく、洛陽の事情など噂話程度しか分からない為、元官軍(中央軍)に在籍していた笵師範から知っている限りの洛陽情報を収集して、少しでもリスク回避をする為である。


「最後に冒頭でも述べましたが、某が知っている洛陽事情は、某が若かリし頃の何十年も前の話です。

現在とは状況が確実に変わっておりましょうから、参考程度に認識して頂きたく。」

笵師範は最後に念押しして、説明を締めくくる。


「いや、ありがとう師範。

古い情報でも、噂話よりは遙かに増しだから助かるよ。

う~ん。それにしても取り次ぎかぁ・・・。」

笵師範の説明を聞いて、難しい顔をして唸る糜董。


笵師範の話によると、誰に取り次いで貰うかによって、謁見出来るまでに掛かる日数がかなり変動する様だ。・・・数日から半年ぐらい。


だから、取り次ぎの人が上位者であればあるほど、皇帝のスケジュールに、上位者以下の謁見予定を蹴り飛ばして割り込む事が出来るので、早く謁見する事が可能なのだが、低い立場の人に頼むと逆に後回し後回しにされて、下手すると半年以上になる可能性もある。


ちょっと疑問を抱いた糜芳が、「僕は主上に召し出しを受けているのに、何で謁見するのに取り次ぎが必要なの?」と笵師範に質問すると、


「一介の商人の小倅に過ぎない芳様が取り次ぎ無しで謁見に臨み、万一それが通った場合に、元々その時間に謁見する筈だった名家・宦官連中に、「一介の商人の小倅如きに自分達の謁見時間を奪われた」と恨みを持たれて、「面子を潰された」と短絡的に芳様に刺客を送ったり、冤罪で投獄するといった報復措置をとりかねないからです。」

厳めしい顔を苦々しく歪めて説明してくれた。


(オイオイ!何処の極寒(ご○さむ)シティだよ!!・・・そんな所に行かなきゃなんねーの俺?)

説明を聞いて、糜芳内で逝(行)きたくない都市ランキング1位だった極寒シティをぶっちぎりで抜いて、1位に燦然と輝いた洛陽。


因みに極寒シティの次は、日本の恐らく東京の何処に存在すると云われている、犯罪及び死者発生率世界1位を誇る、人命が煎餅よりも軽くて脆いと評判の伝説の地区・米果タウンと、米国に在ると噂されている、細菌に感染した感染者が裸に近い格好で群れて徘徊する、裸群シティが横並びにランキングされている。


それはさておき、


「そんなに酷いのかい?笵爺。」

信じられないと疑問をぶつける糜竺。


「はい。全員とは言いませんが、自尊心は泰山よりも高く、自制心は井戸の底よりも低いという輩が多いので、高確率でそうなるかと。

連中ときたら、マトモな事は碌に出来ない無能な給料泥棒ですが、碌でもない事を実行するのは超有能な穀潰しですからな。」

憎々しげに、吐き捨てる様に糜竺に話す笵。

余程含む所が有るようだ。


「う~ん。そうなると、出来るだけ上位者に頼み込んだ方が良いのだろうけど・・・。

隣の州なら伝手があるし何とかなるんだけど、流石に司隷方面(洛陽)には無いしな~。」

ウンウン唸りながら考え込む糜董。


「父上、それなら州牧史様に伝手を頼ってみては如何でしょうか?」

「竺様、それはお止しになられた方が宜しいかと。

恐らく捨て銭と労力の無駄になりますぞ。」

糜竺の提案に、笵は即座に否定的な意見を述べた。


「え?何でだい笵爺。

中央から派遣されている州牧史様なら、洛陽に伝手を持っているだろう?」

「ええ、それは確かに持っているでしょうが・・・。残念ながら竺様、州牧史様は地方では最高権力者でも、中央から観れば地方に派遣されるという事は、洛陽から「都落(させん)ち」になっている訳ですから、皇族を除いて中央では中堅以下の立場でしかない証左です。

地方に派遣されている時点で、中央には大した伝手を持っていない事が確定的ですな。」

糜竺の疑問にスラスラ答える。


(なる程ね~、そりゃ強い伝手が有るんだったら、そもそも地方に来ること自体まず無いわな、確かに)

笵師範の説明に納得する糜芳。


「そうなの?笵爺。」

「はい。よしんば州牧史様に仲介を頼んで、多額の仲介料と取り次ぎ代を払っても、いざ洛陽に着いて取り次ぎをお願いしたら、知らぬ存ぜぬで門前払いを喰らうのが関の山でしょうな。」

「そんな馬鹿な!?」

詐欺を平然としますぞ、という笵師範の非道な話に、糜竺は声を荒げる。


「そんな馬鹿がまかり通るのが、洛陽という場所であり、名家閥・宦官閥連中なのです。

竺様、都とそこに住まう文武官や宦官達は、地方に住まう我々とは世の理が違います。

決して徐州の役人と同じ感覚で、洛陽の役人を見てはいけません。心してください。」

「・・・・・・。」

あまりの発言の内容に、言葉を失い唖然とする糜竺。


(笵爺さんの話を聞く限り、どっちもどっちみたいだな悪い意味で・・・。

それなら現地で、取り次ぎを頼めそうな人を直に探した方がマシだな・・・)

笵師範の話を聞いて、結論付ける。


「父上。」

「う~ん・・・うん?何だい芳。」

未だに唸って考え込んでいる糜董に声を掛ける。


「父上には洛陽に伝手が無く、州牧史様も頼りにならずならば、上洛した際に、僕自身が頼めそうな人を探して頼む様にします。」

「しかし・・・・・・フッそうだね、此処でウダウダ悩んでも始まらない、か。」

糜芳の話に暫く躊躇いを見せた糜董だったが、苦笑いをすると肩の力を抜いて、糜芳の話を受け入れる。


「其処で父上にお願いしたいのは、取り次ぎ代とそれを護衛する人達、後は洛陽に向かう道すがらにいる、付き合いのある人達宛ての紹介状を、できる限り書いて頂きたいのです。

お願いできますでしょうか?」

「ああ、それは(もっと)もだね。急ぎ手配するとしよう。

師範、そういう事だから至急護衛の人選を頼むよ。

後は趙と話し合いをして決めてくれ。

決まったらどちらかで良いから報告を頼む。」

「はは!」

糜芳の提案を認め、笵師範に指示を出して任せる事は任して、側にある無記入の竹簡を手に取り、知己を思い浮かべているのか上を見上げて考えている糜董。


「あ、そうそう父上。」

「ん?なんだい?」

「言い忘れていたんですけど、紹介状を宛てる人は、宦官閥と繋がりが有るか懇意にしている人を出来るだけお願いできますか?」

「「ええ!?」」

糜董・糜竺親子が驚きの声を上げる。


「芳。どうして宦官閥なんだい?」

「そうだよ芳。わざわざ宦官閥を選ばなくても・・・。」

2人して遠回しに否定的な意見を述べる。


(いやいや2人共何言ってんの?

効率考えたら宦官閥一択だろうに)

糜董親子の意見に逆に驚く糜芳。


「それは当然、名家閥よりも宦官閥、と言うより十常侍の方が主上に信頼されているからですよ。」

「「はぁ!!??」」

「ど、どう言う事なの芳!?」

糜芳の意見に素っ頓狂な声を上げて驚き、糜竺は糜芳に詰め寄った。


そもそも宦官閥(十常侍)は、霊帝の時代に誕生したと云われる新興勢力なのである。

宦官閥が出来た経緯を簡単に表すと、


1、Q:何で宦官閥が出来たの?

A:霊帝が望んだから


2、Q:何で霊帝は望んだの?

A:名家閥に対抗する勢力を欲した為


3、Q:何で対抗勢力を欲したの?

A:名家閥連中が世襲化・官僚化して霊帝の意思に掣肘し、言う事を聞かなくなってきたから


である。


名家閥連中は宮廷内の役職を、長年の世襲による専業化・独占化する事で、居なくなれば政治が回らなくなる状態を作り出し、現代に近い、誰がトップ(最高権力者)になろうが、失脚しようが、没落しようが関係無く、自分達だけは生き残れる様に構築された官僚的勢力を作り上げた。


その為徐々に権利・権力を拡大していき、霊帝でも配慮せざる得ない状態にジワジワとなっていた。


まぁ、配慮云々に関しては、1個人(霊帝)の考えで全てが決まり、間違えていたら大惨事!になるよりはマシなので、決して悪いことではないのだが、当人達(名家閥)自体が無能だった事と、皇帝を最高権力者とする後漢に於いては、すこぶる相性が悪かった。


最高権力者である霊帝の意思に度々反対(掣肘)し、場合によっては、ストライキ擬き(職務放棄)をして半ば脅迫めいた行動を起こし、霊帝の意思を封殺する事も度々あり、霊帝からすれば不愉快極まりない話であった。


日本の歴史に当てはめれば、「将軍として思う様に振る舞いたい足利義昭」と、「義昭を掣肘して制御したい織田信長」といった感じだろうか。


お互いに必要としながらも、お互いに疎ましく思っていたのである。


その上名家閥連中は、自分達で考案・施行した制度や政策に、問題が発生して非難を浴びると、


「主上の命でやった事で、主上に徳が無いからそうなっただけ、我々(名家閥)は悪くない。」

平然と自分達の不出来(無能)を棚に上げ、当たり前の様に霊帝に責任転嫁をするのである。

そりゃあ霊帝もブチギレるのも当然であった。


度々身勝手な行動(霊帝視線)をする名家閥連中に、霊帝が掣肘する為に意図的に重用し、一定の権力を持たせたのが、張譲達宦官=宦官閥なのである。


つまり宦官閥というのは、名家閥に対抗する為に形成された、霊帝公認の勢力なのだ。


そう考えたら、霊帝に信任の無い名家閥の伝手を手繰るよりも、信任されている宦官閥(十常侍)の伝手を手繰る方が、間違いなく手っ取り早いと考えた糜芳だった。


「・・・と言う訳です。」

「う~ん、なる程。そう考えたら確かに宦官閥が適当だね。」

「けどさ芳。どうして宦官閥が信任されているって判るの?何か物証が在るのかい?」

糜芳の意見に糜董は納得して頷き、糜竺は糜芳の意見に疑問を呈した。


「物証も何も兄上、「党錮の禁」を主上が発令した事が何よりの証拠でしょう?」


「党錮の禁」とは、悪名高い(名家閥連中限定)制度であり、分かり易く言えば「連座制」を拡大解釈した制度である。


「連座制」は主に身内・近親者を罪を犯した本人と同罪とする制度だが、「党個の禁」は身内・近親者だけでなく、友人・知人も含まれ、挨拶を交わしただけで同座させられたと言われる、エグい制度であった。


この「党錮の禁」によって大勢の清流派(名家閥)が罪に問われて、友人・知人・越後屋的御用商人を含む関係者が粛清されたが、濁流派(宦官閥)の連中は処罰されることがほぼ無かった為、明らかに名家閥をターゲットにした制度なのが、丸分かりなのであった。


因みにこの「党錮の禁」、名家閥には、「天下の悪法」と(ののし)られ非難囂々(ひなんごうごう)だったが、何の関係の無い一般庶民からは、「偉そうにふんぞり返っていた腐れ役人共が、無様に泣き喚いて命乞いしながら処刑される様が痛快で堪らない!良いぞ!もっとやれ!ざまぁ!!」と処刑される名家閥連中を見て、手を叩いて喜んでいたとか。


名家閥連中以外にはわりかしと言うか、かなり評判が良かった様だ・・・洛陽の闇の一端が窺い知れる話である。

(当時の処刑は公開処刑で、公開処刑は庶民の貴重なエンターテイメントだった)


それはさておき、


「党錮の禁という、あからさまに名家閥を狙い撃ちした制度を認めている時点で、名家閥に主上の信任が無い事が判り、制度を提案した宦官閥の意見を認めている事で、宦官閥を主上は信任している事が窺い知れますよね。

・・・如何でしょうか兄上。」

「確かにそうだね。

けどさ・・・う~ん、私の立場上ちょっと不味いというか、困るというか・・・。」

糜芳の解釈に納得する糜竺だったが、困った顔をして逡巡している。


(あ、そうか。

竺兄は名士として地方名家(閥)デビューをしているのに、俺が宦官閥と繋がりを持っちゃうと、周囲から裏切り者か、蝙蝠野郎(どっちつかず)に観られかねないのを懸念している訳か)

糜竺の懸念事を察する糜芳。


(う~ん、けどなぁ・・・。

名家閥に頼るつっても、この辺の地方名家には中央に伝手自体が無いし、父上の紹介状の伝手を手繰って、もし上手く中央名家閥に繋ぎが取れて取り次ぎを頼めても、間違い無く宦官閥に嫌がらせと言うか妨害をされて、待たされる事になるだろうしな~・・・。

・・・よし!竺兄を適当に言いくるめて効率良く、さっさと帰れるようにしょう!)

察した上で、自分の都合を優先する事に決める外道。


「安心してください兄上。

徐州から出た事が無い田舎者の僕が、手当たり次第に伝手を手繰ったら、「偶々宦官閥」に行き着いて、「子供で無知な僕が、何も判らずに取り次ぎを頼んだ」事にすれば、兄上に迷惑を掛けずに済みますので。」

外見詐欺な自称探偵の某主人公の如く、腹黒い発言をする、同じく外見詐欺な自称田舎者の糜芳。


「そ、そうかな?」

「そうですとも兄上。

それに僕が宦官閥と繋がりを持つのは、兄上や糜家にも利がある事ですから。」

「え?そうなの!?」

己の都合の為、糜竺を丸め込むべく利害を説き始める。


「ええ、例えばですが、兄上が名家閥関連の騒動に巻き込まれたとした場合、名家閥だけと繋がりを持っていたら、下手すると「蜥蜴の尻尾切り」や「生け贄」に遭い、問答無用で連座させられる可能性が有っても、宦官閥に繋がりが有れば、裏で宦官閥に手を回して貰って回避出来るかも知れません。」

「確かに・・・。」

糜芳の言い分に、一定の理解を示す糜竺。


「それに、逆に宦官閥の悪企みで、兄上が狙われた場合も宦官閥に繋がりが有ることで、いち早く情報を知り得る事が出来る可能性が広がり、名家閥に助けを求めて危険を回避する事も可能かと。」

「それはそうだね。」

コクリと深く頷く。


「名家と宦官、どちらの繋がりを太くするか細くするかは、兄上の考え方次第です。

しかし、どちらにも繋がりを持つ事は、兄上の次期当主として家の隆盛と存続の考え方に反してはいないと思うのですが、如何でしょうか。」

「!!確かにそうだね。

つまり私が表で名家と繋がりを保ち、芳が裏で宦官と繋がりを保つ事で、糜家の隆盛と存続を図ろうという考えなんだね!」

糜芳の意図(効率良く帰る為)を理解(誤解)した糜竺は、上手く言いくるめられて、あっさり糜芳の意見に賛成する。


「えっ、ええその通りですます!!」

焦って変な返答をする糜芳。


(うう、純粋な竺兄を騙くらかすみたいで、すげー罪悪感が湧いてきたんだけど・・・。

まぁ、後多分10年もしない内に戦乱になって、名家閥だの宦官閥だのは消滅するから、あんまり意味無いんだけどな)

罪悪感に苛まれつつ、未来の歴史知識で冷静に思考する。


「え~と、そういう事ですので父上、兄上、ご協力をお願いします。」

「ああ、承知したよ芳。

宦官閥に繋がりが有る人物を中心に、紹介状を認めるようにしよう。」

「私も了解したよ芳。

私も父上には及ばないけど、宦官閥に付き合いの有る人に紹介状を宛てるから、少しでも役に立ってくれたら良いんだけど・・・。」

糜芳の話に糜董親子は快諾し、せっせと竹簡に紹介文を書き始めた。


(とりあえず、父上と竺兄に公認して貰ったから、効率良くさっさと謁見して、さっさと帰れる算段が付いたぞ、よっしゃあ!!

極寒シティも真っ青な極悪都市に一分一秒でも居りとうないけん、速光で帰っちゃるぞ!!)

グッと拳を固め、脳内で高らかに宣言する。

都会に変な忌避感を持つ、田舎志向の糜芳であった。


                    続く














え~と、個人的見解で当時の洛陽事情を想像して書いています。


霊帝に関しては、個人としては「有能な人物に恵まれなかった凡庸な人物」といった印象です。


斉の桓公・蜀の劉禅などは後世の史家からは凡庸或いは暗愚と評されていますが、桓公には管沖・劉禅には諸葛亮がそれぞれいて、彼等が在世中には暗君と呼ばれていなかったのを踏まえると、霊帝は最初から最後まで言われ続けたという事は、そうだったんじゃないかな~と思います。


作中で名家閥を無能と言っている根拠は、霊帝を補佐する人物=皇帝の信任を得なかった事と結果十常侍という勢力を生み出すのを傍観し、まともに対処出来なかった事でしょうか。

後は、現代的に例えると、「世襲議員がそのまま官僚を兼任している」という政治制度だった事もアカンやろそれ!?と思ったのも理由の1つです。


あ、長々とすみません。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


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