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猪可以飛  作者: ヨシトミ
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第4話 カップ焼きそば超大盛り1081キロカロリー+マヨ

第4話 カップ焼きそば超大盛り1081キロカロリー+マヨ


シンレイがしつこくおかわりを要求するので、仕方なくカップ焼きそばを出してやった。

うどんはあのひと玉しかなかった。


「むはあ」


シンレイは頬をてからせて、また満面の笑みを浮かべた。

くそ、顔がきれいだから笑うとめちゃくちゃ可愛い。


「なんでこん俺が…てかなんで俺が『イェンさん』になんねや」

「お前、『高岡言』だろ? 『高岡言』の『言』は『イェン』って台湾人の苗字だよ」

「誰がや、台湾人ちゃうわ」

「言さん、マヨ取って。マヨ」


冷蔵庫からマヨネーズを出してやると、シンレイは半分まで食べた焼きそばに、

マヨネーズをむりむりと大量に絞り出した。


「ちょっ…お前太るで」


出してやったカップ焼きそばは、通常の2食分ある超大盛りだ。

カロリーで言うと1081キロカロリーもある。

それをマヨがけ! 恐ろしい!


「こんなごときで太るかよ…むふう」


シンレイは口の周りをマヨネーズだらけにして、楽しげにふんふん鼻を鳴らしながら、

残りの半分をずるずると飲み込んでいった。


「お前いくつなん?」

「取り調べや公判で何聞いてたんだ、言さんとタメだよ」

「は? 嘘やろ」


俺と同い年! 40でこの顔!

事件で声優を辞めてから、バイト生活でぶくぶくと太って肌艶も悪い俺とは全然違う。

シンレイの肌には張りも艶もある、同い年でも圧倒的に若い。

何この違い。


「くそう、俺かて現役ん頃はイケメンで売って…これ見て見い!」


俺は逮捕前から壁に貼ってあった、自分の写真の入ったカレンダーを指差した。

雑誌の付録だった。

あの頃はこんなに太っていなかった、髪ももっとあった。

ヒゲだって毎日きれいに剃っていた、頑張って標準語も話していた。


「どやあ!」

「え…キモ」

「なんでやあ! どう見てもイケメンやろが! キモない!」

「口が気持ち悪いから無理、あと体つきもやだ」


高校時代にかっこ付けで吸って、それきり出所までずっとやめていたたばこを、

シンレイは1本抜き取って、火を点けると真っ直ぐに煙を吐き出した。


「言さんさ、本気で自分の事イケメンとか思ってる訳? くそ笑える!

それとも言さんのいた世界がブサメン揃いか? ひーひひ!」


古いカレンダーの中の色褪せたイケメン声優と、朝日に醜さを晒すデブを交互に見ながら、

シンレイは涙を流し、手足をばたつかせて激しく笑い転げた。


「笑うな!」

「年老いて、太って、醜くなる事の何がだめなのさ。いいじゃんかそれで。

男はそうやってカッコ良くなってくもんじゃん」


消したテレビの画面に映る俺は本当に醜かった。

ぱっつんぱっつんの丸い顔に、無精ヒゲが汚らしかったし、

加齢で目元にも口元にも深いしわが出来ていた。

新調する事ない黒のパーカにジャージのズボンは、もうぼろぼろで、

しかもだらしない生活でだらしなく太った身体にはぴちぴちだった。


現役時代にいくら「イケメン」で売っていても、それがその世界だけのものって気付いてた。

一歩外に出ると、本当の意味でのイケメンなどいくらでもいるって事、

俺など平均以下でしかない不細工だって事、実はイケメンの要素など皆無だって事、

いくらモテても寄って来る女は腐女子か、媚びを売る女声優か、

でなきゃ金目当ての商売女だけだって事も。

変な自信とプライドだけが、俺を「モテまくりのイケメン声優」にしてたって事も。


シンレイに帰る気配は一向になく、いつまでも俺のふとんの上でごろごろごろごろ、

むきゅむきゅ言って横になっているだけだった。

夜、バイトに出かけて、明け方に帰って来てもまだいる。

部屋は出かける前と何も変わっていない。


かつては女と同棲した事も何度かある。

頼んでいなくとも女が部屋を片付けてくれていた。

何も言わなくとも座っているだけで温かいメシが出て来る。

だがシンレイにそんな優しさは微塵も無い。


部屋は散らかったまま、自分のメシを作るどころか買いに行く事もしない。

テレビをつけて見るのも面倒臭いらしい。

部屋の隅に寄せたテーブルに置いてある俺のたばこを、時々勝手に抜き取って吸い、

灰皿を吸い殻で山盛りにしているぐらいがせいぜいだった。


店でこっそりくれる廃棄の弁当やパンを与えてみると、

あの具なしの素うどんや、1081キロカロリーのカップ焼きそばと同じように、

実に旨そうに食べては、「ぷはあ」と言って満面の笑みを浮かべる。


「どき」


満腹でまたごろごろしているシンレイの足を持って無理矢理どかし、

自分の寝床を確保すると、俺は横になった。

さすがに疲れた、そのまま俺は眠りについた。

寝ている間に帰るだろうか、てかもういい加減帰ってくれ。


女の肌で温められ発せられる、特有の甘い匂いでむせかえるようだ。

3年も女に触れていない身には刺激が強過ぎ、俺は目を覚ました。

股間が熱い、痛いくらいに血が集まっている。

目を覚まして、俺はぎょっと目をむいた。


「ぎゃひ!」


シンレイがいつの間にかふとんに潜り込んでおり、俺の隣で身体を寄せて眠っていたのだ。

俺の悲鳴でシンレイの寝息が乱れ、目をそっと開いた。


「あ、おはようさん…眠う」


シンレイはむにゃむにゃ寝言のように言うと、また目を閉じてしまった。

これは…してもいいのかな?

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