秋葉原神宮寺で戦国乱世美少女受肉お●さんと 第2話 戦乱美肉お●さんと外来者たち
アーメンダブツ!
「字幕のみで表現される炎上する車!」
「なんたる斬新なる色即是空!」
「うーんこのサプライズニンジャ理論」
「兄弟!」
「潜水裸取消!」
大禍二ノ丸の建物は、無人となった寺社を解体移築したものが大部分だった。
きさらぎを中心とした半径五〇〇メートルを速やかに封鎖し完全管理下とするため、かなりの急ぎ仕事で超中枢・大禍は構築された。
中古の資材を用い、この世界へ伊佐貫隧道が開いていた丘を囲った非ユークリッドな多角形の結界。それが大禍二ノ丸だ。配置した建物はコンクリートの塀と、時代遅れな寝殿造りめいた廊下で連結してある。
その暗く異様に長い廊下を急ぎ足で近寄ってきたメイドが、塔頭の縁側へ出た一〇メートルの距離で呼びかけた。
「お目通り願いにござります」
わたしの横に控えていたメイドが「今時分に……?」と呟きながら動いた。
「どなたの取次でありましょうか?」
「秋葉原より……」
取次のメイドは、小袖と袴を着た四郎丞を一瞥して、声を潜めた。
「東京支部の書記殿です」
革命軍の正規軍人は、着崩れしにくい洋服に近い衣装を着る。親衛隊に所属するメイドも黒衣の制服を着ている。
この中世日本において目立たず、歴史に場違いな文章を残さない普通の和服を着る特別行動隊は正規部隊ではなく、あえて装備も組織も武士団そのままにしてある地侍集団だった。
「秋葉原神宮寺の……この夜更けに?」
二年前、山名郡の南辺である袋井と、その南にある長下郡東部に一五〇〇人を集めて、身のほど知らずにも戦いをしかけた遠江今川勢を太田川の東側から駆逐し、革命宗の勢力圏は太平洋岸へ達した。
これは山名郡南部と長下郡東部(地名は諸井)を〝領地〟にしたということではない。農村にたかる寄生虫の一種である守護を、ここから追い払っただけだ。武家領は郷村にある武家屋敷の一つ一つにいたるまで制圧したものの、室町政府の守護とはまったく別に、僧侶階級と公家階級の荘園主が現地や京都あたりに在住している。
「大事の知らせありとて。昨日の朝に江戸前島を発ち、品川にて工作信徒と会合」
「品川……!」
「今日の暮れ、諸井港に到着。そこからは早馬を」
山名郡南部と長下郡東部では、革命軍正規部隊による圧倒的勝利の後、これらの荘園主が革命宗に寄進勧進し、今川残党の根絶に協力した。
こうした対応をされると、わたしとしても荘園を選別無用で残さず征服・解体はしづらい。むこうが妥協を示したならば、こちらも譲歩する。それが政治というものだ。
わたしは政治手段として特別行動隊を作り、現世浄土外周の半占領地域を担当させた。守護と領家の手下として慣れ親しんだ荘園仕事を応用した、反革命分子の摘発を主な任務とする。遠江同盟軍と違い隊員は革命宗に帰依しているが、地位は低い。
ただし四郎丞は総司令部に所属する、正規軍の参謀大尉だった。
「大事とは、金毛の?」
「はい。かの者に動きあり」
メイドは剣帯に挿した手紙を開き、さらに声を潜めた。
「支部長殿がこれに……品川の金毛と申しそうろう者、…………つかまつりぬ数ヶ日ばかり前、忍者ども引き具しそうろうて…………境内に丑の刻参りまかり…………」
簒奪ビーフの語は、東京支部が拠点建設を始めてから一年も経ずして、品川湊の寺社界隈でささやかれていたらしい。
どこかの寺が商売敵への悪評攻撃としてやったならば、恐竜に変身したり爆発四散したりできるニンジャでも雇っているかのような諜報力だった。
簒奪はよい。事実でもある。問題はビーフだった。さらに看過できぬことは簒奪とビーフの二語がつながっているところだった。
仮にニンジャは古代からいるとしても、簒奪ビーフの意味を正しく理解する者は二一世紀の日本人に、ほぼ限定される。そもそもビーフは英語であり、まだアメリカ大陸にも伝わっていない。二〇世紀から来た者が聞いたとしても、中世日本にあらわれた英語には警戒するにせよ、二一世紀に発生した模倣子だとはわからない。二二世紀人は、脳を機械化して記憶入出力機能を厖大にしているならばともかく、こんな模倣子を生体脳で憶えてはいない。
「その予言が、金毛の書と…………」
「この世のものならざる書画…………天階地図の断片に…………」
東京支部は地元同業者との競争を避け、片田舎に拠点を建てた。
ここへ品川から巡礼者がやってきて、なんとなく探りを入れて、運良く革命宗の秘密を知ったにしては早すぎる。
それが情報屋、いわゆる史実の、神父にも苦戦してしまう忍者だとしてもだ。「修行僧が命を捨てて清めたありがた~い妙薬」は、自動販売機で買えるおでん缶ではないし、秋葉原神社の売店で絵馬板や神籤の横に並んでいるものでもない。有力信者に応接間で、もったいぶって出す商品だった。
その霊験肉に、何者かが『簒奪ビーフ』と、より気の利いた綽名をつけていた。この時代の僧侶階級ごときには、多少の未来知識・物品、あるいは超常能力を得たところで不可能なことだ。
「東京支部は第一種なりと申すのですか?」
「間違いなく、第一種枉佱叵覩なり。と、書記殿は」
「おお、枉佱叵覩……! 失われた神器にござるか?」
静かに聞き耳を立てていた四郎丞が尋ねた。
二人のメイドは四郎丞をチラ見してから、質問を黙殺した。
四郎丞は苦笑いしながら、わたしに頭をさげた。
「第一種ならば、そうなる」わたしは前腕につけている機械端末を四郎丞に見せて言った。「彼岸より流れ出てしまった、この世界にあるべからざるものだ」
品川には、二一世紀の日本を知る何者かが潜んでいる。
簒奪の語には「遠江東部で革命宗によって、なにがおこなわれているかを調べた」という意味がこめられている。品川にいる何者かはそれにビーフをつなげ、「自分は二一世紀の日本を知る存在であり、この現地に諜報網を有している」と情報を発信した。
わざわざ簒奪ビーフの語を広めた命名者は、返信を求めている。わたしは太田家への贈呈品に情報を載せて、それに応じた。太陽暦で今年の一月末のことだが、反応は昨日までなかった。
「しかるに第一種とは…………忍者が、それを届けに? …………画像を貼りつけ絵馬立てとな!?」
取次の同僚と話しこんでいたメイドが鋭く声を発した。
むせそうになり、わたしは口から酒杯を離した。侮れぬ不意打ちだった。
「金毛妖狐めが、不埒な真似をぉ」
手にした刀の柄に噛みつきそうな勢いでうなる同僚から一歩引いた取次のメイドに、わたしは指示した。
「ゴホッ……書記を呼べ。話を聞く」
「御心のままに」
取次のメイドは一礼し、来た廊下を戻っていった。
品川の何者かに関しては、わずかながら目撃情報がある。
冬至を初日として二週間、革命宗は冬越しの祭りを催す。キリスト教と神道とウ=ス異本大祭と仏教が波状攻撃をしかけてくるような、あの西暦二〇〇〇年頃の年末年始を懐かしんで、わたしが個人的に始めたことだった。
秋葉原でも去年の暮れは神社を飾りつけ、非信徒に浴場を開放し、ささやかな門前市で第一回目の大売り出しをおこなった。
冬越しの祭りが酣となる太陽暦一二月三一日。
その女は秋葉原の参道で、四人立ての網代輿から身を乗り出し、双眼鏡か小型ビデオカメラのようなものを用いる姿を目撃された。
髪は夕日にきらめく金毛だったという。旧暦の正月になって報告に来た支部副長の又聞きによると、メラニン色素を完全に失い構造色をおびるにいたった、わたしの髪と似ているそうだ。