初めてのタイムリープ
10月15日 16:37
「ねえ君…時間を巻き戻したくはないかい?」
「…は?」
思わず素っ頓狂な声を出す少年。しかし無理もない。
少し古風の小さな街の骨董品屋。
そこで少年は…笛倉大地はいきなり声をかけられたのだ。
「おっさん…何言ってんの?大丈夫?」
大地は怪訝そうな顔をして聞く。かたやその人はおっさんと呼ばれて少しショックを受けたようだったが、
「お兄さんと呼びなさい。」
と言った。実際お兄さん、の年齢に入る見た目なので、大地は素直に従う。
「はいはい…で?なんだっけ?時間を巻き戻したくはないかい、だっけ?あいにく俺も暇じゃないんで。他当たってくれ。」
正直少し興味はあったが、胡散臭いので、適当に交わして帰る素振りを見せた大地にお兄さんは慌てて言った。
「いやいやでも!これがあれば、いくらでも人生をやり直せるんだよ!?こんな機会滅多にないぞ少年!!」
その言葉に、ぴくりと反応する。ちらりとお兄さんを見ると、銀メッキの綺麗な懐中時計が見えた。あまり時計に興味がない大地でも、それがいかに貴重な物がわかるほどの時計だ。思わず反応をしてしまう。やり直せるという言葉にも、時計にも。
「何回でもやり直せるって事は、朝眠くても何回もやり直せるって事か?」
「ん?あ、あぁ、そうだよ。」
「何回も日曜日にしたりも?」
「あぁ、できるさ。」
「買った!!!」
思わず買ってしまった大地だが、ハッと気付く。
「あの…これ…いくら?」
いくら高校生といえど、お小遣いは決して多い方ではない。
小さな街故にあまりアルバイトも多くない。
そんな大地にとって、金額はとても大切な事だった。
どきどきしてお兄さんに問う。あまり高い物じゃないといいが…
「ん?あー…そうだなぁ…850円でいいよ。」
あまりの金額に、大地は拍子抜けした。仮にも時間を巻き戻す時計が(まだ信じていないが)そんな安くていいのか?
戸惑っている大地に、お兄さんは嬉しそうに言う。
「その時計ね、時間を巻き戻すって言っているのにあまり売れなくてさ。困っていたんだ。いやぁ、助かったよ。」
「売れ残りかよ!ふざけんなおっさん!」
「お兄さんと呼びなさい!」
言い争っていると黄色い鳥がやってきてお兄さんの頭に乗った。どうやらお友達のようだ。しかし大地と目が合うと怖かったのかどこかへ飛んでいってしまった。騙されたとむくれる大地に、お兄さんはなだめるように言った。
「あ、で、でもね、時間を巻き戻すって言うのは本当だよ。ほら、時計の上にスイッチがあるだろう?ほら、少しだけ押してご覧よ。ほら、物は試しだ。」
仕方なく大地は半信半疑でスイッチを押す。
瞬間、グオッと周りの時空が歪み始める。そして周りの景色だけが巻き戻っていく。
思わずスイッチを離すと、さっき飛んでいってしまった黄色い鳥がまたお兄さんの頭に乗った。そして目があうと飛んでいった…
よく見ると、骨董品屋の時計の針も巻き戻っている。
どうやら時間が巻き戻るというのは本当のようだ。
「な?巻き戻っただろ?」
「お…おう…まじか…」
にこにこと微笑むお兄さんに対し、大地は信じられないというように目を見開いている。
「だがな、これを使うのなら、注意が必要だ。あと、今から言う約束を守ってもらう。」
一転してお兄さんは凄く真剣で真面目な声で言う。それに大地は少し身構えてしまう。
「1つ。巻き戻したとき、僕と君以外の人には巻き戻した、という記憶が残らない。2つ。巻き戻しても今いる位置は巻き戻らない。3つ。この力を誰にも言わないこと。」
言い終わると、またお兄さんは笑顔に戻り、
「…約束出来るかい?」
と言った。大地は、まぁ大丈夫だろと思い、
「わかった。約束するよ、お兄さん。」
と言った。これが運命の歯車が回り始めた時、と気付くのはもう少し後。