その2
この物語はフィクションです。
実在する人物・団体・場所とは無関係ですので、宜しくお願いします。
一応ですが、仕事始めに行うラジオ体操に関しては個人的な意見ですので、凡そ1~2%ぐらいの人は喜んでやっていると思います。
糜家邸 中庭
「イチニーサンシ、ゴーロクシチハチ」
糜家邸の中庭において、気怠げな子供の声がしていた。
(ア~、くっそだる~・・・。
そう言や前世でも現場の朝礼前にやってたけど、これから労働の始まりの合図みたいで憂鬱になってたな~)
朝の話し合いで父兄から進路を保留された糜芳は、当たり前に日頃からの稽古を行う事となり、今は中庭で武術の稽古をする時間で、稽古に備えて怪我を防ぐ為、渋々ラジオ体操をしている所である。
「なぁ、アレ何してんの?」
「さぁ?私には解りかねますが・・・。」
少し離れたところで2人の男女が麋芳の様子を眺めている。
男の方は、凡そ20歳過ぎ位のがっしりした体格に精悍な顔つき、腰に剣を差しており、一目で武官だと判る。
彼は、糜家が抱える私兵団(凡そ200から300人規模)の一員で、名は李軻。
今回の糜芳の武術指導役であり、私兵団の若手では五指に入ると言われていて、糜竺のいずれ形成されるであろう、新興家臣団の武官の有力候補と言われている。
女の方は、10代中頃ぐらいのわりかし整った容姿をしており、名は田観。
美人なのだが表情や感情の起伏に乏しく、淡々とした話し方をする為、取っ付き難い印象を周囲に与えている。
先日の糜芳墜落事故で、前の側仕えが配置転換になり、交代で側仕えになった女性である。
「よし、さぁやるぞ。」
ラジオ体操を終えた糜芳は、李軻達の方に寄っていき、挨拶をする。
「李軻さん、今日は宜しく御願いします。」
「え?あ、ああ今日はえらい畏まってんな、坊・・・もうさっきの変テコな踊りはいいのか?」
「はい、体を解す運動をしていただけですので。」
「ふ~ん。坊もこれからより激しい運動をするっていうのに、熱心なこった。さぁ、ほんじゃ始めようか。」
「はい!」
簡単に挨拶を交わした後、稽古が始まった。
基礎的な走り込みによる体力増強や、槍・戟・矛(古代中国では長い得物が主流)・剣や弓など、一般的に使用されている武器の習熟を目的としていて、武器の適性を測っているようだ。
「ふん!えい、やぁ、たぁ。」
(ア~、面倒臭い。しんどい上に、頑張ったら頑張った分だけ、破滅フラグに近づくんだから、稽古という名の罰ゲームだよな~)
糜芳は内心思いつつ、言われるまま適当に練習用の武器を振り回している。
やる気はゼロなのだが、あからさまに手を抜くと、バレて何を言われる(特に母)か判らないので、真面目にやっている振りをしている。
しばらくすると、
「よ~し、一旦休憩にしようか。」
「ハァハァ・・・フゥ、分かりました。」
李軻が休憩を告げたので、手を休めて田観から水と手拭いを貰い、一息つく。
「あの、僕武官として才能ありますかね?無いですよね?」
「いや、それ、自分で言うか?まぁ、現状観る限りは平凡だ。
得手が無い替わりに不得手も無い感じだな。
一概に武官に求められるのは武芸だけではないし、軍学や兵法も必要とされるから、そっち方面に才があればどうにか務まると思うけどな。」
糜芳は李軻の批評を聞いて、武芸の稽古だけでなく、軍学方面も気を付けてサボる必要があるのを認識して溜め息を付く。
「ハァ、そうですか。」
「おいおい、そうしょんぼりするなよ。
若様(糜竺)みたいに、弓や馬に才が有っても成れない人だっているんだから。
偶々、一般的な武器に才が無いだけで、変わった武器で才が有るかもしれんし。
何か興味があるものはないのか?大概の武器は指導出来ると自負しているからな。」
糜芳が溜め息ついたのを、才能が無いのを嘆いていると勘違いした李軻は、親身になって糜芳を慰める。
(善い人だな。勘違いしているけど。
何かそのままスルーするのは悪いなぁ。
何かないかな・・・あ、あれならいいかな?
只、前世で経験したやつだから、なんで知っているか聞かれると面倒になりそうだけど)
糜芳は、前世の父ちゃんから空手を習っていたのを思い出し、それを李軻に観て貰おうと考えた。
糜芳の前世=米田優人の父は、空手・柔道(段位持ち)を習っていた上、元ヤンで暴走族のリーダー(自称)だったらしく、非常に喧嘩慣れしていて、「ヤられたら、殺れ」・「殺るなら、徹底的に殺れ」をモットーに優人に自分の技(如何に効率良く、無駄無く相手を潰すか)を伝授してくれた。
正直有り難迷惑だったのだが、前世の職場環境上、質の悪いよその作業員に絡まれる事も一度ならずあったので、助かりはしたのだが。
(勿論、キチンと先に相手に殴られて、正当防衛を確立してから徹底的にヤり返しています。
前世の主人公は犯罪者ではありません)
※善い人は真似しないで下さい。
それはさておき、
(まぁ、適当に母上から習った事にするか、実体験して看取り稽古(?)しているようなもんだしな・・・)
「じゃあ、母上から習ったのですが・・・。」
「へ?奥様から!?ホントかよ・・・。
人は見掛けによらないな~。何がいるんだ?」
「いえ、素手なんで特には・・・あ、李軻さんに受けて貰えれば助かります。」
「え?素手!?本当にそれ大丈夫か?素手の武芸なんて聞いた事無いぞ・・・。」
当時は有名な少林寺自体が無く(未だ仏教伝来の黎明期)、武器を使用した武芸が殆どで、素手の武芸は体系的なものはメジャーでは無かった様だ。
「まぁ、いい。俺も気になるしな・・・よっしゃ、掛かってこい!」
李軻は興味が湧いたのか、面白そうな表情で受けて立った。立ってしまった・・・。
「押忍、いきます!」
糜芳は李軻の返事を受けて、コォォォと息吹と呼ばれる呼吸法で息を整えて、前世父に教わった型を構える。そして・・・
「ハッ!」
「はぅぅっ!?」
糜芳は棒立ちしている李軻の股間を思いっ切り蹴り上げると、グチャッとした音がして、李軻は世にも切ない悲鳴を上げる。
「フン!」
「グェェ!?。」
両手で股間を抑えてうずくまろうとする李軻の喉を突くと、潰れた蛙の様な声が李軻から出る。
「セイ!」
「・・・・・・。」
トドメとばかりに、竜頭拳(拳を握った時に中指を少し浮かせて殴る技。当然空手では禁じ手)でこめかみを打つ。
李軻は無言でそのまま意識を失い、ドサッとうつ伏せで倒れてピクピクと小刻みに痙攣している。
※大変危険です。特に初撃は子孫繁栄に多大かつ、深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
「フゥ、押忍・・・。
あれ?李軻さん?おーい。」
残身を残して息を整えると、糜芳は李軻に声を掛けるが返事が無い、屍の様だ。
近くにいた田観が李軻に寄っていき、うつ伏せで倒れているのを仰向けにすると、李軻は蟹の様にブクブクと口から泡を出し、白目になっていた。
「・・・・・・芳坊ちゃん。」
李軻の口に手を翳している田観が若干焦った表情を見せて、
「李軻さん、息してません・・・。」
「ウソ!マジで!?本当に屍になってんの!?」
慌てて李軻に寄って応急措置を行おうとする糜芳であったが、やり方が解らず右往左往するだけであった。
因みに、気付けをしようとして「う~ん、ここかな~?あれ~?間違えたかな~?」と某世紀末のキャラの様に失敗して、李軻の顔色が、赤→青→紫に変わってから助けを呼んだのは秘密である。
続く
え~と、この時代には少林寺が無かったので、恐らく素手の武術は無かっただろうという想像で書いて有りますが、間違えてたらすみません。
時代考証無用という事で・・・。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
どうか優しい評価をお願いします。




