そして僕は空を見上げた。6
「飯もって来た…ぞ…」
「あ、ウィル。今上がりましたわよ…ウィル?」
目の前に髪も何も拭いてない全裸の美少女が突っ立ってたら固まるよね。うん。
「一旦、バスタオルで前を隠しなさい」
「?…分かりましたわ」
しかし…意外とあるな…胸。
あれか、コルセットで締めていたのか。いや、何であれ着けて走れるの?女の子って不思議。…じゃない!
「そこに座って待ってなさい」
「ウィル?様子がおかしいですわよ?何かありましたの?」
ベッドに腰掛けた彼女は、前を隠しながらそんなことを言ってくる。
「…女の子ってのは、普通男の前で裸になったりしない。するとしても事故かあるいは性行為に走る時だけだ。流石に知ってるよな?」
「それぐらい知ってますわよ?」
「知ってて何故前を隠さん!?」
「そういうことじゃないんですの?」
「違うわっ!!」
なんでこの時間からしなきゃならんのだ!するヤツもいないわけじゃないけど!と言うかそこまで発展してないだろうが!
「酷いですわ…私…処女を散らす覚悟をしましたのに……」
「うっ」
「私じゃいけませんの…?やはりクリスティーナみたいに胸の大きい娘の方がいいのですね…」
クリスティーナ誰だよ。
「それについては、俺はサイズに拘りはないと断言しておく」
「じゃあ何がいけませんの!」
「それは「その女、だれ」……こいつと同居してるからだ」
声と同時に、腰辺りに柔らかいものが置かれた感触がある。
「ウィル?浮気?修羅場?」
「ルナ?俺達付き合ってもいないし結婚もしてないから浮気じゃないだろ。同居人が増えただけだって。他から見れば修羅場っぽいけど」
「で、誰?」
「スルーかよ…。シャルロット。ただのシャルロット。色々と事情が重なった結果、面倒を見ることになったんだ」
「ルナの方が、大きい」
「私の方が高いですわよ?」
「………」
「………」
火花が散った気がした。
「………馬鹿らしい。風呂入ろう」
「ん、わかっ「ルナ、お前は俺が入った後な」…チッ」
「あ、シャルロット…シャル、俺のTシャツ貸すから取り敢えずそれ着てて」
「………あ、これですわね」
そう言ってシャルロット改めシャルは、自分が座っているベッドから一枚のTシャツを持ち上げた。
「え?それ、どこにあった?無くしたと思ってたんだが」
「ベッドのシーツの下にありましたわよ。」
「あ、それ、ダメ。ルナの自慰用」
「「えっ…」」
「……冗談」
「べ、別のにしますわ」
そのTシャツ、回物屋(リサイクルショップ)に売ろうかな…。
俺が風呂に入ってる間、バスルームの中は特に異常はなかった。
丁度バスルームの前の脱衣所でなにやらゴソゴソと物音がしたが、きっとルナあたりが脱いだ服を片付けてるのかもしれない。
でも、脱いだ服は洗濯物用籠に全部入れた筈だから、物をまさぐるような音はしない筈…。
『あ、それ、ダメ。ルナの自慰用』
さっきのルナの言葉を思い出す。
ルナ…もしかして欲求不満なのか…?え?いや、仮にも男と2年も同棲していた訳で…あいつも人間だし当然そういう欲求はある筈だし…寧ろなんで気付かなかったんだ…?孤児院の時の延長戦と考えてたからか?…いや、それは最早ただの言い訳か。
「やっぱ、もう結婚した方がいいのかなぁ…でもシャルいるしなぁ…はぁ」
そういえばシャルもその気だったし…二人同時に?いやハードル高いっす。夜のお店でもそんなんしたことないわ。
「覚悟決めるか…」
幸いか、この国は一夫多妻が認められてるからシャルとも結婚できるけど…ルナと違ってまだ6日しか関わってないしなぁ…。
頭がもやもやしてきたあたりで、俺は少し温くなった湯船から出ることにした。
脱衣所に入ると、綺麗な服が棚に置いてあった。…洗濯物用籠は確認するべきではなかったと後悔した。
「ルナー、上がったぞー」
「ん」
もぞもぞ
「ここで脱ぐな!」
「脱がして」
「子供か!?」
「胸がつっかえた」(チラッ)
「クッ…」
「クッじゃねぇよ!地面に手ぇ着いて落ち込んでんじゃねぇよ!ルナ、ほら、脱衣所に行った行った」
「脱がして」
「いやだか「脱がして」らぁ…はぁ…」
どうしよう、今日は異常なほど構えと言ってくる。
「剥いて」
「さっきと主旨変わってね!?」
「イケズ」
「ああ、もう、明日ちゃんと相手するから「二人きりで」…ああ、二人きりで、だ」
「ならいい」
そう言って半ば脱ぎかけのまんま脱衣所へ向かっていった。
「なんか疲れた…」
「で、私はどれを着ればいいんですの?」
「あっ…」
そして、なんやかんやしながら1日が終わっていった。
朝、俺は身体が動かない事に気が付き、ハッと目が覚めた。
両腕を拘束されているのか、柔らかいかんしょ…柔らかい…?
身動ぎすると、「んぁ」とか「ん…」と左右から聞こえてくる。
そして、俺は状況を把握した。
―― なるほど、ここに"エデン"があったか ――
「ってちゃうわぁっ!」
「ひっ!?ど、どうしたんですの!?」
「ん…。うるさい…」
跳ね起きた俺の声に驚いたのか、二人も起きてしまったようだ。
「じゃない!なんでお前らが俺と寝てんだ!」
そう、昨晩にルナと今日の約束をした後、俺はアリゼ姉ちゃんに予備のベッド(別料金)を貸してもらって、そこに一人で寝た筈なんだ。
一人で寝た筈なんだ(これ大事)
「ん…夫婦は一緒に寝る。常識」
"まだ"夫婦じゃないから!
「一人では寝られなかったんですわ」
嘘つけ!昨日まで俺が見張り中にぐっすり寝てただろうが!
「ルナはともかく、シャル、お前は駄目だ。俺は犯罪者にはなりたくない」
「ルナ、21歳合法ロリ(巨乳)」
それ自分で言うか?普通…。
「むむむっ、仕方ないですわね…いいですわ。ウィルに迷惑はかけられませんもの」
「わかってく「し!か!し!」れ?」
「絶対諦めませんわよ。私、こう見えて欲しいものは何がなんでも欲しいタイプですの」
うん。知ってる。寧ろそうじゃなかったら2億返済の責務を追うことも無かったろうに…。
「なんか、耳が痛くなった気がしましたわ」
「キノセイダヨ」
ココロノコエハキットトドイテナイ!
「ウィル、わかりやすい」
「そうですわね」
なん…だと…!?
「泥棒狐、アリゼ姉に会って」
「泥棒狐って私のことなんですわね…。で、"水麗の魔女"様は何処に行けば会えますの?」
「ここの受付」
「へ…?嘘ですわよね?…え?マジですの!?」
「「マジ」」
「なんで宿屋をしてますの!?ってことはあの爽やかイケメンは雷光の破壊者"ルクス"ですの!?マジですの!?」
「「マジですの」」
「ほわ~」
どこに頭がオーバーヒートする要因があったんだろうか。
「っ!ルナって月夜の支配者"ルナ"のルナですの」
「ですの」
「「ほわ~」」
唐突に思い出してオーバーヒートした。てか今更かよ。
「いや、なんでルナまで同調してんだよ」
「気分」
そうか。気分か。
「「「ほわ~」」」
なんか新しい何かが生まれた。
「「「「ほわ~」」」」
「「「増えてる!?」」ですわ!?」
いつの間にかアリゼ姉ちゃんも参加してた。ほわ~
「朝ご飯出来てるわよ~。それと、シャルロットちゃんは朝ごはん食べ終わったら私の元へ来るよーに。ほわ~」
「分かりましたわ。あれが水麗の魔女…「「ほわ~」」」
なんか流行りそう。ほわ~
「……飽きた」
一瞬で終わった。