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No.036 己の欲する所を人に施せ

「ごしゅじん! キョウ、はなし、きく!」


 京はフェイの頭にちょこんと座り、ここぞとばかりに元気いっぱいだ。

 最近気が付いたら眠っているけれど、起きているときは今まで以上に気力に満ち溢れていて。


 そんな京を見ていると、やっぱり僕は嬉しくなってしまう。


 でも、なんでわざわざ京を呼んだんだろう?


「こうなればキョウ氏の願いを聞こうじゃないかさあ言うがいい白き者よ!」

「キョウ、ねがい?」

「君はなにをしたいのか、どうなりたいのか。それを言えばいいなの」

「キョウ、したい、なりたい?」


 そうか、エリファスさんは僕の代わりに京の願い事を叶えてくれるんだ。


 京の願いが、僕の願い。

 それを解ってくれたエリファスさんは、やっぱり凄いなあ。


「キョウ、ごしゅじん、なる、ちから!」

「カイトを助けられるようになりたいらしいなの」

「京……!」


 そんな……京がそんなことを考えてくれていたなんて。

 僕を助けたいと思ってくれていたなんて、これっぽっちも知らなかった。


 なんたって僕は、いつも京に助けられている。

 この世界に来てしまった時だって、京を探す為に僕は立ち上がることが出来たんだ。


 これ以上無いくらい、彼は僕の支えであることに変わりない。



「こいつら揃いも揃って神の使いかよオーケー任せな」



 エリファスさんは生き生きと肩を回し、そして口角を最大まで上げて。


 そんな彼の周囲に突然風が巻き起こった。

 室中だというのに、一体何処から入り込んできたのだろう。



 その中心にいる彼の口から紡がれるのは、言葉を成さない低い音。


 僕が聞き取れたのは、ほんの僅かな一節のみ。




「|To Mega Therion.《ト・メガ・セリオン》」




 そして、再び状況が変わる。



 “何か”が起こったのはエリファスさんじゃない。


 彼ではなく、京の全身が光に包まれた。











 突如僕の視界を覆った白い壁。


「キュウ?」

「京……なのか?」


 それは勿論壁じゃなく、息遣いと共に動いていて。


 見上げればそこに、何処か親しみを覚える顔があった。


「ごしゅじん、ちいさい?」

「違う……違うよ……京が大きくなったんだよ……!」


 両手に収まる程に小さかった京が。

 僕の肩や鞄の中で眠れる程に小さかった京が。


 両腕を広げても後ろまで届かない。

 見上げなければ顔も見えない。


 この部屋を埋め尽くす程、京は大きくなっていた――


「うぎゅう……」


――だけではない。


 太く大きな四肢や背面を包む翼は窮屈きゅうくつそうに押し込まれ、彼の姿はあの生き物そのもので。



「京、君は――ドラゴンだったのか……っ!」



 小さいけれど頼りになる僕の相棒ともだち

 その彼の姿はもう、トカゲと呼ぶには大きすぎる。






「なっなな、なんで、京……えっ!?」

「なんだカイト知らなかったのかよキョウ氏はドラゴンの幼体だったんだぜ」

「でも、だって」

「魔力詰まりしてて成体に成れなかったんだろうな故に俺がその原因を取り除いてやったわけなのだよどうだ凄いだろう! つーかそろそろ貯蔵量が限界そうだったんだよなそんな傾向あっただろ」

「傾向……もしかして、いっぱい食べたり、気が付いたら寝てたり、とか」

「That’s rightそうだその通りだぜそんで最後の最後で俺が手伝ってやっただけだから実質キョウ氏の賜物たまものってことで完結しておこう俺ってば最高に謙虚じゃん」

「キョウ、くるしい」

「しかしここまでデカいとは流石の俺も予想外だフェイたん何処行った無事かいエンジェル!」


 フェイの返す声は聞こえてくるけれど、それが居所を教えてくれるわけではない。

 リジーさんやマリアさんの驚く声も響いてきて、僕らは身動きすら出来なくなっていた。




「あーーーーくっそしゃあねえ出血大サービスだもってけ聖人君子共! ――Vi Veri Vniversum Vivus Vici!!!」




 エリファスさんが半切れしたように声を上げて。

 すると今度は部屋全体が光に包まれ、次の瞬間僕らは圧から解放された。



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