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No.022 順風満帆

「こっちなの」


 再会を喜ぶよりも先に、僕の手を取ったフェイは早足に進んでいく。

 入り組んだ商店街を迷いなく進む彼女についていくと、古い店の前に行きついた。


「入ってなの」


 言われるがまま扉を開けば、まだ昼だというのに店内は薄暗い。

 石造りの内階段を下って、恐る恐る中へと入った。

 そこにもまた扉がある。


 なんだか不気味な雰囲気だなあ。


「えっと……フェイ?」

「PDAをここにかざすなの」

「ぴーでぃーえー……?」


 そう言って、フェイは手のひらよりも大きい端末を扉の横へかざした。

 あれは僕も持っている冒険者の端末だ。

 もしかして、フェイも冒険者……なのかな?


 ピッ、と短い音が鳴り、開いた扉は彼女が入ると直ぐに閉じてしまった。


「ぴっ、ぴっ」


 マントの中に隠れていた京が顔を覗かせ、薄暗い場所にたったふたり。

 手から滑り落ちそうになった端末――PDAを握り直し、フェイと同じように手を動かした。


 ピッ。


 もう一度音がして、扉は横に動いていく。

 この場所と同じくらい薄暗い先へ足を踏み入れれば、フェイがそこで僕を待っていてくれていた。



 長い通路を無言で歩くフェイ。

 僕らも黙ったまま、その小さな背中を追いかけて。


 どこまで続いているのだろうと思った矢先、道の奥から光が差し込んだ。

 その光は段々と近付いて、広く明るい部屋に僕らを招く。


 ここは一体何処なのだろう。

 口から出た疑問に答えてくれたのは、フェイじゃなかった。



「俺の店へようこそ、冒険者ナンバー“1EO999H482P”さん」



 いつからそこに居たんだろう。

 カウンターからクマのような巨体がのそりと出てきた。

 当然熊なんかじゃなくて人間の彼は、浅黒い肌に真っ黒なドレットヘア、そしてサングラスをかけている。


「嬢ちゃんが誰かを連れてくるなんて珍しいな。道案内かい?」

「カイトはフェイの友達なの」

「ほう! そりゃあいつも以上に珍しい!」


 立ち尽くす僕のことは全く気にならないのか、ふたりは慣れたように言葉を交わす。

 陽気な声と、抑揚のない声。

 そのふたつが混ざり合い、それ以外のものを混ぜてはいけない。

 そんな気になった。


「まさかこんなにも早くMAXステータスを拝めるとはなあ! オレも運がいいぜ」

「カイトが驚いてるなの」

「おっと、こりゃすまねえ。俺は“俺の店”の店主、リングウだ。呼び方は……そうだな、マスターとでも呼ぶといい!」

「は、はい、マスターさん。えっと、僕はカイト・サカイです。それでこっちが……」

「キョウ、なまえ、キョウ!」

「お友達、ちゃんと見つかったなの」

「あっ、うん、そうなんだ! フェイのおかげだよ、ありがとう」

「友達なら当然のことなの」


 なんだか、久しぶりの感覚だなあ。


 フェイと出会ったのはそんなに昔のことじゃないはずなのに、他の出来事が濃すぎてそう錯覚させる。

 この世界で初めて会ったのがフェイだったからこそ、僕は京を見つけ出すことが出来たんじゃないかな。

 ……なんて、思って。


 そして彼女は、あの日別れた時と同じように「友達」だと言ってくれた。

 あの日の約束通り、僕らはもう一度会うことが出来たんだ。


 その声が、その顔が、その言葉が。

 段々とそれを実感させてくれる。


 京がフェイに話しかけていることが嬉しい。

 思わず笑った僕をみて、どういうわけかマスターさんの笑い声が響いた。


「ワハハハハ! 良い物語じゃあねえか坊主! 運が向いてるぜ!」

「物語?」

「俺のことは知らなかっただろうが、坊主のことはそれなりに知ってるのさ。あのナンバーが表示されたときは夢かと思ったね」

「えっと、ナンバーって、なんですか?」

「自分が冒険者であることを証明するためのモンだよ。坊主のPDAにも書いてあんだろ」


 確認しようと取り出して見たけれど、起動していない液晶は真っ暗だ。

 ということは裏側? だけどそこにはコアを読み取るスキャナーしかなかったはず……。


「下の方に『Adventure No,』があんだろ。そこの英数字がお前さんの証明証ってわけよ」

「下に……あっ、本当だ」


“1EO999H482P”


 PDAに刻まれたその文字が、冒険者の僕を証明する証……。

 こんなもの、前の世界では存在しなかった。

 僕の存在を証明できるものなんて、ひとつとして存在しなかった。


 気が付かなかったのはきっとそのせいだろう。

 てっきりこの端末も同じなんだと思って、意識すらしていなかった。


「真ん中の3桁が坊主の戦闘ステータス値だぜ。それだけ覚えときゃ、同業者と会った時にわざわざ聞く必要もねえしな」

「なるほど……!」


 誰にも教わることが出来なかった話を、マスターさんは次々と話してくれる。

 知らないことを知ることが出来るのは、運が無かった僕にとって死を回避するために必要なことだったけれど。

 マスターさんの話を聞いていると、どうしてか楽しさがこみあげてくる。


「無駄話はその辺で切り上げてほしいなの。リングウ、頼んでおいたものを持ってきてなの」

「おっと、こりゃ失礼しましたよっと。あんなモン頼まれたときはどうすんのかと思ったが、嬢ちゃん用じゃなけりゃあ納得だぜ」


 カウンターの奥に入っていったマスターさんの背中を見送り、ふたりが居る場所へ振り向いた。

 フェイとの話は終わったのか、京はターバンの上にちょこんと座っている。

 それを平然と受け入れているフェイは、ゆるく首を傾げた。


 可愛いなあ。


「……じゃなくて、その、僕、装備品を買いに行かなきゃならなくて」


 すっかり忘れていたけれど、僕はそのためにお城から出てきたんだ。

 約束の時間まではもう少ししかない。

 すぐに買いに行かないと間に合わなくなってしまう。


「知ってるなの」

「……へっ?」


 一体何を知っているのだろう。

 その言葉の意味は、マスターさんのおかげで直ぐに理解する。



「おらよ。嬢ちゃんの要望通り、最新版の装備一式だ! 他じゃそうそう手に入らねえ一級品だぜ!」



 重そうな段ボールをカウンターに置いたマスターが、ここぞとばかりに口角を上げた。


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