うっかりと屯田制その1
この物語はフィクションであります。
実在するイベント・組織・団体・個人とは一切合切関係・関連性は在りません。
糜芳自室
糜香による、数週間に渡る古代中国式ブートキャンプ(現代だと確実に児相事案)が、必死に糜香に御機嫌取りをしたのが功を奏したのか終わりを告げ、四谷怪談顔からも別れを告げて糜芳は、漸く生活と顔面に平穏が訪れていた。
「うう、・・・辛かった、長かったよう。」
お勤めを終えた元受刑者みたいな台詞を吐き、うっすら涙を浮かべて、袖で拭う。
「私兵団の奴ら、容赦なく襲いかかって来るし。・・・まぁ、しゃーねえわな、後ろで母上がみてたからな~。」
私兵団の連中にボコボコにされた糜芳だが、さほど恨みは無かった。
連中も悲壮な顔で、
「スイマセン!芳様。私には小さい子供が~」とか、「年老いた親が~」とか言いながら、チラッと背後(糜香)を見て、申し訳無さそうに掛かって来たからだ。
只、若干約1名だけ「俺の未来と、子孫の仇~」と、血走った目で襲い掛かって来たが。
「さぁ、これからは悠々自適なスローライフを始めるぞ。」
「はぁ、左様で御座いますか、芳様。素老来布とは何でしょうか?」
いつの間にか近くにいた田観が聞き慣れない単語に疑問を呈す。
「のんびりゆったりと人生を送る事だよ。ミタさん。」
「田観です。
奥様がお呼びですが、のんびりゆったりと行くと伝えますね。」
「いやいや、一瞬も無駄にしてはいけないね。
直ぐに、母上様の元に馳せ参じよう!急いでミタさん。」
「田観です。芳様。」
のんびり過ごそうした矢先に、田観(外見と違い、かなりのゴシップ好きと判明。往年のとある家政婦に因んで命名)から命にガチで関わる単語が出て全力疾走する糜芳であった。
糜香の自室
「ハァハァ、今日も美しい母上様。
お呼びと聞き、参上仕りました。」
息も絶え絶えに糜香の部屋に入ると、糜香は長椅子に座って寛いでいた。
そして行儀見習いとして、サイコパス発言を繰り返し、糜董を混乱状態に陥らせた、天然残念美少女の徐歌が糜香の側に、侍女の様に侍っている。
本当は丁重に送り(追い)帰す積もりだったが、本人が激しく抵抗した挙げ句、徐家から「このままだと嫁の貰い手が~」と泣きつかれ、「殺人拳の使い手になってもいいから、糜香殿の様に結婚できる様にしてくれませんか」と必死に土下座して懇願する当主を見て、深~く同情した糜董が同意し、今の状態に落ち着いた。
「あら、来たわね芳。貴方に伝える事があるんだけど?」
「はは!何なりと。」
平身低頭した糜芳は、糜香の言葉を一言一句聞き漏らさない様、姿勢を質す。
それを見て徐歌が、「流石先生、しっかりと教育されて居られる」とばかりに、ウンウンと満足そうに頷いている。
「あのね、つい先程連絡が有ったのだけど、竺殿の学問の師である、丁老師がウチに来訪される事になったの。」
「はぁ、そうですか。・・・え~と、それが僕に何か関係があるんです?」
糜竺の先生と言われても、自分とは何の接点も無い人物であり、何故自分が呼ばれたのか分からず困惑する。
「ええ、大いに。丁老師はね、竺殿の師と共に恩人でもあってね。
糜家から様々な援助をさせて貰っている方なんだけど、日頃のお礼に貴方に学問を教授して下さるそうよ。」
糜香の話によると、糜竺は元々武官で仕官する積もりで、糜董がコツコツと周囲に根回し(主に山吹色のお菓子)をしていたが、土壇場で適性が無いのが判明し、今までの根回しがパーになり(武官と文官で派閥が大きく二分されており、武官派閥中心に根回しをしていた)、頭を抱えていた時に、丁老師が文官として役所の上層部に推挙(推薦)してくれた人物らしい。
当時の推挙は、現代で言う連帯保証人に当たり、推挙した人物がやらかすと連座制にモロに引っ掛かる、かなりリスキーな行為である。
だから普通は推挙する場合、身内や一族・縁戚(結婚して繋がりを持った嫁さん方の親戚)にするのが殆どで、
よっぽど人を見る目がある人物の目に止まるか、(例:筍一族こと荀彧は何人も有能な人物を推挙している)
お偉いさんと余程深い信頼関係があるか、
(例:主君孫策の側近且つ義兄弟の周瑜が商家出身で無名の魯粛を推挙)
余程の大金(家族が一生遊んで暮らせるぐらい)でも積まない限り、まずして貰えないのが一般常識なのだ。
・・・一応、寒門出身者(身内や一族に有力者(名士、又は金持ち)が居らず、お偉いさんに伝手やコネが無い、貧しい出自の人)を登用する為の制度、茂才(現代の公務員採用者試験)というのが在るには在るのだが、完全に形骸化し、名家連中専用と化しており、糜竺はそれを事実上使えなかった。
そう考えると、丁老師という人物は、ほぼ無いに等しいリターン(一応、推挙した人物が出世すれば名声が上がる)と、多大なリスク(前述の通り、連座制で身内も罪に問われる)を覚悟の上で、只の一弟子に過ぎない糜竺を文官として推挙してくれた訳だから、間違い無く糜竺(糜家)にとって大恩人である。
(しかし、あの水鏡先生こと司馬徽でさえ、キングボ○ビー(劉備)に人材を求められても諸葛亮、龐統の実名を避けて、「臥龍・鳳雛」などと曖昧な表現で誤魔化したのに。
(言えば推挙したと見なされるから)
それに比べると丁老師って凄い奇特(聖人君子並み)な人だよな~)
まぁ、司馬徽からすれば、名実共にボ○ビーだった劉備(領地すら持っておらず、荊州のトップ劉表に寄生していた)に推挙するのは躊躇いが有った可能性は無きにしもあらずだが。
因みに師の推挙というのは、ほぼ絶対的なもので、弟子がそれを特別な事情(親兄弟が死亡、又は本人が病気)もなく断った場合、社会的に死亡・抹殺され、悲惨な事になる。
それはさておき、
「あの~。それ・・・お礼になるんです?」
(仕官するならともかく、商人になる自分には、有り難迷惑だよな~)
正直な話、自分に大したメリットが無い様に感じる糜芳。
「何言ってんのよ。
教授を受けるという事は丁老師の弟子になるってことなんだから、立派な箔付けになるし、老師の弟子達とは兄弟弟子に成る訳だから人脈もできるのよ?老師は徐州では長老格になるから、繋がりが有って得にはなっても損する事は無いわ。」
「ああ、成る程。確かに。」
糜香の説明を聞いて納得する糜芳。
現代風に言えば老師自体が地元有数の名門校で、そこに入学するみたいな感じだろうか。
流石に洛陽の太学(国家認定の学問所、(大ではなく太と書く)現代だと東大・京大クラスか?)程では無いにせよ、その辺の無名校(私塾)に比べたら、箔になるのは間違い無いし、老師の弟子達との繋がりも得られるという事は、それなりの立場や地位の人との繋がり得るという事であり、将来的にもプラスになる。
「そうなると、我々の方が大分貰い過ぎになるんじゃ?」
老師から、金銭では買えない無形の財産(地元ではレアクラス)を貰う様な物である。
「そうなのよね~。お礼に今以上に援助しないといけないんだけど、そういうのは余り喜ばない清廉な人だから、却って困るのよ。」
はぁ、と困った顔で溜め息をつく糜香。
清廉な人物に下手なお礼(金銭)をしてしまうと、却って失礼になるし、かといってお礼を疎かにすると、周囲から薄情だの恩知らずと叩かれてしまう為、加減が非常に難しい。
「まぁ、その辺は追々考えるとして。
今は貴方の事よ。」
「はい、有り難く素直に講義を受ければいいんですよね?」
「その通りなんだけど、貴方何かしでかしそうで不安になるのよねぇ。」
訝しげにこちらを見る糜香。
「いやいやいや、流石にそうぽんぽん問題なんか起こしませんよ!これ以上生傷や、顔を変形したくありませんから。」
「宜しい、一応信用しましょう。
・・・今回は何かあれば、じっ君じゃなくて、竺殿にも迷惑が確実に掛かるわ・・・・・・次は無いわよ?」
凍てつく様な視線を向け、ビシビシと、どこかのストリートなファイターの如く波動を出して釘を刺す。
「ははぁ!!しかと承知しました!」
ぶるぶると震えながら答える糜芳であった。
「あの~。」
近くで聞いていた徐歌が手を挙げて、
「あれでしたら、私が芳君の近くで監視しましょうか?」
非常に戯けた事を言って来たので、
「「結構です。」」
即座に、異口同音に答えた。
お前も監視対象なんだよ、自覚しろよ!と思った糜芳であった。
続く
え~と、「屯田制」とサブタイに書いておきながら、屯田制について全く書かれていない事については、その1は糜芳が屯田制をどうこうする前哨部になっておりますので、悪しからずご理解下さいます様、お願いします。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。




