No.041 窮鳥(きゅうちょう)懐に入れば猟師も殺さず
「せやから言うたやろ。話しかけに行くとかアホやって」
「話しかけるつもりはなかったんだよ。ただ、様子を見ようと思ってね」
「結局見つかってりゃ世話ないっちゅーねん」
「まあいいさ。予定外の衝突も、想定内ではあるからね」
目の前で繰り広げられる会話は、さながらコントのようにテンポ良く進んでいく。
彼らが放つ独特の雰囲気は、ここにいる誰よりもこの場にそぐわないにも関わらず。
だけれど、彼らは当然の様に在り続けた。
「さて、君たちを放置してしまってすいませんね」
「自分ら何話してんねんっちゅー気分で見とったやろ。こっちにもこっちの事情があるさかい、見守っといて正解やで」
「まずは、そうですね……自己紹介から始めましょうか」
尚も彼らは喋り続け、会話の主導権は完全に握られている。
静かで優しい声。
賑やかで勢いのある声。
お爺さんたちのペースは、常に変わらず進んでいく。
「私の名前はトーン」
「俺ん名前はモーノやで」
「どうぞ、お見知りおきを」
「ちゃんと覚えときや」
そっと微笑む姿。
豪快に笑う姿。
お爺さんたちは常に、真逆の存在であるかのようだ。
「さて、質問があるなら受け付けよう」
「1人1回までやで! ま、答えるとは限らんがな」
そして、2人揃って笑みを浮かべる。
僕たちを真っ直ぐに見つめたまま、不敵な表情を絶やさずに。
「話は普通に通じるんじゃ仕方ねー平和的解決法でいってやるよそんじゃ早速単刀直入に聞くが爺さんたちは何がしたいんだよ」
「何が、とは難しい質問ですね」
エリファスさんの言葉でも、彼らのペースは変わらない。
「この国をこの様な混乱に陥れるだなんて、何が目的ですの?」
「ほぼほぼ同じ質問やないかい」
リジーさんの言葉でも、彼らのペースは変わらない。
「アタシらが来るんが解っといて、なんで姿を見せたんどすか?」
「ここで姿を消すのは悪手だと判断したまでですよ」
マリアさんの言葉でも、彼らのペースは変わらない。
「君たちはどういう存在なの」
「んなもん答えるかい」
フェイの言葉でも、彼らのペースは変わらない。
「オジイサン、ごしゅじん、てき?」
「ハハ、一概にそうとは言えませんね」
京の言葉でも、彼らのペースは変わらない。
「さて、残すところは君だけですね」
「さっさと言いなや。そうじゃねーと、俺らが帰れねーんだからよ」
「急かしはしませんよ。ゆっくりと考えなさい」
「もっとこう……あるやろ! 俺らに聞きたいこと! 聞かなあかんこと!」
彼らが何をしたいのか。
この世界に異常を発生させた目的は何なのか。
僕たちが居ることを解っていながらどうしてここへ来たのか。
彼らは一体何なのか。
彼らは――僕たちの敵なのか。
そのどれもがお爺さんたちの求める質問では無いらしい。
だけれど、それ以外に何を聞けと言うのだろう。
僕たちが知りたいことが、他にあるとでも言うのだろうか。
「君のことですから、己の中で考え込んでいるのでしょう」
「ほらほらあるやろ、自分がごっつ気になっとることが」
「さて、君にしか聞けないことですよ。心当たりはあるでしょう?」
「僕にしか……?」
『僕たち』じゃなくて、『僕』が知りたいこと。
この中で僕だけが知らないことなんて、数え始めればキリが無い。
そのくらいみんなは僕よりも凄い人生を送っていて、知らないことであふれている僕とは大違いだ。
でも、お爺さんたちがそういうのならば何かあるのだろう。
見ず知らずの彼らだけれど、こんな時に嘘をつくようにも思えなくて。
だから、考えるんだ。
僕だけが知っていて。
尚且つ、僕だけが知らないこと。
幸いにも時間はもらえるみたいだし。
ならばもう、最初から順番に考えるしかない。
僕が生まれてから17年と少し。
その全てを振り返るには、時間が幾らあっても足りやしない。
そうなると、辿る記憶は限定したほうがいい。
お爺さんたちがここに居ることを考えても、僕がこの世界で目覚めた時からでいいだろう。
みんなの視線が集まる中で、僕は静かに目を閉じた。




