No.028 目から鼻へ抜ける
「お父様に代わりまして、ここからは私がお話をさせていただきます」
魔術士であるエリファスさんを王都に連れてくることが出来た。
そう報告すれば、王様は直ぐにその場を後にして。
そして入れ替わるようにやってきたリジーさんが言葉を続ける。
「カイト様にはお父様も大いに期待しておられます。ですので、是非とももう一案件をお願い出来ますか?」
断る理由は当然なく、二つ返事で了承した。
嬉しそうに顔を輝かせたリジ-さんは速いテンポで説明を繰り出し、指令書と書かれた紙を手に僕らはお城を後にして。
京とふたり、エリファスさんとフェイが居るはずの城下町へと足を進めた。
「うーん、どうしよう」
ふたりが飛び降りた辺りまで来たはいいけれど、一体どうやって探せばいいんだろう。
エリファスさんは「呼んでくれ」としか言わなくて、どこにいるかなんて解らない。
「……どこから探せばいいかな、京」
「キョウ、さがす、なに」
「フェイとエリファスさんを探すんだよ」
「呼んだ?」
「うん、王様から指令書を貰ったから読んでほしくて――……っ、エリファスさん!?」
「うん? 何驚いてんだよカイト」
「えっ、だって、えっ!? いつの間に……?」
「今だけど」
「今?」
「呼んだだろ」
「確かに呼びました、けど」
「オーケーオーケー取り敢えず堅っ苦しい敬語は無しなカイト。お前が呼んだから俺が来たっつーそれだけだ他に質問はないな良し行こうじゃあ行こう直ぐ行こう!」
腕を引く力は強くて、僕は何も言えないままついて歩くのが精いっぱいだった。
「おかえりなの、カイト」
連れていかれた先は10畳はあるだろう広い座敷。
広々としたこの場所は閑散としていて、僕ら以外の姿は見当たらない。
そんな中でも早々に出迎えてくれたフェイの姿に安堵を覚えた。
「そんで、あのクソ野郎の用事って何だったんだ? 指令っつー言葉がむかつくからそこはNGで」
「……えっと、リジ―さんが言うには――」
『今現在、この王都周辺地区で魔物の生態系が激変しています。どういった目的で為されているのかは未だ判明しておらず、また、危険な魔物の討伐も遅れているのです』
『どうして、そんなことが?』
『詳しいことはほとんど解っておりません。解っていることは、人為的だということ。そして白と黒の二人組という点だけ』
『誰が……何の為に……』
『最初に異常を確認したのは、ミノウ街の森林中腹だそうです。本来居るはずのないユニコーンの姿をみたとの情報から、至るところで様々な目撃情報が入り始めました』
『ミノウ街……それじゃあ、あのカトブレパスも、そのせいで』
『ええ、そこにあるイニー洞窟を起点として、現在も各地で異常状態が続いています』
『イニー洞窟って、まさか……』
『カイト様方にお願いしたいのは、対象の特定、及び真相究明です。その為には魔術士様のお力も不可欠だと思われますが……大丈夫でしょうか?』
「――ということらしい、です」
「へーほーふーん」
「えっと……」
「安心しろよちゃんと聞いてっから。つまり俺はフェイたんとカイトとキョウ氏と心行くまで楽しんでいればいいっつーことだろオーケー任せな!」
「たのしい! いく!」
「さっすがキョウ氏いい返事だ順応性が高いってのはそれだけで最高の取り柄だよな解る解るそんじゃあ早速出かけようぜ!!」
「そんな焦らんでもええんやない? エリファスはん」
今にも飛び出さんばかりに立ち上がったエリファスさんの動きを止めたのは、昨日聞いたばかりの女性の声。
そっと中に入ってきたその姿を見間違えることは無い。
褐色の肌に紫色の髪と瞳。そしてほとんど隠せていない透けた衣服。
間違いなく、マリア・エドゥアルダさんだ。
まさか彼女と再び出会うなんて思ってもみなかった。
何の因果か解らないけれど、まずは挨拶をして、フェイたちを紹介することから始めた方が良い……のかな?
そう思って口を開きかけた、その時。
「おっすーマリアっちじゃん久し振り。なになにいつこっちに戻ってきてたんだよ言えよなー言いに来いよなーマリアっちならいつでも歓迎だぜ???」
「一昨日来やはったばかりやし、明日にやて行こうと思っとったんよ」
「どうせ用事なんざクソ野郎のところだろ? んなもんどうでもいいじゃんほっとけよあんなもん」
「そない言うわけかていかんよ。フェイはんもお変わりあらへんようで何より」
「マリアも元気そうでなによりなの」
親しげに繰り広げられる会話が僕の頭を捻らせる。
みんな既に知己の中、だった……?
「そういやカイトは初対面だっけ? マリアっちは見ての通りおっぱいのデカい踊り子だが森林に仕掛けた俺のいたずらを華麗にかわした過去を持つ上に噓をつかずに会話を誘導する話力を持ち合わせているスーパーウーマンだ!」
「はあい、カイトはん。やっぱりまたお会いでけましたやろ」
「ひゃっ、は、はい。こんにちは……えっと、エドゥアルダさん」
「かなんわあ、マリアって呼びよし」
「え? なに? ふたりとももう知り合いだっての? うっわなんだよもうそれならそうと言えよな知らなかったの俺だけじゃねーよなフェイたんも知らなかったよなよしよしそれなら許してやるぜこんにゃろう」
「カイトはんとはお城で出会うたんよ。宴ん席にご一緒せてもろうてな」
「マリアっち踊ったのかよ」
「アタシは踊ってへんよ。カイトはんのお酌をして、壮大なお話を聞いとった程度やわあ」
「おっとそこで張り合うなら負けねーからな俺もカイトの昔話は拝聴済みだぜ!」
テンポよく繰り広げられる言葉が、声が、雰囲気が。
僕の目の前を行き来する。
「そんじゃマリアっちも俺らと遊ぼうぜ」
「そらええけど、カイトはんはお仕事があるんやろう?」
「クソ野郎のことなんざ後回しで良いんだって最優先事項は俺たちの団結だとかいっときゃ何とかなるぜきっとそうだそうしよう」
「エリファスはんはそれでええんやろうけど、それやとカイトはんが困るんやない? なあ、カイトはん」
「えっ、あ、いや、その……」
「冒険なら、アタシも一緒に連れて行っておくれやす」
「そ、れは、勿論です……!」
「ほな決まりよし。遊ぶんは後回しにして、まずはミノウ街に行きまひょ」
「フェイも行くなの」
「キョウ、ごしゅじん、いっしょ!」
「嬉しいわあ」
「えーーーーーーーーーーーフェイたんとカイトが言うならまあいいかおっし行くぜ皆の衆!」
さっきまで脱線一直線だった王様からの指令が、ものの見事に本筋に戻っていった。
思わず零れた感嘆を聞き取ったのか、マリアさんは僕を見てウインクを流す。
「それにしても黒と白の二人組っつってたけど俺ら間違えられたりしねーよなその点大丈夫だよなフェイたんになにかあったらクソ野郎の城ごと燃やす」
「そんなっ……リジ―さんたちが居るのに燃やすなんて……」
「冗談だって冗談クソ野郎に怨みはあっても兵隊にゃ怨みもねーよだが身内は知らん」
「エリファスの言葉は話半分に聞くのが一番なの」
「それはつまり言葉にしなくても俺の想いは伝わっているということで間違いないなフェイたん!!」
「エリファスはんはコリンのご息女もお嫌いなん?」
「ああ嫌いだね大嫌いだ無関心とかそれ以前に存在を認識してしまっている時点で吐き気がこみあげてくる程度には関わり合いになりたくないね」
「ほんなら丁度良かったわあ」
なにが“丁度”なのだろう。
そう問う暇はなく、彼女は扉の外へ視線を向けた。
「もうひとり一緒に行きたい言う子が居るんやけど、かまへんやろ?」
マリアさんの言葉に促されて、ひとり分の影が顔をのぞかせる。
金糸の髪に純白のドレスをまとったその姿――きらびやかな彼女の名は、
「どうしてここに……!?」
話の渦中に居たエリザベス・コリン、その人だ。




