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No.035 水は方円の器に随(したが)う

 戻ってきた僕を待ち受けていたのは、楽しそうに話を弾ませるみんなの姿。

 ああでもない、こうでもないと言葉を交し合うみんなはもうすぐ、同じギルドの仲間になるんだ。


 その事実が現実味を帯びてきて、心に広がる熱が温度を増した。


「だっから何言ってんだよクソ王女そんな名前がまかり通るか人生やり直せ!」

「リーダーはカイト様なのですから、いではありませんか!」

「フェイもそれには賛成できないなの」

「幾らカイトはんのことが好きや言うても、それは考え直すべきやと思うえ?」

「ごしゅじん! りーだー!」


 なんだろう、話し合いって言うよりは言い合いのような勢いだな……?


「何を話してるんですか?」


 恐る恐る声をかけると、彼らは勢い良く振り返って僕を見た。

 うーん……どういうことなんだろう?


「カイトも嫌だろあれは!」

「いいえ、カイト様ならお気に召して頂けるはずです!」

「フェイはカイトの感性を信じるなの」

「カイトはんも何か言うたって」

「ごしゅじん! おかえり!」


 みんな何に対してそんなに一生懸命なんだろう。

 話の内容から察するに、僕に関係のあること……?


「えっと、何の話、ですか?」

「良くぞ聞いてくれたそれを待っていた今俺たちの間で白熱している問題それはそうギルド名をどうするかについてだぜカイト!!」

「ギルド名……それが何で僕の話に?」

「ギルド名は解りやすい方が好まれるなの」

「せやから、一般的なギルドっちゅーんは大抵リーダーの名前が入っとるんよ」

「ですから私がそれを提案したのですが、皆様が怒涛の如く却下されて……」


 なんていうか……うん、その内容を聞いてはいけない気がする。

 けれど聞かなければ話は進まない、のかなあ。


「えっと、その……リジーさんは、なんてギルド名を?」

「はい、それは勿論――」


 眩しい笑顔。

 可愛らしい笑顔。

 見ているだけで元気をもらえるその笑顔。


 それとは反面に、みんなは何故か閉口している。

 そんなことを気にも留めない彼女は僕を目の前に、何の恥ずかしげも無く口を開いて。



「――キング・カイト組ですわ!」



 僕の開いた口は塞がらなかった。






「だっから言っただろうがそんな名前付けられた日にゃカイトは羞恥心で死ぬってお前そんくらい解れよなクソ王女恋盲目も程々にしろっての」


 我に返って断りはしたものの、何故かリジーさんは納得していない様子で。

 だけれど言葉を続けるエリファスさんの尽力のおかげか、漸く理解はしてくれた。


「ほんなら仕切り話名前会議やて――そらなんどす? カイトはん」

「あっ、そうだ! 僕、あの、買ってきたんです、これ!」

「おー待て待てなんだそれ見たことあるぞちょっと待ってろ確か名前は」

「中華まんなの」

「そうだそれそれ!」


 温かい湯気が立ち上がるチュウカマンは、美味しそうな匂いも辺りに漂わせている。

 それが食欲を誘い、ロクにご飯も食べていなかった僕らのお腹を刺激した。


 ぐぅ~。


 広い休憩所で。

 僕らしか居ないこの場所で。

 ほぼ同時に鳴ったお腹の音は、同時に笑いも引き出した。


 数日振りに食べるチュウカマンはやっぱり美味しくて、それ以上に心が温かくて。

 みんなで食べるおかげかな……なんて思ってしまった。


 けれどそれは決して、的外れではないだろう。


 初めて“仲間”と呼べる人たちが出来た。

 初めて“仲間”と食事をした。

 そして初めて、“仲間”と何かをやり遂げる。


 それがこんなに嬉しいことだなんて、あの世界に居たままじゃ何も解らなかった。




 どうして僕がこの世界にやってきたのか。

 どうして僕のステータスが反転していたのか。

 どうして僕にこんな幸運がやってくるのか。


 相変わらず解らないことは尽きないけれど、それでも僕は立ち止まらない。

 前へ進むと決めたんだ。


「良い顔になったなの、カイト」


 横を見ればフェイが立っていた。

 手には未だ湯気の立つチュウカマンを持っていて。

 あの時と同じように、彼女は僕に笑ってくれた。


「ありがとうフェイ」


 全ての始まりは、君が僕に出会ってくれたことだ。


 あの日フェイが僕の目の前に現れたからこそ、僕はここに居るみんなと出会えたんじゃないだろうか。

 そんな気がして、あの日どもってしまった言葉を口にする。


 今度こそちゃんと言えた感謝の言葉。

 あの温かくなった気持ちを、きっと返すことが出来たんじゃないかな。



 だからこそ僕は今、心の底から笑えていることだろう。






「ラブコメの波動を感じる」

「っ、エリファスさん!?」

「幾ら百合が素晴らしいといっても俺の介入が無いならそれは許されないそうせめて俺が壁となっている間に繰り広げるが良いさあ今だどうぞ遠慮無く!!」

「えっと……え?」

「意味が解らないのかカイトお前それでも本当に男かよいいさ俺がその意味をじっくり教え」

「カイトはそのままでいて欲しいなの」

「フェイたんの頼みなら致し方ないぞい合点承知の助!」


 何の気配も感じさせず混ざってきたエリファスさんは、相変わらず声高々と楽しそうだ。

 激しさすら感じさせる動きをしているというのに、被っているフードが脱げる気配は無い。


「何か用なのエリファス」

「良くぞ聞いてくれましたマイフェアリー俺の嫁」

「ああ、フェイに用があるなら、僕は向こうに行ってますね」

「いやいやいやいやそれは違うぞカイト俺の話し相手すなわちそれはお前だってばさ!」

「僕に、ですか?」


 改まって話なんて……もしかして僕、何かやらかしたかな?

 あのチュウカマンが気に入らなかった、とか……そんなわけ無いか。


「友達の気持ちを汲んだ俺は友達としてその気持ちを返そうと思ったわけなのだよカイトくんよってお前の願い事を言うのだ世界のことわりを無視してでもその願いを叶えてやろうそうお前の友達のこの俺が!!」

「その……つまり」

「素直にありがとうって言えばいいなの、エリファス」

「俺のモットーは思い立ったが吉日それ以外は強運悪運まっしぐらだってことを忘れてもらっちゃあ困るぜ!」

「初めて聞いたなの」

「俺とフェイたんの間に言葉なぞ不要……っつーことで問おうお前の願いは何なんだ」

「願い事……って、言われても……」


 僕の願い事って何だろう。

 改めて考えてみても、これといって特には浮かんでこない。


 僕の一番の願いは京が幸せであることだったし、それは現状最高の形で叶っている。

 それどころか色んな人たちに恵まれて、僕自身もこんなに幸せだ。


「カイトの望みは俺の聖杯へと注がれるぜやったねフェイたん!」

「……特に思いつかない、です」

「Oh……なんてこった聖人かよお前……」

「だって僕は今、凄く幸せなんです。それも全部、エリファスさんたちのおかげで……。ありがとうございます、っ!」


 驚くことに、感謝の言葉がすんなりと出てくるようになった。

 これもひとつの成長かな?




「俺のおかげ……俺の……」

「エリファスさん?」

「……フェイたん、キョウ氏をここに」

「解ったなの」

「フェイ?」


 ……一体何が始まるんだろう。






 今までと同じように不思議には思ったけれど、今はもう、そこに不安は感じなかった。


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