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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
20/111

その9

この物語はフィクションです。


実在する人物・政治政策・組織とは一切関係ありません。


又、日本に於ける現行法違反行為を促進・勧誘する意図・意思は一切ありません。


         丁老師邸講堂

 

バッテン印をして無期限の延期を告げた糜芳に、民部連中達が悲鳴の様な怒号を上げた後、ざわめき始め、額を寄せてひそひそと密談をした後に、


「ちょっと待ってくれ、糜芳殿。

軍屯と民屯は別々の政策だろう?

軍屯は軍部が担当し、民屯は我々民部が担当するのであれば、民部で民屯政策を実施しても何ら支障はあるまい?

無論軍部連中みたいに資金提供を渋ったりはしないし、全面的な協力する事を約束する。」

民部を代表して、鄭玄が糜芳に翻意を促す。


「あのですね、そういう風になると非常に危険かつ、高確率で失敗するから無理ですと、先程から言っているのですが・・・。」

鄭玄の説得をキッパリと拒絶する。


「どういう事かね、麋芳殿?政治政策に疎い軍部の軍屯は成功すると君は言っているのに、政治政策に精通している我々は失敗する、と言っている理由を教えて貰いたい。」

糜芳の反論に納得がいかない、とばかりに鄭玄は鋭い目つきで糜芳を見据える。


「そうだ、そうだ!どういう事か納得のいく説明をして貰いたい!」

「その通り!軍部連中より我々の方が劣っているとでも言うのか!?」

鄭玄に同調して民部連中達が騒ぎ出した。


(え~?精通してんのなら理解出来るだろうに・・・もしかして、丁爺さんの仕込みか?わざと聞いて周囲に分かり易く説明しろ、みたいな・・・?)

チラッと、仕込みなの?と目線をおくるが、丁老師は首を横に振って否定する。


(ええ~!つー事はこいつら素で確実に失敗する理由を理解して無いのかよ。

自分達は政治政策のプロだから成功する、なんて阿呆な勘違いしてやがる癖に、どこか精通してんだよ。

ある意味軍部連中達と、どっこいどっこいだなこいつら、いや、下手すると以下かも)

内心でため息を付き、阿呆共に理由を述べる。


「では、理由を述べさせてもらいます。

政治政策に「精通」している、民部の方達には愚問だと思いますが、現状で「盗賊対策」はどうなさるのでしょうか?

素人判断ですが、対策もせずに民屯政策を実施すれば、徐州全体が「盗賊ホイホイ」状態になると私は予測します。

それこそ国内中からわんさか盗賊が押し寄せてきて、民屯開拓者や開拓村は悉く襲われ、奪われ放題、攫われ放題になってあっという間に壊滅的被害を被る事になるんじゃないかな~と、個人的に愚考する次第ですが・・・如何でしょうか。」

ニッコリ満面の笑みで、まさか素人でも解る事を、プロが理解していない筈が無いよね?

という風に目線を民部連中達に送る。

 

現状で地主や豪族の農地開拓・開墾が遅々として進まないのは、「技術不足による労力の限界」・「開拓・開墾に成功しても、元が採れるまでのそれまでに掛かる経費と時間の釣り合い」に加えて、「盗賊の襲撃による人災とその人的被害及び物的被害」という大きい要因があるためだ。


特に盗賊は歩く災害であり、国中に蔓延っている厄介な存在でもある。


そんな盗賊達から観れば、地主や豪族の開拓団は非常に美味しい獲物であり、涎を垂らして襲撃して来るのは火を見るより明らかである。


なにせまともな防衛設備が無いから侵入が容易だし、戦闘に関しても素人の集団だから、碌な抵抗もされず、被害が少なくて済む。


それに加えて開拓団の性質上、食糧を備蓄している事が多く、備蓄している食糧を略奪出来るうえに、若い男女が多いから、身柄を売り飛ばして金銭にもなるという一挙両得になるからだ。


そんな盗賊達にとって、より規模の大きいボーナスステージの様な民屯が開始されればどうなるかは、馬鹿でも理解出来る事だ。


「あ!・・・うう、その、それは・・・。」

その馬鹿でも理解出来る事を、理解していなかった大馬鹿(文官)達は、赤面してモゴモゴと呻いていた。


「そ、それなら軍屯とて同じだろう!?軍屯が成功するなら、民屯も成功する筈だ!」

「そうだ、その通りだ!!」

赤面して恥を掻いた一部の文官達が、自分達の恥を誤魔化したい一心で騒ぎ出した。


(うわ~、ホンマもんの馬鹿がおる。

こいつら自分達の地位や権力、名家出身を絶対視してて現実が視えてねえな)

内心呆れ顔で観ていると、同じ感情を抱いたのか糜竺は苦笑しているし、相次ぐ弟子の阿呆っぷりに丁老師は手で顔を覆っていた。


(う~ん。竺兄もああいった阿呆が同僚だと大変難儀しているんだろうな~。

うん!やっぱり武官も論外だけど、文官も碌でもなさそうだから、商人目指そう)

改めて公務員勤めはろくでもねーな、やめよう、と心に誓った糜芳であった。


「やめぬか愚か者共が!!貴様等は恥の上塗りをするつもりなのか!?

貴様等が恥を晒すのは勝手だが、我等まで同類と見られるのは我慢ならん!」

常に淡々としていた鄭玄が、顔を真っ赤にして怒鳴りつけ、それと同時に大半の文官達が騒いでいた阿呆文官達とサッと距離をとり、離れた。


鄭玄は怒鳴りつけた後、糜芳に顔を向けて、


「内の者が失礼をした事をお詫び致す。

只、あやつらが勝手に言っているだけであり、我等民部の総意では無い事は理解して頂きたい。

・・・あの阿呆共は後で我々が、キッチリ厳しく締めておくので。」

ぺこりと頭を下げ、丁老師にも下げた後、振り返って阿呆文官達を睨みつける。


「ヒ、ヒィ!な、何故・・・お許しを。」

鄭玄に睨まれた阿呆文官達は、訳が分からずに混乱状態で赦しを乞う。


「全く貴様等は・・・。はぁ、弁解は後で聞く、大人しくしていろ。」

情け無いとばかりに鄭玄は溜め息を付いた後、糜芳に顔を戻した。


「済まぬな、糜芳殿。

糜芳殿に指摘されるまで、盗賊達の事を綺麗に失念していた。

これで政治政策に精通している、などとほざくとは、我ながら恥ずかしい限りだ。」

鄭玄は、ぽりぽりと顔を掻いて苦笑する。


「その指摘を受けて気付いたのだが、軍屯政策が成功するのは、「軍」が絡んでいるからこそ成功するのだな?」

「はい、その通りです鄭玄様。」

鄭玄の問い掛けに、糜芳は肯定する。


「盗賊達の云わば天敵である、「軍」肝煎りの政策に手を出すなど、虎の尾を踏む様な愚行だからな。」

「ええ。それに構成される開拓団の団員も、戦闘経験のある元軍人が多く含まれますから、なおのこと襲い難いでしょうし。」

鄭玄の見解に補足する形で説明する。


盗賊達にとって軍隊は天敵であり、死神でもある。

そんな存在の軍が絡んでいる所に襲撃をかける阿呆は、余程の戦闘狂か自殺願望者でも無い限りまずいないだろう。

下手に手を出せば、「討伐」という即死級の事態を引き起こして、待っているのは「死」在るのみになってしまう。


「確かに。・・・そうなると軍屯政策が広がって行けば行くほど、盗賊共の活動範囲が減少し、地域の治安向上になるな。」

「はい、その通りです。

それと軍屯により、盗賊共の選別が進み、効率の良い討伐も可能になりますしね。」

「選別?効率?」

鄭玄は糜芳の意図を図りかねて首を傾げる。


「ええ。盗賊にも質はピンキリでしょう?

例えば軍の紐付きなのを承知で襲撃して来る者や、それを理解出来ずに誰彼構わず襲撃して来る者は、盗賊の中でも凶悪な部類になりますよね?」

「まぁ、そうだな。」

「では、逆に恐れて別の場所に逃げる者や、仲間内の意見が割れて活動が出来無くなり離散する者達は、取るに足らない弱小の盗賊と言えますよね?」

糜芳の解説に、顎に手を当てて目線を下げて考えこむ鄭玄だったが、ポンと膝を打ち、


「成る程。軍屯地を盗賊対策の前線拠点に見立てれば、賊の軍屯の対応によって強弱が明確になり、討伐する優先順位がはっきりするから、戦力の集中がし易くなるな。」

「ええ、そうです。前者なら、規模が大きくなる前に集中的に潰す事が出来ますし、後者なら、離散した場合は各個撃破し、逃げるようなら州外に追い散らすも良し、意図的にある程度合流させて一網打尽にしても良し、といった所でしょうか。」

「確かに。臨機応変に賊討伐が出来るな。」

感心した表情で頷いた。


「そうなると軍屯政策がある程度発展して、治安の安定を確保してからの方が間違いないな。」

「ええ、少なくとも治安が安定していない現状では悪手です。

最悪の場合襲った開拓村を拠点にされて、周辺の村落に被害が拡大しかねません。」

最悪のパターンを想定して、鄭玄達文官に警告を発する。


「ふむ。十分有り得る事態だな。

糜芳殿の言うとおり民屯政策は、軍屯政策が軌道に乗るまでは塩漬け案件だな。

あ~・・・そうなるとだな、糜芳殿・・・。」

鄭玄は、眉間に皺を寄せて糜芳を見つめる。


「はい、何でしょうか?」

「そうなると軍部には多大な利益があるのに対して、我々民部には余り利益になることが少ないと思うのだが・・・。

無論軍部連中が少なくない犠牲を払って得る利益なのは承知している。

我々も多少の犠牲は覚悟しているつもりだ。

何か我々にも利益を得る他の政策は無いのだろうか?」

「はぁ・・・。」

鄭玄の要望に気の抜けた返事を返す。


(えぇ~・・・面倒くせ~。

て言うか軍屯政策が発動すれば、それだけで十分利益になるだろうに。

大体そういう政策を考案すんのはアンタ等民部の専門分野だろうが。

そもそもうっかり口を滑らせた所為で、こんな事態になって迷惑してるのに、これ以上いらん事を言って余計な騒ぎを起こしたくね~よ、面倒くさい。

よし、適当に脅しすかして、下手に関わったら痛い目を見ると思わせて、関わって来ない様に牽制しておこう)

脳内で結論を出す。


「あの~、鄭玄様、十分に軍屯のおかげで、利益を得ることが出来ますよね?」

「ん?何処にかな。」

そうか?という風に鄭玄は糜芳に聞き返した。


糜芳は、人差し指を1本立てて、

「非生産者(財産も無く、税を徴収出来なかった人達)だった傷病兵や遺族達が軍屯政策により、生産者になって税を徴収する事が出来るように成る訳ですから、これは大きい利益ですよね?」

「それはそうだな。」


次に中指を追加して2本立てて、

「次に、非生産者(食うに困っている人達)が減ることで、都市部の犯罪発生の抑制効果が有り、都市部の治安向上に繋がりますよね。

確か都市部内の衛兵(警察官に相当)は民部所属だった筈ですから、鄭玄様達の負担減少になりますね。

これもまた利益ですよね?」

「まぁ、大体食い詰めた者達は、都市部に集まって来て犯罪を犯す事が多いから、それも道理だな。」


最後に薬指を追加して3本立てて、

「軍屯政策が軌道に乗れば、困窮している傷病兵や遺族達から次に軍内部の老兵、その次は傷病兵達と、順次軍屯に従事して貰う予定ですので軍内の採用枠に空きが出て、地方の農村部で仕事にあぶれた農家の次男・三男といった者達の軍隊採用促進に繋がり、破落戸(ヤクザ)や賊徒(盗賊)になる者を防ぎ、地方及び都市部の治安向上になりますよね。

これも立派な利益ですよね?」

「確かに、その通りだな。」


相づちを打って頷く鄭玄に、3本の指を前に出して見せつける様にして、

「貴方達民部は、軍部の方達みたいに犠牲を払わずとも、これだけの利益を享受出来るのですよ?

それでも飽き足らず、利益を得ようと仰るので?」

欲張り過ぎだろうが、と釘を刺す。


「そうだ!そうだ!」

「我々などしくじれば身の破滅だぞ!?」

「そんなに利益・利権が欲しいのなら喜んで替わってやるぞ?自分や家族の命を狙われる事になるがな・・・頼む、誰か替わってくれ!」

糜芳の非難に便乗して、武官達(特に曹豹)が涙目で悲壮感漂う抗議を文官達に上げる。


「まぁ、ど~~しても曹豹様達と同じ境遇に

なりたいのであれば、そうなるように状況を調整しますけど?」

にっこりと、黒い笑みを浮かべて鄭玄達文官連中に問い掛ける。


「ち、因みに具体的にどうなるのかな?」

鄭玄は、糜芳のただならぬ威圧感に、どもりがちになりながら確認をする。


「そうですねぇ、軍部の他派閥連中に「曹豹様達の背後に、鄭玄様達民部が資金提供している。曹豹様の資金源は鄭玄様達だ」と、こっそり情報を流しましょうか。」

「「「「「「「な!な!?」」」」」」」

「そうなると「敵の弱い所を討つ」は兵法の基本ですから、情報を得て怒り狂った他派閥連中に、命を家族諸共狙われるのは・・・・誰になりますかねぇ?」

だ・れ・に・し・よ・う・か・なと呟きながら鄭玄達文官連中を順繰り見渡す。


「大丈夫ですよ。こっそりだと将兵達には分からないから助けてくれませんけど、表立って曹豹様並みに財産を処分して資金提供すれば、曹豹様の同志として、きっと守ってくれますよ・・・多分。

ほら、どうです?曹豹様達と同じ境遇になりましたよ?良かったですね。」

満面の笑みで、鄭玄達文官連中を奈落に突き落とす策謀を披露する。


「それは素晴らしい!!」

「まさしく一味同心とはこの事ですなあ!」

「左様、左様。ようこそ真なる我等の同志達よ!我等武官は貴君達を歓迎するぞぉ!!」

糜芳同様満面の笑みで手を広げながら、歓迎の意志を示し、「一緒に地獄に逝こうぜ!」と熱く勧誘する曹豹率いる武官達。


「・・・で、どうします?お望みならそうしますが。」

「「「「すんません!勘弁して下さい!」」」」

鄭玄以下文官達は、一致団結して平身低頭謝罪するのであった。


結局丁老師の執り成しで、鄭玄達文官も多少の資金提供をする事で手打ち(?)となり、文武官共「欲を張れば身を滅ぼす」と有り難い説教を受ける羽目になった。


(よ~し、これで曹豹と鄭玄のオッサンに敬遠されて他の連中も近寄って来ないだろう。

ミッションコンプリートだ!

後は、新塾の落成祝いの宴会をお一人様で適当に過ごせば終わりだな)

と、糜芳は楽観的に考えていたのだが、


「ささ、糜芳殿お近づきに一献どうぞ。」

「いやいや、私からも一献どうですかな。」

逆に何故だか両脇を曹豹と鄭玄がぴったりと固め、非常にフレンドリーに接して来ていた。


他の連中も、丁老師にお祝いの祝辞を述べて挨拶した後、糜竺に、


「頼む!弟君を上手く制御してくれ!」

「頼りになるのは貴君だけだ!」

「貴君こそが我等の最後の砦だ!」

真剣な顔で拝む様に熱烈な挨拶を、文武官共にしていた。


彼等の中で糜竺の評価が、「仕事が出来て温厚篤実な奴だが、ポッと出の成り上がり者」から、「自分達をアッサリ破滅に追い込む悪知恵を持つ、悪辣な弟を制御出来る唯一無二の逸材」という評価に爆上がりしていた。


まぁ、挨拶を受けた当の糜竺は、「はぁ」とかなり困惑しているが。


又、曹豹と鄭玄は糜芳の事を、


「血も涙も無いくらい容赦なさすぎな、悪辣非情なガキだが、非常に有能かつ有用なガキだ」

と高く(?)評価し、


「此奴は使える。将来是非ともうちの陣営にスカウトしたい」

という思惑から親密度を上げるべく、ぴったりと寄り添って接待をしていたのであった。


そして糜芳は両者から勧められるがままに、おちゃけをカパカパと飲み、何時の間にか記憶が飛んでいて、気が付いたら自室のベッドに寝ていたのであった。


「うう・・・ギボヂ悪い・・・オヴェェ、オロロ。」

二日酔いになりながら。


この物語は無自覚に歴史を何気なく改変している無責任かつ悪辣なガキの物語である。


※因みに当時は、お酒の年齢制限は無かったと思われますが一応、精神年齢は二十歳を越えているのでセーフという事で・・・(フィクションです)。

現実では、飲酒は二十歳を過ぎてからにしましょう。

又、幼少時からの飲酒を勧める描写ではありません。


                      続く

え~と、屯田制については今話で終わり、閑話を書いて別の話になります。


すみませんが、話のストックが切れてしまいました。


閑話以降からは不定期投稿になります。


ご理解ご協力をお願いします。


長々とすみません。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


優しい評価をお願いします。


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