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秋葉原神宮寺で戦国乱世美少女受肉お●さんと 第3話 戦乱美肉お●さんと聖♡アルテミムス学園



 東京支部の書記は、旅装を解き、体を洗い、作務衣を着て塔頭へ入ってきた。


「厭離穢土より、急ぎ帰参つかまつりました」

「御苦労だった。まずは絵馬を見たい」


 畳敷きの書院に、付き添いの親衛兵が木箱を置いた。鉄の補強材と錠をつけた重要物を納める容器で、千両箱に似ている。

 畏まっていた書記が鍵を出し、革命宗の紋章である〈丸に隅立て五つ割り右卍〉が彫刻された蓋を解錠した。


「金毛が贈ったものに、間違いないか?」

「それが絵馬には、品川のなにがしと申す類の署名あらずして」油紙に包んである箱の中身を示しながら、書記は答えた。「やつがれどもには、これが第一種枉佱叵覩なりとしか判じられませぬ」


 東京支部からの報告によると、昨日の朝、秋葉原神社の奉納堂でオーパーツが見つかった。急使が夜も海を運び、親衛兵が二人がかりで慎重に油紙を外している梱包物が、それだった。絵馬に貼られた地図だ。

 オーパーツの第一種とは物体そのものが、この時代では製造不能であることを意味する。わたしが所有する東海地方地図帳を何度も見た東京支部長は、機械文明時代の印刷物をそれなりに識別できる。書記と支部長が鉛筆で描き写した東京広域図は、オーパーツの第二種に分類される。

 第一種オーパーツは、わたしが伊佐貫のむこうから運びこんだもの以外、この世界で存在を確認できていなかった。


「忍者を率いる金毛を、漁師が見たとあったが?」

「漁師が見たと申した金毛とその後光、昨日より改めて考えてみますれば、被り物ではあるまいかと……」

「なるほど」


 わたしは胸ポケットから小型懐中電灯を出し、点灯した。


「わざと仮装宅配人を目撃させたか」


 懐中電灯を渡され、メイドは薄暗い室内で重要物をあつかう新衛兵の手元を上から照らした。

 電灯は本体も充電式電池も安いものだが、この蛮土においては後光を放つ。それは忍者団を作る役に立てることもできるし、邪教と匪賊を滅ぼす力にもできる。


「わざと……?」

「テンプル忍者団は署名の代わりだ」


 支部長の手紙には、最速の緊急調査でわかったことが記されていた。

 秋葉原神社・神宮寺に死傷者、行方不明者はおらず、正門から奉納堂まで荒らされた痕跡もなく、重要物の盗難もなかった。

 奉納堂の番人は一昨日の夕方、閉門時までは奇妙な絵馬など置かれていなかったと証言した。奉納堂は、高額寄進者がその証明書となる絵馬やフィギュアを飾る(厩をかたどった絵馬板は『立てる』と表現する)建物であり、相応の者しか出入りできない。

 門前町の参道では早朝に、黒装束の一団が目撃された。彼らは遭遇した漁師に高笑いを浴びせ、まだ夜が残る石神井川へと走り去った。

 書記が秋葉原から出発するまでの数時間、おちついて考える余裕はなかったであろう支部長は、直感的に『夜のあいだに侵入した忍者が枉佱叵覩を置いたのではあるまいか』と書いていた。


「闇の眷属たる忍者が姿をさらしぬは、拙僧らを懼走せしめるためなりや……!」


 と呟いている書記や「これ立てたの絶対忍者だろ・・」論調の支部長は、ゲームや漫画に頭を毒されているわけではない。

 品川には神秘なる領域で修行を積み、妖術や必殺技を体得し、ときとして凡俗の困難な依頼に応じる虚構忍者団めいた秘密結社が、実在していた。

 今年になって東京へ送った数十人の諜報協力者がつきとめたことだ。

 戦乱がつづいた関東や近畿には、偵察仕事をこなせる足軽団が実際いる。京都界隈には運送業者とつるんで情報屋をやっている連中もいるらしい。これらはまさしく世俗の存在であり、伺見、透波、夜盗、奪口といった雑多な名が、既につけられている。

 テンプル忍者団(仮名)は、これら中世日本の現実的忍者とは違う。未来人が漫画的忍者を再現した結社だった。

 旧体制勢力からの略奪を初期策源とする戦闘的革命社会を構築するにさいして、わたしがナチスを参考としたように、詮索した相手は死ぬ神秘なる攻撃的秘密結社を構築するには、漫画的忍者を参考とすることが便利だったのであろう。

 品川の有力者には、テンプル忍者団を知る者が少数ながらいた。しかし彼らにとって謎の妖術師一党は畏怖の対象であるらしく、その口は重かった。この半年の、深入りしすぎた諜報協力者を何人も失いつつの秘密調査でわかったことは多くない。


 テンプル忍者団は、品川の影の支配者である。

 主力商品としてアヘンを輸出している。

 アヘンは年貢物との取引により京都へ送られ、かなりの常連客を得ている。

 そのために品川の寺社・商業集団と太田家を、テンプル忍者団は手懐けている。といったことが確認できた程度だった。


 他には、テンプル忍者団の前身は山伏か陰陽師の一派である。

 封印されたりき神仙〈黄泉の金毛妖狐〉に力を授かり、崇拝している。といった話もあるが都市伝説の域を出ない。

 簒奪ビーフの命名者と〈黄泉の金毛妖狐〉は同一人物であるという仮説に、蓋然性は高いにせよ、証拠はないのだった。その未確認奇行人物が名刺代わりにオーパーツを秋葉原神社に置いた。

 この世界にどれほどの超常存在が迷い出ているのか。それらは歴史を保全すべき聖典と信じているのか、あるいは都合良く使い倒せる知識と思っているのか。

 重要な懸念事項の一つであるこのことについて、〈品川の金毛〉は情報交換に応じる決心がついたようだ。


「まさしく天階地図」


 絹の袱を座卓に広げ、二重に包装されていた絵馬を見て、兵士たちがざわめいた。それを静めるようにメイドが言う。


「しかも・・・・・・これは、対魔の蛉衣(りょうえ)?」


 座卓に置かれた絵馬には、静岡県あたりの印刷図版が固定されていた。接着剤や画鋲ではなく、梱包に用いる合成樹脂膜で巻かれている。

 しめやかに魔族と戦うニンジャは透明な装束は着ていなかったのではないか? わたしは訝しんだ。

「大判の日本地図から折り裂いたようだな。……古びて破れたのか」


 測量と写真と航空機を駆使した機械文明時代の地図、および手書きしたその複製品を、革命宗の枢機では天階地図と呼ぶ。標されている縮尺を、神話にある天界と地上界をつなぐ階段になぞらえ僧侶が名づけた。天階の二万五〇〇〇段目なり一〇万段目なりから見おろして描いたがごとき地図、という意味だった。


「ここを」


 書記が地図の一点を、「これはむしろ衛士の胎乗衣」などと囁き交わす少し毒されてしまった気もする親衛兵をどけて、指で示した。

 絵馬の地図は、縮尺七〇万~八〇万段ほどであろう。下半分は太平洋で、名古屋の鉄道路線図と、フェリーの時刻表がついている。なにかの付録に折り畳まれてついていそうな地図だった。情報量から評価すれば、門外不出の絶対機密にしておきたい貴重さではない。


「御在所に印が」


 わたしは座椅子から絵馬に顔を近づけた。


「きさらぎ、駅……」


 掛川市の地図記号のすぐ西隣に、小さくボールペンで駅と『2月』の文字が書きこまれている。


「ここが聖地だと知っているわけか」

「今一つ、御照覧たまわりたく」


 書記の指示でメイドが懐中電灯を近づけると、紙が光に透けた。裏にウマとは違う、なにかの図柄が見えた。


「……裏面にも絵があるのです」


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