依頼内容
「ああ……この依頼ですね。大丈夫ですよ、他にやろうって人は滅多にいませんから」
私が依頼書を、窓口にいる駄菓子屋風のおばちゃんに渡すと、彼女は快く仕事を委託してくれた。おばちゃんは、手馴れた手つきで依頼書にハンコを押す。
「やったあ! おばちゃんサンキュッ!!」
「……おいおい。待て、ナカハラ。今、おばちゃんが意味深な事を言ってたじゃないか」
ロッタさんが横から口を出す。……うるさいなあ。私が雇用主なんだから好きにやらせてくれたっていいじゃないか。ロッタさんはおばちゃんから依頼書を奪うと、窓口のテーブルにそれを叩きつけ、おばちゃんにぐいっと寄った。
「やろうって人が滅多にいないって、おばちゃん、どういう意味なのさ?」
「ああ、なんだか妙な依頼みたいでねえ。たまーに、あんたたちみたいにこの仕事を引き受ける人がいるんだけど、現地に行ってもすぐに帰ってきちゃうのよ」
「すぐ帰ってくる?」
「そう。騙された、とか言ってね。フォレディネーベの森からすぐ帰ってくるの」
「フォレディネーベ? そんなところからの依頼なの?」
ロッタさんが改めて依頼書に目を通す。
「そうなのよ。珍しいわよね。あんなところから依頼なんて」
……珍しい? どういうことだろうか。私は二人に聞いてみる。
「何がそんなに珍しいんですか?」
ロッタさんが、『そんなことも知らないで依頼を受けようとしたのかよ』とでも言わんばかりの目で私を睨みながら説明してくれた。
「……フォレディネーベの森は、他と比べて比較的安全な森って言われてるんだ。モンスターがいたとしても見晴らしがいいからすぐに発見され、討伐される。それにあの森は千年雪って言われる年中雪が降る気候でさ、モンスターはあまり雪を好む生態は多くないからな。そもそもあまり近寄ってこない」
「へえ。年中雪が降るって、素敵ですね」
「素敵なのはいいけどさ。こんなところからの依頼なんて変だよ。それに人探しなんてギルドの管轄じゃないだろ? その国の兵士がやることじゃんか」
「きっとやむを得ない事情があるんでしょう。とにかく、行ってみましょうよ、そのティロフィナーレとかいう森に」
「……フォレディネーベだよ。 ……まじで言ってんのか? あそこまで結構距離あるぞ?」
「いいじゃないですか。観光だと思えば。千年雪の森、見てみたいですし」
「……まあ、私も一度は行ってみたかったけどさ」
「じゃあ、決まりですね!」
そう言って、私は彼女から依頼書を取り戻した。
フォレディネーベと呼ばれる村は、私の住むイニジアと言う国から南西に位置する国、ヴァロアにある。
ヴァロアは魔導国家と呼ばれ、その住民の実に半数以上が魔導師だ。ヴァロアはこの世界の魔導技術において、先進的な役割を担っており、魔導で動くものの大半がこの国で作られたものだと言われている。その中でも、フォレディネーベは、ヴァロアの北東に位置し、観光目的に訪れるような田舎町となっていた。
早朝から蒸気機関車に乗って約4時間。イニジアを離れ、近未来的な背の高い建物が乱立するヴァロアの中央都市を抜ける。あと数十分程でフォレディネーベに着くらしい。
「しかし、驚いたな」
私は窓の外、今はもう遠くにあるヴァロア中央都市を眺めながら呟いた。隣でロッタさんが御札の貼られた自慢の大剣を杖にして、まどろんでいる。
「……何に驚いたのさ」
寝ぼけまなこのロッタさんが聞いてきた。……起きていたのか。
「いや、さっきのヴァロアの中央都市なんですけど、私の世界の東京っていうところに似てたんですよ。新宿あたりかな。雰囲気はそっくりでした」
「トーキョー……。変な名前」
「変な名前はともかく、似ててびっくりしましたよ。今度、ヴァロアに行ってみたいなあ」
「……好きにしなよ」
「あ……。もうすぐフォレディネーベに着くみたいですよ」
窓の外を眺めれば、遠くに集落が見えてきた。ヴァロアとは同じ国のはずなのに、ずいぶんと寂れて見える。
私たちは機関車から降りて、依頼人の家へと向かった。




