その8
え~と、すみません。
うっかり前話の前後書きを忘れて投稿してしまいました。
なので・・・この物語はフィクションです。×2
実在する人物・組織・政治政策とは一切関係ありません。×2
丁老師邸講堂
(ヤバい・・・ね、眠い。マトモに寝てねー上に、子供の身体になってから余計に眠たく成りやすくなっちまった。
・・・頑張れ自分!もう少しで終わりだ。
よし!サッサと終わらして絶対に惰眠を貪ってやる)
脳内で己自身を叱咤激励し、襲い来る眠気を振り払って、意識を曹豹達に向ける。
「さて、曹豹様達に将兵達の支持を得た後の行動をお伝えします。先ずは曹豹様。」
「はは!」
「派閥を通じて、上層部に軍事施設の内外の周辺や空き地を、耕作地として使用する許可を取って下さい。」
「は、軍事施設の内外の耕作地使用許可を申請して取ればよいのですな?・・・派閥からという事は、同僚や上司に屯田制を説明しても良いので?」
え、いいの?さっきと言っている事が違っているんだけど?という風にキョトンとした表情で糜芳に確認する曹豹。
「はい、将兵達の支持を得た後なら問題ありません。
その後に曹豹様から主導権を奪い、手柄や利権を横取りしようとしても、非難や顰蹙を買って、周囲から叩かれるだけですから。
寧ろキチンと丁寧に説明して派閥の利益を説き、味方に引き入れて協力体制を整える様にして下さい。」
(同僚や上司に説明をするのは確実に必要なんだけど、順番を間違えたら大惨事になっちゃうから要注意だよなぁ)
「・・・念押ししますが、将兵達に屯田制を説明して味方に付けた後に、派閥の人達に説明して下さいね?もし万一間違えたら・・・曹豹様達と一族一門の将来はどうなるか保障出来なくなりますので。判りますよね?」
ニッコリと微笑む。
にこやかな笑顔で、
「やんなよ、振りじゃねーぞ?
やらかして面倒事を起こしたら解っているよな?お前ら地獄見せたるぞ、コラ」
と言外に曹豹達に念押しする。
「「「「「ヒ、は、はい!肝に命じて!!」」」」」
糜芳(9歳児)の念押しに、ビビるオッサンズ(曹豹達)。
「お願いしますね?では、耕作地使用許可を得たら、田畑の耕作・作付け(種まき・植え付け)を、困窮している元傷病兵と遺族の人達に賃金を払って行って貰い、田畑の委託・管理をさせて、生活が最低限出来る様に取り計らって欲しいのです。」
「成る程。そうなれば些少とは言え収入になるし、作物を植えさせ収穫させれば自給自足が出来て食うに困る事もなくなりますな。
・・・という事は、賃金の支払いや農業に必要な機材及び作付けする種籾購入に掛かる費用を、我々が負担するのですね?」
糜芳の説明に、参謀兄が得心した表情で理解を示して確認をする。
「流石参謀殿、その通りに御座います。
まぁ、後は路上生活を送っている人達も少なからず居ると思われますので、管理小屋という名目で住居も必要かと。」
参謀兄の確認の補足をした後、糜芳は真剣な眼差しを曹豹達に向け、
「・・・これが一番重要なのですが、曹豹様達がどれだけ資金提供をされるのかで屯田制実現の成否が決まります。
資金提供をすればする程、将兵達は曹豹様達の徳を称え、恩義を感じ、尊敬や崇拝の念を抱く事となるでしょう。
成功すれば貴方様達には、其方の武官殿が言っていた様に軍部の中心人物になり、栄光と輝かしい未来が待っています。
一世一代の賭けと思って惜しみ無く提供をお願いします。」
深々と頭を下げる。
「はは!お任せ頂きたい。
此処まで来れば我々も後には引けませぬし、大きな見返りもある訳ですから、惜しまず出せるだけ出しますぞ。」
ドンと胸を叩いて快く請け負う曹豹。
「ありがとうございます!・・・あ、そうそう曹豹様。」
ポンと思い出したかの様に拳を手のひらで叩き、
「は、何でしょう?」
「特に貴方様は家屋敷を売っ払って資金を作って下さいね?」
事も無げに曹豹に告げる。
「へ?い、家屋敷もですかぁ!?」
いきなり糜芳の「お前は無一文になれ」発言に、悲鳴の様な声を上げた。
「ひ、非道い・・・鬼だ。」
「強欲な十常侍でも其処までは・・・。」
「いくら何でも・・・流石に・・・。」
ひそひそと周囲の人達が呟いて、同情と憐憫の眼差しを曹豹に向ける。
「あ、あのですね、私だけなら喜んで承諾するのですがね・・・勘弁して下さい!!家族が居るんです!まだ幼い孫も居るんです!幾ら何でも家族を路頭に迷わす様な事は出来ません!お許しを~。う、う、う・・・。」
まるで借金取りに返済を迫まれ、根こそぎ財産を徴収される債務者の様な、悲痛な叫び声を上げて、曹豹はハラハラと泣き崩れる。
オッサン文官こと鄭玄が、流石に可哀相と思ったのか、
「糜芳殿。幾ら何でも其処までむしり取るのは情け容赦が無さ過ぎだろう。」
非難する口振りで糜芳に苦言を呈した。
(うん?何を言ってんだこのオッサン達は?訳の判らん事を言ってるぞ?)
曹豹の泣き言と周囲の呟きと鄭玄の苦言に、糜芳は疑問符を浮かべる。
「はい?家屋敷を持ってると危険だから、売却して資金にして下さいと言ってるんですけど・・・?」
「幾ら危険だからといってもだな・・・ん?危険?
・・・家屋敷を持っていたら危険な事になるのか?」
「はぁ、曹豹様の大事な家族や幼いお孫さんに危害が及びかねないぐらいは。」
「へ?え?」
「何と・・・どういう事かね糜芳殿。」
糜芳と鄭玄の会話の遣り取りを聞いて、曹豹はぽかんと口を開けて混乱している。
「あのですね、先程説明した時に、他派閥が自滅か破滅すると言いましたよね?」
「ああ、確かに言っていたな。」
「そうなった時に、他派閥連中達の怨みや憎しみの矛先が何処に向かうかというと、一番の候補は当然ながら・・・。」
「成る程。襲撃するなら間違い無く曹豹殿を襲い、一緒に住んでいる家族の者も巻き添えを喰う事になるな。」
「その通りです。ですから先手を打って、家族の方々を必要大事な家財と一緒に安全な場所に避難して貰い、家屋敷を売却・資金化して少しでも危険と被害を軽く抑える為に言っているのですが・・・?」
糜芳はコテンと不思議そうに首を傾げる。
「ああ、済まない。てっきり家屋敷を売ってまで資金提供しろと聞こえたものでな。」
「あ、そうでしたか、申し訳ありません。
紛らわしい言い方をしてしまって・・・。
曹豹様御安心を。緊急避難として言っただけですから。」
「いやいやいや!何をどう安心しろと!?
嘘、私襲撃されるの?家族も危険なの?
ど、どうしたら・・・糜芳殿一っ!?」
己の失敗や無能を棚に上げて、未来から来た猫型ロボットに泣きつく某主人公の如く糜芳に泣きつく曹豹。
(う~ん。何かえらい情緒不安定になってるな。
とりあえず安心させて、落ち着かせるか)
元凶が無自覚に、内心で首を傾げる。
「大丈夫ですよ曹豹様。落ち着いて下さい。
ほとぼりが冷めるまでの間、ご家族の方々は遠方に避難して貰い、曹豹様は兵舎(官営住宅)に入れば安全安心ですよ。」
にこやかに、子供をあやす様に曹豹に対処策を説明して落ち着かせる。
「兵舎にですか?」
「はい、兵舎にです。表向きは、
「家屋敷を投げ売って資金提供したので、住む所が無い」
として入居し、避難する家族には、ほとぼりが冷めるまでキチンと生活できる資金を渡しておけば問題無いでしょう。」
糜芳の説明を聞いても得心がいかない様で、曹豹は訝しげな表情をしている。
「何故兵舎にかと言うと、貴方様は将兵達にとって今回の政策の代弁者であり、旗頭です。
貴方様に万一があれば、自分達の将来が脅かされると有らば必死に護ろうとする筈です。
つまり兵舎に住む将兵及びその家族達が貴方様の安全を守る盾になり、一人一人が護衛兼敵を警戒する監視役に成るからです。」
「おお!成る程。確かにそれならば私も安全ですな!」
糜芳の安全対策を聞いて、曹豹は安堵の表情を浮かべる。
(まぁ、これならアメ○カのカンパニーや、イス○エルの猛者度に常に命を狙われても生き延びた、Р○Oのアラ○ァト議長並みに安全だろうな・・・漫画や映画に出て来るトンデモ暗殺者でもいない限り。
とりあえず最低限、曹豹が狙われてる間は俺や竺兄達の安全が確保されるから、頑張って貰おう)
曹豹の安全対策を講じながらも、内心腹黒く自身達の身の安全もキチンと考える糜芳。
「さて、宜しいですね。
続けますよ?曹豹様達に提供して貰った資金(問答無用に決定済み)で、必要な初期費用は賄えると思いますが、恐らく初期投資だけで底を突く事になるでしょう。
それでは結局一時凌ぎにもならず、竜頭蛇尾で終わってしまいますよね?
其処で、継続性を保たす為に軍屯政策を軍上層部から承認を得た後、「協同義援金制度」を曹豹様に提唱して貰いたいのです。」
「「「「「「協同義援金制度??」」」」」」
糜芳の説明に、聞き慣れない単語が出てきて首を傾げて、曹豹達は疑問符を浮かべる。
「ふ~む、糜芳君。
「協同義援金制度」とは一体何なのかね?」
招待客全員の疑問を代弁して、丁老師が糜芳に問い質す。
「は、協同義援金制度と言うのは、将兵達に月々に無理のない程度、凡そ5銭~10銭程(1銭は現代日本で換算すると凡そ約100円ぐらい)給料から天引き(自動的に徴収)させて貰い、それを資金源として田畑の維持・管理費用に充てると共に、傷病兵や遺族の見舞金、長年勤めて退職する人への退職金、軍屯開拓に従事する人達の支度金として活用するのを目的とした制度です。」
「ふむ。初期投資は曹豹達の資金提供で賄い、後は将兵達から資金を募って救済措置を維持・継続させて、将兵達の死傷時の保障を確保し、なおかつ軍屯開拓を促進させるといった所かね?」
「左様であります丁老師。」
糜芳の解説を丁老師が、分かり易く補足説明をする。
元々丁老師は昨夜からの、「朝までリアルに討論会」で糜芳の政策を理解しているのだが、他の人達にも理解しやすい様に配慮してくれた様だ。
因みにだが、兵士の給料は凡そ月収600銭(6万円)で有り、「メッチャ安いやん!」と一見思われるが、600銭の貨幣(現金)支給とは別にほぼ同程度の麦等の食糧(現物)支給もあるし、装備品(服・靴)も支給で、家賃が要らない兵舎で生活しているので、わりかしまともな待遇だった様だ。
それを踏まえて、麋芳が言った5銭から10銭(500円~1000円)は、街の居酒屋で酒を飲んで飯を食べるぐらいのものであり、無理の無い金額と言えよう。
ついでに、5~10銭では少ないと思う人が居ると思うが、州軍全体で凡そ4~5万程の将兵が在籍しており、1ヶ月で20万~50万銭(2000万~5000万円)になり、1年で240万~600万銭にもなる、莫大な財源なのである。
これがどれくらい莫大かと言うと、後年に売官制度という、お金で役職が買える様になるトンデモ制度が出来るのだが、史実として漢帝国の最上位の役職「三公」(現代日本だと総理大臣クラス)が500万銭で買えた記録が残っている。
たった1~2年分の予算で総理大臣の役職を買えてしまうのである。
どれだけ莫大か理解して頂けるだろう。
それはさておき、
「う~む。鄭玄、お主はどう思う?」
「は、老師。非常に理に叶っているかと。
民部側としては、州予算を増やさず新たに財源を確保、将兵達だけで無く曹豹殿達にも利を得る今回の政策、感嘆の他ありません。」
丁老師の問い掛けに、鄭玄は淡々と答える。
「ふむ、そうか。では聞夏、雷成、軍部の者として良きか悪しきか意見を述べなさい。
先ず参軍(参謀)の聞夏はどう思うか?」
「は、無論良き事かと。この政策が施行されれば将兵達の志気は、間違い無く鰻登りに上がりましょう。
又、糜芳様の策謀が上手く嵌まれば、派閥の勝手な都合に振り回されたり、面倒な利害調整をせずに済むという事も良いですな。
後個人的に参謀の端くれとして、これほどの策を考え付く糜芳様には、尊敬の念を覚える次第です。」
参謀兄こと聞夏が糜芳に様付けをした上で、尊敬の眼差しを送る。
「ほう。では軍政官の雷成はどう思うか?」
「はい、軍政官としても聞夏殿と同意見ですが・・・。」
「うん?何か気掛かりでもあるのかね?」
「はい、糜芳殿が元傷病兵や遺族の人達に、軍施設周辺部を農地として解放して救済する事に関してなのですが・・・。
委託・管理を任せた農地から収穫された作物は、買い取りにするか徴収にするかどちらにするべきかと、収穫された作物を得る分、今まで食糧関係を納品してくれている商人とは取引量が減り、損をさせてしまいます。
その商人は良心的で誠実な者で、度々無理を聞いて貰ったりと世話になっておりまして、私的にも軍政官としてもそのような良き商人に損失を齎すのは心苦しく・・・。」
軍政官の雷成は眉を八の字にして困った顔をして気掛かりを述べた。
「ふ~む。糜芳君、君ならどう対処するか、雷成に教授して上げてくれ給え。」
いきなり話を糜芳に振る。
「あ、はい。え~と、収穫した作物は徴収にするべきかと。
元々軍部の敷地内ですし、傷病兵や遺族には管理費用を払って委託・管理を任せているだけなので、作物は軍部の物とするのが妥当でしょう。
あくまで困窮から救う為の救済措置ですし、軍屯開拓が始まるまでの繋ぎですので、余り厚遇になるのも政策の支障になりかねませんので。」
下手に買い取りなどにしたら、機材は無料、住む所も無料、食糧も無料かつ作物を売ってボロ儲けという、とんでもないVIP待遇になってしまい、稼ぐだけ稼いでとんずらされたり、楽を覚えて開拓生活に耐えられ無くなって逃亡したりしまいかねない。
(嫌な例えだけど、生かさず殺さずギリギリの生活水準にして、今のままより開拓に従事した方が希望が持てる、と言ったぐらいがベターなんだよな。
あくまで開拓生活に向けての準備期間であって、楽させたり、遊ばす為じゃないしな)
「次に、出入りの商人については、収穫した作物を商人の納入品と物々交換で相殺し、不足分を金銭で購えば、商人に損失を与える事も無くなるかと。」
「ふ~む。物々交換と金銭取引ですか・・・。」
糜芳の提案に唸る雷成。
「はい、例えば商人側から麦を購入しているなら、此方は稗・粟・豆等を作付けする、という様にお互いに違う品物を交換する事で、商人側は交換した作物を別に売りさばいて儲けにするでしょうし、此方側も金銭の支払いが少なく済んで予算の削減になります。」
「もし断れた場合は如何に?」
「その場合は今まで通りに商人と取引し、収穫した作物は将兵達に余禄として配れば宜しいかと。
我々の政策には、目に見える明確な「利益」がある、と将兵達に周知する事になりますし、そうなれば益々我々に協力的になるでしょうから。」
打てば響く様に、淀みなくすらすらと答える糜芳に雷成は、
「ハッハッハッハ!・・・素晴らしい、お見それしました糜芳殿!
老師。私の気掛かりはきれいさっぱり無くなりました。」
笑いながら糜芳を讃え、丁老師に顔を向けて朗らかに答えた。
「ホッホッホッホ、そうかね。それは何よりじゃな。
・・・さて、ぼちぼち軍屯政策に関しての意見は出尽くしたと思うが糜芳君、どうかね?他にあるかね?」
「あー、あ!雷成様に1つ。」
「ん?私にかね糜芳殿。」
丁老師の問い掛けに、うっかり忘れていた事を思い出し、軍政官の雷成に声をかける。
「はい、協同義援金の担当者の選定は、慎重かつ厳正に決めて下さい。
賄賂を受けて依怙贔屓な便宜を図ったり、着服横領をして義援金に手を出すと・・・。」
「うむ。将兵達から袋叩きに遭いますな。」
「いいえ、軍政官全員とその一族一門、老若男女区別無く皆殺しになり、家系断絶・滅亡の憂き目に遭います。」
「へ??ええぇぇぇ!!そ、そこまで!?
・・・じ、冗談ですよね?ねぇ!!?」
糜芳のぶっ飛んだ発言に、言葉遣いが急におかしくなる雷成。
(現代の政権は知らんけど、ど~も歴代中国王朝の役人共は、「賄賂は善意の歳暮・中元ですからお返しに悪事に協力・黙認します、着服横領は悪徳じゃなく役得です」を至極当然の様にやってたみたいだからな。
マジでやられて、こっちに飛び火したら洒落になんないからしっかり釘を刺しとこう)
「いえ、冗談じゃなく本当ですよ。
先程言いましたよね?将兵達は派閥云々は他人事ですから興味関心が無いですけど、自分達の利害には非常に敏感だと。」
「確かに聞きましたけど・・・。」
「それを聞いて、利害に直結する義援金に手を出したら怒り狂った将兵達に襲撃されるぐらいはわかりますよね?」
「それはわかりますが、いくら何でも全員がと言うのは有り得ないのでは?」
流石に大袈裟では?といった雰囲気で糜芳に懐疑的な反論をする。
「他派閥が否定的な行動をするだけで破滅するのに、逆鱗に触れる行為をした「軍政閥」の方々が、タダで済むと思いますか?
間違い無く将兵達共通の、「敵」に認定されると思いますが、それでも有り得ないと?」
「あ!・・・確かに・・・申し訳ありません!!私の認識不足でした!」
糜芳の指摘で気付いて、雷成は顔をサーと青ざめながら謝罪する。
(こりゃやべ一な。まともそうな雷成のオッサンでも認識が甘いとは・・・。
念には念を押しておくか)
「聞夏様。」
「は、何でしょうか。」
「聞夏様を中心に義援金に関する監査機関を創設して下さい。」
「先程の不正防止の為ですな?」
「そうです。もし万が一軍政官の誰かに不正があれば、迅速に容赦なく本人及び係累を、関係者も同じように処断して下さい。
・・・大変厳しい言い方になりますが、絶対に躊躇してはいけません。
躊躇すれば同類と見なされて、怒りの矛先が曹豹様達の派閥自体に向きかねませんから。
当然貴方様達にも累が及んで、大変危険な状態になるのは確実ですので。」
厳しい口調で聞夏に説明する。
「はは!確かに左様ですな。う~む・・・。
では、担当者には護衛の名目で監視を付け、連絡を密にし、問題を起こせば直ぐに逮捕出来るようにします。
そして担当者の家族は、専用の屋敷に住まわせて出入り口に監視小屋を設け、出入りする人物を警戒するようにしましょうか。」
糜芳の要請を受けて、聞夏はすらすらと監視体制を考案・構築していく。
「な、何と・・・其処まで・・・?」
厳しい対応に絶句する雷成。
「いえいえ、雷成様。聞夏様の監視体制は至極当然でしょう。
義援金を扱う担当者が、曹豹様の次ぐらいには危険ですので護衛を付けるのは妥当かと。
「キチンと」職務を全うしていれば只の護衛ですよ、「キチンと」していれば。
又、担当者の家族を人質に取って何らかの要求や危害が及んでは、担当者もおちおち仕事にならないでしょうから「安心」させる為の措置ですよ、「担当者の家族の安全」のね。」
糜芳はそこで一旦話を切り、目を細めて、
「・・・何も「問題」が無ければ良いのですから、まさか反対しませんよねぇ?もし、反対されるなら聞夏様の最初のお仕事になりますけど・・・?」
拒否れば不正をするつもりと断定、処刑&みせしめ1号はお前だ、と暗に示す。
「と、と、とんでもない!無論賛成、大賛成です!悪事をしなければ良いのですから!」
正確に意図を読んだ雷成は、首を高速でブンブンと左右に振った後、悪霊が乗り移ったかのようにガクンガクンと前後に振った。
「ありがとうございます。では、人選を宜しくお願いします。
老師、軍屯政策に関する事柄は以上です。」
糜芳は、丁老師に体を向けて拱手する。
「ふむ。では、曹豹達よ。軍屯政策について糜芳君が話した内容を、遺漏無く怠る事無く遂行するようにな。」
「「「「「はは!確と承知しました!!」」」」」
丁老師が締めて、軍部連中が揃って拱手して了承の返事をした。
「良きかな、良きかな・・・さて、次は民屯についてじゃのう。」
ザワ・・・ザワザワッ・・・
丁老師の呟きに、民部(文官)達がざわめき始めた。
(あ~、民屯かぁ~。うわっ、民部の人達のお目目がキラキラしてるわ。
まぁ、軍部が高い対価払ってもデカい利益・利権を得れるんだったら自分達にも、って考えてんだろーなぁ。
うーん、民部の場合はな~・・・う~ん)
内心げんなりして、しぶしぶ話し始める。
「はい。え~、民屯政策については・・・。」
ゴクリと喉を鳴らし、一言一句聞き漏らさないとばかりに民部連中達は、糜芳に向かって前のめりになる。
その過度の期待に頬をひくつかせながら、両手を顔の前で交差させ、
「残念ですが、軍屯政策が軌道に乗り、安定するまでの間、無期限の延期にします。」
バッテン印を作って宣言する。
「「「「「はぁぁぁぁぁぁ!!!???」」」」」
民部連中達の怒号にも悲鳴にも聞こえる叫び声が、講堂内に響き渡った。
続く
え~と、屯田制の話はもう少し続きます。×2
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。×2
優しい評価をお願いします。×2




