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ギャンブル狂の末路

 おかしいな。


 おかしいよ。


 なんで空気って、いくら吸ってもお腹が膨れないんだろう。

 なんで空気って、栄養価ないの?

 おかしいよ、絶対。


 私はアンデットバスター事務所のソファに仰向けになって、天井を見上げながらそんなことを考えていた。


 ……おかしいよ。なんで私、こんなにお金ないの?

 なんでいつもギャンブルで負けちゃうの?

 私、霊能力者だよ?

 そこそこ神様に愛されていてもおかしくない存在だよ?

 なんでよ?

 なんで?

 なんでこんなについてないの?


 ……ほんのり涙が出てきた。そんな感情を無視するように、事務所のドアが元気に開く。


「おーっす。おはようナカハラ。今日も白い顔してるねえ」


 私とは対照的に活発そうな声を上げて事務所に入ってきた彼女は、この事務所唯一の従業員、ロッタ・カルロッタさんだ。くせっ毛の長い赤髪を後ろで縛り、縛った先の毛は花開くようになっているのがトレードマーク。小さな顔に切れ長の目。こうして良く見れば、なかなかの美人だ。胸はBカップもなさそうだが、代々続く剣士の家系で、大剣好きで戦闘狂。3度の飯より戦好き。そんな彼女だ。


 因みに私は今、彼女に借金をしている。その額は全部で……わかんない。


「……おーい。大丈夫かよ、お前。荒んだ目をしてるぜ? こないだ貸した金、まさか全部使ったわけじゃないんだろ?」


 私は何も答えない。代わりにロッタさんを背にするように、体勢を変えた。彼女は、それを返事だと解釈したようだ。


「……使ったのかよ。驚きだな。返せるのかよ、そんなんで」


 私は何も答えない。

 だって、今声を出したら、泣いてることがバレちゃうじゃないか。



 時刻は午後3時頃。今日も事務所でダラダラとソファに寝転ぶだけで、一日が終わりそうだった。


「にしても、最近暇だねえ。依頼が来ないよ」


 ロッタさんがテーブルにコーヒーを置きながら言う。

 確かにそうだ。ここ3日ほど依頼が来ていない。自慢ではないが、この事務所の依頼達成率は高い。評判も上々だし、信用が無いわけではないと思う。


 それでも、こういう仕事のない日が続くということは、たまにある。

 ただ、それでは今の私は困ってしまう。酸素に栄養価を求める日々がこれ以上続けば、流石に私は死ぬと思う。


「……ギルドにでも行ってみますかぁ」


 力のない声を私は出す。


「だな。そろそろお前がそれを言う頃だと思ってたよ」


 ロッタさんがニカッと笑った。

 彼女は彼女で、戦い続けなければ死んでしまうというような人種だ。戦闘を渇望していたのだろう。……不謹慎な話だ。


 ロッタさんと二人、事務所から出て細い道を歩く。

 広い道に出て左側に建つのが酒場。右側に立っているのがギルドだ。実はギルドとアンデットバスターの間では、『こちら側』の仕事があれば斡旋してもらう旨の契約が成されている。手数料も毎月200ゴールドほど払っている。

 しかし、『こちら側』といっても一目ではわからないものも多く、それ故に月に一度はこうしてギルドに通い依頼書に目を通すのだ。


 ――――しかし。


「……ありませんね。アンデット関係の仕事」


 私は深く息を吐く。


「……綺麗にないな。……平和だな」


 ロッタさんも同様だ。


 ここのギルドのシステムは、現世で言うところのハローワークに似ている。

 ギルド内の壁に依頼書が貼ってあり、そこに簡単な仕事の説明と報酬額が書かれている。内容が気に入れば窓口で委託してもらい、気に入らなくても窓口に行けば何らかの仕事を紹介してくれることがある。


 ……しかし、これほど綺麗にアンデット関連の仕事がないとは珍しい。

 窓口に声をかけるしかなさそうだ。そう思った時、視界の端に一枚の依頼書が目に入った。何気なく、見てみる。


 依頼内容は人探し。

 10歳の子供が行方不明。

 場所はフォレディネーベの森。

 ……知らない場所だな。


 ええと、それで……?

 報酬金は20万ゴールド…………?

 …………20万ゴールド!?


 私は目をかっぴらく。


 この世界で言う1ゴールドは、現世で言うところの10円だ。つまり、報酬金は現世換算で200万円程度。広い平原でのモンスター討伐でも、報酬金は10万ゴールドが相場だ。それが、ただ子供を見つけるだけで、20万ゴールド。二倍じゃないか! おいしい。おいしすぎる仕事だ。しかしうまい話には裏が――――知ったことではない!

 乗ろうじゃないか、このビッグウェーブに!


「ロッタさん! この仕事やりましょう!」


 私は力強く依頼書を指し示す。ロッタさんが鈍い反応を見せる。


「……あ? ああ……なんだその依頼か。確かに報酬はいいけど、どうにも怪しいぜ? なんだか随分前から残ってる依頼みたいだし、人探しとか私らに向いてな――――」


「うるせえ! やりましょう! 一人の子供が行方不明なんですよ!? こうしてはいられませんよ!!」


 私は依頼書を壁から剥がし、窓口へとトリプルアクセルを決めながら向かった。


「……最後まで話を聞けよ」


 ロッタさんの深いため息なんて、お構いなしだ!

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