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<完結>身代わり皇女の辛労譚!  作者: 沖果南
身代わり皇女の故郷と誘拐
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3.ステータス表示

 いつも何かと騒がしいブリダン家の鋳造工房は、今日ばかりは掃除の担当の職人たちがところどころで作業しているだけで、少し静かだった。今日は火入れの日ではないからだ。

 火入れとは、鉄を溶かす炉を稼働させることだ。ブリダン家の工房では週に3回火入れの日がある。火入れの日は明朝みょうちょうに炉に火を入れて、次の日の明朝まで鋳物いものを作り続けるのだ。その代わり、火入れでない日はほとんどの職人たちも休みを取り、身体を休める。

 私を呼びに来てくれたバルおじさんは鋳物砂いものずなを荷下ろしする、と言ってロバを工房の裏にある倉庫にひいていってくれた。

 私は少し早足で工房内を歩く。すぐに目当ての人物の後ろ姿を見つけた。この工房を営む工房長のヨルダ・ブリダン、私のお父さんだ。


「お父さん、ごめんね、待った?」

「ああ、可愛いコリン」


 お父さんは優しく目を細めた。お父さんは笑うと少し目じりに皺が寄り、愛嬌がます。齢は50を過ぎたばかりだけれど、くるくるとよく動く表情のせいか、かなり若く見える。


「ちょうど良よかった。今、候補者たちにシャナ爺があそこで工房内の案内をしているところだ」


 お父さんが指をさした向こうに、うちの雑務を担当しているシャナ爺と呼んでいる腰の曲がったベテランのおじいさんと、3人の男の人がちょうど巨大な炉のそばで立っていた。恐らく、仕事の説明をしているのだろう。

 お父さんは難しい顔をしてみせる。


「さっそくだが、あの三人、どうだ? 名前を右から、ホップズ、ターニー、それからギルティスだ。一人雇おうと思っているのだが、三人ともやる気があって良いヤツらに見える。私はどうも優柔不断だから選べなくてな」

「この前ジーモが里に帰ったから、その代わりの人を雇うのよね?」

「そうだ。できれば、ジーモと同じように、賢くて覚えが早い男が好ましい。ゆくゆくは図面をひけるようにほしくてな」


 わかった、と私は頷いて。目を細める。


(ステータス表示、オン――……)


 心の中でそう唱えると、まず、右側の背が高い人物の横に四角い箱と共に文字が表示される。

 これは、自称神様に与えてもらったスキルその2、「ステータス表示」。能力や状態を知ることができる、私の特殊能力だ。

 ただし、多用するとものすごく目が疲れるので、個人的にはあまり使いたくはない能力でもある。

 私はまず、ホップズさんのステータスを読み始めた。


―――――――――――――――

なまえ:トマイ・ホップズ 

とし:23

じょうたい:きんちょう

スキル:なし

ちから:C

すばやさ:C

かしこさ:C

まりょく:D

―――――――――――――――


(あ、緊張してる。どうしても雇われたいのね。でも、この人の能力は全般的に普通だしなぁ……)


 私のステータス表示の能力では、名前、年齢、その人の状態や特性を知ることができ、能力値はA~Eの間で表示される。標準値はおそらくCだ。ちなみに、私の能力値はオールCで、かしこさだけがかろうじてB+。いたって標準的な能力値だった。

 

(本当は、理想的な結婚相手を見極めるために、性格とか職業とか好感度とかが知りたかったんだけどねぇ)


 ありていにいえば、私は乙女ゲームのステータス表示を期待していた。けれど、私と自称神様の認識がかなり違っていて、ふたを開けてみれば結婚相手を見極めるには少し物足りない内容になってしまった。

 この世界に生まれ、初めてこのスキルを使った時に、思っていたステータスが表示されないことにかなりがっかりしたのも事実は事実である。しかし、神様に願った時に「ステータス表示ができたらいいなぁ」なんてあいまいなことを願ってしまった私が悪い。

 なにより、このステータス表示でも、工房で新しく人を雇う時に何かと便利だったので、良しということにしている。鋳造工房のを営む家の娘としてはかなりあつらえ向きのスキルだったと言えるだろう。


(さて次は……)


 私は赤毛を一つ結びにしたターニーさんに目を向けた。同じように、四角い箱と共に文字が表示される。


―――――――――――――――

なまえ:リル・ターニー 

とし:31

じょうたい:きんちょう

スキル:なし

ちから:A

すばやさ:C

かしこさ:D

まりょく:E

―――――――――――――――


(あ、見た目からは落ち着いてるように見えて、この人も緊張してるのね。うーん、この人、力はあるみたいだけど、賢さがネックよねぇ……)


 次、と私は隣の人物に目を向けた。

 最後に残ったのは、髪の毛は金髪で、中肉中背のギルティス、と紹介された若い男の人だ。バルおじさんが金髪の若い男がいた、と言っていたのはどうやらこの人物のようだ。横顔しか見えないけれど、すっきりした鼻梁から、顔立ちが整っているのがはっきりわかる。

 そして、表示されたステータスは驚くべきものだった。


―――――――――――――――

なまえ:ギルジオ・オルディアレス 

とし:17

じょうたい:ふつう

スキル:なし

ちから:A

すばやさ:A+

かしこさ:A

まりょく:A

―――――――――――――――


(この人、すごい!! 全部の能力がオールAなんて初めて見た!)


 私は思わずお父さんの袖を引く。


「お父さん、あの金髪の人、お父さん直々に頭を下げてお願いしてでも、雇ったほうが良いと思う。すごく優秀な人よ!」

「ほう! なるほどな! わかった。ではギルティスに決定だ。お前の勧めで雇った人間は皆優秀だし、今回も間違いないだろうよ。さあ、工房の新たな仲間に挨拶をしよう。自慢の娘を紹介しなければな」


 お前を誇りに思うぞ、とお父さんは私の肩を力強く叩く。

 人を雇うとき、数年前からお父さんは必ず私の意見を聞いてくるようになった。私のステータス表示の能力については誰にも話していないものの、「お前は人を見る目があるからな」とお父さんに能力を買われ、今ではすっかりこの工房の人事権は私が握っている状態だ。

 お父さんは私を連れて工房を横切り、三人に向かいあった。


「決めたぞ、ギルティス、お前を雇う」


 ギルティス、と呼ばれた金髪の青年は、こちらを向いて形のいい目を見開いた。いきなり雇う、と言われて驚いたのかもしれない。


(あれ、ギルティス……?)


 私は念のため、ギルティスと紹介された金髪の青年のステータスをもう一度確認する。


―――――――――――――――

なまえ:ギルジオ・オルディアレス 

とし:16

―――――――――――――――


(名前が違う……!?)


 金髪の青年はギルティスと名乗っているものの、本当の名前はギルジオ・オルディアレスだ。優秀なステータスに気を取られて、名前までしっかり確認していなかった。


(この人、訳アリでうちの工房に来たのかな? もし過去に罪を犯してバスティガに逃れてきたのなら、今後何かと厄介な話になりそうだけど……。お父さんに話すべきかな……。でも、どうやって説明すれば……)

 

 今まで数多くの人のステータスを表示してきたけれど、偽名を使っている人は初めて会った。人の能力を見極められる点については、仕草や体つきでその人の向き不向きがわかるのだ、ということにしているため、偽名の話をお父さんに話そうにも話せない。

 私の当惑もつゆ知らず、お父さんは、ホップズとターニーとさっと固く握手を交わした。


「ホップズ、ターニー、一緒に働けないことは残念だが、会えてよかったよ。来てくれてありがとう。何かの縁で一緒に仕事をするときがあれば、よろしく頼むぞ。今後君たちの人生が大きく輝くことを祈っている。それではシャナ爺、二人を見送ってくれ」


 シャナ爺は頷くと、がっかりした顔の二人を連れて工房を出て行った。

 お父さんは二人の背中を見送ると、改めてギルティスに向かいあう。


「ギルティス、先ほど話した通り、さっそく明日から働いてもらうが、いいな?」

「はい、わかりました」


 金髪の青年は折り目正しく頷いた。耳元で切り揃えた髪がサラサラと揺れる。


「うん、良い返事だ。それから、こちらは私の自慢の娘のコリン。これから何かと顔を合わすことになるだろうが、良くしてやってくれ。それから、これは大事なことだが、うちの可愛い娘はまだ婿は募集しとらん。手を出すなよ」

「ちょっと、お父さん!」


 私はお父さんを強めに小突く。ギルティスは涼やかな顔で微笑んだ。


「心に決めた人がおりますので」

「ほう、それを聞いて安心した! じゃあ、私は少し別のところで用があるから、コリン、お前がギルティスに工房を案内してやれ。まだ不案内だろうしな」


 ギルティス、と名乗る青年は、私に向き合った。陰のある薄緑色の瞳がこちらを見つめる。


「では、行こう」

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