閑話・竺兄と慶事と事件あふた~
この物語は演義であり、実在する人物・人名・地名・組織・団体とは一切関係・関連は有りません。
ですから、作中に何処かで聞いた事有るような、無いような表現・記述があっても気のせいです。
糜家邸大広間・婚儀2日目
兄糜竺の婚儀が終わり、やれやれと思いきや、実はこの時代(だけでは無いが)の結婚式は、凡そ3日間に渡って執り行われるのを糜芳は全く知らず、2日目に突入した現在も、余興という名のコンサートをこなす羽目になっていた。
「~~~~、~~~~♪・・・ご静聴ありがとうございました。」
「うぉぉぉぉぉ!!糜芳!・糜芳!・糜芳!」
「さいこ~~!」
やんややんやと盛り上がる招待客達を尻目に、ぺこりと頭を下げるとこれで終わりとばかりに、すたすたと自分の席に戻ろうとすると、
「素晴らしいぃぃ!!糜芳君!是非楽しぃにわ!?」
「どっせい。」
前日と同じく興奮して襲撃して来る、はかせた・・・じゃなくて情熱的なオッサンこと士景を、突っ込んで来る勢いを利用して、背負い投げで投げ飛ばし、当然受け身なんぞ知らない士景はビタン!と背中から地面に叩きつけられ、ジタバタと悶絶している所をズルズルと士嬰達の方に引き摺っていき、引き渡す。
無論、正当防衛であるし、士嬰達士家の公認を得てやっている事である。
「お~い、親父さん連れて来たぞ~。」
「連れて来たってお前、引き摺ってるじゃねーか。
幾らウチのクソ親父が悪いと言っても、実の親がシバかれて引き摺られるのを観ると、子として気分のいいもんじゃねーな・・・。」
複雑な表情をしながら士嬰は、懐から縄を取り出してテキパキと手馴れた動きで、ギリギリと実の親を縛り上げて蓑虫状態にしている。
非常に洗練された動きで、ほれぼれとする手際だった。
「コ、コラ!親をしばモゴ!モガ~!?」
「はいはいお父様、大人しくしていて下さいね~。」
流れるようなコンビネーションで士謡が布で口を塞いで猿轡をして、「近付くな危険」・「縄を解く者に災い有り」と書かれた木札を、縄と士景の体の隙間に差し込んでいる。
周りの楽士集団もごく当たり前の如く平然としていて、士嬰達を咎める人もおらず、中にはグッと握り拳をする楽士がいる始末であった。
士景の人柄が偲ばれる出来事である。
因みにもう1人の問題児(?)、「皇帝に推挙」という超ド級の厄ネタを持つ沈賀は、作戦名「ガンガン飲ませて逝かそうぜ」を糜董協力の元決行し、皇帝云々を有耶無耶にするべく、家妓や遊廓から雇った遊女に酒をガンガン注がせ、開始早々に酔い潰している。
両者共、最早完全に呪物扱いである。
「いや~、あの~、そう言うお前はどうなん?」
俺より酷くないかと、半眼で士嬰を責めるような視線を送る。
「ん?お前がそう言うなら、解くけど?」
「いえ、是非そのままでお願いします!」
即答する糜芳。
そうして何だかんだと士嬰達と話していると、ふと思い出したのか、「あっ」と糜芳は声を上げ、
「そう言や士嬰!てめえ昨日何で援護しなかったんだよ!?玄人なら契約遂行しろや!この野郎!」
士嬰を指差して非難する。
「無茶言うな!玄人だからこそ無理と判断したんだよ!」
「あん?どういうこっちゃい?」
士嬰の言い分に首を傾げる。
「確かにお前の歌唱力・演奏技術は有るし上手い。
無論、ウチにはそれ以上の歌い手・演奏者がいないわけじゃない。
それでも援護が無理と判断したのは、ウチらが聞き知っている、「既存のありふれた歌曲」ではお前の「未知で意外性のある歌曲」には、太刀打ち出来ないと思ったからだ。」
「え~と、聞き飽きた曲よりも、新しい聞いたことのない曲の方がウケるって事か?」
首を傾げながら、士嬰に問い質す糜芳。
糜芳の質問に、士嬰はコクリと頷き、
「まぁ、そういう事だな。
お前が極端な音痴だったり、歌曲の内容が支離滅裂・荒唐無稽だったら、商売柄手馴れたものだから援護の仕様も在るけど、お前の場合は援護の仕様がない。
お前の歌曲を超えるモノがウチには無いしな。」
正直な状況をぶっちゃける。
「それに、昨日の場合はお前の歌に感動して静かになっていただけで、白けていた訳じゃないだろ?
そんな時に既存の歌を歌って見ろよ、折角の感動に水を差す処か害悪にしかならねーよ。」
滔々と糜芳に解説する。
「う~ん。そんなもんなの?」
「そんなもん、そんなもん。
頼むからお前はもう少し自分の楽才を自覚しろや。
それと現状契約の履行が不可能だから、悪いけど契約は無かった事にしてくれ・・・スマン。
・・・援護出来そうな人物がコレだからなぁ・・・ハァ・・・。」
溜め息を吐いて、ジタバタともがく現蓑虫・前士景を哀しげに見つめる。
「え~と、分かった、玄人のお前が言うんだったら。
なんか此方こそスマンかった。
無理な話をしちゃったみたいで。」
「いや、謝らんでくれ。
俺がお前を過少評価してたのが悪いんだから。」
バツが悪そうに、頬を掻いて苦笑する士嬰。
それから少し話して、演奏の時間になったので士嬰兄妹と別れ、自分の席に戻る途中、
「やあやあ糜芳殿!相変わらずほれぼれする素晴らしい歌声ですなぁ。」
酒を飲んで出来上がっている曹豹に呼び止められた。
隣の席で飲んでいる鄭玄もコクコクと頷いている。
(そう言えば、昨日は父上のドタバタでまともに挨拶をして無いな。
折角だからキチンと挨拶しておくか・・・)
内心で思考して、曹豹達に近付く。
「これはこれは、曹豹様、鄭玄様。
昨日は挨拶もせず、ご無礼を致しました。
改めて兄・糜竺の婚儀に参列して頂き、誠にありがとうございます。
拙いおもてなしですが、ごゆるりと寛いで頂ければ幸いにございます。」
丁寧な言葉遣いで拱手し、頭を下げる。
「ハッハッハッハ!これはご丁寧に痛み入る。
いや~とても子供と思えぬ、立派な挨拶ですな~。」
上機嫌で返礼する曹豹。
そのまま鄭玄も交えて四方山話をしていると、ふと糜董が尹幹に言っていた事を思い出し、
「そう言えば父から聞いたのですが、僕の事を「悪辣少年」だの「地獄太子」だのと、悪し様に言う方がいるとの事なんですが、何かご存知ないですかね?」
何気なく聞いてみる。
ガチャン!ガタン!
「ほ、ほほう。そ、それはけけしからんですなぁ。」
持っていた杯を落とし、先程まで赤ら顔だったのが、急に青ざめて言葉がドモリがちになり、目が回遊魚の如く泳ぎ始める曹豹。
隣の鄭玄も緊迫した表情になっていた。
「コイツ等絶対知ってやがる」と確信した糜芳は、半眼になりつつ情報を吐き出さす為に、策謀を巡らす。
「ええ、何も(直接)していないのに非道い話です。
そこで、謂われのない誹謗中傷を受けたと沈賀様に訴えようと思うのです。
・・・所で、曹豹様・鄭玄様、何か心当たりが有りませんでしょうか?」
吐かないと上司にチクるぞオラと、遠回しに曹豹達を脅す悪辣少年。
((ヤバい・・・このガキはやると言ったら、本当に殺るから洒落にならん!))
屯田制度騒動で糜芳の策謀に(見える)嵌まり、文字通りやられて破滅した元同僚達(他派閥連中)を思い出し、曹豹・鄭玄はブルブルと震える。
ついでに曹豹・鄭玄の後方に控えている聞冬他文武官連中もガタガタと震えていた。
「え~、その事柄に関しては、此方の方で情報を収集し、精査した後に改めて回答する所存で有ります。」
糜芳の訴えと言う名の脅しを受けた鄭玄は、2月にも関わらず脂汗を垂らしながら、どこぞの政府官僚みたいに、判を押したような模範的見解を述べる。
鄭玄の模範的見解の後に曹豹は、
「ち、因みに犯人が見つかった場合はどのようにされるのですかな?」
恐る恐る下手に出て、糜芳に尋ねた。
「え?それはまぁそれ相応の罰(悪評をばら撒かない様に口止めと注意)を沈賀様にお願いするつもりですけど・・・。」
「「ば、罰(死ぬまで拷問か!?残虐な処刑か!?)ですか。」」
「ええ、そうです。」
曹豹達が、深刻な勘違いしている状態で話が進む。
「え~、あ!そう言えばそこにいる、あやつが言っていましたな!」
今さっき思い付いたとばかりに、後列にいる部下の中で一番若そうな人を指差した。
「へ!?某ですか!?
いえいえいえ!!某は存じませんよ!
そもそも糜芳殿にお会いしたのでは・・・」
「ちょっと失礼する!・・・オイ。」
必死な形相で言い募る若い部下の弁解を遮って、糜芳に一言詫びて振り返り、他の部下達に一声かけて顎をしゃくり上げる。
指示を受けた部下達は、シュバババ!!っと擬音が付くぐらいの機敏さで円陣を形成して、指差したというか指名された若い部下を取り囲む。
「お前が犠牲・・・我々・・・助かる・・・解るな?」
「・・・家族・・・安心・・・お前次第・・・。」
「覚悟・・・どうする?・・・決め・・・。」
傍目からは、かごめかごめというか、ゼ○レの審問の様な体でどす黒い会話が漏れ聞こえており、若い部下にボソボソと言葉を投げ掛けている。
やがて若い部下は徐々に肩を落として俯き、
「・・・某が、某が言いました・・・。」
観念というより諦念とした様子で、弱々しく呟き、おずおずと糜芳の前に進み出てきた。
「いや、ちょっと・・・あの・・・?」
あまりの出来事に唖然とする糜芳。
(これって俗に言う「蜥蜴の尻尾切り」ってヤツなんじゃあ?
・・・と、とりあえず鄭玄のオッサンに取りなして貰った方が・・・?)
そう考えて鄭玄の方に目線を向けると、
バッ、サッサッバ、パッバといった、高校野球の監督の如くブロックサイン様な動作を部下共々行っていて、どうやら手話の様にやり取りしている様子であった。
こいつ等何してんの?と茫然と糜芳が鄭玄達の手話?を観ていると、くるりと此方に向き直り額の汗を袖で拭うと、
「ふぅ、糜芳殿、先程の件ですが、あやつに決まりました。」
爽やかな笑みを浮かべ、これまた若い部下を指差す。
「はい?え?決まった!?え、え?」
鄭玄のトンデモ発言にパニクる糜芳。
鄭玄の指差した若い部下を観ると、盆踊りの様な、下手くそな極楽鳥の求愛のダンスの様な態で、必死に手をバタバタさせてブロックサインをしている若い文官がいた。
若い文官からは、滑稽よりも哀愁が漂っている。
(いや、これって・・・「生贄」とか、「人身御供」ってヤツでは・・・?)
あまりのブラックさに冷や汗が流れる。
何気ない一言で、「蜥蜴の尻尾切り」・「人身御供」という組織社会の闇と言うか深淵を、リアルタイムで目撃してドン引きする糜芳であった。
尚、生贄に差し出された若い文武官は、余りにも可哀想過ぎたので、普通に許して沈賀にチクるのを止めた事で両者共猛烈に感動して恩義を感じ、又、糜芳の歌のファンになっていた事も相まって、糜芳の公私に渡ってシンパになった結果、糜芳が意図せず軍部・民部双方に影響力を持つことになったのは余談である。
閑話・終
え~と、とりあえずこの閑話で結婚関連は終わります。
次話から新話になります。
読んでくださっている方々に楽しんで貰える様、精進に努めますので、これからも宜しくお願いします。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




