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No.024 嵐の前の静けさ

 外灯がない森林は真っ暗で、月明かりに照らされるこの場所だけが唯一の道。

 まるでここに木々は存在してはならないと思えるほどに、真っすぐな道が続いていた。


「まっくら。おつきさま、きれい」

「ああ、本当だ。真ん丸だね」


 ここには僕と京しか居ない。

 何の気配も感じないけれど、それがより怖くなってきた僕らは目についたものを口に出す。

 恐怖を紛らわせるように続けた会話は、暫く歩けば段々と減っていた。


 充分に話し終えた頃、真っすぐに伸びていた一本道の先が開けているのが見えた。

 小走りで向かうと、こんな場所に不自然なほど立派なログハウスが僕らの前に現れる。


「……魔術士さんがいる場所って、ここ、なのかな……?」

「おうち、まっくら!」


 扉を照らす明かりもなければ、窓から漏れる光もない。

 完全に真っ暗だ。


「留守なんじゃないかな……そうだったら、どうしよう」


 今から戻るにしても、リジーさんたちはもう居ない。

 もしかしなくても、僕らはこのまま野宿するしかない、のかな……?


「こんこん!」

「う、うん……そうだね、一応、確かめてみよう」


 もしかするともう寝ているだけで、居ないと決まったわけじゃない。

 寝ているところを起こすのも気が引けるけれど、ノックをすることくらいは許してくれるはずだ。

 ……と、思う。


「あの、すいません」


 扉を2回叩いて声をかけてみた。

 返事は無い。


「こんな時間にすいません。誰か居ませんか」


 今度は3回。叩いたあとは声をかける。

 けれどやっぱり返事は無い。


「……留守、なのかな」

「ごしゅじん、ひらく、とびら」

「扉を? 居ないんだったら開かないんじゃ…………あれ、動いた?」


 ドアノブに手を掛けると、それは当然のように深く沈んだ。

 そのまま扉を押せば、不用心なことに何の障害もなく開いて。


「どうしよう……入らない方がいいかな」

「おじゃまします!」

「……お、お邪魔、します」


 こんな時でも京は楽しげだ。

 僕が戸惑っていても、彼が行くなら僕も行くしかない。


 なるべく音を立てないように入った部屋の中は、外から見た通り真っ暗だった。

 僅かに入り込む月明かりが家具の輪郭りんかくを浮かび上がらせてはいるけれど、気軽に動き回れそうにない。


 そう思って、外に出ようとした時だった。


 バタン、と勢いよく扉が閉じる。

 ドアノブを押しても引いてもビクともしない。

 窓から漏れる光も完全に見えなくなり、僕の視界は真っ暗な闇だけを映し出した。


「京! ちゃんといるよな!?」

「ごしゅじん、キョウ、いる! みえない!」

「絶対に動いちゃ駄目だからな!」


 こんな中で離れてしまえば、お互いを見つけ出すなんて困難だろう。

 第一、突然のことにどうしていいかも解らない。


 部屋の明かりが急に消えることは今までだって何度もあったけれど、この世界に来てからは初めてだった。


 何も解らない暗闇で、むやみやたらに動いてはいけない。

 それだけは嫌というほどに理解していた。




 そして、再び状況は変わる。




 ポウッ、と目の前が明るくなった。

 光源を見やれば、青白く浮かび上がる炎がひとつ。

 ひとつ、またひとつと部屋の中に浮き始め、気付けば僕らの周りを炎が囲っていた。


「これは……!?」

「誰だ」


 何処からか声が聞こえて、とっさに身構えてしまった。

 よくよく考えたら勝手に入り込んだのは僕の方で、声の主はこの家の住人――つまり、魔術士さんかもしれない。


「えっと……勝手にお邪魔して、すいません。魔術士さん、ですか?」

「誰だと聞いている」

「カッ、カカ、カイト・サカイです! ごめんなさい!」

「キョウ、なまえ、キョウ!」


 刺さるような低い声。

 名前を言い終えた僕らの前に、いつの間にか人が居た。


「俺に何の用だ」


 暗くて良く見えないけれど、それ以前に全身を覆ったローブが顔も身体も隠している。

 目元は真っ黒な髪で二重に隠され、唯一見える口元は何の感情も読み取れない。


「お、王様に、魔術士さんを連れてくるよう、に、頼まれて」

「は?」

「ごっ、ごめんなさい!」


 刺さるというよりも、抉り取られるような気さえしてきた。

 具体的に言えば精神を。


 こんなんじゃ、絶対についてきてもらえないよなあ……。


「すいません、勝手に入って……帰ります」

「待て」

「はい、お邪魔しまし……えっ?」


 今夜は森で野宿でもしよう。幸いここは魔物も出ないみたいだし。


 そう思って、逃げたい一心で頭を下げると、予想外に止められてしまった。


「えっと、本当にすいませ」

「話せ」

「えっ」

「話せ」

「え、な、なに、を?」

「何でもいい。暇潰しだ」

「……じゃあ、お伽噺、とか」

「つまんねえ」

「ええ……でも他には……」

「お前の人生でいい。いや、それがいいな。話せ」

「なんで、僕のことを……」

「は?」

「はっ、話し、ます!」


 京に手を伸ばすけれど反応は返ってこない。

 最近よく寝てるけど、また寝てるのかな……羨ましい。僕も今直ぐ寝てしまいたいよ。


 当然僕がこのまま眠れるはずはなく、一歩も動くことが出来ないまま話す事になった。

 目は見えないけれど、イッシュさんの言葉通りに彼を見て。



 ――楽しい話なんて微塵もない、僕が家を出るまでの話を。






「へえ、鬼の子」


 僕は両親に見放され、完全に独りぼっちになってしまった。


 そこまで話してようやく、魔術士さんが声を発して。

 だけどその内容は、僕があまり触れてほしくないところだ。


「不吉、ですよね。僕も、その……」


 どうにか笑えるように出来ないかと思ってみても、結局は何も言えずに声も小さくなってしまう。

 トラウマとして植え付けられたその言葉を、笑うなんて出来なかった。


「奇遇だな。鬼の子ならここにも居るぜ」

「…………えっ?」


 だからこそ、明るく言い放たれた言葉を理解するのに時間がかかった。

 決してほがらかではないものの、悲壮感ひそうかんなんて微塵みじんも感じさせない言い方。


「それって、一体……」


 誰のことを言っているんだろう。

 言葉通り、本物の鬼の子を指していそうな声色が恐怖を生み出した。


 もしかしたら子鬼のことを指しているのかもしれない。

 この世界ではまだ見たことは無いけれど、彼と一緒に暮らしてたりするのだろうか。


 それはそれで怖いけれど、もしそうならリジーさんが言っていた「強力な力を持つ者」という可能性もある。

 なんてことはいくつも思い浮かぶけれど、魔術士さんが口を開かない限りは「可能性」のままでしかない。


 たっぷりの時間を取って、ゆっくりと口角を上げた魔術士さんが答えを紡ぐのを、僕は緊張しながら待ち受けた。



 カチリ。



 瞬間、視界が真っ白に覆われる。

 眩しい。何も見えない。


 その代わり、つい先ほど聞いたばかりの声が聴覚を揺さぶった。


「夜は電気をつけるなの、エリファス」


 その声はまさしく、僕を友達だと言ってくれた――



「おかえりフェイたん!!!」



 ――えっ!? 今の声って……魔術士さん!?




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