閑話・うっかり屯田制あふた~
この物語はフィクションです。
実在する人物・団体・地名とは一切関係ありません。
糜芳自室
「フンフフ~ン♪」
鼻歌を歌いながら、部屋の中で寛いでいる10歳前後の少年は、現代日本から古代中国に何故か転生してしまった三国志のユダこと糜芳である。
ついうっかり口を滑らせた所為で、屯田制度のあれこれに振り回されてから数ヶ月経過して、年の瀬が迫る年末になっていた。
屯田制度の方は、糜家の者から丁老師経由で曹豹に伝わり、屯田制度に感動した曹豹が困窮している傷病兵や遺族達の為に、家屋敷を売り払って、資金提供を自ら進んで願い出た。
というカバーストーリーを展開し、大勢の一般将兵達を前に屯田制度の仕組みを説明した上で、
「どうか屯田制度設立に協力して欲しい。」
と、(しくじれば自分達の未来が無くなる事を悲観して)涙を流し、土下座して訴えた。
それを聞いた将兵達も、曹豹達の裏事情を露知らず、
「雲の上の存在である曹豹将軍閣下が、我々の為に其処までしてくれるとは・・・。」
これまた感涙にむせび泣いて、その場にいた全員が協力を申し出たのは言うまでもない。
この話が将兵を通じて徐州内の全将兵にあっという間に屯田制度と共に伝わり、
「我等の心は曹豹将軍閣下と共にあり」
をスローガンに、一致団結して曹豹を支持する事を表明する。
これにより、実質軍内部を掌握した曹豹とその一党は、屯田制度の設立に着手する。
当然派閥間調整を無視して行おうとした為、他派閥連中は猛反発したが、現実と実態を把握していない阿呆な愚行であった。
反対した他派閥連中を将兵達は「我等の敵」と認識、「必殺仕○人」が始動、密かに行動に移した。
反対した他派閥連中の若手将校中心に、次々と行軍中に事故死・負傷が相次いで発生し、中堅将校から上は連夜の様に闇討ちに遭って、殺害・負傷する通り魔事件が多発して、他派閥連中を恐怖におとしいれた。
そして、恐慌状態に陥った他派閥連中に追い討ちを掛ける様に、凶悪コンボ第1弾、
「死亡・負傷した将校の直属の部下達が、上司の悪行を告発」が発動。
死傷した将校の悪事の数々が明るみになると被害者から一転、犯罪者にジョブチェンジするという異常事態に発展したのであった。
軍監や督戦部隊(軍内部の軍人による、犯罪行為・犯罪事件を取り締まる軍の警察官)が即時出動し、調査の後裁判が行われたが、言い逃れが出来ない証拠や直属の部下という生の証言が有った為、異例の早さで有罪判決が下り、死傷者を問わず犯罪者として裁かれる事となった。
流石に他派閥連中も余りの早さに抗議したが、「それを待っていました!」とばかりに凶悪コンボ第2弾、
「何、文句あるの?さては貴様は共犯者だな!さあ、洗いざらい吐いて貰おうか!?」が発動。
軍監達が抗議した阿呆共を即座に逮捕、共犯者か否かを厳しい尋問(という名の拷問)によって取り調べを行い、結果は全員が黒と判明、逮捕された約半数は、
「罪を認め自白した後に、己の罪を恥じて自決した」(実際は拷問による獄死)と公表され、残りの半数は「こいつ、誰?」と首を傾げるぐらい変形した顔で、潔く(?)裁判において罪を認め、改めて共犯者として裁かれた。
さらに凶悪コンボ第3弾、
「犯罪者の家族も同様に犯罪者」通称連座制が発動。
問答無用で有罪判決を受けた家族も、同罪として裁きを受け、財産を没収されて州追放処分に処されて、没落が確定した。
因みに没収した財産は曹豹が、
「屯田制度が早期に発展する為に使う。」
と何故かビクつきながら公言し、益々将兵達の支持と尊敬を集める事となる。
(非公式に「悪辣なある御方」から指示を受けたとされるが詳細は不明である)
この時点で他派閥連中は、次々に凶悪コンボが発動した事により、ほぼ壊滅状態になっていた。
何せ曹豹の派閥以外の派閥が反対に回ってしまった為中立派閥が存在せず、糜芳の想定より遥かに酷い有り様になっていたのである。
他派閥の上層部は、何とか自派閥を立て直そうと躍起になるが、時既に遅く、手足になる将校がそもそも居なくなっていた。
初期段階において混乱状態に陥っていた隙を突かれ、有罪判決を受けた自派閥将校の部隊やポストは曹豹の派閥に悉く奪われて大幅に勢力が縮小し、若手将校も比較的まともな将校は曹豹達に引き抜かれ、残っているのは曹豹達の派閥に受け入れを拒否された、何の力も無い中堅将校と、伝手やコネだけで将校になった、悪行をするだけの度胸も無い無能な若手将校だけという悲惨な状況になっていたのだった。
尚、中堅将校受け入れを拒否した理由は、
「曹豹様と同格、同世代、もしくはそれより上の人物は絶対に受け入れてはいけません。
状況が落ち着いた後に、曹豹様の対抗馬として強力な政敵になる可能性が出てしまうし、派閥を割ったり、曹豹様に取って代わろうとする人物が現れる可能性も有ります。
今は他派閥であり、数の暴力(権力)でどうとでも始末が出来ますが、自派閥に受け入れてしまうと身内の争いになり、通用しないどころか派閥を割るきっかけになりかねず、大変危険な事態になりますので、必ず拒否して下さいね。」
と、「悪辣なある御方」に警告されたからである。
それはさておき、
悲惨な状況を確認した他派閥の上層部は、
「自分達の代では派閥勢力を盛り返すのはとても無理だ、忍従して時節を待つべし」
そう冷静に判断し、次の世代に派閥の未来を託して、嵐が過ぎるのを待っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
凶悪コンボ第4弾、
「今回の、悪行で裁かれた犯罪将校達の親類・縁者が軍に入隊するのは、断固拒否する」が発動。
「悪行者の身内を上司・同僚として迎えるのは御免被る」として、他派閥を除く全将校・将兵が提唱して、有罪判決を受けた将校達の親戚、嫁の親戚(縁者)の入隊を受け入れない事を決定した。
これを受けて、他派閥は次世代どころか自分の代で派閥が消滅するのが確定してしまったのであった。
何故なら派閥の団結力を高めるには「婚姻」で身内になるのが1番間違いが無い方法であり、当然そうして派閥を固めていたのだが、今回の決定で思いっきり「入隊拒否事例」に引っ掛かってしまい、自分達の子供どころか下手すると孫まで入隊拒否される羽目になってしまったからである。
手も足も出せず、打つ手無しの状態になり、茫然自失するしか無い他派閥連中であった。
最早再起不能となった他派閥の残りカス連中は、若手将校を中心に見切りを付けて辞職、財産を現金化して他州に移住したりして仕官を目指し、中堅将校から上は軍に残ったが閑職に追われ、数人の部下という名の監視役を付けられて完全に無力化、事実上軍内部で「派閥」という概念が消失した。
軍部を完全掌握して歓喜に包まれている曹豹達の派閥の中で、何故だか曹豹と一部の将校は顔を真っ青にしていて、
「鬼神か天魔か・・・」「まさか此処まで読み切るとは・・・」「恐ろしい、恐ろしい」
ブツブツ呟きながら、全身をガクブルと震わせていた。余程嬉しかった様だ。
完全掌握した事により、何の憂いも無く屯田制度を制定すると共に、「協同義援金制度」も設立されて、永続的に行われる仕組みを作った。
そして、屯田制度が制定された直後に、制度を考案したと謂われる糜家が、100人の屯田入植者受け入れを表明し、外部協力者第1号として軍関係者を中心に世に賞賛されることとなる。
糜家を代表して糜竺が屯田地開拓を担当し、同時に文官としても民部代表に抜擢され、必要な知識・経験を積み、ノウハウを他の文官に教授するべく、日夜開拓地に赴き実地研修の日々を送っている。
又、屯田地開拓の目処が立ち次第、教官役として民部からは鄭玄が、軍部からは曹豹が、それぞれ糜竺を推挙する事が内定しており、県の役人から、郡を飛ばして一気に州の役人になるという大出世を遂げる事になる。
まぁ、糜竺の能力・人格の評価された事には間違い無いのだが、それよりも、数十年・数代に渡って対峙した政敵達を、僅か数ヶ月であっさり滅亡、没落に追い込むという、余りに人外の策謀を発揮した(様に視える)糜芳の悪辣・鬼謀振り(勘違い)に、
「有能でスカウトして活用したいが、自分達では手に負えない。
実兄の糜竺の言う事なら聞きそうだから、良し、糜芳の制御装置として招聘しよう。」
という思惑が有り、軍部・民部が一致団結して招聘したという裏事情もあったのだが。
糜竺の大出世を、オーク父こと糜董は父祖の位牌に涙を流して報告し、世紀末母こと糜香は推しメンが出世した事を、胸をけしからん程揺らしながら狂喜乱舞した。
当の糜竺は自分の為に使われていた後ろ暗いお金を、反転して世の為になる様に、使用する方策を立案した上に、立身出世するきっかけをも作った糜芳に深く感謝し、
「ありがとう、芳。
君のおかげで拭いきれなかった忸怩たる思いが綺麗になくなったよ。
それだけじゃなくて州という大舞台で働けるきっかけまで作ってくれて、感謝しても感謝仕切れないよ。」
爽やかな笑顔を浮かべた。
そして躊躇いがちに、
「あのさ、芳。良かったら僕と一緒に働いて君の奸智・・・じゃなくて知謀を生かして僕を助けて貰えないだろうか?頼むよ。」
さりげなく失礼な事を言い掛けつつ、ペットショップで売られている子犬や子猫の様に、縋る様な目線を糜芳に向ける。
「え、お断りしますけど?と言うより無理・無謀ですね。」
菩薩な兄、糜竺の要望を、バッサリ拒否する鬼畜な弟、糜芳。
「芳!貴方は竺殿を助けないと言うのですか!?・・・ちょっとお話しましょうか?」
糜香が糜芳の返事を聞いて激昂した後、急にトーンダウンして手招きを糜芳にする。
確実に誠心(物理)誠意(武力)、糜芳を説得するつもり満々である。
「ち、違います、誤解しないで下さい母上。
僕が兄上と一緒に働いても、兄上の助けになるどころか評判を落とすだけだから、無理・無謀だと断ったんですよ!」
以心伝心というよりも、今までの経験則で危険を察知した糜芳は、慌てて弁解を行う。
「ええ、何でだい芳?芳の事を理解している丁老師の弟子達もいるのだから、竺の手助けをしても問題ないだろう?」
糜董が疑問符を浮かべて首を傾げる。
「だからですよ父上。僕の事を知っている人達から見れば、
「糜竺殿は、糜芳殿に頼っているだけでは」
とか言われて、「頼りない」と見られかねませんし、知らない人達から見れば、
「あんな子供を連れて来るとは、糜家には人材がいないのか」
とか言われて、嘲笑されかねません。
どっちに見られても結局兄上の評判が落ちるだけで利が有りませんから。」
「「ああ、なる程確かに・・・。」」
糜芳の弁解に納得する両親。
「そういう訳ですので兄上、僕が兄上を手伝う事はお断りします。
大丈夫です兄上なら。
他ならぬ僕が、兄上なら州の仕事も間違い無くやり遂げると胸を張って断言しますから。
頑張って下さい、応援しています!」
何せキング○ンビー(劉備)の筆頭文官を務めたプラチナorダイヤモンド並みのメンタルの持ち主なんだからと、心の中でド失礼な言葉を付け足して、笑顔で糜竺を応援する。
(下手に竺兄と一緒に働いたら、キン○ボンビー仕官ルートに入りかねないしな)
心中でぼやく。
「ああ、そうだ父上、母上。」
糜芳は、思い出したとばかりに手のひらをポンと叩き、
「兄上の出世祝いの宴だの宴会は絶対にやってはいけませんよ。」
両親に向かって警告をする。
「ええ~!!何でよ芳。
せっかくの竺殿の目出度い事なのに。」
糜香がブーブー文句を垂れる。
「あのですね母上、そんな事したら周囲からは、
「屯田制度は麋竺が自分が出世する為に作った物だ」とか非難されて、評判ががた落ちどころか地に墜ちますよ。」
「あ~、確かに有り得るねぇ。
今回ちょっとウチに利益が大きいから、妬み嫉みが多そうだからありそうだ。」
糜芳の説明に大いに納得する糜董。
「ええ、ですから謙虚に過ごす事が現状に置ける最適解ですね。
・・・いや待てよ。逆に宴をしようとした両親を諫めて、そのお金を屯田制度に使ったとすれば、兄上の評判が上がるな・・・。」
ブツブツと呟き、思考する。
「あの~、芳?周囲の評判なんかどうでもいいから本当に手助けしてくれない?
何でそんなにポンポン反間というか策謀を思い付けるの?」
控え目に懇願する糜竺であった。
それらの紆余曲折が有って月日が経ち、
「いや~、漸く屯田制度のゴタゴタが収まって落ち着いたな~。
まぁ、屯田制度の事は、竺兄や曹豹達オッサン連中に後は任せて、俺はのんびりさせても~らお。」
今回の騒動の、ついうっかりで発端を作った張本人にして、一定数の地元の名家・名士のオッサン連中の身ぐるみを巻き上げて泣かし、それ以上のバカ○ン共一党を地獄に落とし、大勢の貧する人々を救済した少年はお気楽極楽に呟くのであった。
閑話・終
え~と、屯田制の話はこの閑話で終わります。
大変申し訳ありませんが、次回以降からは不定期投稿になります。
出来るだけ早く投稿する様に努力しますので、悪しからずご了承ください。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




