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No.031 立て板に水

 10畳ほどのこの座敷には、僕らだけしか存在しない。


「盗み聞きのようになってしまい、申し訳ありません」

「ええのええの。アタシがそこに待たせといたんやし、そんくらいで怒るほど心は狭くないはずどすえ」


 開口一番頭を下げるリジ―さん。

 それをフォローするマリアさん。

 完全に口を閉ざして明後日の方向を見つめるエリファスさん。

 京の手を取って遊びだしているフェイ。

 そして何も出来ないでいる僕、カイト。



 ………………うん。どうしよう。何をすれば話が進むのか、全く解らない。



「なあ、エリファスはん。聞いてはるん?」

「キイテルゼヨ」

「ほんなら別にええやろ? 王女様連れてっても」

「マッコトキョウミガモテナイゼヨ」

「そらええ言うことやな」

「オカエリネガウゼヨ」

「アンタもなんか言いなや、カイトはん」

「うえっ、僕ですか……!?」


 突然話を振られて変な声が出た。


「えっと、その……リジ―さんはお姫様、だし……そんな危険なところに連れて行くのは……」

「そうだそうだー!」

「その点に関しましては問題ありません。私も冒険者の端くれですので、自分の身は自分で守れます。足手まといにもなりません」

「え、えっと……それじゃあ、その、いい、のかな?」

「ダメだカイト流されるな!!」

「エリファスはんは黙っとき」

「カイトを仲間に引き入れたいなら俺を倒してからにしろ!」

「ほんならフェイはんはどうや?」

「フェイたんもダメに決まってんだろマリアっち!!!」

「……ええわ、ほんならアタシにも考えがあるさかい」

「そう来るなら俺にだって考えはあるさ」


 神妙な面持ちで言い合ったかと思えば、ふたりして部屋の外へと出て行った。

 それを見て驚いたのは僕とリジ―さんだけで、フェイはまた眠っている京のお腹をくすぐって遊んでいる。


 えっと……追いかけなくて、いいのかな?


 閉じていく扉を眺めながら、僕とリジ―さんの視線がかち合った。


 どうすればいいのかなんてやっぱり解らないけれど、ここであの人たちと別れてしまっては何も出来なくなってしまうことだけは確かで。


 ほとんど同時に頷いた僕らが扉へ向かうと――しかし、それは突然開かれた。



「第2,017回!」

「どっちがYou Show? 選手権~!」

「ドンドンパフパフゥッ!!」


 さっきまでの重苦しい雰囲気はどこへやら。

 楽し気に跳ねた声が、部屋の中で響き渡る。



 ………………仲良しだなあ、あのふたり。






「説明しよう! “どっちがYou Show?”とは!」

「アタシとエリファスはんの分かれた意見を、どちらが寄り世間んニーズに合っとるんかを勝ち取る戦いなんやよ」

「そう! 世間のニーズとはつまりフェイたんとカイトの賛同を得たほうが優勝なのさ!!」



 “慣れ”とは凄いもので、僕は長い間過ごしていた“あの”環境に慣れていた。

 そして今、それとは正反対とも言える場所に居るというのに、僕らはそれに慣れてしまっている。


「あの……どうされたんですの?」

「僕にも良く解りません……」


 凄いと思う反面、慣れるということはつまり――油断を招くと同義らしい。


「第一答! 俺とマリアっちの」

「マリアが優勢なの」

「お願いフェイたん俺の話を聞いてくれ」

「私はどうすれば良いのでしょう?」

「クソ王女は黙ってろ!!」

「今のでカイトを敵に回したなの」

「待て待て今の無し黙りやがれ下さいクソ王女これでどうだ」

「カイト、フェイと一緒に部屋から出るなの」

「フェイたんはいつもそうやって俺じゃなくマリアっちの加勢をするんだ知ってたぜちくしょう結婚してくれ」

「フェイはんやて、アタシん味方ばかりやないで?」

「フェイは聞きたくない方を聞かないだけなの」

「俺の嫁が出来すぎて今日も生きていけます!!!」


 その会話が僕に何かを仕掛けてくることもなく、そしてしばらく続くのだろうと、そう思っていた。


「オーケー良いだろうフェイたんとマリアっちの要求を加味して俺の意見はまとまった第9,841回どっちがYou Show選手権の開幕だっつーことでギルド結成しようぜ! 行け俺のカイト代表は君に決めた!!」

「フェイもカイトもエリファスのものじゃないなの」

「あら、そら名案やないの。アタシと王女様も入れたって。なあ?」

「はい! 私も入れてほしいです!」



 えっと……………………………………なんて?



「そうと決まれば思い立ったが吉日それ以外は大凶悪運まっしぐらだってばよカイト!」

「今回はアタシの負けよし、ほなさっさとやってしまおか」

「メンバーはここに居るメンツでいいなの」

「俺とフェイたんとマリアっちとそしてカイトだろ勿論だともオールオッケー!」

「わっ、私も入れてください、魔術士様!」

「魔術士とか知らねーなー聞こえませーん」

「もう、そない意地悪いけず言いなや」

「意地悪じゃないでーすちゃんと会話してまーす」

「見ている方向はカイトなの」

「そない警戒せんでも、王女様は嘘つけるほど器用やないで」

「猪突猛進で自分の立場もろくに理解せず前線に出たがるド真面目バカだってことは一目見りゃ解るって俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな……フェイたんも嫌だろう! コイツだってあのクソ野郎の言いなりでここに来てるのかも知れねーし!」


 リジ―さんの前でも喋るようにはなったものの、エリファスさんは頑なに受け入れようとはしないらしい。


 そんな彼らの大きな声が目の前で繰り出されているというのに、僕にはそれがどこか遠くの出来事のように思えてならなかった。




 さっきみんなが言っていたことを落ち着いて思い出そう。


 まずひとつ、僕らはこれからミノウ街へ戻る。

 そしてふたつ、ギルド結成提案。


 ……だめだ、ひとつ目からふたつ目に変わるまでの流れが良く解らない。

 今日も今日とて解らないことばかりが増えてしまって、やっぱり僕なんかじゃどうにも出来ない。


 なんで寄りにも寄って、僕なんかが代表になるんだろう。


 エリファスさんもマリアさんも、リジ―さんやフェイだって、僕より何倍も適しているはずなのに。



「おい、聞いてるかカイト」

「……へっ、あ、ああ、はい」

「んで、どうするよ」

「えっと……なにが、ですか?」

「やっぱり聞いてなかったなお前なにボーっとしてんだよ悩み事なら俺に話してみなその根源を撲滅してやろうあのクソ野郎のことだな任せろ!」

「ち、違っ……!」


 悩み事ならいっぱいある。

 あれもこれも、それもどれも。僕の人生は常に悩んでばかりだった。


 けれど、悩んだからって直ぐに解決できることはビックリするほど少なくて。


 やっぱり僕は、今日も解らないことだらけの世界に悩んでしまう。






「あのさあカイト」


 言い淀んでしまった僕に、力の抜けた声が掛けられた。


「何をそんなに考えてんのか解んねーし、解るはずもねーだろうけどさ」


 その声がだんだんと力を増し、ふわふわと漂っていた言葉が矛先をこちらへ定めて――


「解らないからってそこで立ち止まってんなら、お前一生そのままだぜ」



 ――そしてぐさりと、僕の心に突き刺さる。











「そんじゃ早速みんなお待ちかねの独白タイムといこうじゃないかさあ俺の生き様に酔いしれるが良いぞカイト!!!」




 応える声は、どこにもなかった。



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