その5
この物語はフィクションです。
実在する人物・制度政策・組織・団体とは一切関係ありません。
丁老師宅講堂
糜芳が黒い笑みを浮かべている中、丁老師が話を振り、糜竺が答えた内容に、周囲の招待客達からはざわめきが収まらない状態が続いていた。
それを観た老師がパンパンと手を叩き、
「ぼちぼち静まりなさい。未だ糜芳君の話は終わってはおらん。
・・・すまないね糜芳君、話の腰を折るような事になってしまって・・・さぁ、話を続けてくれたまえ。」
老師が窘めると、ピタッとざわめきが収まり、静かになる。
「あ、はい、続けさせて貰います。
え~と、竺兄上が言われたように100人程の開拓・開墾に従事する人達を募集したいのですが、曹豹様達軍部の方達に人選をお願いしたいのですが、ただ・・・」
「ただ、何だね?」
「今回の募集ですが、将来的に続く人達の為に、何人かは指導・指示出来る方を入れて頂けたらと思いまして。」
「フ~ム、承知した。出来る限りの事はしよう。他に何かあるかね?」
糜芳は曹豹に人選と要望を伝え、曹豹も二つ返事で了承する。
(あ~、怒られるのが確定する事を言わなきゃなんないのか~。
だり~・・・まぁ、最後は泣いて喜ばれると思うけど・・・)
「後は、え~とですね、軍屯で入植した人は、一般の農民よりも1割の増税をさせて頂きます。」
「「「「「な~ぁにぃ~~!!!?」」」」」
糜芳の発言に、素っ頓狂な声を上げる軍部の人達。
(何か杵を持ったハゲのお笑い芸人みたいなリアクションしてるな)
なんとなく懐かしい気持ちになる糜芳。
「ど、どういう事か説明して頂きたい!!
同胞や遺族達から税を搾取するつもりなのか糜家は!?」
「左様!左様!その様な横暴な事は断じて認められない!」
「先程の優しい思いやりは偽りだったのか!?」
ノスタルジーに浸る糜芳と対照的に、顔を真っ赤にして、唾を飛ばして詰め寄る軍人達。
「最後まで話を聞いて下さいね。
こほん・・・軍屯入植者から徴収した1割は、そのまま軍部にお渡しします!」
「「「「「へ?」」」」」
「ですから、軍屯入植者から徴収した1割は、軍部にお渡しします!っていう事です。」
「「「「「え?え?」」」」」
糜芳の思わぬ発言に、怒り顔から一転、ポカンとした顔でオロオロしていた。
周りからは「どういう事だ?」「何を考えているのか解るか?」といった言葉が飛び交い、再びざわめき始めた。
「ウーム・・・糜芳君、よく理解出来ん。
すまないが年寄りの私にも解るように説明して貰えんかね?」
(よく言うよ、全く。昨日の打ち合わせで全部知ってるのに。
竺兄の時もそうだけど、上手いタイミングでしれっと合いの手を入れるんだから・・・喰えない爺さんだよ本当に)
内心苦笑する。
「は、老師、説明不足で申し訳ありません。
まず、1割増しで税を取るのは、ウチの小作農達や、周囲の農民達との諍いや揉め事を防ぐ為と不満を抑える為です・・・ぶっちゃけて言うと、今回の軍屯入植者の待遇は厚遇過ぎて、暴動が起きかねません。」
「はぁ!?何処が?何で??」
糜芳の説明に、心底理解出来ないとばかりに疑問符を頭の周り中に浮かべる軍部の人達。
それを聞いていた他の招待客達の中の1人が呆れた声で、
「ハァ、あのな、貴公ら。
どれだけ厚遇されているのかが判らんのか?普通だったらこんな破格の条件なんぞ、国中探しても見つからんぞ・・・1割増し処か2割増しでも、下手すると周囲から不平不満が出るんじゃないか?」
軍部連中に諭し始めた。周りの人達もウンウンと頷いて同意している。
「え!そうなの?マジで!?」とばかりに驚いた表情をする軍部連中。
(まぁ、この軍部連中達は、ええとこの坊ちゃん育ちみたいだからピンと来ないんだろうな。
庶民からすれば雲上人だからな~)
自分の立場(富豪)を棚に上げて評する糜芳。
「普通、開拓・開墾する場合は農具一式自前が当たり前、領主主導の場合は一食ぐらいは出るかもしれないが、基本は各自で自炊・持参だ。
それに、開拓・開墾するには人力では限界があるから、牛や馬を使って耕す事が多いのだが、殆どの農民は持っていない。
だから持っている人物、大体領主から有料で借りて耕しているんだ。
因みにだが牛馬使用の賃貸料をどうやって払っていると思う?年貢に賃貸料を上乗せして払っているんだ。
・・・此処までは理解出来たか?曹豹殿。」
恐らく農業関係担当の文官なのだろう招待客の1人が、矢鱈詳しい説明を曹豹と軍部連中にしている。
「ああ、おおよそ理解した。」
招待客のオッサン文官の剣幕に、たじろぎながらも理解を示す曹豹。
他の軍部連中達も、本当に理解しているのか怪しいがコクコクと頷いていた。
「・・・左様か。では今回の軍屯入植者の場合はどうだ?
農具一式糜家からの支給でぴかぴかの新品、食事も完全支給で食うに困らず、寝床も保障してくれて、致せり尽くせりだよな?
その上、牛や馬を無償・無料で貸与する?
一般常識的に有り得ない程の厚遇だぞ?周りの農民連中達が聞いたら発狂するぐらいは。
・・・普通の税率だと不平等過ぎて、怒り狂った農民連中に確実に襲撃、殺されるぞ?
だから農民連中よりも高い税を取る事で不平不満を減らし、周囲との融和を図ろう、と糜芳君は言っているのだが・・・これまでの話を聞いて、貴公らは糜芳君に搾取だの何だの文句を付けるつもりなのか?」
オッサン文官の説明を聞いて、どれだけ的外れな事を発言していたのが理解し、顔色を真っ青にする軍部連中達。
周りの人達も「そうだ、そうだ。」「何を考えているんだ。軍部は。」と非難している。
(いやあ、すらすらと軍部の脳筋達に分かり易く説明してくれて有り難い。
そのまま俺とポジションチェンジしてくれないかな~。面倒くせえ。
まぁ、軍屯入植者だけで無く、俺達糜家にも怒りの矛先が来かねないリスクが在るんだけど、もし反対派がいた場合、下手に知られてそこを突かれるとヤバいから黙っていよう)
糜芳は自分に代わって説明してくれた、オッサン文官に感謝しつつ、保身に余念がない。
「しかし、糜芳君。
税率を上げて不平不満を抑えるのは理解出来るのだが、何故其処まで厚遇したり、徴収した税を軍部に渡すのかが解らない。どうしてだ?」
軍部連中達をヘコましたオッサン文官(後で聞いたら鄭玄と言う名前の人だった)が、首を傾げて尋ねる。
「はい、それはですね、待遇については別に厚遇している訳ではなく、傷病兵の人達は一般の人達と違って何らかの障害を負っていますので、どれくらいの補助が必要か判らない為、思い付く事を出来る限り提供した結果、その様な条件になっただけです。
とりあえず開拓・開墾に従事して貰う過程で、必要な物資はどれくらいか、どの様にすれば効率良く開拓・開墾出来るかを記録、最低限を見極め、次の軍屯に有効活用したいと思っています。」
糜芳の説明に「おお、成る程。」「確かに。」という納得の声が上がる。
「後は徴収した1割の税を軍部に渡す事についてですが、軍部への紹介料と紹介を受けた軍屯入植者の恩返し兼、後に続く傷病兵達の思いやりのお金だと思って頂きたいのです。
先程軍部の方から予算が無い、と仰っていましたよね?ですので、1割の税を軍屯関連の財源にして貰えれば、という意味です。
・・・そして、我が糜家は以降も軍屯入植者から徴収した1割の税を、10年はお渡しする事を約束致します!」
「おおおおぉぉ・・・!!」
「何と其処まで織り込み済みで考えていたとは・・・凄すぎる。」
「神童・・・天才・・・いや鬼才か?」
糜芳の理路整然とした説明に、周囲は感嘆と賞賛の声を上げる。
(止めて!マジで。只のパクリを弄っただけだから!何か背中がムズムズするから。
・・・とりあえず、周りの評価は悪くねーな。
後は、きっちり軍部連中を形に嵌めるだけだな)
思わぬ称賛に背中がムズ痒くなりつつ、軍部連中を嵌めるべく腹を括る。
「うおおおーん!糜芳どのー!!其処まで、其処まで考えていてくれているのに、無礼な振る舞いをした我々をお許し下さい!」
「「「「誠に、誠に申し訳ありません!」」」」
感動して泣いて詫びる曹豹達。
「いえいえ、こちらこそ言葉が足りず申し訳ありません。幼少の身故御容赦を。
・・・改めてお願いします、私の政策に協力願えますか?」
「無論!!我々は糜芳殿の政策に全力で賛同し、協力を惜しみませんぞ!」
軍部連中達の謝罪を快く受け入れ、自分の政策に全力の協力を取り付けた糜芳は、にっこりと満面の笑みを浮かべる。
「では早速ですが、軍屯を早く進める為に、貴方達からも資金提供をお願い出来ますか?
困窮している人達に涙を流す程、情に篤い方達ですから喜んで協力してくれますよね?」
「「「「「へ?」」」」」
(言葉なんぞ何の足しにもならん。
こちらは対価を(糜董が)払ってんだ。てめーら俺の策(盗作)をただ乗りで便乗して立身出世するつもりなのか?ふざけんなよ、てめーらも対価、金を銭を出さんかい。
・・・まぁ、出さねーなら身の破滅がおめーらを待っているがな。くっくっく)
内心黒い笑みを浮かべ、表面はにっこりと微笑みながら、軍部連中達に堂々と現金をせびる糜芳であった。
続く
え~と、引き続き屯田制の話です。
もう少し続きますので宜しくお願いします。
実際の屯田制とは違っているとは思いますが、時代考証ご無用でお願いしますね。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




