プロローグ
俺の名前はグレイク。
街の中心にある不動産屋を経営している。
これは、俺が実際に体験した話だ。
ところで、お前、町外れにある屋敷のことは知ってるか?
あの屋敷はウチが所有してる不動産なんだ。
結構でかい屋敷でな。立地も悪くない。
周囲には色んな店があるし、日当たりもいい。
それほど遠くない場所に駅もある。
ところがこの屋敷、なかなか買い手が見つからない。
と言うより、そもそも売ってない。
あの屋敷はな、所謂モンスターハウスになっちまってるんだ。
中はアンデットがうじゃうじゃ潜んでる。
とてもじゃないが人様に売れるような物件じゃない。
しかし、アンデットさえいなけりゃ高い値がつく物件だ。
俺もどうにかしたいと思ってな。
以前にギルドに依頼したんだよ。
大金払ってやるから、アンデットを駆除してくれってな。
討伐できたら100万ゴールド。
家が建つ額の報酬だ。当然多くの戦士どもが飛びついた。
で、実際に屋敷に行って、そいつらを中に入れてやったんだ。
……どうなったと思う? 駆除できたと思うか?
――――残念。
あの屋敷に入った連中は誰一人として帰ってこなかった。
ただの一人もだ。
しかし、俺もすぐには諦めなかった。
その後も引き続きギルドに討伐を依頼したんだ。
20組……いや、30組はいたかな。報酬がいいからよ、次から次へと戦士が飛びついてきやがったんだ。
だが、結局屋敷から帰ってきた奴は誰一人としていなかった。
みーんなアンデットどものエサになっちまったんだ。
俺もいい加減にこれは無駄だなって思ってよ、ギルドに依頼するのは止めにした。
ただ、屋敷を諦めたわけじゃない。
腕利きの剣士、武闘家、魔法使い。
そいつらに大金をばら撒いて、俺は最強のパーティを作り上げた。
奴らも屋敷の話をしたときは渋っていたが、大金を積んだら喜んで引き受けてくれたよ。……まあ、そういう奴らだよな。戦士連中ってのは。
パーティは念を入れて10名。
いずれも名の知れた戦士たちだった。
望むやつにはいい装備も買え与えて、準備は万端。
いよいよ屋敷に向かったワケだ。
今度こそは、って思ったよ。
だが、待てど暮らせどそいつらも、屋敷に入ったまま帰ってくる様子がなかった。
……こりゃダメか、と思ったその時。
一人の剣士が屋敷から帰ってきたんだ。
鎧はボロボロ、傷だらけ。剣は根元から折れて、柄だけが残っていた。
命からがら帰って来たって感じでよ。どう見ても討伐に成功した様子じゃあない。
おまけに心もやられちまって、まともに会話もできなくなってたんだ。
『子供だけは――――子供だけは、許してください――――』
屋敷から帰ってきた剣士は、うわ言のようにそれを繰り返すだけだった。
壊れた人形みたいにな。
勿論、そいつには嫁も子供もいない。
全く。あの屋敷に何がいるって言うんだか。
ああ。そうそう。
この話を聞いたお前に一つだけ言っとくが
――――余計な詮索はするんじゃねえぞ。