ささやかな
「ん~、もぅ呑めなぁい!」
「だから!呑まなくていいんだって。
というか、もう呑まないでくれ」
大声を出した瞬間、反対側にふらりと傾いだ悠香の肩を抱くようにして身体を支えると、今度は全体重が掛かってきて少し慌てる。
「しっかりしろよ、悠香」
身体を抱え直すついでに顔を覗きこむと悠香はへろりと笑った。
「ごめ…ん、大丈夫」
歓送迎会がつい今しがたまで行われていたのだが、その席で思わず心配してしまう程ハイペースで悠香はガンガン呑み続けた。
最初から呑むピッチが早いとは思っていたが、まぁ多分この場にいる誰よりも強そうなのは間違いないのでほっといた所…。
非常に珍しい事に、完全にデキあがってしまっていたのだ。
決して短くも浅くもない付き合いの中でも、悠香がこんなに酔っ払った所など見た事がない。
ほろ酔い程度なら何度か目撃しているが、呂律こそ辛うじて回っているものの、ここまでフラフラな悠香を見たのは初めてだ。
日頃の恥ずかしがりようは何処へやら。
自分から俺に抱きついてくる辺り、相当ヤバい気がする。
「おいっ…悠香!」
「なぁに?智」
「いや…だから、酔ってるだろ?」
酔ってる事など百も承知のくせ、やけに潤んだ熱っぽい瞳で見つめられ俺は不覚にも口ごもる。
——いや、だからこんなんは家でやってくれ…。
と言うか、この色っぽさは反則だろう?
少々うろたえながらも必要以上に密着した身体を離そうと試みるも、何故か全力でしがみついて来る悠香。
他のメンバーも悠香が完全に潰れてしまったと知るや、皆慌てふためいて
「おい、そんなに呑ませたっけ?」
「いや…俺は。
お前こそ何回も注ぎに行ってたじゃないか」
と互いになすり付けあいが始まった。
「おーい、別に怒ってる訳じゃないから。
まぁ、こんなんだから俺らは先に失礼させてもらうけど、後はよろしく」
ドサクサに紛れて…しかも悠香の方から抱きついてきてくれたのは嬉しいが、2人の関係が公になった今、殊更牽制する必要も見せ付ける気もなく。
俺は国枝に2人分プラスαの金を渡すと、悠香の腕を取ってその場を抜け出した。
「お気をつけて~」
「送り狼になっちゃダメですからね」
「明日はちゃんと仕事に来てくださいよ」
口々に言いたい事を言う連中に構わず店を出る。
暑いくらいの店内から1歩外に出た途端、吹き抜けた寒風に悠香の身体が小さく震えた。
「ほら」
背を向け屈むと悠香はきょとんと俺を見つめる。
「そんなフラフラじゃ危なっかしいでしょうが。
パンツスーツなんだから、遠慮しないの」
「でも…」
「ほら早く。カバンは持ってくれよな」
強い口調で促すと背中に重みがかかる。
よっこらしょと背負い上げると、悠香はぺたりと大人しく張り付いてきた。
「…ねぇ、重くない?」
「大丈夫だって、これくらい」
正直、れっきとした成人女性なのだから重くない筈なんてない。
けれどそうと認めてしまうのもプライドが許さないというか、なら最初からするなというか…。
ずり下がってくるたびに体勢を立て直しながら、俺は悠香をおぶったまま歩き続けた。
「…それにしても、一体なんだってそんなに呑んだのさ」
「だって…気の置けない仲間達とわいわい言いながら呑んで、ついでにお料理も美味しくて。
しかも隣には大好きな人がいて…ものすごーく、楽しかったの。
それに少しくらいどうにかなっても、智が連れて帰ってくれるし。
そう思ったらなんか気が緩んじゃって…」
けらけら笑いながら悠香はそう言うと、よりぴったりと身体を密着させてきた。
ふわりと柔らかな髪が風に舞い、彼女の匂いを運んでくる。
「あと少しよ。頑張って、智」
「はいはい」
重くない?と気にしながらも、降りる気のないらしい悠香に苦笑しつつ。
アルコールのせいか、いつもより高めの彼女の体温もその重みも、全てを独占している事に少し幸せな気分になる。
「ねぇ智、大好き」
唐突な愛の告白に一瞬ドキッとし、相手が酔っ払いであった事を思い出す。
「…俺もだよ」
「おばあちゃんになっても一緒にいてね」
「そんなの当たり前。
あ、俺禿げないから年取っても見た目は大丈夫だぜ」
「お腹も出ちゃいやよ」
「おぅ、まかしとけ」
即答すると悠香はまた嬉しそうに笑った。
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何このバカップルw




