No.026 人生意気に感ず
「おかえりフェイたん!!!」
「フェイが何でここに……! いや、それよりも、魔術士さんがおかしくなって……」
「エリファスは昔からおかしいなの」
「おっと無視かなフェイたん!!! 今日は早かったじゃん何してた? 俺はもちろ」
「え、えっと……でも」
「気にしないで、ソファーにでも座るといいなの」
「って待って待ってなにそれどういうこと何でそんなに親しげなんだ!?」
「カイトはフェイの友達なの」
「やっと俺を認識してくれてありがとうフェイたん。さっきの話だと友達は居ないということになるはずだよなその辺経緯を詳しく」
「ええ……その、こっちに来て、すぐで」
「こっちってどっち? そっち? あっち?」
「カイトと友達になったのはついさっきなの」
「ガッデム!!!!! 俺が最初の友達になると思ったってのに!」
「友達……って、ええ!?」
「カイトにはフェイだけじゃなくて京も居るなの」
「何てことだ……こんな馬鹿正直な人間の最初の友達になって有益な関係を築こうと考えた俺の名案が!」
「話が見えな……って、僕らもう、友達なんですか……!?」
「ああそうだ俺が決めた今決めたそう決めた! して、話には出てこなかった京なる新キャラについて説明願おうじゃないか!」
「遭遇順番的には、エリファスの方が新キャラなの」
「俺が新キャラ? ……それいいな。ニュータイプの香りがする。俺こそが新しい人類になるべきなんじゃ」
「……京、起きて。お願いだから」
「……きゅう」
「おはようなの、キョウ」
「ごしゅじん、フェイ、おはよう」
「ファッ!? 魔物じゃねーかこれで道は開けたぞ!!」
「きゅっ!?」
「エリファス、キョウを驚かせないなの」
「おっとこれは失礼しましたしかしこれで俺のルートは完全確立! キョウ氏は魔物だしフェイたんは俺のエンジェルだしフェアリーだしよって人間としての友達第1号だそれでいこう!! そうと決まれば愛称だな、さてどうすべきか。カイトたん? カイトっち? どれもいまいちしっくりこねーな……フェイたんもいい案あったら言ってくれていいんだぜ!!」
………………なんだろう、これ。1か月分の会話を向けられた気分だ。
あんなに感じていた恐怖が一瞬にして吹き飛んで、刺さるような低かった声もハイテンションに繰り出される。
フェイが灯した室内灯のおかげで自分のいる場所は解ったけれど、状況は依然として解らないままだ。
そんな僕を気にも留めず、魔術士さんは僕にまで愛称を求めてきた。
「えっと……普通に、名前が」
「それじゃつまんねーじゃん。カイトだろカイト。カイト……まあそれでいいか。宜しくカイト」
「よっ、宜しくお願いします……その、魔術士さん」
「そういえば俺名乗ったっけいやごめん忘れてたわ。俺の名前はエリファス・クロウリーってんだ。カイトには特別に名前で呼ぶことを許可しよう! なんと言っても今までフェイたんともうひとりしかそう呼ぶ友達は作らなかった!!」
「フェイはエリファスの友達になった覚えはないなの」
「そうそう僕とフェイたんは唯一無二の友達であり俺の――……………………ホワイ?」
あっ、静かになった。
「そんな……俺とフェイたんが友達じゃなかったなんて…………それじゃあやっぱりフェイたんは俺の嫁? なんだそうかそうだったのかおいでマイハニー!」
「マイハニーでもないなの」
「忌々しい神め滅びるがいいッ!!!!!」
そう言うと、部屋の隅でうずくまってしまった。
「フェイ……あの人、友達じゃないの?」
「エリファスとは腐れ縁なの。友達になろうとは言われなかったなの」
「つまり……そう言えばあの人も、その、友達ってこと?」
「今更エリファスと友達になろうとは思わないなの。それに、フェイの友達はカイトとキョウなの。大切な友達はふたりも居れば十分なの」
「僕らが、初めて……」
魔術士さんに機嫌を直してもらいたくて聞いたけれど、僕らの方が嬉しい話をされてしまった。
今のを聞いて、今度は奥の部屋にでも入られたら説得が大変そうだなあ……。
「俺の嫁が楽しそうに談笑している相手がカイトってことは……もう2人とも嫁でいいな幸せかよそうしよう!」
……部屋に留まってはくれるようだけれど、大変なことにはなりそうだ。
その後どうにか声をかけてみると、魔術士さんを立ち上がらせるまでに時間はそうかからなかった。
「魔術士さん」
「……」
「あの、魔術士さん?」
「俺は魔術士さんじゃありませーん」
「えっと……じゃあ、エリファスさん……?」
「俺に用かなカイト」
改めて見たエリファスさんは、僕とは対照的に全身真っ黒だった。
漆黒に見えたローブは暗い迷彩になっていて、唯一覗く顔は青白い。
目元はフードと髪で隠れているけれど、ふわりと揺れれば真っ赤な瞳と目があった。
「その、僕と、一緒に来て――」
「いいよ」
「――ほしい場所が……え、えっ!?」
「どうせクソ野郎の城だってことは解ってっけど、カイトの頼みだから仕方ねー」
「クソ野郎……って、あの、いいんですか?」
「なにが」
「詳しいことは何も言えてないのに……」
ほとんど隠れているせいで表情が読み辛いけれど、彼は驚いたように動きを止め、そして高らかに声を上げた。
「アッハハハハハハ! ハハッ、ハハハ! なに、あのクソ野郎どうしたんだ? 今まで散々つまんねー奴らばっか寄越しやがったくせしてこんな奴を隠してたのか? はっ倒してやりてえなクソが」
最後の一言が最初に聞いた声色と一致して、自然と身体が緊張する。
「カイト、俺のことはどういう風に聞かされた?」
「えっと……『彼の魔術士に対して嘘は禁忌。目を見て真実のみを口にすることが賢明でしょう』って」
「そう、そうだ、そうなんだよ。親切なことに俺からクソ野郎にそう言ってやったんだ。暗に汚い人間を寄越すなってな。それなのに来るやつらは汚ェ嘘吐きばっかりだ。そりゃそうだよな、人間なんて嘘の塊みたいなもんだしよ」
それなのに。エリファスさんはそう続けて。
「今になって、まっさらな正直者が現れやがった。しかもあのクソ野郎から受けた不備だらけの命令に異議も唱えないお人よしだ!」
「あの、クソ野郎ってのは……」
「気に入った、俺はお前が気に入ったよカイト。爺さんを追放しやがったクソ野郎の命令ってとこは気に入らねーけど、お前の世界を見たくなった! 似たような境遇の人間がこうも違う道を行くってのも面白い!」
「爺さん……追放? 似たような境遇って――」
「出発は明朝? んじゃあのクソ野郎の鼻っ柱をぶん殴れそうだな! おやすみフェイたん、カイト! ついでにキョウ氏! 良い夢見ろよ!」
「ちょ、エリファスさん――……ああ、行っちゃった」
すんなり約束出来たのは幸運だったけれど、目まぐるしく変わる話の内容に頭が追いつかない。
気になることが増えて、聞きたいことが山ほど増えてしまった。
「カイトはここで寝るといいなの。おやすみなの」
「あ、うん……おやすみ、フェイ」
……ダメだ。入ってきた言葉が多すぎて纏められそうにない。
今日はもう、ここを借りて寝ることにしようかな。
「なんだか、凄いことになってるなあ……」
とりあえず今は、新たに友達という存在ができたことを喜ぼう。
暖かくなった心は高揚を身体へ溶かし込み、やがて意識をも溶かしていった。




