No.017 縁は異なもの味なもの
『お疲れ様ですにゃ~! またのご利用をお待ちしていますにゃん』
「にゃー」
「ありがとうございました」
サーニャちゃんさんの話を聞き終えた僕らは、ようやくアドベンチャーブースを後にする。
各能力の上限値は【200】で、僕のステータス値は【999】。
最初に振り分けた【10】ずつを抜きにしても、まだ【949】も残っていた。
元々、僕の戦闘ステータスは【1】だったはずなのに。
『それじゃあ、キミが噂の白髪君かにゃ? 平均値は【350】くらいにゃのに、それだけあったら噂にもなるっちゃね~。うんうん、大変やんなぁキミも』
サーニャちゃんさんの言葉が、何度も脳内で反芻される。
僕には不相応すぎるその数字を突き付けられているようで、他の冒険者に申し訳なさを感じて仕方がない。
「ぷあ! ひかり、まぶしい!」
発注所を出た僕らを迎えたのは、オレンジ色に輝く綺麗な夕日だった。
昼過ぎに来たはずなのに、もうこんなに時間が経っていたのか……。
「これから試しに行くけど、京はどうする?」
「ごしゅじん、キョウ、いっしょ!」
「はは、だよな」
僕は意図せず、ステータスの一部が振り分けられてしまった。
その数字がどれほどのものなのか、すぐにでも確かめておいた方が良いだろう。
そう思って、ブース内でクエストを受注した。
向かう先――そこはアタキ山の麓。
クエスト難易度3の“ユルルングル”を討伐するものだ。
本当は星2のクエストを受けたかったけれど、端末の中の数字は推奨数値を遥に上回ってしまっている。
かといって、高難易度のクエストなんて行けやしない。
僕は迷いに迷って、結局京がそのクエストに決めた。
ポケットの中にある端末を握りしめて、僕はこの街の奥にある山へと歩き出す。
僕の端末。僕だけの端末。
情報が詰まったその中にある、僕の戦闘ステータス――
『本来冒険者は自分に見合った数値を振り分けるために、何度もこの場所へやって来るのにゃ。自分に適している五角形を生み出せるようににゃ。だけどキミにそれは必要ないにゃん。にゃんでかって? それはもちろん、表示できる数値の上限まで達しているからにゃ! 全部の項目をほぼMAXに出来るだにゃんて、歴史上類をみないですにゃよ! にゃので、このサーニャちゃんが振り分けて差し上げますのにゃん』
「え……っ、ちょ、まっ!?」
――僕の制止はあまり意味を成さず、攻撃力と防御力がサーニャちゃんさんの手によりカンストした。
カンストしてしまった。
状況を振り返ってみよう。
僕と京は今、アタキ山の麓に居る。
端末を開いて確認してみても、情報通りの場所で間違いないだろう。
そして指をスライドさせると、僕のステータス画面へと変わった。
素早さ【10】――うん、間違いない。
回避【10】――うん、変わりない。
魔力【10】――うん、異常もない。
防御力【200】――うん……。
攻撃力【200】――うん、うん……。
なんて歪な形だろう。
ついこの間まで小さな五角形だったのが嘘みたいだ。
洞窟で何かが起きてこの世界にやってきたけれど、心の奥ではまだ完全に信じ切れているわけではなかった。。
だって、洞窟の中で昏睡状態になったまま、長い夢を見ている可能性だってあるんだ。
その方がよっぽど、この現状を受け入れられる。
「ごしゅじん?」
「……ああ、うん、暗くなる前に行こうか」
振り分けてしまったものは仕方がない。
こうなってしまったのはきっと、神様が示す道なのだろう。
ああ、神様女神様。今日も僕らが生き抜ける日々に感謝します。
京の小さな翼が楽しそうに揺れるのを見ながら、僕は山の中へと歩き出した。
現状を一言で言うならば、それは「混乱」という言葉で表現出来ていると思う。
「痛っ……く、ない?」
木陰から飛び出してきた影は僕ら目がけて飛び込んできたけれど、触れることすらなく横をすり抜けていった。
数体が同時に飛び込んできて、ようやく1匹の牙が僕に触れたというのに、噛まれたはずの場所は痛みどころか血さえ流れていないようで。
落ち葉に足を取られないように動いているだけなのに、蛇のような魔物のほとんどが僕らに触れることさえ出来ていない。
それどころか、勝手に盾にぶつかって気絶している始末。
触れてきた数体の魔物たちも、何かから弾かれるように僕から離れた。
なんということだろう。
僕らはロクに動いていないというのに、周りには魔物がうようよと気絶していた。
「えーっと………………どう、しよう」
「じょうほ! じょーほっ!」
促されて魔物に端末をかざす。
表示されたものは、星が3つと魔物名“ユルルングル”とシルエット。
討伐対象に間違いはない。
少し可哀相だけれど、細長い胴に剣先を下ろした。
すると口から木の実を吐き出して、魔物は砂のように消えていく。
まるで豆腐を突き刺しているかのように剣が軽い。
ますます頭がくらくらしてきた。
ユルルングルの攻撃が僕に何の怪我も負わせなかったのは、カンストした防御力のおかげだろうか。
ユルルングルへの攻撃に何の力も使わなかったのは、カンストした攻撃力のおかげだろうか。
そして僕らに当たらない攻撃は、この世界で起こり続ける幸運のおかげなのだろうか。
折角ほとんどの不安は取り除けたと思ったのに、結局ふりだしに戻ったみたいだ。
「……今日はもう戻ろうか」
「キョウ、おなか、すく!」
「うん、女将さんが美味しいご飯を用意してくれてるよ」
でも、だけれど。また独りになるよりずっとマシだ。
何倍も、何十倍も、何百倍だって、今の方が良い。
オレンジ色だった空も、大半が消えていった。
宿に帰って、また明日もクエストに向かおう。換金はそのあとでもいい。
そう思って、僕らは街へと戻るんだ――
「きゃあっ!!」
「!?」
――僕らよりも上方から声が聞こえてきた。
そのすぐ後に、鈍い音も響いてきて。
落ち着いたはずの混乱が僕の脳内を占める。
どうする? 逃げる? 逃げない?
「ごしゅじん、あれ!」
その声が、僕の視線を山の上へと導いた。
ずるり。
そんな滑り落ちる音と共に、落ち葉が何かを運んでくる。
落ち葉に隠れた何か――それは紛うことなき人間だ。
そんな中から、姿を見せるその人物。
それは、あの日見た時と同じで。
「ごしゅじん、ヒーサマ! ヒーサマ!」
金色に輝く長い髪に純白の短いドレスが良く映える、可愛い女の子だった。




