No.023 言うは易く行うは難し
「お待ちしておりました、カイト様。そちらが新しい装備なのですね!」
短く古ぼけた剣は、銀色に輝くヘラクレス剣に。
長方形で重かった盾は、ゆっくりと弧を描くヒーターシールドに。
マントの下の衣服も加護が付いているものに変わって、慣れ親しんだ装備は全部マスターさんに回収されてしまった。
ちなみにフェイは用事があるとかで、僕らはマスターのお店で別れた。
どうというわけでもないけれど、ヒーターシールドはカイトシールドとも呼ばれているらしい。
その名前になんだか親しみを覚えてしまった。
「そろそろ日も沈み切ってしまいます。その前に王都を抜けてしまいましょう」
微笑むリジーさんに背中を押され、僕らは馬車へと乗り込んだ。
「お父様には困ったものです。こんな役割をカイト様にさせるだなんて」
「いや、そんなことは……」
「そんなことはあるのです! ガユル森林は魔物こそ少ないですが、その奥地には強力な力を持つ者が居るとの噂で……」
「それは……魔物ですか?」
「詳しいことは私も知りえていないのです。ガユル森林について解っていることは、そこを縄張りとする魔術士様がいらっしゃるということだけで」
「魔術士……って、凄い人、なんですか?」
「ええ、それは勿論です! 何と言っても、我がコリン王家の誇る魔術士様なのですから! ……と言っても、私はお会いしたことがありませんし、これからもお会いすることは無いと思われます」
「えっ、一緒に行かないんですか!?」
「非常に残念なのですが、私はガユル森林の入り口までしかお供出来ないのです。正確に言うならば、入ることが出来ないのです」
「それは……門番に止められるとか、そういうことですか?」
「いいえ、ガユル森林に門番はおりません。ただ単純に、魔術士様はコリンの血筋の者がお嫌いなようなので」
寂しそうに目を伏せ、リジーさんは胸元を握り締めた。
そして何かに気が付いたように手を放し、溜め息をひとつ。
「……どうかしましたか?」
「あっ、いえ、どうということもありません。ただ、ずっと大事にしていたお守りを失くしてしまって」
「お守り……どんなものですか?」
「ロケットです。金色の鎖に繋がれた、円形のロケットペンダント。先日、烏に持ち去られてしまったのです」
金色のペンダント? なんだろう、記憶に引っかかるような……。
それに、コリン王家って言葉にも聞き覚えがある気がする。
「……もしかして、あのネックレスじゃ――」
唐突に思い出した。
僕がまだこの世界に来たばかりの時のこと。
森の中で転んでしまった僕は、金色に輝くネックレスを拾ったはずだ。
そこに記されていた紋章をみて、確かにフェイは「コリン王家のモノだ」と言ったはず。
馬車以上に揺れるほど慌てて鞄の中を漁ると、それは内ポケットの中にちゃんと入っていた。
布に包んでいたネックレスを慎重に取り出して、リジーさんに確認する。
「そのお守りって、これのこと、だったりしますか?」
「どうしてカイト様がこれを……!?」
何度も瞬いて、僕とネックレスを交互に見やる。
そして向けられた疑問は当然の内容で、いつの日か拾ったことを説明した。
「良かった……良かった。見つかって、本当に良かった」
「泣い、泣いて……っ! ごめんなさい! 僕がもっと早くに渡していれば……」
「カイト様が謝る必要は微塵もございません! むしろ、御恩が増えてしまいましたね」
涙を拭いながら、リジーさんは嬉しそうに笑っている。
悲しいわけではないみたいで、つられて僕も安心した。
「それにしても、カイト様が私の大切なお守りを見つけて下さっていたなんて……やはりこれは、運命なのでしょうか」
「? 今なんて言いました?」
「ふふ。いいえ、なんでもございません。ああ、もうすぐガユル森林に着くようですよ」
絶えず一定のペースで動き続けていた馬車は次第に速度を緩め、そして完全に停止した。
「ここから先、私はカイト様を案内することは出来ません。ですがここからは一本道です。迷うことや魔物が襲ってくることは無いと思いますので、ご安心ください」
「でも、連れ出すなんて、どうしたらいいんでしょうか?」
このガユル森林へ来た目的。
それは、王様に命じられた「ガユル森林に居る者を連れ出す」ということ。
リジーさんの話で、それが魔術士さんだということは解ったけれど……それが解ったからと言って、どうやって連れ出すのかなんてことは解らない。
きっとなにか策があるんじゃないだろうか。
「申し訳ありません……お父様からは何も言伝を預かって居ないもので……」
「そう、ですか……」
どうやら方法がある訳じゃないようだ。
ということは……僕は自分の力でどうにかしなきゃならないってこと?
……いや、無理だよ。無理無理。僕なんかがそんなこと出来るはずがない。
第一目的も解んないのに、何て言って連れ出せばいいんだ?
だけどもし、僕が王様の命令を達成出来なかったら……どうなるんだろう。
……怖そうなことは考えたくないなあ。
「お父様からは無いのですが、イッシュからは言伝を預かっています」
「イッシュさんから?」
「ええ。彼曰く『彼の魔術士に対して嘘は禁忌。目を見て真実のみを口にすることが賢明でしょう』とのことです」
嘘は禁忌。真実のみを口にする。
つまり……なんだろう。
王様に頼まれたことをそのまま説明すればいい、のかな?
「それではカイト様、キョウ様、明朝お迎えに参ります。どうか、お気をつけて」
「いってきます、リジーさん」
「いってきます!」
不安そうに眉根を寄せる彼女がなんだか見ていられなくて、僕らは出来る限りの笑顔を向けた。




