そして僕は空を見上げた。4
伝え忘れてたことがある。
これの投稿も☆不☆定☆期☆DAKARA
…………知らない天井ですわ。
上半身を起こし、すぐ隣に若い男が寝ている事を確認する。
そうでしたわね。今、絶賛迷子中でしたわね。
隣で寝ているこの男は、安らかというか安心しきった顔で眠りこけてはいるが、きっと何かあればすぐに戦えるのだろう。
何せ、"あの"殲滅の駒のメンバーだった人物なのだ。それくらいできて当たり前か。
たった数年で最強の名を冠し、数多のモンスターを屠ってきた超越者達。
雷光の破壊者"ルクス"
水麗の魔女"アリゼ"
獄炎の葬儀者"ゴットフリート"
破轟の戦鎚"ドルトン"
精霊の使者"リアラ"
虚空の巨剣"ミシェル"
月夜の支配者"ルナ"
慈悲無き軍師"カイン"
限り無き愛情"ステラ"
そして、双刃の狩人"ウィリアム"
この10人が殲滅の駒になる。全員同じ孤児院育ちで、その努力と才能だけでトップまで踊り出た最強の集団だ。この内、空団に所属しているのはカインとウィルだけで、残りは適性が無かったらしい。
そう言えば、寝る前に少しだけウィルと話した時、「カインのやつが俺をよく置いて行くんだ。今でも俺がよく置いていかるのは、アイツのせいなんじゃないかってずっと思ってんだよな」と、愚痴っていたのを思い出す。
慈悲無き軍師カインと言えば、メンバーの中でヒーラー役を担っていた限り無き愛情ステラと結婚したんだった。式は私も参加した記憶がある。確か、『カインとステラが結婚したらちょうどよくなりそうだな』と誰かが言って、その人にカインがパイを投げつけられていたから記憶にあるのだろう。
雷光の破壊者ルクスと件の水麗の魔女アリゼも結婚したんだったか。ゴットフリートは…未だ独身、ドルトンはホームの近くの加治屋の娘と結婚、リアラはギルドの要職の男と結婚、ミシェルは確か独身、ルナも独身、ウィルも独身…意外と所帯持ちが多い。
なぜこんなに詳しいんだろう。きっとウィルのせい。
それは置いといて、最近マシな食事を食べられていない気がする。以前の食事は、シェフの作った料理ばかりで、調味料がふんだんに使われた食べやすいものばかりだった。それが今では、干し肉と少し味が濃いスープだけだ。
それでも、3日続けていれば慣れてきた。
あと、何か印象的だったものと言えば、あの不思議なお茶だろうか。
ふんわりとした香りに、程よい甘さのさらっとしたお茶で、荒んだ心なんかが癒されるような感覚さえ芽生えてくる。そんな味だ。
作り方は簡単と言っていたが、その茶葉の素材名が聞いたことが無いものだったので、どんな葉なのか聞いてみると、『そうだなぁ、青くて、狂暴で、肉食で、いっぱいいて、あと頭に生えてるな』と、言っていた。
余計分からなくなった。
…それはともかく!例の作戦というか、本当に上手く行くんだろうか。確率が低い方がいいというのは理解出来ないが、まぁ元とはいえ殲滅の駒の1人が言うのだ。大丈夫なのだろう。
そう、無理矢理に自分に言い聞かせ、二度寝を敢行した。
「起きろ~朝だぞ~」
「うにゃ…」
「変な時間から二度寝するからだろう。まったく。ほら、朝飯食え」
「あい…ですの…」
起きてすぐの思考が纏まらない頭で今の言葉を考えるも、なんで二度寝したの知ってるんですの?ぐらいしか思い浮かばない。
それよりも朝ごはん…ごはん?
目の前に出されたのは、パンとスープだった。
「パンっぽいが、どちらかというと焼き菓子みたいなもんだ。宝物部屋に保存箱があったの覚えてるか?あの中に入ってたのが小麦粉だったんだわ。それでちょっと手を加えたんだが、お前からしたら味は薄いかもしれんが、まぁ頑張って食ってくれ」
そう言うので、右の手で取って食べてみる。
見た目の割に柔くて歯切れがいい生地に、仄かな甘さが感じられる。そして、この仄かな甘さには覚えがある。
「あのお茶の葉を練り込んでありますの?」
「いや、この実の部分を磨り潰して入れてる」
そう言って、彼はリュックの中から手のひら大の袋を取り出し、その袋の中から服のボタンぐらいの大きさをした、赤紫色の木の実らしきものを取り出して私に見せた。
「万能ですわね…。私も欲しいですわ…それ」
「ああ、うん。棲息域がヤバい所だから絶対1人で行くなよ?」
渋い顔をしながらそんな事を言って、彼は取り出した実を再び袋に落とし入れてリュックの中に戻してしまった。
「その時はウィルに連れて行って貰いますわ」
「俺かよ…」
「私、自慢じゃありませんけど、嫌われものですもの。手伝ってくれる方なんて、ウィル以外いらっしゃいませんわ」
「それ、自慢にならねぇ…そして、俺が手伝うのは決定事項なのね」
「勿論ですわ!」
「へいへい、お貴族様には逆らえねぇや」
「その内対等に…いえ、ウィルの方が上になるんですの?それはそれで………」
「おーい、お嬢さまー、かえってこーい」
………。……。…。
ー (視点が変わるよ) ー
結論から先に言おう。
俺とお嬢様は、"全力"で、走っている。
何故って?
それは…
追いかけられているからさ!
「もう!いやっ!ですわっっ!!」
「左に同じくっ!」
なんと言うことでしょう。マギアルプス一体だけでも一杯一杯だと言うのに、その上ルブルムドラコまで追いかけて来るではありませんか。
これには、流石のベテラン空員であるウィリアムも逃走をやむを得ません。
「変なっ!ナレーションをしてないでっ!どうにかっ!してくださいませんのっ!!」
無理かなー。てへっ。
「………………」
うわー、凄い顔してこっち見てるー。あれだ。デモニ(鬼)の形相と言うやつだ。
「いや~マギルプ一体ならともかく、ルブドラも乱入してこられたら無理っす~」
「なんで!そんな!軽い!ですの!」
「それは~、今から真面目に走るから~」
そう言いながら俺は、お嬢様を走りながら背中に乗せて、体内のマギ循環を高速化させた。
「へっ!?」
「当人力車は大変揺れますのでご注意下さいってね。しっかり掴まってろよ~。飛ばすぜ」
エンハンス量を増加させた脚は、まるでインジェンスルクスタ(巨大バッタ)のようにあらゆる物を踏み抜いて加速して行く。
足場にした木や、倒木が砕け散ってゆくのを後ろ目に見ながら、予め決めておいた方向へ加速して行く。
迷いの森の踏破方法の一つ。迷わない速さで走る!
因みに、この方法の考案者は、速く走りすぎて木に赤い染みを作ったと言う言い伝えが「もう追ってきてないですわよぉぉぉおおおお」あるんだ。ふむ、撒いたか。
ドンッ ダンッ ダッ ダダダダッ タッタッタ タ
「ご乗車ありがとうございました。またのご利用を「絶っ対乗りませんわ!」で~すよね~」
停車上手くいったんだがなぁ…。
「はぁはぁ、で、ここどこですの?」
何故彼女の方が息を切らしてるんだろう…。それはともかく場所か、恐らくは…。
「日の傾きの位置と、周りの山の位置からして、スレアテートから南へ50LSぐらいの所だと思う」
「…改めて聞くと凄いですわね。空員は大体貴方みたいな者ばかりですの?」
「そういう訳じゃないが、10年以上もやってると大体分かってくると思うぞ」
そういうものなんですの?という問いに、そういうもんだ。と返して、今しがた走ってきた方向へ目を向ける。
火の柱やら氷の柱やらがそら高く舞い上がっていた。
弱そうな奴らが居なくなったから、今度は同格同士で殺し合いか…うん!おおいに頑張ってくれ!じゃあ俺達は帰る!
「ほらー、そろそろ行くぞー」
「え、大丈夫なんですの?後ろ凄いことになってますわよ!?」
「ほっとけ、人間様にはついて行けない世界だ」
いやー、まさか館の扉を開ければマギルプとルブドラが睨み合ってるとか想像出来ないわー。絶対扉閉めるわー。2匹して館壊しに来るとかないわー。結局コアぶっ壊れるし。寧ろ館ごと灰になったし。
「さぁーて、帰ってうまい飯でも食うかぁー」
「ほんと、能天気ですわね」
「フッフッフー、それは俺にとっちゃ誉め言葉さ」
「あ、勿論、私の分も払って頂けますのよね?」
「えっ…お前、大衆食堂的な場所で飯食えんの…?」
「大衆食堂ってなんですの?」
「嘘やん…」
彼女は、お金を出すのはいいですのね。とか言いながら首を捻っているのだが、はたしてこいつをあそこに連れていっていいものやら…。
『ドドーン』
遥か後ろで響く爆発音が虚しく聞こえた。
知ってたって?
うん。知ってた。