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モンスターハウス

 今日は昨日のダンジョンとは別のウリッセというダンジョンに行こうと思う。

ウリッセにはヘビ型のモンスターであるバジリスクやラミアが出現し、最奥には蛇の怪物『ヒュドラ』がいると言われている。


 今回はギルドで受けた依頼の収集品である蛇の牙を求めてこのダンジョンに来た。なんでも蛇の牙は錬金術の素材として使うそうなのだ。



 ごつごつとした岩肌の地面と壁天井、このダンジョンは洞窟型で明かり一つない真っ暗闇なのでランタンや辺りを照らす聖属性魔法『ルクス』が必要な場所である。


 『ルクス』を発動しながら洞窟を進む。エルフ族は暗視ができるのだが、人間族は明かりや『暗視』のスキルを持っていないと暗闇で視界が効かないのでお互いの安全の為にこちらも灯りを付けるのが冒険者の暗黙の了解となっている。敵だと勘違いして同士討ちなんてしてしまったら目も当てられない。


︎︎─ウリッセのダンジョン13階層─


ピチャンと水の滴る音が辺りに木霊する。ちょっとした泉があるこの場所は冒険者たちの休憩所となっている。ダンジョンの中で水は貴重であるし、冒険者たちにとって生命線でもある。そのため、ダンジョンに水が湧き出る泉や湖などがあるとそこが休憩所として利用されることが多い。かくいう私もそこで小休憩をとっていた。


泉の水を水筒に汲み喉を潤す。使い終わった水筒をリングに収納していると、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。

「あの、すいません」

声をかけられたので「はい」と言い振り返る。するとそこには蒼眼栗毛の小さな女の子がこちらをじっと見つめている姿が目に映った。


「──っ!?リルさんですよね?」

「ええ、そうですけど⋯」

「お久しぶりです、リポトスでお世話になったラナンです!」


リポトスとは隣国アルデン王国の南部にある交易都市で物流の要所となっておりとても盛んな街である。知識としてはあるものの実際に訪れたことの無い場所でのことに思わず困惑してしまう。


「あの⋯人違いでは無いでしょうか?」

「えっ?でも⋯」


今度は少女の方が困惑する番だった。知り合いだと思った人に声をかけたら名前と容姿は同じだが全くの別人だと言われたら驚いてしまうのも無理はないだろう。


「ごめんなさい人違いだったみたいです、

知り合いと見た目がとても似ていたのでつい声をかけちゃいました」

「そうですか、その知り合いにとても興味がありますが⋯それはさておき改めまして私はリル、Bランク冒険者です」

「ラナンです!Cランクです!」


こうして2人は奇妙な出会いを果たすのであった。


「リルさんはクエストでここに?」

「ええ、牙の採集に」

「それならご一緒してもいいですか?」


それほど難しいクエストでもないし一緒に行動しても大丈夫だろうと思ったのでそれに了承する。


「いいですよ、ラナンさんも何かのクエストですか?」

「ううん、実はアイテムの調合⋯所謂錬金をやってまして、その材料を自前で揃えてるんです。今日はヘビの血が欲しかったのでここに来ました」

「なるほど、採集目的ならちょうどいいですね。休憩も終わったところですし行きましょうか」

「はい!」


13階層の休憩エリアから抜けると2人は洞窟の奥へと向けて歩を進めた。


歩き出してから10分くらい経過した頃だろうか、不意に探知魔法が反応を示した。目の前の枝分かれした道の左の方からだろうか、この先は確か小部屋になっていたはずだ。


立ち止まり隣にいるラナンさんに目配せをする。彼女も気づいたらしく頷きを返してくる。足音を立てないよう慎重に反応のある方へ進む。


やがて小部屋の前までたどり着くとそっと中を覗く。


「おかしいですね、反応はあるのに何もいない⋯?」


思わずそう呟いてしまう。


「ほんとだ、とりあえず中に入ってみませんか?」


「ええ」と返し警戒をしながら小部屋に入る。ちょうど部屋の中心に来た時だった、『ガコンッ』と背後から音がした。


「しまっ⋯」


慌てて振り返ると入口が突如出現した岩によって塞がれてしまっていた。


この状況はまずい、トラップが作動した可能性が高い上におそらくこのトラップはモンスターが溢れ出てきて侵入者を排除するタイプの所謂モンスターハウスと言うやつだろう。


「ラナンさん戦えますか?」


即席で組んだパーティーだ、彼女がどれほど戦えるのかは未知数である上その戦闘スタイルも見た目から判断して大凡でしかわかっていない。だが曲がりなりにもソロでこの階層まで潜っているならばそれなりには戦えるのではという予想はあった。


「モンスターハウスは初めてですが任せてください!それにリルさんがいるならなんとかなるでしょう!」


自棄糞というようでもなく、私のことを信頼してくれている風に感じる物言いにふと笑みを漏らす。彼女がどうしてそこまで信頼を寄せているのかは分からないが悪い気はしなかった。


気持ちを切り替えて剣を握りしめ集中する。


「オォォォォグゥァァァァァァッッ!!」


壁面から次々と這い出てくるモンスター、人間のような上半身に蛇の下半身を持つラミアといったところだろうか。


ラミアの脅威度は通常の蛇型のモンスターに比べると遥かに高く、何よりその上半身の両腕で人と同じように剣や槍といった武器を扱ってくるのだから厄介なことこの上ない。


「援護をお願いします!」

「はい!」


彼女はどこからともなく横笛を取りだしその小さな口元に構える。音はない、だが魔力の波動を感じる。おそらくバフ系の能力だろう。身体に力が漲ってくる。


「これなら!」


ラミア目掛けて駆け出す、一瞬にして距離を詰め右手に持つ剣を一閃する。美しい翡翠色の魔力残光を発しながら返す刃で今度は左手に持ったダガーと同時に剣を振るうと風の斬撃が放たれる。斬られたラミアは頽れ骸と化す。


横合いから迫る槍を後方宙返りをして躱し、お返しとばかりに即座に剣から弓に持ち替え風の魔力を込めた矢を放つ。放たれた矢は風の螺旋を纏いながら一直線にラミアを穿ちその後ろにいたラミア達をも巻き込んで壁に着弾して爆ぜる。隙と見た別のラミアがその尾でこちらに足払いをかけてくるが、手のひらに魔力を集めそれを地面に向けて爆発させることによって飛び上がり回避する。


私には敵わないと見るや否やラナンさんの方に向かっていくラミア達。


「っ!ラナンさん⋯!」


矢を放ち牽制するも如何せん相手の数が多くあまり意味を成していない、弓から剣に持ち変えて追うも間に合いそうにない。


「私なら大丈夫です!『あっちに行って』!!」


ラナンさんが玉のようなものを右手に掲げた途端にそれが淡い黄色い光を放ち、玉を中心に球状の結界が展開された。


いきなり目の前に展開された結界に立ち止まれるはずもなくラミア達は激突する。このチャンスを逃すまいと私はラミア達が立ち直る前に肉薄し斬撃を浴びせていく。2体3体と倒していき気付けば最後の一体を屠っていた。なんとか乗り切ったことに安堵し「ふぅ」と短く息を吐く。


「やりましたねリルさん!それにしても凄い剣捌きですね!速すぎて目で追うのがやっとでしたよ」

「ラナンさんのサポートのおかげですよ、身体能力上昇系の魔法を掛けてくれたのとラミアにも何か掛けていませんでしたか?」

「はい、能力低下系の魔法をかけておきました!効いたみたいでよかったぁー」


そう言って脱力する。かく言う私も流石に疲れを感じていたので周囲の安全を確認してから休憩をとることにした。それと彼女に確認しておかなければならない事があるのでここで済ませてしまおう。


「先に謝っておきます、すいません」

「ほえ?」

「私とラナンさんの戦闘能力や戦い方についてです、予め確認しておくべきことだったのですが冒険者の中ではそういうのを詮索するのはタブーとなっているのであえて触れませんでした」

「いえいえ!私の方こそ気付かなくてごめんなさい!それに臨時とはいえパーティーを組んでるんですからタブーのことは気にしなくていいと思いますよ」

「そう言って貰えると助かります」

「ふふっ」

「どうかしましたか?」

「いえ、前にリルさんに似た人と会ったって言いましたよね、その人も言葉遣いが丁寧というか硬い感じだったので同じだなと思ってつい」

「硬い⋯ですか?」

「あぁ!そんなに落ち込まなくても!?別に責めている訳では無いんです、ただもう少し打ち砕けた感じに話してくれた方が嬉しいかなぁと⋯」

「⋯わかった、なるべくそうする」

「はい!」


それからお互いにできることを言い、できないところをカバーし合えるように話し合ったのだった。


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