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No.014 All or nothing.(全てか無か)

 わたくしの名前はエリザベス・コリン。

 呼び名はいろいろとありますが、私自身は剣士だと名乗っております。


 皆様が都だと仰るこのカレア王都で生まれた私は、お父様、お母様、お兄様の元で成長し、16になったことで軍隊に入ることを許可されました。

 しかしながら、私が入隊した部署は“王家特別調査隊”という偵察部隊。

 珍しい魔物、新たな魔物、想定外の魔物。

 それらが出現したときのみ、動くことが許される軍隊でした。


 何故精鋭部隊への入隊を許可してくださらないのか。

 私は剣を取り、お父様に尋ねました。


 この部隊が嫌だと言う訳では決してありません。

 私はただ、民を護る為のこの剣をふるいたいのです。

 偵察が重要な事だという事は重々承知しております。

 それでも私は、腫れ物の様に扱われるだけでゆるりとし続けるよりも、己の力を持って前へ出たいのです。


 話を聞いてくださったお父様が、重々しく立ち上がり仰られました。

 これ以上の我が儘を許すわけにはいかない、と。

 望むのであれば、偵察部隊からも除名すると。


 私はそれ以上口を開くことが出来ず、何も変わることの無いまま部屋へと戻りました。

 お母様がこの王都から居なくなって5年。お父様はあまり言葉を発しません。

 私では民の力になれないと、そういう意味なのでしょうか。


 悲しくて視界がぼやけるのを眺めていると、乳母がそっと入ってきました。

 お父様からの預かり物を手に、私の前で立ち止まります。


 手渡されたそれらは、お父様から新たに課せられた条件。

 純白の、綺麗なドレス。

 私はこれから、この衣を身に着け偵察へ向かうことになるのでしょう。


 動きやすく白いボトムスに、私の涙が染みを生み出しました。






 偵察部隊に身を置き、私も年月を重ねて18歳。

 この日もいつものように、平和な王都を眺めるばかり。

 精鋭部隊はといえば、今日も上級クエストへ向かっている様です。


 お父様から頂いた純白のドレスを身に纏い、お兄様に冠して頂いた銀のティアラを頭に載せて、お母様の形見である金色のペンダントを首から下げて。

 呆然と、楽しむわけでも無く窓からの景色を眺める日々。


 精鋭部隊に入ることが許されたお兄様とは違い、私は劣っているのでしょうか。


 今日も任務に就くことはなさそうです。

 しかしながら、私は時間を無駄にしていることなど出来ません。

 この姿のまま、いつものように王都を見回りましょう。


 私が立ち上がると同時に、扉がノックを響かせました。

 入ってきた方は伝達兵。どうやら、偵察部隊に任務が回ってきたようです。


「すぐに向かいますわ」


 開かれた扉をくぐり、隊長方が待つ本部へと足を速めました。






 そして私たち、偵察部隊向かった先。

 そこは王都より馬で数刻かかるミノウ街。その更に奥にあるアタキ山でした。


 隊長が仰るには、本来この場所に出現するはずのない魔物・カトブレパスが姿を現したとのこと。

 私たちの任務はその事実確認、及び対処法の考案なのです。

 上級に位置する魔物には決して手を出すな。

 それが、特殊部隊(私たち)のルール。


 書籍でしか目にしたことの無い魔物が相手でも、そのルールが変わることなんてありません。

 居るのかも解らない広い山の中を、私たちは団体で歩き続けました。

 道中出会った魔物とも極力戦わず、煙玉を駆使して離脱します。


 そんなことを繰り返していると日が完全に昇り切り、昼食休憩を取るために腰を下ろしました。

 バスケットを広げて和気藹々(わきあいあい)とくつろぐ皆様を、私は少し離れて見守ります。

 会話がぎりぎり聞こえる場所が、私の定位置。

 取り出したサンドイッチを、ひとりで噛みしめました。


「グギャー!」

「きゃ……っ!」


 木の上に止まっていた黒い鳥が、突然私めがけて飛んできました。

 とっさに瞳を閉じた私と衝突したことを感じて、きっと開いた時にはサンドイッチが無くなっているのでしょう。

 そう考えた私をわらうかのように、黒い鳥はもう一度鳴いて大空へと飛び立ちます。


 失われたのはサンドイッチではありませんでした。

 私の元から消えたのは、首から下げていたはずのペンダント。

 居なくなった母の形見であるペンダントが、黒い鳥に奪われてしまったのです。


「お待ちください!」


 すぐに見えなくなりそうな黒い鳥を視界に捉え、私は急いで追いかけました。

 制止する隊長の声は耳に入りましたが、あれは至極大事な宝物。

 手放すわけには参りません。

 私は必死に走って、その背を追い続けました。



 しかしながら、奪還することは叶わず。黒い鳥は姿を消してしまったのです。






 結局対象の魔物を見つけ出すことも出来ず、私たちは翌日もアタキ山へ登りました。


 魔物は在れど、カトブレパスは出てきません。

 デマだったのではと隊長が疑い始めた頃、私はひとつの声を聞きました。


 昨日今日と、この山で聞いた魔物とは違う鳴き声。

 どうしても気になってしまった私は、皆様に声をかけて前を歩きます。

 この木々の先。確か、こちらの方で聞こえたはず。


 そして進んだその先。私たちが見たのは魔物の姿。

 いつの日か資料で読んだ、長い首と2本の角が特徴的な水牛のような魔物。

 それと対峙するかのように、真っ白い魔物が私たちの前に現れました。


「対象とおぼしき魔物を確認。幸い、対象のターゲットは我々ではない。総員、細心の注意を払え!」

「「「イエス、サー!」」」


 これから何が起こるのかなんてまるで未知数で、すぐにでも武器を抜き出せるように総員構えます。

 戦う訳ではなく、逃げ切るために。情報を持ち帰る為に。

 小さき魔物を、囮にして。


 皆様がそう考えています。

 しかしながら、私だけはここに居る誰とも違います。

 私は民を助けたくて精鋭部隊への入隊を希望しました。

 王都は勿論のこと、周囲の民だってその範囲内です。

 そしてそれは魔物と言えど変わりありません。


 弱きものを助ける。

 それが、人の上に立つ私のやるべきことではないでしょうか。


 小さき魔物が発した声。それが私には「助けて」と言ったように聞こえて。

 ここを放ってしまえば、私は民に顔向け出来ません。


「姫様!?」

「お戻りください姫様! 貴女様にお怪我をさせる訳にはいきません!」


 私を呼ぶ仲間の声。

 仲間と呼ぶには、あまりにもおかしな関係。

 それを背に受けて、小さき魔物の前まで走りました。


「ここは私が殿しんがりを務めます。皆様方はお父様に……我らが王に報告をなさい!」


 振り返らずに声を張りました。こんなに叫んだのはいつ振りでしょうか。

 私の足元で縮こまっている魔物には、声を潜めて伝えます。


「小さき魔物さん、貴方もお逃げなさい」

「キュッ」

「さあ、お早く!」


 かさかさっと落ち葉が揺れ動きました。小さき魔物が立ち去ったのだと思います。

 皆様も退避して欲しいのですが、声が聞こえてくる故に逃げてはいないのでしょう。


 ここまで来てしまえば、私は意地でも皆様を逃がしたいのです。

 迷っていては、民を護ることなど出来はしません。


「ッ、姫様! 前を!」

「……っ!!」


 カトブレパスはゆるりと動き、口から淀んだ吐息を吐きだしました。

 剣を抜こうとした私の手は漂ってきた吐息を浴びて動けなくなってしまい、だんだんと身体中に拡がっていきます。


「みな、さま、っはやく……逃げ……」


 朦朧もうろうとした意識の中、なんとか言葉を紡ぎました。

 何故と問われても、理由はひとつしかありません。


 私は剣士であると同時に、この国の姫でもあるのですから。



 ああ、皆様。どうかご無事で。

 小さき魔物も、無事であることを――


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