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No.013 猫の目

「遅くなってごめん! 怪我はない? ひとりにしてごめんな……」

「ごしゅじん、いる。キョウ、うれしい!」

「京……!」


 想像していたよりもずっと元気な姿を見て安心した。

 ところどころ血が出ているけれど、嬉しそうにすり寄ってくる京を抱き締める。


 京と居ない間に何が起きたのかを話したい。

 そう考えて開いた口は、思考とは裏腹に今までずっと考えていた言葉を放った。


「君はどうしてこんなところに?」


 京は何処にいるんだろう。彼は何処へ行ってしまったのだろう。

 探し続けて見つけたのがこの裏山だ。

 しかも今は、偵察隊が向かうほど危険な魔物が出ているらしい。

 一体どうして、こんなところに居たんだろう。

 一緒に居たはずの僕らが何故、別々のところで目覚めたのだろう。


「キョウ、おきた、やま。ヒーサマ、キョウ、たすけた!」

「気が付いた時にはこの山の中に居て……誰かが君を助けてくれた、の?」

「うん、ヒーサマ! でも、ヒーサマ、にげた、ない……キョウ、もどった、ここ」

「京を助けた代わりに、その“ヒーサマ”って人が捕まった……」

「キョウ、ヒーサマ、たすける!」

「助けるって……一体どうやって?」

「……キュウゥ」


 問えば、困ったように彼は丸まった。

 京が何に襲われたのかも、その人がどうしてキョウを助けてくれたのかも解らない。

 だけど、彼がそう言うのなら僕だって同じ気持ちだ。


「……解った、京。勝負になるかすら解らないけど、一緒に助けに行こう」

「いく! ごしゅじん、がんばる! キョウ、がんばる!」

「うん、頑張ろっか」


 そうと決まれば話は早い。すぐに洞窟を抜けて助けに行かないと。


「その“ヒーサマ”? って人は何処に連れていかれたのか解ってる?」

「あっち」


 京が示す方向。それは洞窟の入口――ではなく、真っ暗闇の更に奥。


「向こうは……暗いなあ。先が見えないけど、灯籠の火を借りて進むしか……」

「ひ! キョウ、ひ、ある!」

「火だぞ、火。炎だ」

「ほのお!」

「そう、炎――」


 ボウッと小さな音が、京の口から生み出された。

 音だけじゃない。赤く滾らせた炎と熱気が、真っ暗だった灯籠に火を灯していく。

 ひとつ、またひとつと道が見えてきた。


「――えっ!? 今のどうしたんだ!?」


 冷静にならなくても理解は出来た。

 魔法なんて使えなかった京が今、間違いなく炎魔法を使ったんだ。


「キョウ、わからない。キョウ、ここ、できた!」

「凄い……凄いじゃないか京! 初めての魔法だ!」

「キョウ、すごい! ごしゅじん、すごい!」


 なんで、どうして。

 なんてことはもう、どうでもよかった。

 一緒に喜び合えることがこんなにも嬉しくて、僕も早くいろんな話を聞かせてやりたい。


 だけどそれは、後回しだ。

 今僕らがやるべきこととは、京を助けてくれた恩人を見つけ出すこと。


 今度こそ、魔物から逃げる算段を立てておかなきゃな……。


 京が灯してくれた明かりを頼りにして、僕らはふたり、洞窟の中を歩きだした。






 いつなにが来てもいいように、僕は剣を握りしめる。

 肩に乗った京はしきりに周囲を見渡して、僕ら以外に注意を払った。

 久しぶりのこの感じが、場違いにも嬉しくて。


 けれど、それも次第に鎮まっていく。

 その理由は明白で、魔物が1体も現れないからだ。

 奥へ逃げて行ったはずの蝙蝠さえ居やしない。

 一本道のはずなのに、僕らはどこまで進むのだろう。



「ごしゅじん、みず、おと、おく!」


 京の言葉で耳を澄ませた。

 確かに水音が聞こえる……こんなところで?


 洞窟の中で聞くには不釣り合いな音の方へ進むと、狭かった道の先が広がっていた。


「こんなところに崖……っ! しかも深い……」


 急に横へ広がった道の端は真っ暗でよく見えない。

 けれど、照らされたこの場所だけでもこの光景は目に入る。

 横一線に割れた地面は崖になっていて、その下を水が勢いよく流れていた。

 そして目の前には、使えと言わんばかりのつり橋がひとつ。


 その奥には扉があった。


 ……いくら水の中でも、この高さだと死んじゃうかなあ。

 その可能性がある限り、京をこれ以上危険に晒すわけにはいかない。


「まずは僕が橋を渡ってみるから、京はここで待っていて」

「いや! ごしゅじん、いく。キョウ、いく! いっしょ!」


 説得しようにも、キョウは頑なに譲ってくれない。

 僕が足を乗せた途端にでも、このつり橋は壊れてしまいそうだ。

 ここで別れても、結局は京を置いていくことになってしまうならもう、仕方がない。


「……行くよ、京」

「キョウ、いく!」


 明るい京に、なんだか勇気をもらった気がする。

 ぴんっと張られたロープにつかまって、僕らは一歩を踏み出した。






「凄い……生きてる」

「はし、わたった! わたった!」


 歩き出せばなんのその。つり橋は僕らが渡りきることが当然のように在り続けた。

 今まで何度かつり橋を渡ったことがあるけれど、その内の半数が突然の大破。残りの半数が魔物に襲われるという散々なもの。

 そんな僕らが今、全くの無傷で渡り切った。


「とびら、ごしゅじん、キョウ、はいる!」

「……うん、そうしようか」


 考え込むのはあとにしよう。

 終わりの見えない洞窟で、僕らは食料すら持っていない。

 だったらもう、進むしかないじゃないか。


 飲み込んだ唾液が大きく響いた気がした。

 扉の先には魔物が待ち受けている可能性が高いだろう。

 なんたって、ここまで一度も遭遇していないんだ。


 緊張で震える息を吐き出して、ゆっくりと扉を開く。



「眩っ、し……い………………なにこれ……?」



 扉の先で僕らを待ち受けていたのは、青々とした自然。

 そよそよと茂る草木があり、穏やかに流れる小川があり、暖かく照らす太陽がある。

 魔物の姿など、どこにも見当たらなかった。


「いつの間に太陽が……」


 僕が洞窟に入ったのは、日が落ちてから間もない時刻。

 日付が変わるほどこの中に居たはずなんて無い。

 第一ここは洞窟内のはずだ。

 仮に外へ出たのだとしたら、どうして出口が扉なんだろう。


 解らないことが増えるということは、恐怖が積みあがっていくことと同じだ。


 こんな未知の場所に足を踏み入れてもいいのだろうか。

 けれど、京の恩人を放っておくわけにもいかない。


 進むという選択肢しかないことだけは解っている。

 さあ、行け。行くんだカイト!


 心の中で自分自身を奮い立たせていると、太陽を見てはしゃいでいた京が声色を変えた。


「ごしゅじん! あそこ、ねる、ヒーサマ!」


 京が示す大木。その根元に人影が見えた。

 正確に言えば、倒れている姿が目に映った。


「キョウ、たすける!」

「まっ……!」


 飛び跳ねた京が扉をくぐり抜ける。

 一瞬だけ止まった僕の足も、京に続いて人影の元へ走った。


 そこに居た、人影の正体。京を助けてくれた恩人。その姿は――


「この人が……“ヒーサマ”」


 ――金色に輝く長い髪に純白の短いドレスが良く映える、可愛い女の子だった。





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