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ある屋敷の話

「屋敷、ですか」


私はそう呟いてから、アゴに手を当てた。ロッタさんがテーブルにコーヒーを置く。グレイクさんはそれを一口啜ると、小さく息を吐いた。


「そう、屋敷だ。所謂モンスターハウスってやつよ。アンデットがウジャウジャいてな。以前にギルドに頼んだんだが、まったくもって歯が立たなかった。俺も個人的に人を集めて討伐させたんだけどよ。ありゃダメだ。そんじょそこらの奴らじゃぁ話にならねえ。そこで、あんたのところの話を聞いてよ。なんでもアンデット専門の討伐隊らしいじゃねえか。ひとつ頼むよ」


「ええ。それは構いませんが……でも、どうしてアンデットが屋敷に住み着いたんですかね?」


グレイクさんは一瞬顔をしかめる。


「……知らねえよ。住み心地が良かったんじゃねえか?」


「……住み心地ですか。うーん……でもなぁ……」


私は自分のアゴをさすりながら、彼の足元から頭のてっぺんまでを眺めた。しばらく彼の話を聞いていたが、どうも彼の態度はおかしい。……いや。おかしいのは態度というより、彼が纏う空気の方かもしれない。


そもそも、何の理由もなくそういうものが住居に住み着くことは考えづらい。霊魂にとって住み心地が良いということは、その場所にそれなりの何かがあったということだ。


「……もしかして、以前に何か事件があったりとかはしませんでしたか?」


彼は間髪を容れずに答える。


「ねえな。何にもねえ」


――――嘘だ。この男、嘘をついてる。


彼はコーヒーを一気に飲み干すと、カップを置いて立ち上がり、テーブルに一枚の地図を置いた。


「場所はここに書いてある。報酬は100万ゴールドだ。期限は3日。それまでになんとかしてくれ。頼んだぞ」


男はそう言って事務所の出口へと歩いていく。


「言っとくが――――余計な詮索はするなよ」


彼は最後に振り返り、それだけ言い残して事務所を出ていった。


「なーんか嫌な奴だったね」


ロッタさんがコーヒーカップを片付けながら言う。


「間違いなく、何か隠してますね」


テーブルの上の地図を手に取り、屋敷の場所を探してみる。

場所は確かに町の外れ。彼の言うとおり立地は悪くない。日も当たるし、人通りも多い場所。……となると、どう考えても霊が好むような環境ではない。何かがなければ、霊魂がこの場所に勝手に集まるなんてことはないだろう。


「……この屋敷で、何があったんでしょうね」


「あいつ、詮索するなって言ってたぜ?」


「私の故郷の日本と言う国では、『押すなよ、絶対に押すなよ』という言葉があります」


「……どういう意味なの?」


「押せ、という意味ですよ」


「詮索しようってのかい?」


ロッタさんがいたずらを企んだ子供のような笑みを見せる。


「自己防衛ですよ。何をするにしたって、ある程度の情報は得ておいたほうがいい」


「でも、やつがあんたの詮索に気づいて、『金を払わない』なんて言い始めたらどうする気だい? 金、ないんだろ? それに100万ゴールドなんて、とんでもない大金だぜ?」


「……」


確かに、お金は欲しい。生活に困っているし、明日食う飯もない。完全なる自業自得ではあるが、一銭もないのは流石に困ってしまう。


「……金、貸してやろうか?」


ロッタさんが窺うように言う。


「――――本当ですか!?」


「アタシはあんたと違って結構貯金してるからな。別に貸してやってもいいよ。ただ、次の仕事で金が入ったらすぐに返せよな」


ぷいっと顔を背けて、コーヒーカップを持ったロッタさんは給湯室に入っていった。ロッタさん……あなたって人は……天使なのかな?

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