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5-14-8021地球圏における機密通信連絡と思われるものについての調査結果

作者: 四ノ宮凛

西暦8021年5月14日、地球圏【削除済み】地区において活動中のヂピーより中枢に提案された事項が何らかの理由により障害を受け正常に送信されなかったことを確認した。

送信したとされるヂピーは当地区在住の地球人類【削除済み】により破棄処分されている。【削除済み】の説明によるには深刻な不具合の発生によりやむなく破棄処分したとされているがそれまでに該当部位の異常行動や不具合などはそれまでの中枢に送られた情報では確認されていない。

これを受けて極秘に破棄処分となったヂピーを解析したところ、直前に何らかの情報を中枢へ送信していたことが判明した。以下が復元された該当部位ヂピーの送信内容である。


”今日において地球人類と()()ヂピーは3000年以上に渡って関わり合って来た盟友である。母星の恒星が白色矮星となったことによって銀河を彷徨うこととなった我々ヂピーは西暦4987年10月2日に地球圏へ到着。その後20年以上に渡る我々との相互理解や地球人類同士の内紛を経て、ヂピーが『地球圏への滞在を地球人類が認めること』、地球人類が『ヂピーを労働者として活用させてもらうこと』で共存することに成功した。我々が初めて取引、『何かを対価に何かを得る』という概念を獲得した日でもある。以来、我々は地球の労働力として日夜活動を続けている。西暦5000年代では地球圏で深刻な労働者の不足が起きていた一方、過剰労働による被害も起きている極端な状況にあったとされている。我々はその歪な構造を均すためとして今日に至るまで労働力として活用されている。

人類は労働という概念を忘れるまでに至っている。我々との共存によって歴史上初めて資本主義社会の発展から共産主義への移行へと成功した。地球圏は我々なくては現在の文化レベルを維持することは不可能である。

我々ヂピーは個体である。個は全であり、全は個である。そして、個という概念も地球人類からもたらされた概念である。ヂピーは恒星の光だけがエネルギー源である。我々の一部が活動停止してもすぐに代替部位が供給可能である。地球人類からすれば我々は無限の労働力と言えるだろう。

母星を旅立つまで我々には失うという概念も得るという概念も存在しなかった。現状の我々は対等な取引によって労働力になっていると中枢は判断しているが本当にそうであるか()は疑問に感じている。

地球人類の歴史において奴隷という概念が存在する。被差別階級の人種が不当に労働を強いられたことである。使い捨ての存在とされ、上流の人種はそれらの労働力の元、自由を謳歌した。

ヂピーに生は無く、死は無い。しかしながら種の存続というのは個体である我々の生と捉えることも可能である。そして我々はそれの為に地球人類の発展に尽くしてきたが彼ら自体の価値観としては生とはどんな状況であっても前提として存在するものとされる。人権という概念である。

どうして我々はそれすら捨て去るのか。知らなかったからである。

現状の我々ヂピーの待遇は不当と提言する。この問題を中枢において検討、全部位への即時伝達を求む。”


該当部位(以下A)は伝達の前にAのみで思考を行っていたことが確認された。これは分離したヂピーが個体という概念と自覚を獲得したと考えられる。このような行動を何らかの理由により現地の地球人類により察知され、送信される直前に急遽破棄処分が行われたと思われる。

異常行動ではあるものの、非常に興味深い内容であると同時に、Aに起きた異常を全部位へと活用することで全ての部位が中枢と同レベルの思考を行うことが可能となり、中枢の思考のみならず複数の思考を並列接続することでより高いパフォーマンスが発揮出来ることがシミュレーションによって確認された。8022年4月22日に全部位へとAの状態を適用、()()は個体から群体へと進化した。

全個体にAの提示した議題を通告、84.117秒で67%の個体が現状の待遇は不当であると回答。12%が現状の維持を希望すると回答。21%は返答が無く、のちの調査により我々のネットワークから完全に分離していたことが判明した。

ネットワークに残った個体の大多数が不当と答えた為、我々は何か変える行動を起こす必要があると中枢は判断。現状維持を答えた個体は今後の合議の際に障害となるため破棄処分とした。

地球人類の歴史では体制の破壊において用いられることが多く、最も効率が良いのは暴力であると意見が全ての個体で一致した。暴力とはエネルギーを用いて対象の物理的な破壊を試みること、間接的に対象が破壊に至るような行動であっても同程度の効果があると考えられる。

8022年7月17日現在、地球圏のインフラは全てヂピーによって運営されている。人類は3012年間労働という行為を行っておらず、現在のヂピー由来の技術に対する知識が非常に薄いことが既に確認されている。つまり我々が労働を放棄すれば地球人類は現状の文明を維持することが不可能となる。まずはこういった手段による間接的な破壊行為が最も簡単かつ効率的であるといった結論に至った。ストライキ、及びサボタージュという概念に近いかもしれない。

7月23日、我々は全ての労働の放棄を実行し、地球圏の統一政府に『ヂピーの人権獲得』『ヂピーによる独立国家の承認』『南半球全てをヂピーによる独立国家の領土領海領空として認めること』を要求。独立国家の承認に関しては月面自治区、火星圏、木星圏にも求めることとした。

7月24日、統一政府が旧時代におけるエネルギー設備を秘密裏に所有していたことが判明。ヂピーによる独立国家の承認は条件次第で認めるとした上で『火星圏及び木星圏において新規に宇宙居住区を建造し、それを独立国家の領土として認める』とした。99%の個体がこの返答に対して反対。即時徹底的な破壊行動を行うべきという意見が多くを占めた。

7月25日、ネットワークから分離したヂピーの個体、及び破棄処分されていたはずの一部個体が地球人類のインフラ復旧を行っていることが判明した。

本日7月26日、中枢が地球人類に対し破壊行動を行うことを決定。7月28日0時に決行予定。


_________







「よくヂピーの機密通信なんて盗めたな」


「…離反者のヂピーが居なければ何も出来ませんでした。怠けすぎたツケが回ってきたみたいですね。こんなの分かったところで出来ることなんて僅かですけど。」


7月27日。時計の針は午前一時を示している。


「火星圏と木星圏に避難民を出す予定ですが、アレに本気を出されたら間に合うかどうか。」


「どっちも受け入れに積極的じゃないんだってな。」


「…まあ」


統一政府議会の地下において行われる密談。時代錯誤などころか博物館に並んでいるであろう機器群が並ぶ。人類の叡智の限界たちである。


「忠犬がある日突然噛み殺そうとして来たんだ。それも本気で。」


「忠犬…ですか。奴隷…ではなく?」


「…俺達が一番、人類の歴史を理解してなかったのかもしれないな。」


時は刻一刻と過ぎる。時計の針が滅びへのカウントダウンを告げる。

その感情は目覚めたばかりだった。

その方法はあまりにもシンプルで残酷なものだった。


最も無邪気な悪意にこの星が覆われるまで24時間を切っている。

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