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No.027 蛇が蚊を呑んだよう

「おはようカイトさあ起きるんだ清々しい朝だぜフェイたんお手製の朝飯が君を待っている!」


 賑やかなエリファスさんの声で目が覚めて。


「えっと……エリファスさん、どうしたの?」

「ご飯時は静かにさせているだけなの」


 黙々とフォークを進めるエリファスさんとフェイと一緒にご飯を食べて。


「ほら、京。そろそろ行くから起きなよ」

「ごしゅじん、おはよう。キョウ、おなか、すく……」

「京の分のご飯はちゃんと取ってあるから、歩きながら食べよう」


 最近よく眠る京を起こして。


「さてさてそれじゃあ俺とフェイたんとカイトのランデブーがついに始まるぜ! ところでフェイたんはいつになったら俺が贈った服を着てくれるんだそろそろデレるには良い頃合いだと思うんですがそれは??」

「重くて動き辛いなの」

「それはつまり一度は着たってことでファイナルアンサー! 次は動きやすさも重視すっから!」


 再び賑やかになったエリファスさんと相も変わらず落ち着いたフェイ、そしてうつらうつらとしている京とみんなで外に出た。



 次へ次へと話題を変えながら話すエリファスさんは、外でも変わらずフードローブを身に纏っている。

 フェイも初めて会った時と全く変わらぬ装いだ。


 森林は夜に通った恐怖を感じさせず、温かな日差しがさんさんと僕らに降り注いでいる。

 しばらく歩いて、ようやく出口が見えてきた。


「あっ、リジーさんもう来てる……!」

「――そうなったからには俺はもう…………リジー?」

「えっと、僕らをここまで連れてきてくれた、エリザベスさん、です」

「……へえ」


 あんなに嬉々としていた声色が、その名前を聞いた途端低くなる。

 それから嘘みたいに閉口して、フードを目深にかぶりなおした。


 どうしよう……なにか怒らせてしまったかな……。


「あの、エリファスさん……」

「カイトのせいじゃないなの。エリファスは師匠を追放した王族を嫌っているだけなの」

「師匠を……?」

「……フェイにとってもクロウリー卿は必要な人間だったなの。だからフェイも、好きにはなれないなの」

「……?」



 それから黙りこくったふたりを余所に、京は美味しそうに林檎をほおばり続けた。






「カイト様! ご無事で何よりです」


 森林を抜けると、安心したようにリジーさんが駆け寄ってきた。

 ひとしきり僕らの心配をしてくれた後、視線は後ろへと向けられる。


「凄い……凄いですわカイト様! 幾多の冒険者様が断念して戻ってきたといいますのに!」


 ふたりの姿を見て、彼女は身なりを整えて更に続けた。


「お初にお目にかかります、魔術士様。私、コリン王家第一王女エリザベスと申しま――」


 そして、言い終わらない内にエリファスさんが歩き出す。

 頭を下げたリジーさんの横を通り抜けて、その先に待つ馬車に乗り込んだ。


「えっ、あの」

「ここで話していても時間の無駄なの」


 フェイは京を抱えて歩き出し、この場に残されたのは僕らふたりだけ。


「……その、すいません」

「いえ、カイト様が謝ることではありません」


 全員が馬車に乗ったところで動き出したけれど、この重苦しい沈黙が永遠かのように思えたのは言うまでもない。






「ご苦労様です、カイト・サカイ様。おや、おひとりですか?」

「えっと……その、ですね。実は」

「回想なら王の元へ向かいながらするとしましょう」

「えっ、ちょっ」




 城下町を通り、もうすぐお城に着く頃。

 エリファスさんはそっと僕にささやいた。


『あのクソ野郎を殴ってやりたいのは山々なんだけどいかんせん加減が出来そうにないからカイト頼むわ。俺とフェイたんはここら辺に居っから終わったら呼んでくれすぐに行く』

『そんなっ……一緒に来てくれるんじゃ!』

『カイトに協力はするから安心しろ。んじゃまた後でな』


 それだけ言って、エリファスさんはフェイを軽々と持ち上げて扉を開く。


 未だ動き続けている馬車の、その扉を。


『嘘……待っ――!』


 小さく手を振るフェイは当然のようにそれを受け入れている。

 そして次の瞬間には、彼らは僕らの前から消えていて。


 ただひとり、フェイの横で座っていた京だけがすよすよと眠り続けていた。




「なるほど、つまりカイト・サカイ様はまたおひとりになられたわけですね」

「キョウ、いる!」

「失礼、キョウ様とおふたりになられたわけですね」


 王様の居るあの部屋に再び僕らを案内して、イッシュさんは直ぐに来た道を戻っていく。


 目の前には仰々しい扉が。

 扉前の左右には城兵さんが。


 ゆっくりと開いていく扉を見つめながら、あれからまだ1日しか経っていない事実に気が付いて。


「成果を申せ」


 響き渡る王様の声が、扉の閉まる音をかき消した。




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