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No.037 愚公山を移す

「フッ、キュウ!」


 光の中から現れた京の姿は、トカゲ程小さくはなく、ドラゴン程大きくもない。


僕の両肩を越える程の大きさの彼は、器用に身体をよじ登ってきた。


「凄い、凄いよ京!」

「キョウ、すごい。ごしゅじん、すごい!」


 真っ白な体は鱗に覆われ少し硬い。

 顔の大きさも僕らと似通っていて、綺麗な金色の瞳が嬉しそうに弧を描く。

 背中に生えた翼は京の身体を包み込める程で、すらりと伸びた尻尾は胴体と同じくらいの長さ。

 尾の先に伸びた毛並みが僕の頬に触れ、それがとてもくすぐったかった。




「カイトとキョウ氏が楽しそうなのはなによりだが俺の活躍にも一言ください頼む誰か俺に拍手喝采を!!!」











 全員分の名前と冒険者番号を書き終えた僕らは、足並み揃えてギルド組合所へと向かった。

 受付のお姉さんに用紙を渡せばこちらがやることはもう無いらしく、受理されるまでにもそう時間はかからないらしい。


 手続きが完了するまではあまり遠くへはいけないだろう。

 会議場所も提供しているらしいこの場所で、僕らはひとまず待つことにした。


「こないな部屋まで貸してもらえるやなんてなあ」

「ここで腕組んでっと円卓会議感出るじゃん気にいった!」

「ギルドは貢献度に応じて報酬も出るので、真剣に取り組む方が多いんですのよ。その区画が盛んなのかどうかは、この場所を見れば一目瞭然というわけです」

「キョウの爪は硬いなの」

「あっ、本当だ。牙もあるよ京!」

「キョウ、つよい、なる!」


 どの街にも、ギルド組合所には多くの個室が用意されているらしい。

 個室とはいっても広さはそれぞれで、ここでも10人は余裕でくつろげる広さだ。


 それに気だるげに喋るエリファスさんの声だって、防音性の高い室内から漏れることは無い。


「それでーあんだっけーあれだろあれーあーあーあーーーーーーー」

「変異の原因を突き止めるなの」

「あれあれそれそれさっすが以心伝心!」

「そうです! ですから魔術士様のお力添えをしていただきたく、カイト様にご協力をお願いしたのです」

「はーーあーー魔術士の力なんざどうやって借りんだよー」

「ですから、その為に貴方様を――」

「エリファスは魔術士じゃないなの」

「――お借りしたく……………………今なんと仰いました?」


 そんな中、爆弾は落とされた。


「えっ…………えええ!?」

「まっ、魔術士様は魔術士様じゃないんですの!? でも一体どういう……ガユル森林には昔から魔術士様が住むのではなかったのですか!?」

「魔術士だったのは、先代のクロウリー卿までなの」

「それじゃあエリファスさんは魔術士じゃない……!?」

「なんやの、知らんかったん?」

「俺は魔術士だって名乗ってねーしむしろ否定してたしさてはカイトうっかりさんだなーこのこの! クソ王女は自らを省みろ」


 僕らが魔術士だと思っていたエリファスさんは魔術士じゃなく、しかも頼みの綱だった本当の魔術士はもう居ないと言われてしまって。


 これはもう、どうしようも無いんじゃ――……い、いや、諦めちゃダメだカイト!


「それじゃあ変異の原因は一体どうやって突き止めれば良いのでしょう……」

「んなもん自分で考えろや」

「僕も、その、考えるので、一緒に考えてくれませんか……?」

「うーーんもう一声」

「考えてなの、エリファス」

「オッケーオーライオールライト二人の頼みならこのエリファスが受け入れてやろう見よこの包容力を惚れ直してくれてもいいんだぜ!」

「あんさん、ほんま変わらんなあ」


 マリアさんは和やかに笑い、京はフェイの膝の上でコロコロと喉を鳴らして。


 僕とリジーさんは揃って頭を捻らせた。


「っつっても、手がかりが無いことには流石の俺も手は出せねーぜ」

「2人組という点では探せませんか?」

「バーーーーカお前この世に2人組なんざどのくらい溢れてると思ってんだよサカズキすら許容できない量だっての少しは考えてモノを言えバーーーーーーーカ」

「に、二度もバカだなんて言わなくても……」

「手がかり……その人の持ち物だったり、留まっている場所、だったりですか?」

「正解者カイトに120点満点プレゼント!」


 僕たちがするべきこと。

 ひとまずそれだけは決まった。






 ギルド登録が完了したとのアナウンスが入り、僕らは直ぐにでも手がかりを見つけるべく外へ出た。


 手がかりを見つけるとは言っても、解っているのは白と黒の2人組ということだけで。

 手がかりの手がかり、なんてものに心当たりもありはしない。


「どうやって探すなの」

「うん……えっと、バラバラに別れて探せばどうかな、って」

「1人ではなく2人ずつではどうでしょう? 例えば、私とカイト様が――」

「クソ王女にしてはいい案じゃねーか採用してやろう俺はフェイたんと組むからカイトはキョウ氏とんでもってマリアっちはクソ王女とよろしくどうぞ決定だ」

「――うう……解りましたわ」

「あんまし落ち込まんとき、エリザベス王女様」


 日が落ちる頃にまたギルド組合所で落ち合う。


 そう決めた僕らは、進んだ先に見えた十字路で一時いっときの別れを告げた。



 エリファスさんとフェイが真っ直ぐに。

 リジーさんとマリアさんが右方向に。

 僕と京が左方向に。

 それぞれが、歩みを進めた。



 ドンッ。



 角を曲がった途端、僕は誰かとぶつかってしまう。

 顔を上げればそこに、真っ白なスーツを着たお爺さんがいた。


「痛っつ……あっ、ごめんなさい! お怪我はありませんか!?」

「私は大丈夫だよ。それよりも君だ。転んだようだが、どこか擦りむいたりはしていないかい?」

「えっと、僕も大丈夫、です」

「そうか、それは良かった。人を探していたものでね……よそ見をしてしまったようだ」

「こちらこそ、見てなくて、すいません」

「いいさ、お互い気をつけようじゃ無いか」


 気さくに去っていったその人は、年齢を感じさせない姿勢で歩いて。

 髪も黒く、白いハットに良く映える。

 真っ直ぐに伸びたお爺さんの背中は、なんだか大きく見えて呆然としてしまった。






 そして、僕はといえば――


「……気をつけないと」


 ――久しぶりの不運にうまく対応出来なくて、足に力が入らなくなる。



 それと同時に、奇妙な既視感が頭の中で生まれていた。




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