その3
この物語はフィクションです。
実在する人物・名前・地名・組織・団体とは一切の関係はありません。
又、どこかで聞いた事が有るような、無いような単語があっても気のせいですので、気にしてはいけません。
糜家邸・糜董執務室
昨日糜香から、糜竺・尹玲双方の亡き母君の面立ちを聞いて下書きをしていた折、糜董親子が帰って来た事を側仕えの田観が知らせに来たと共に、糜董から呼び出しを受けて糜董の執務室を訪れていた。
「失礼します。お呼びと聞いて来たのですが。」
挨拶をして入ると、既に糜香が部屋にいて、糜董の左隣に座っていた。
(ついでにしれっと徐歌も一緒にいる)
「ああ、ただいま芳。ちょっと話したい事があってね・・・。」
「はい、お帰りなさいませ父上、兄上。
日帰りで帰還されるとは、お疲れ様です。
え~と、何か僕に話をしたい事でも?」
丁老師に仲人役を依頼する為に出掛けて、日帰りするという強行軍をしたせいか、糜董・糜竺共に疲労を隠せない表情を浮かべ、糜芳に話し掛ける。
「ああ、丁老師の下に赴いて仲人役を頼んだ所、喜んで引き受けて下さったのだけど・・・。」
「けど?」
「それと同時に、丁老師から頼まれ事をされたんだけどねぇ・・・それが、その・・・。」
もごもごと要領悪い言い方をする糜董。
糜香と反対側の右隣に座っている糜竺は、困った様な申し訳なさそうな顔を糜芳に向けている。
「え~と、その頼まれ事に、僕が関係しているのですか?父上。」
また屯田制度みたいな、政策・制度に関する面倒事じゃないだろうな?と警戒し、眉をひそめる。
「・・・父上、此処は私から。
実は丁老師から私の結婚式の時に、余興で芳に歌を歌って欲しいと頼まれたんだよ。」
「へ?歌?何故に?」
いきなり謎の要望を受けた糜芳は、何のこっちゃ、と首を傾げ、頭の上に疑問符を幾つも浮かべる。
「ほら、前に丁老師の新塾の落成式の時に、屯田制度の話云々の後、素晴らしい歌や演奏を幾つも披露しただろう?」
「はい?」
え?俺が、と自身を指差してますます首を傾げる。
「でね、それを聞いた招待客の軍部・民部の人達が、あちこちで芳の歌唱力を褒め称えて喧伝しちゃったみたいでね。
それで、その評判を聞きつけた楽士(音楽家)の名門・士家が、丁老師に芳を紹介して欲しいと再三に渡って頼み込んで来ていたみたいで、どうしようか困っていた所に・・・。」
「ちょっと、ちょっとお待ち下さい兄上!
あのですね、僕自身歌だの演奏?などした記憶が全くないんですけど・・・?」
全く身に覚えの無い話をつらつら言われて、慌てて抗議する糜芳。
糜芳の抗議を受けて、糜竺はきょとんとした表情で、
「え?あの時の宴でノリノリで歌ってたじゃないか。
あ、もしかして・・・あの時、酒に酔っていたみたいだったから、記憶が飛んでて覚えてないのかい?」
気遣わしげな声音で糜芳を見つめる。
「・・・はい、そうだと思います。」
ショックを隠せない表情で答える。
(うっそう!?俺って人様の家で、ジャイアンちっくなリサイタルを、ノリノリでやっちゃってるのぉ!?
・・・うぉぉ・・・は、ハズい~)
自分の無意識なやらかしに、両手で顔を覆い、内心でじたばたと身悶える。
「後は道士(陰陽師)みたいに、両手を複雑な印で結んで、笛みたいな音を出して演奏したりとか。」
酔ってた糜芳の行動を、思い出しながら話す糜竺。
(おいおい、指笛改もしてたのか俺。
あ・・・絵を描かなくても、指笛改で適当な曲を演奏したら良かっただけじゃん!?
何で思い出せなかったの?!昨日の俺!)
別の意味で内心じたばた悶える。
因みに指笛改とは前世の親父が、偶々テレビで複雑に指を絡めて、リコーダーの様な笛の音を出して演奏している演奏家の人の場面を観たらしく、
「面白れ~、コレ出来たらダチ連中にウケるな。」
という、単純かつ短絡的にアホな考えで、演奏家の人が指笛改のやり方を解説している場面を録画して、必死に努力して習得したという代物である。
真剣に間違った努力をしている親父を横目に、前世のお袋は呆れ果て、
「真剣にアホ夫と離婚をするべきか否か考えた。」
と後年言っていた。
まぁ、そんな事情を知らなかったとは言え、前世の幼い頃に親父の指笛改を見て憧憬を抱き、親父にせがんで必死に指笛改を習得した自分(同類)に、親父の事をどうこう言える立場ではないが・・・。
それはさておき、
「あ、そうそう、そう言えば。
講堂の壁面に筆で、「人間50年、天下の内をくらぶれば云々」とか書いていたね。」
「信長ってる!?」
酔った勢いで織田信長をリスペクトして、微妙に間違った敦盛を書いている糜芳。(全く記憶無し)
(ウォォぉい!?どんだけやらかしちゃってるの!?
これ・・・もう、俺終わっちゃってるよね?)
膝から崩れ落ち、頭を抱える。
糜芳の所業を現代に例えれば、
「酔った勢いで、会社の上司(重役クラス)の自宅に於いて、調子に乗ってノリノリで歌を歌い、指笛を演奏した挙げ句、家の壁に落書きした」
様なモノであり、世紀末的に言えば、
「お前はもう、社会的に死んでいる」
という、何処かで聞いた事が在るような、伝説的暗殺拳伝承者の名台詞に近い、アベ死な状態である。
普通ならば。
(アレ?けど竺兄達は全然怒ってないし、むしろ何か逆に褒められてるのはなんで?)
周りの状況と自己認識の齟齬に疑問を抱く。
「アノ~、丁老師様達は僕の所業に怒ってないのですかね?」
微妙に下手に出て、反応を窺う。
「フフ、いや、全然怒ってないよ。
それどころか、若い文武官と年配の文武官は双方が、芳の歌に聞き惚れていたし、演奏も面白いと言って喜んでいたしね。
壁面に書いた文章も、丁老師が非常に気に入って、
「我が新塾の信念として、相応しい名文だ」
と言ってそのまま置いてあるぐらいだし。」
糜芳の反応が面白いのか、朗らかに笑いながら事の顛末を説明する。
「ああ、そうなんですか。良かった~。」
糜竺の話を聞いてホッと胸を撫で下ろす。
どうやら、やらかしたけれども、結果的に良い結果に繋がった様である。
(今回は、偶々良い結果になったけど、もうぜって~に、酒は飲まない様にしよう)
それはそれで、改めて禁酒を心に誓う糜芳。
酔っ払った後の顛末を話した後、糜竺はコホンと咳払いをして、
「え~と話を戻すけど、私達が丁老師邸に赴いた時に、バッタリ士家の人と出くわしてね。
まぁ、猛烈な嘆願と老師の頼みもあって、やむなく余興として、芳に歌曲を披露して貰う結果になったんだけど・・・ゴメンね、勝手に決めちゃって。」
再度申し訳なさそうな表情をして、頭を下げる。
当時の常識で言えば、当主又は嫡子の発言力や決定権はかなり強く、事後承諾処かいきなり事前に「やれ」と言って、子弟は強制的に有無をいわさずにやらされる事も珍しくない。
そんな時代に関わらず、糜董の様に躊躇ったり、糜竺みたいに事後とは言え誠意を持って頭を下げるのは、当時としては珍しいし、誠実と言える。
「いえいえ兄上!顔を上げてください!
僕の歌程度で良ければ喜んで協力させて頂きますよ。
・・・しかし、幾ら老師の頼みだからといって、よく引き受けましたね?かなり非常識な話だと思うのですが。」
誠実な態度を示した糜竺に、糜芳は恐縮して協力を快諾し、同時に非常識な楽士の話に、首を傾げて糜竺に尋ねる。
何せ面識の無い士家の人を、自分の結婚式に招く羽目になったと同時に、幾ら嘆願されたとは言え、自分の弟を余興という名目で、歌曲を披露させるといった、端から見たら傍若無人な要求をされているのだ。
まともな人だったら憤慨モノである。
「まあね。普通なら私でも憤慨して断っていると思うけど、向こう側も流石に無茶を言っているのは理解していてね。
キチンと見返りをしてくれるから了承したんだよ。」
「見返り・・・ですか?」
「うん、そう。
交渉して、結婚式で式や宴に雇うつもりだった楽士の人達は、全て士家側が用意準備してくれて、しかも全額向こう持ちという約束をしてくれたんだよ。」
にっこりと微笑んで答える糜竺。
「おお、なるほど。それは儲けものですね。
僕の歌や演奏程度で、名門と言われる楽士一家を無料で雇えるなんて。
いや~兄上もなかなかどうして、抜け目がないですね~、きっちり利益を取るなんて。」
お主も悪よの~みたいな表情で糜竺を褒める。
「まあね。私も名士になったとはいえ商家出身なんだから、その辺は心得たモノさ。
それに、玲の為にも少しでも盛大にして、喜んで貰いたいしね。」
糜芳の冷やかし混じりの賞賛に、照れながら胸を張って答える。
そして、今まで糜竺に話を任せていた糜董が、糜芳に視線を向けて、
「それじゃあ、改めて芳。
竺の結婚式の余興に歌や演奏をするのを、承認してくれるのだね?」
最終確認をする。
「はい、兄上と義姉上の為になるなら喜んで。」
糜芳もこくりと頷いて了承する。
糜董・糜竺親子が良かった、良かったと胸を撫で下ろしていると、
「ちょっと待って旦那様、竺殿。」
今まで発言せず、傍観者に徹していた糜香が糜董親子に待ったをかけた。
「うん?どうしたんだい香?」
「はい、旦那様。
芳が歌を歌うとか、演奏が出来る事を私は知らなかったのですけど・・・。」
「え?香が教えたんじゃ無いの?」
「いえ、全く。」
糜香の発言に驚く糜董。
「しかし義母上、芳は間違い無く丁老師の宴会で歌を歌って、演奏していましたけど・・・。」
「竺殿が嘘を言っているとは思えないけど、ごめんなさい、ちょっと俄かには信じられなくて。
芳、貴方は何時何処でそのような教養を身に付けたのかしら?」
糜香が目を細めて、疑惑の眼差しを糜芳に向ける。
(ギッッッックウ!!
ヤバい!そう言われたらそうだったー!
ど、どないしょー、どないしょー!あわわわ・・・)
びくりと肩を振るわせ、内心で狂乱した鶏の如く、コケーとバタバタ右往左往する糜芳。
「??どうしたの芳、答えなさい。」
訝しげな口調で催促する糜香。
「そ、それはですね・・・。」
「それは?」
「その~、何となくこう、パッと天啓が降りて来まして、その場で即興で歌っているのです!」
その場しのぎに、口から出任せを言う。
・・・端から聞いたら完全に電波系である。
「ふ~ん。じゃあ今から1曲、その天啓とやらで即興で歌ってみせなさい。」
「うぇ!?い、今からですか?」
「そう、今からよ。」
腕を胸の前で組んで糜芳を見つめる。
「は、はい、承知しました。」
(え~と、どうしよう?とりあえず、前世の歌を適当に歌えばいいか・・・)
脳内で思考して、ぐるりと周囲を見回すと、糜香の後ろに控えている徐歌が目に映る。
(う~ん、そうだ!この曲にしよう)
徐歌を見て閃いた糜芳は選曲を決定する。
「え~では、徐歌殿を見て閃いた歌を歌います。」
「ええ!?自分ですか?」
糜芳の発言にびっくり仰天する徐歌。
徐歌の驚いた声を無視して、息を吸って朗々と歌い出す。
「~~~~~~♪~~~♪」
糜芳が歌っているのは、ラーメンの具材みたいな名前の人物が活躍する物語の序幕曲、「幸せかどうか判らんけど「青い鳥」」である。
自分らしさを求めて、自由を求めて懸命にもがき、足掻きながら飛び立ち、後ろを振り返る事無く一途に飛び続ける青い(若い)鳥。
いずれは墜ちる事を理解しつつも、必死に自分の自由を求めて飛び続ける孤高の存在。
(まぁ言動はアレだけど、この曲にピッタリなイメージなんだよな~)
心中で思いながらも、熱唱する糜芳。
やがて歌い終わり、周りの目線が気になって閉じていた目を開ける。
「え~と母上、如何でしょうか?」
「・・・・・・。」
目を見開いて、ポカーンと口を開けて驚愕している。
周りを観れば、糜董も糜香と同じ表情で驚愕していて、糜竺は「う~ん、素晴らしい歌だね」とウンウン頷いて賞賛していた。
そして徐歌はというと、「ア、あ、ァ・・・」と呻く様な声を出してうずくまり、
「ウワーーーーァァァアッアアーー!!」
いきなり叫んだ様な声を上げ、部屋中に泣き叫ぶ声が響き渡った。
「ええ!?ちょっと、ちょっと!!」
急に泣き叫び始めた徐歌にビビって、わたわたと混乱する糜芳。
「ハッ!?ちょっと阿歌大丈夫!?誰か、誰か来て頂戴!早く!」
徐歌の泣き声を聞いて我に帰った糜香は、慌てて徐歌を介抱し、使用人を大声で呼ぶ。
徐歌の事でバタバタした後、漸く落ち着きを取り戻した糜香達は、糜芳の隠れた才能に(見える)、仰天していた。
「いや~まさか芳にこんな凄い才能が有るなんて、びっくり仰天したよ本当。」
「まさしく。私は2度目ですが、改めて芳の歌に感動しました。
しかも、即興ですからね。凄すぎる。」
「ええ、何て言うかこの子の歌は、心に刺さるというか何というか、阿歌なんかモロに直撃して感情が振り切れた様だし・・・ごめんなさいね芳、貴方の事を疑ってしまって。」
先ほどの態度とうって変わって、しおらしく謝罪する糜香。
「いえいえ、疑うのは当然の話でしょうから、お気になさらずに・・・。
僕の方こそ黙っててすみませんでした。」
ぺこりと糜香達に頭を下げる。
(ふぃ~、何とか誤魔化せた~。
前世の常識や癖を気を付けないと、突拍子もない事態を引き起こすんだな~・・・気を付けよう)
改めて注意喚起する。
「それでね、芳。
私を見て即興で歌を歌ってみてくれないかしら?」
徐歌を見て羨ましくなったのか、ソワソワと落ち着きなく糜芳に歌を催促する糜香。
「はぁ、分かりました。」
(う~ん、母上のイメージに合う曲といえば、やっぱりアレだよな!)
「では・・・~~~~♪。」
息を吸って満面の笑みで自信満々に歌い始めたのは、ア~タタタな暗殺拳伝承者を如実に歌った曲、「湯は蜀」であった・・・。
因みに糜香に指先1つでは無く、拳1つで沈められたのは、言うまでもない事である。
続く
え~と、遅筆で申し訳ありません。
私の文章表現力では、週1に投稿するのが精一杯ですので、どうかご容赦を。
この糜竺婚姻編は、後2~3話ぐらい続くと思われます。(予定は未定)
因みにですが、私自身ラーメンの具材みたいな名前の物語を昔は本当に知らず、テレビのニュースで「今世界中でラーメンの具材みたいな名前の物語が大人気」という話を、素で「今世界中でラーメンの具材が大人気」と勘違いし、
「へ~、ラーメンだけじゃなくて、具材まで人気があるんだ。
流石に食いもんに拘りを持つ日本だけあるなぁ」
感心した直後、具材と同名のキャラクターの映像が出て、「うっそやろ!」と驚いた黒歴史が有ります。(私だけじゃ無いと信じたい・・・)
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら、嬉しいです。
面白いと思って頂けたら、優しい評価をお願いします。




