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No.016 愁眉を開く

「お待たせ、京。それじゃあ行こうか」

「おでかけ!」


 朝から向かったクエストを終えて、一度宿屋に戻ってきた僕らは再び外へと出た。

 向かう先はクエスト発注所。

お昼も過ぎたこの時間なら、人だって少ないだろう。


 道の端を歩きながら、真っ白なマントを頭から被る。

 肩に乗った京と一緒に、この数日で通い慣れた道を話しながら歩いた。


「それにしても誰だったんだろうね、あの女の子」

「キョウ、ヒーサマ、しらない」

「うん、僕も知らない。女将さんにお願いした後も、どうなったか解らないしなあ」

「ヒーサマ、ふしぎ」

「うん、あんな髪もあんな服も初めて見た。なんて言うんだろう……おとぎ話に出てくるお姫様、みたいな」

「ヒーサマ、おとぎ?」

「うん、そんな感じがするってだけなんだけど。村のみんなはその本を読まないから埃を被っててさ。それに、向こうのお姫様は全く毛色が違ったし……」


 僕が村人から疎まれた原因は数えきれないほどもある。

 その中のうちのひとつ、それが「認識の違い」だった。


 みんなが可愛いともてはやす人。みんながかっこいいと称える人。

 みんなが可愛くないと馬鹿にする人。みんながかっこよくないと捨て吐く人。


 そのどれもが僕には逆に思えて、子どもの頃に口を出た言葉は両親によって塞がれてしまった。

 村の中でも、村の外でも。かっこいいと言われるのは筋骨隆々で体毛が濃い、そして例えるなら草食動物系の顔の人だった。


 それとは真逆なのがこの僕。

 だから、この世界で「かっこいい」と言われたことが未だに信じられないでいる。


 なんて、考え続けても仕方のないことかもしれない。

 ヒーサマのことは心配だけれど、取り敢えずの不安はだいぶ解消された……かな?






「むこう、にぎやか!」

「……ああ、本当だ。何かあるのかな」

「おまつり?」

「お祭りじゃない……と思うよ」

「むこう、あいてる!」

「うん、これなら発注所へ行きやすいな」

「いく、いく!」


 小さな羽をぱたぱたと揺らして京は声を上げる。

 幸い、騒ぎに集中している街の人たちはこちらを気にしてなんかいない。

 僕らは話を続けながら、目的地への道をゆっくりと歩いた。




 予想した通り、発注所の中は朝と違って閑散としていた。

 けれど、広い室内には何人かの姿が見える。

 僕はフードを被ったまま、マントの中に京を隠して奥へと進んだ。


「えっと、これ、だよね?」

「すてーたす! すてーたす!」


 5つの扉が並ぶ発注所の奥で、僕らは声を潜めて言葉を交わす。

 戦闘ステータスを振り分けるには、受付のお姉さんかこの中にある機械でやるしか方法は無いらしい。

 僕らは迷うことなく機械を選んだ。


「まずは……ここに端末を置けばいい、のかな?」


 扉の中へ入ると、上部に液晶がはめ込まれている機械がひとつ。

 そして不自然に窪んだ場所へ端末を置いた途端、真っ暗だった液晶が光を灯した。


『ご用件をお選び下さい』


 普通に人と言葉を交わすことが出来たこともあとあと驚いたけれど、この世界の言葉や文字も僕が知っているものと変わりはないらしい。

 機械から流れてくる音声も、問題なく理解出来る。

 幾つか表示された項目の内の「ステータス振り分け」を指先で触れた。


 少しの間をおいて液晶に浮かび上がってきたのは、五角形の図形と【949】の数字。

 角の頂点にはそれぞれ文字が書かれている。


 戦闘ステータスにおける5つの項目――攻撃力、防御力、魔力、回避、素早さ。

 内側に線が引かれた五角形の中央にも、小さな五角形が色を付けてそこに在った。


『説明が必要な場合は〇を、説明が不要な場合は×を記入してください』

「……記入?」

「きにゅう! きゅにゅう!」

「どこに書けばいいんだろう」


 画面は依然変わらず五角形を映し出しているだけだ。

 記入ウインドウを開いているわけでもない。

 強いて言えば、少しだけ画面が暗くなっているくらいで。


「きゅーにゅ!」

「う、うん……やってみる、けど」


 恐る恐る画面に触れると、暗くなっている部分が取り除かれるように液晶に円を描けた。

 少しの間のあとに『承認しました』なんて音声が響いて、再び画面が明るく光る。


 その直後のことだった。


『はいっ! それでは「はじめてのぼうけんしゃ」マニュアルを読ませていただきますのにゃ! ナビゲーターはこのサーニャがお送り致しますにゃん』


 機械的だった音声が、突然生気を振りまいた。

 驚いて声も出ない僕ら2人を余所に、機械の中の女性は軽快に言葉を紡ぐ。


『まずはここ、アドベンチャーブースの説明をお聞きになりますかにゃ?』


 可愛く弾む声は僕の反応を待っているようだけど、やっぱりコマンドも見当たらない。

 同じように画面に触れてみたけれど、どうしてだかそれも無反応だ。


 もしかして……故障?

 なんて考えていた思考は、京の言葉で断ち切られる。


「キョウ、きく!」

『承知致しましたのにゃんぱらり~!』

「ええっ、嘘だろ……?」

『嘘じゃないにゃん。説明するにゃん』


 その独特な喋り方をする女性は、僕らの言葉に返答した。

 まるで、すぐそばで聞いているかのように。

 まるで、すぐそばで見ているかのように。


『何をそんなに驚いているのか解らにゃいけど、そろそろ説明に入ってもいいのかにゃん?』

「は、はい。お願いします……」

『承知致しましたのにゃんぱっぱ~!』

「にゃんぱっぱー!」


 驚くことにも何種類かあるとは思うけれど、この反応しがたい驚きに対してはどうすればいいのだろう。

 初めて経験したことを上回る驚きを、上手く言葉に表現できない。

 京は京で、楽しそうに復唱しているし……。


『途中で気になることがあったり聞きたいことがあれば、タイミングを見計らわずに「はいっ、サーニャちゃん!」と元気良く言ってくださいですにゃ!』

「は、はい……サーニャちゃん、さん?」

『オッケーにゃん! それじゃあまずは初歩の初歩、冒険者の役割から説明していくにゃん!』



 それからしばらく、僕らはサーニャちゃんさんの口から紡がれる「はじめてのぼうけんしゃ」を必死に聞き続けることになった。


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