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<完結>身代わり皇女の辛労譚!  作者: 沖果南
身代わり皇女の商売と戦争
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69.近すぎて近付けない

「へっ、そうなの!? べつに私が結婚できないからって、遠慮してくれなくてもいいのよ?」


 私がすっとんきょうな声をあげると、ギルジオがあからさまに不快そうな顔をした。


「別に、お前に遠慮しているわけじゃないからな!? 勘違いするな!」

「それじゃあ、やっぱりオフェリアとの初恋を胸に一生独身でいるって決めたの? そんなのオフェリアが望んでるはずないじゃない! そもそもオフェリアからしたら恋仲でもなんでもない人に、一生独身を誓われるのよ? まあまあ重いと思うんだけどなあ」

「おい、なんでその話になる! オフェリアには、お前が言うような恋愛だとかいう甘ったるい感情を抱いていたわけでは断じてない! 俺は騎士としてあの方を尊敬し、慕っていただけで……」

「えー、嘘だぁ」

「お前に何がわかる! とにかく、俺は結婚なんてしない!」


 この話を終わらせようとしているのか、ギルジオはきっぱりとした口調で断言する。


(なんでこんなに頑ななのよ……)


 ギルジオは19歳。そろそろ婚約者くらいいてもおかしくない年齢だ。

 私は頬杖をついてギルジオを上目遣いで見つめた。


「ねえ、お節介かもしれないけど、ギルジオって絶対モテるでしょ? だって第一皇女の有能な側近で、その上黙ってれば顔も良いわけだし、貴族令嬢選び放題じゃない。試しに舞踏会で『婚約者募集してます!』って叫んでみなよ。ご令嬢たちが束になって押し寄せるから」

「顔や肩書で俺を選ぶ女なんて、こっちから願い下げだ」

「何言ってるの! 選べるうちにさっさと選んどきなさい! 『いつの日にか運命の人が自分の前に現れてくれる……』なんてボンヤリ理想的な相手を待っていたら、あっという間に、結婚適齢期過ぎるんだからね!」

「おい、急に妙に現実味があることを言いだすな!」


 力説する私に、ギルジオは顔を引きつらせた。


(そりゃあ、前世での実体験だもの!)


 と、言うわけにも行かず、私は軽く咳払いをする。


「と、とにかく、良い人は早めに見つけておくこと。良いわね? 私のせいでギルジオが結婚できないなんて嫌よ」

「……フン。そもそもお前と一緒にいると、婚約者なんて選ぶ暇がないだろう」

「ああ、それもそうよね」


 私はポン、と手を打つ。

 指摘された通り、確かにギルジオはずっと私につきっきりだ。当初は、第一皇女としてふさわしい立ち振る舞いをしているか監視する目的だったのだろう。けれど、最近は完全に護衛兼秘書としてこき使われているのが実情だ。

 これでは良い出会いを探す時間なんてあるわけがない。


「ごめん、なんで気付かなかったんだろう……。今のままじゃ、婚約者なんて探せないよね。うーん、ちょっと考えるわ……」

「……おい、お前、どうせろくでもないことを考えているな? 今考えていることをそのまま口に出せ」

「えーっと、ちょっと困るけれど、カリガルに帰ったら、ギルジオの代わりに新しい秘書をすぐに二人くらい雇おうかなって。そうしたらギルジオだって多少お嫁さんを探す時間くらい確保でき……」

「なんでそうなるんだ! 新しい秘書は不要だし、俺は別に結婚しなくても良いと言っているだろうが!」


 ギルジオは顔を真っ赤にさせて怒鳴った。どうやら私はまた地雷を踏んだらしい。

 これ以上この話題に触れないほうが得策だと判断した私は、唇を尖らせて黙った。ギルジオも、不機嫌そうにぷい、とそっぽを向く。よっぽど触れてほしくない話題だったらしい。


(もう、ギルジオのためを思ってアイディアを出したのに、怒りっぽいったらありゃしない……)


 私がフォロン行きを勝手に決めたときも、ギルジオは誰よりも怒った。でも、私の身を案じて言ってくれていると知っているので、さして腹が立たなかった。

 というか、ギルジオが怒ったとしても最近はさして怖くない。昔ほどげんこつが飛んでこなくなったし、何よりギルジオが悪い人じゃないときちんとわかっている。

 むしろ、心の底から私のことを思って怒ってくれることもあるのだ。本当はお人よしで、世話焼きな一面もある。

 だからこそ、幸せになってほしいのだ。


(まあ、結婚したら幸せになるとは限らないんだろうけどさ……)


 自分のやっていることは価値観の押し付けかもしれないけれど、ギルジオにはライムンド以外に頼れる家族がいない。それは、多分心細いだろう。だからこそ、家族になってくれる人を見つけてほしいのだ。

 そんなことを考えながら、車窓を見てぼんやりしていると、ふと外から地響きが聞こえてきて、私はハッと顔を上げた。前方から土煙を上げ、馬に乗ってやってくる一団が見える。


「あっ、あれは……」


 山賊の襲来か、と一瞬身構えたものの、すぐに違うと気づいた。漆黒のマントを身に纏った軍服の一団には、身に覚えがある。


「イサク様の第一騎士団だわ!」


 私が慌てて、御者に馬車を止めるように合図する。御者は一瞬驚いた表情をしたものの、こちらに向かってくる一団がイフレン帝国の騎士たちだと気づくとすぐに馬車を止めてくれた。

 私が急いで馬車を下りると、先に馬車の周りに集まった騎士たちが一斉に敬礼をする。そして、一番私に近いところにいた、鮮やかな赤髪の騎士が、ひらりと馬から降りて私の足元に跪く。


「オフェリア皇女、お迎えに参りました。本当は国境までお迎えに上がる予定でしたが、どうやら思ったより早く到着されたようで」

「お顔を上げてください、イサク様。遠路はるばるここまで迎えに来てくださり、ありがとうございます」


 私の言葉に、イサク様はパッと顔を上げた。それから、固い表情を緩め、立ち上がって私の両手を掴む。

 ヘーゼル色の瞳が至近距離で私を見つめた。


「すごいぞ、オフェリア! あの状況から本当に戦争を回避するとは! どのような手を使ったんだ? フォロンの強権派が総崩れしたと聞いたが、オフェリアとは関係があるのか?」

「え、えっと……」

「だいぶ痩せたようだが、フォロンのヤツら、ちゃんとオフェリアを賓客としてもてなしたんだろうな!? ……ああ、聞きたいことだらけだ! なかなか情報が届かないから、やきもきしていたんだ」


 久しぶりに出会ったイサク様に急に手を掴まれて、心拍数が急上昇してしまった私は、イサク様の怒涛の質問攻めにただ目を黒白させることしかできない。

 見かねたギルジオが、間に割って入ってきた。


「我が主君に挨拶すらまともにしないまま質問攻めをなさるとは、相変わらず礼儀がなっていないですね。我が皇女が困っていらっしゃいますよ。それに、今この場で報告しなくても、詳しいことはアマラ様の前で十分ご報告されるでしょうに」


 冷え冷えとした視線を投げるギルジオに、イサク様はあからさまに不機嫌そうな顔をする。


「久しぶりにオフェリアに会ったんだ。積もる話もある」

「オフェリア様は長旅でお疲れです。このような場所で立ち話されては、身体に障りますのでこれ以上はご容赦なさいますよう」

「今すぐに聞きたい。俺がお前の代わりに馬車に乗って話を聞くから、お前は俺の馬に乗ってカリガルに帰還しろ」


 そう言って、イサク様は青毛の立派な馬の手綱をギルジオに押し付ける。今まで慇懃無礼な態度をとり続けていたギルジオは、ついにイサク様を強くねめつけた。


「誰が俺に命令していいと思っている。我が主人はオフェリア様ただ一人――」

「ギルジオ、ちょっと待って! 落ち着いて!」


 私はイサク様に今にも掴みかかっていきそうなギルジオを止める。


「ギルジオはちょっと外の空気吸おう! 久々に馬に乗るのも良いじゃない!」

「しかし、オフェリア様……ッ」

「ねえ、よく考えてみてちょうだい。この一か月四六時中一緒にいたから、話のネタなんてとっくの昔に尽きてるでしょ!? これ以上一緒に馬車に乗ってても沈黙が続くだけだし、気まずいだけよ。これはお互いにとっても良いと思うの」

「……ほう。馬車で俺が黙っている間、貴女様は気まずいな~などとお考えになっていたと……」


 表向き丁寧な口調を使いつつ、ジトっとした目でギルジオは私を睨む。私が目を泳がせている間、イサク様はさっさと馬車に乗ってしまったため、ギルジオはついに観念したのか大きなため息をついた。


「あとで説教だぞ。それから、なにかあったらすぐに大声で叫ぶこと」


 私にだけ聞こえる声で耳打ちすると、ギルジオは私を馬車に押し込み、ひらりとイサク様の愛馬にまたがる。

 そして、先行する護衛の合図のもと、私たち一行はイフレン帝国に向けて進み始めた。

主人公コリンはわりとお節介焼きな部分があります。鋳造工房の長女で、弟がおっとりした子だからです(裏設定)。


評価、ブックマーク、誤字脱字報告 等ありがとうございます。

お話も折り返し地点を過ぎ、なんとなく終わりが見えてきたためホッとしています。

今後ともよろしくお願いいたします!

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