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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
11/111

その3

え~と、この物語はフィクションですよ。


実在すると思われる人物・場所・団体・組織とは全く一切関係在りません。


誤字報告ありがとうございます。


気を付けていたつもりでも、指摘されて「あっ」

と漸く誤りに気付くとは・・・。


キチンと細部迄読んで下さっている事に喜ぶべきか、恐れおののくべきか・・・感謝です!


では本文をどうぞ。

         糜芳自室


「アイタタ、うっかり子供になってたのを忘れて前世の感覚のまんま殴って拳をやっちまった。

それにしても李軻さんには悪い事してしまったな~、落ち着いたらお詫びにいこう。

しかし、怪我をしたことで稽古が中止になったのはラッキーだったな。

暫くは座学(軍学や兵法)を中心になるみたいだから適当にサボれるし。」

糜芳は、のほほんと暫くのんびり出来ると思い、喜んでいた。


しかし、糜芳が李軻を倒した件が意図しないところで思わぬ波紋を広げていた。


       糜家邸・女中部屋


「ねえねえ、芳坊ちゃんの事聞いた?」

「何よ。藪から棒に、何の話?」

ゴシップ好きな女中が相部屋の女中に、とっておきのネタとばかりに話し掛ける。


「実はね、此処だけの話だけれど・・・芳坊ちゃんが稽古で私兵団の李軻さんを倒したんだって!凄くない!?」 

「はぁ?私兵団の李軻さんて団内でも指折りの猛者で有名な人じゃん、本当なのそれ?」

10歳足らずの子供が、20歳過ぎの大人を倒したという非現実的な話に、当然の疑問を抱いた相部屋の女中。


「本当、本当よ。

だって、すぐ目の前で目撃した田観から聞いたから、間違いないわ。」

「田観?あぁ、あの無表情な子ね。

・・・そういえばあの子、芳坊ちゃんの側仕えになったんだっけ。って事は本当に!?」

「だから本当だって!しかもね・・・」

「しかも?」

此処からが大事だとばかりに、勿体ぶる。


「あの李軻さんを武器を使わず、素手で倒したんだって!」

「嘘でしょ!?どうやって!?」

「さぁ?何か田観から聞いた話だと、芳坊ちゃんが2~3発殴っただけで李軻さんを意識不明の重体にしたそうよ。」

「信じらんない・・・あぁ、それで中庭の方が大騒ぎになってたのね。

けど、芳坊ちゃん急にどうしちゃったの?そんなに武術に優れていたなんて聞いた事無かったんだけど?」

「そう!それよ!!」

その言葉を待っていた、とばかりにずいっと身を乗り出す。


「それがね、どうも香奥様が芳坊ちゃんに素手の武術を伝授したんだって!」

「えぇ~!!嘘でしょう?香奥様が!?本当に?全然そうみえないんだけどなぁ。」

「田観が、芳坊ちゃんが「香奥様から習った」って言ってたのを聞いたって言ってから間違い無いわ。」

「・・・え、てことはさ、香奥様って私兵団の人達より強いんじゃないの?」

「そうなんじゃないの?弟子?になる子供の芳坊ちゃんでも大人を倒したんだから、師匠の香奥様なんか指先一つで殺っちゃいそう。」

「・・・それ、何気に私達も粗相したら危ないんじゃ・・・?」

「う!確かに・・・気を付けよう。」

2人してある結論に辿り着いて、顔を青ざめる。


「ちょっと、何騒いでるのよ?」

部屋の近くを通りがかった別の女中が聞き咎めてくる。


「あ、丁度良いところに。あのね・・・」

格好のゴシップとして、急速に噂が糜家邸から拡散していった。


数日後・・・


      地元市街地某所


「奥様。ねえ、聞かれました?糜家の奥様の糜香さんの事。」

「えぇ、聞きましたわ。何でも指一本で、何人も糜家に仇なす者を闇から闇に葬ってるとか。」

「え?そうですの??私が糜家の使用人から聞いた話だと・・・」

「いえいえ、私の夫の情報ですと・・・」

奥様連中の、井戸端会議という名のゴシップ情報交換所のトップニュース(臆測・推測・誇張込み)として持て囃されていたり、


     地元市街地酒場及び繁華街


「おい、聞いたか?糜家の嫁さんの話。」

「あぁ、聞いた聞いた。外見は大人しい美女だけど、拳一つで何百人も殺した殺人拳の使い手って話だろ?」

「ちげーよ。古代の伝説の暗殺者一族の末裔で、拳一つどころか触れずに相手をバラバラにしちまうって話だよ。」

「何言ってんだよ。指一本で相手を瞬殺する凄腕で、暇潰しに虎や熊を狩って、剥製にして自分の部屋に飾ってるって話だろ。」


・・・噂に尾鰭どころか背鰭やくびれがついた糜香は、どこぞのア~タタタな伝説の暗殺拳伝承者か、世紀末覇者みたいな扱いに、いつの間にかなっていた・・・。


そして・・・。

その噂が糜家一家達にも色々な形で現れて来るのであった。


      地元役所・糜竺の職場


「お早う御座います。」

糜竺は普段通りに出勤し、職場の同僚達に挨拶をする。すると、


「あ、竺か、ちょっとこっちに来てくれ。」

「うん?何だい?」

親しい友人兼同僚の一人に呼ばれ、首を傾げつつも同僚に寄っていく糜竺。


「あのさ・・・。俺にはな、どうしても許せない奴がいてよ。

友人の誼でさ、その・・・お前の母君に頼まれてくれないか?」

「え?義母上に何を?」

友人兼同僚のコソコソ話を聞いて、脳内に疑問符を浮かべる糜竺。


「ああ、掟破りなのは解ってる。

その代わりに相場がどれくらいか知らないけど、報酬は倍、いや3倍出すから・・・頼むよ!?」

「だから、何を??」

意味不明な内緒話をされて、益々困惑する。

困惑している麋竺を尻目に、縋る様にしていた友人兼同僚はやがて肩を落として、


「スマン。

お前も掟破りをすると始末されるのか・・・。

ふ~、やっぱり正規の手順を踏まないと駄目か。え~と、確か符合(合い言葉)は、「小生堕つベし」だっけ?いや「笑点する時が来た」だった様な?・・・ブツブツ」

「何!?その変な符合!?」

勝手に落ち込んで、勝手に納得してブツブツ言って持ち場に戻る同僚に糜竺は、思わずツッコミをいれてしまうのであった。


「何だったんだろう、一体?」

サッパリ訳が分からず、首を傾げながらも糜竺は自分の持ち場に戻るのだが、その後も色々な人に友人と似たような話を持ち掛けられて、仕事にならないのであった。


・・・そして、遂には・・・。


       糜家邸・糜董執務室


「ん?何だこれ?」

糜家及び商家の主として糜董は、大量の書類(と言っても、竹を短冊状に切って紐で繋げた竹簡や、木を削って紐で繋げた木簡だが)をせっせと決済していると、奇妙な陳情書が目に付いた。


「旦那様、何か変な書類でも?」

主の疑問の声を聞いて、主の決済の補助をしていた家令の趙が、別の書類から顔を上げて糜董に尋ねる。


「うん。私兵団団長の笵朝(はんちょう)から妙な陳情が来てるんだよ。」

「ほう?笵師範からですか?」

「ああ。その笵からね、香に武術指導をして欲しいって言ってるんだけど。」

「えぇ!香奥様にですか・・・何故に?」

趙家令は主の話を聞いて大層驚き、私兵団団長兼武術師範の笵朝を思い浮かべる。

謹厳実直を絵に描いた人柄で、間違っても冗談や、悪戯をする様な人物ではない。


「さぁ?よく判らないんだよ。見間違いと思って何回も見直したんだけど。」

「フ~ム、本人を呼び出しますか?」

「そうだね。本人に聞くのが一番だろう。」

承知しましたでは、と言って執務室を退出して笵朝を呼びに向かう趙家令。


その入れ違いに、使用人が「失礼します」と言って入ってくる。


「どうかしたのかい?」

「は、徐家の方が訪ねて来られまして・・・。」

「ん?徐家?又珍しいね。」

糜董は首を傾げる。


徐家の当主とは商売柄、寄合等で面識こそあるが親しい訳でもなく、かといって敵対している訳でもなく、至って普通の間柄であり、訪ねて来る用件が思い浮かばない。


「う~ん。用件は聞いているかい?」

「はい、実はその、あの、奥様に是非面会をしたいと徐家の御当主の紹介状を持って、徐家の令嬢が訪ねて来られてまして・・・。」

「へ?徐家の娘さんが、ウチの嫁に??」

「はい、如何致しましょうか。」

「正式な礼に則って来ているのだから、無碍に扱うのは非礼になる。令嬢を丁重に迎える様に。後、香を呼んで来てくれ。」

「はい、承知しました。」

渡された紹介状を見ながら、使用人に指示を出す糜董。


紹介状には娘の突然の来訪という不作法を、丁寧な文面で詫びると共に、どうか命だけは、とか、殺さないでくれ、と言った、悲痛な助命嘆願の様な妙な内容が記されていた。


(何か変な紹介状だな、よっぽどおかしい娘さんなのだろうか)

そう考えていると、先程の使用人では無く、たまたま手が空いていたのだろう田観が件の令嬢とおぼしき女性というより女の子を伴って部屋に入ってくる。


「失礼します旦那様。徐家の御令嬢をお連れしました。」

「うむ。私が糜家当主の糜董だ。

この様な所に来て貰って済まないね。

多忙の身故許して頂きたい。」

一家の当主として、鷹揚な態度で未だ幼い客人を迎える糜董。


「いいえ。此方こそ突然訪れたにも関わらず、丁重な応対に感謝の言葉も御座いません。

お忙しい中不躾な真似をしたこと平にご容赦を。

私、徐家当主・徐意(じょい)の子、徐歌(じょか)と申します。宜しくお見知りおきを。」


見た目の年齢は側に居る田観より年下、麋芳より少し上ぐらいだろうか。

若いと言うより幼いと言った割には、所作が綺麗で堂に入っている。

顔立ちも非常に整っていて、将来相当な美人に成ることは想像に難くなく、嫁の貰い手には事欠かないと思われる。

・・・但し、勝ち気な視線と腰に木剣を差していなければだが。


(う~ん。かなりのお転婆娘みたいだな。

噂では子供の内で唯一の娘で溺愛している、とは聞いていたけど・・・)

寄合等で聴いた噂や情報を脳内で思い出しつつ、コホンと一息入れて、糜董は話を切り出す。


「うむ。早速だが用件に入ろうか。

徐歌君は、ウチの妻に会いたいとの事だが。

・・・何用かな?」

「はい、実は・・・。」

と言った所でガバッといきなり拝礼し、


「どうかお願いします!奥様の素手で大の男を倒す、いえ、殺す殺人拳を伝授して頂きたく無礼を承知で参りました!

何卒、奥様に弟子入りをさせて下さい何卒!!」

「はぁ?あのさ・・・君、大丈夫かい?」

予想外というより斜め上の内容に、先程の評価が一瞬で消滅、危ない女の子にシフトチェンジ。


糜董の視線を受けて又妙な勘違いをしたらしく、


「解っています!奥様の殺人拳は一子相伝で御子息に受け継がれる事も。

しかし初歩、初歩だけでも教授して貰えないでしょうか!」

「芳はそんなの受け継いでないよ!?」

「何でもします!糜家に仇なす者を闇から闇に葬っているのでしょう?私も微力ながら手伝わせて下さい!頑張ります!!」

「イヤイヤちょっと、ちょっと待って!?」

「分かりました。・・・私の実力を知りたいと!?少々お待ち下さい。

その辺の破落戸(ごろつき)の首を持参して来るので!!」

「ねえ、私の話を聞いてる!?会話が成立して無いよね!?分かってたら人の首持って来ないでね!?」

余りにぶっ飛んだサイコパスな話をされて糜董は、あたふたと混乱状態になる。すると、


「お待ちなさい。話は聞きました。」


タイミング良く糜香が、趙家令と笵朝を連れて部屋に入って来た。


「おお、よく来てくれたね!・・・ん?笵団長、鼻大丈夫かい?趙、調子悪いの?」

援軍が来て助かった!と思い、糜香と後ろの2人を見ると、笵朝が鼻に詰め物をしていて覇気がなく、趙家令の顔色も青ざめていた。


「は、初めまして香様!私、徐歌と申します!一生懸命頑張りますから、どうか、どうか私に貴女様の大人でも素手で倒せる殺人拳を伝授して下さい!お願いします!」

「そう、初めまして徐歌さんというのね。」

糜董を無視して徐歌が、糜香に物騒な挨拶と共に拝礼して弟子入りを熱望し、それを糜香は静かに対応している。


「それで、徐歌さんは私の事をどういう風に聞いて来たの?」

「ハイ!ええと・・・・・・。」


麋香は徐歌の弟子入りの話をスルーして、探る様な口調で自分の評判を聞く。

すると、徐歌の口からトンデモ武勇伝が出るわ出るわの大盤振る舞いであった。


聞けば聞く程顔がひきつくのを自覚する糜董は、チラッと妻の顔色を伺う。


「フフフ、フ~フフフ。」

糜香は笑っていた。凄惨な笑みを浮かべて。


「あの~、香さん?お、落ち着いてね、いいね?ね?香さん。」

過去の経験から、激怒しているのが判る糜董は、完全にビビって下手に出る。


「あらやだわ旦那様。

私は落ち着いているわ、煮え滾るくらい。」

「全然落ち着いて無いよね?噴火寸前じゃないの!?」

「さて、田観。芳は何処かしら。」

糜董の説得を無視して糜芳の居所を尋ねる糜香。


「はい、今頃ですと部屋で過ごして居られるかと。」

大人達が恐れおののいているのに相変わらず淡々と答える田観。大物である。


「そう、ちょおっとお仕置きをしないとね~。」

糜芳に死神が近づいていた。


         糜芳の自室


「いや~座学は楽だわ。適当に聞けばいいだし、さいこ~。」

部屋でダラダラしていた糜芳は、急に背筋にブルリと悪寒が走った。


「あ、やべ、トイレトイレ。」

用を足すべく部屋を出ると、糜香と糜董、その他大勢の人達が近づいて来るのが見えた。


「あ、父上、母うぇぇぇ!?」 

ガシィィィィ!!

挨拶する途中、糜香に頭を片手で掴まれ、そのまま持ち上げられた。


ギリギリギリィ・・・

「いたたた!いきなり何何??痛いですぅぅぅぅ。あががが!?」

「阿芳(阿はちゃんという意味)~、貴方私に何か恨みでもあるの?」

「へい?いきなり何ですカカがぁ。」

「貴方、李軻を倒した時に「私に素手の武術を習った」って言ったそうね~。

私、何時そんな物騒なもの教えたかしら?」

「い、今現在しんこぉぉぉけぇぇ!?」


ミシミシミシィ・・・

「スンマセェェェ!でまかせでツィィ!?」

「その出任せでね母はね、世間様から伝説的暗殺者だの殺人拳の使い手だの言われているんだけど?」


ミリミリミリミリィ・・・・・・

「た、タスケ・・・。」

遠のく意識の中、周りの人達に助けを求めるが、


「・・・・・・あっ、蝶々が飛んでる。」

何もいない空間にそれぞれが視線を向けて糜芳のヘルプをスルーする。


(もう、ダメェ、いしきロスト・・・)

某ロボット1号機みたいに、宙吊りされて手足をだらりと下げて意識を失う糜芳。

当然の事ながら、雄叫びを上げて暴走したり覚醒する事も無く、沈黙したままであった。


「さて、皆。阿芳が出任せを言っただけで、事実無根なのは判ってくれるわよね?」


「・・・・・・・・・・・・。」

その場にいた全員が、示し合わせたかの様に一斉に、柳の如くゆらゆらと揺れて糜香に宙吊りにされている糜芳を見る。


「「「「「「はい、判りました。」」」」」」

異口同音に糜香の言葉に頷くのであった。


          現在


「うう、何でこんな目に遭わなきゃいかんねや・・・。」

文机から顔を上げた糜芳の顔面は、四谷怪談話の主人公並みに、ボコボコになっていた。


「自分の言った事には責任を持ちなさい。」

宙吊りにあった後説教され、私兵団の訓練所に放り込まれて、訓練地獄に叩き落とされていた。

 

「俺の預かり知らん事で怒られても、どないせいちゅうんじゃい・・・うう。」

さめざめと泣く糜芳。


それを側で聞いていた田観は、「自業自得ですよ。」と無表情に呟くのであった。


この物語は、自業自得・口は災いの元の意味を、身を持って経験する愚か者の物語である


                    続く


とりあえず始動編はこれで終わりです。


後は、日常的な話を適当に書いて少しずつ時間の針を進める予定ですので、生暖かい気持ちで見て頂けたら幸いです。


長々とすみません。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


面白いと思われたら、どうか優しい評価を。

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[一言] これが、北のひしゃく2000年の歴史の第一歩か……
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