噂好き妹の巻き込み劇
「ねえねえ!今日噂で聞いたんだけどさー」
「やめて!今までの事で〝噂をすれば影〟っていう言葉を理解しなかったの!?」
妹である花道ハルカは噂好きの女の子である。
…………ただ一点違うところがあるとすれば、その噂が本当の確率が恐ろしいほどに高いことである。
ほとんどいつもあり得なそうな噂であるのに関わらずだ。
「分かった分かった、ごめんごめん…………で、今日噂で聞いたんだけどさー」
「全くわかってないっ!」
────瞬間、ハルカがずっと浮かべていた笑みが消える。
「……………………………………………………ごはん」
「はいごめんなさい聞きます聞きますから聞かせてくださいお願いします」
ハルカの機嫌が損ねると、毎回ご飯が辛くなったり甘くなったり苦くなったりするのだ。
…………しかも極端に。
「えーどうしよっかな~」
ハルカは今からいたずらを仕掛ける子供のような笑みを浮かべながら言った。
「……言いたくないのだったら言わなくてもいいけど?うん」
「じゃあ言うっ!」
………………ですよね~
「えーとね、今日聞いたのはボタンの話なの」
「ボタン?」
僕は自分の服についているボタンを見る。
「ああ、そっちのボタンじゃなくてね、昔のギャグである様な押すとたらいが落ちてくるみたいなあれの方」
「そっちか」
僕はクイズ番組でよく見るボタンを思い浮かべた。
「うん。それでね、ある満月の夜この話を聞いた人のところに、黒いフードを被った男の人が現れるの。その男の人は〝このボタンを一回押す毎にランダムに人が一人死ぬ。でも一回押す毎に一万円あげよう〟って言ってなんの変鉄もないボタンをその人に渡すんだよ」
「人一人の価値が一万円か……嫌な話だな」
「だよね~」
ハルカはうん、うんと大きく首を縦に振る。
「………………ちょっと待て」
「何かな?」
「確か今日って満月だったよな……?」
「そうだけど?」
…………こ、こいつ…………あっけらかんと言いやがった…………
「しかも、これ押しても押さなくても詰んでるじゃねぇか!」
「そう?」
楽しそうな笑みを浮かべている…………ハルカは僕の事を殺したいのだろうか?
「どうせこのオチなんて、押しても押さなくても〝ランダム〟に自分が死ぬってやつだろ?」
「でも七十億分の一だよ?」
「──それでもだよ」
彼女は驚きを隠しきれないといった表情で僕の方を見てきた。
「ほんと、いつもいつもよく間違えもせずにオチを当てるよね…………」
「…………ほんと、お前はいつもいつも僕を殺しにかかってくるよな」
「私だっておにぃが死んじゃうのは嫌だよ?──でもいつも死ぬどころか得して帰ってくるじゃん!だから大丈夫でしょ?」
…………大丈夫、だと?
「いつも死にかかってるのだけど」
「──じゃあ可愛い可愛い妹が死んじゃっても良いの?」
────そうだ。噂をすれば現れるシリーズは聞いたら現れる前に誰かに話さないといけないのだ。
「…………今回もそうだけど、別に言わなくても良いやつも……っていうか言わなくても良いやつの方が多くないか?」
「へ?今回も?」
「僕は満月の夜に聞いたけど、どうせこの噂夜には聞いてないでしょ?」
「……………………………………………………あ」
…………やっぱ聞いてなかったようだ…………
「はぁ……まあ良いや」
「あれ?おにぃ何処に行くの?」
「何処って──」
僕は一回大きくため息を吐いてから言った。
「──お前が持ってきた面倒事を先に終わらせに行くんだよ」
外は月明かりのおかげで思ったほど暗くなかった。
「ああ、そこの少年君」
────どうやらもうかかった様だ。
「なんだ?」
振り向くと予想通り黒いフードを深く被った、三十代と思われる男性が疲れた様に立っていた。
「このボタンの噂を聞いたんだから一々説明しなくても良いよね?だから早く終わらせてくれよ?」
「…………満月の夜は大変ですか?」
「あぁ……分かってくれるのは君だけだよ……」
僕はこの疲れているおじさんを見て確信した。
──これなら絶対に助かる。
「あの……もしよかったらですけど、このボタン僕が貰っても良いですか?」
するとおじいさんがフードが取れる程の勢いで僕の顔を見てきた。
「本当に良いのかっ!」
本当にキラキラとした嬉しそうな目をしている…………
「勿論」
「じゃあ、はい。これがそのボタンに、ルールブック。こいつ満月の夜以外は喋れるから後は明日にでも話し合ってくれ!じゃあっ!」
気が変わられる前にと早口に説明したおじさんは「俺はもう自由だー!」と叫びながら何処かへと去っていってしまった。
………………もしかして選択を間違ったか?
「あ、お帰りー。おにぃどうだった?」
家に帰るとハルカが料理を作り、テーブルに料理を置いているところだった。
「おじさんからこんなの貰ったよ」
「そ、それって……あのボタン?」
「そうだけど?」
「それどうするの?」
「明日誰かにあげる」
流石にあのおじさんを見て持っていようとは思えない。
「あはは、おにぃらしいや!じゃ、ご飯食べよう!」
「そうだな」
僕は今日もハルカの作った美味しいご飯にありつけたみたいだ。
「あ、これあげる」
──次の日、ごちゃごちゃうるさいボタンを全無視して黙らせてから、僕の後ろの席の山田くんに押し付けることにした。
「…………これなに?」
「満月の夜にボタンを押させると無条件でお金が貰える不思議なボタン」
「…………は?」
「はい、これルールブック。家に帰ってからでも読んで?」
「お、おう……?」
全く理解してないようだが、どうにか受け取ってくれた。
「──あ、そいつ喋るから話し相手にでもなってあげてね」
そうそう、一ヶ月後山田君はいきなり僕の胸ぐらを掴んでよく分からないことを叫んできて先生に止められてたが大丈夫だろうか?
モーニングスター大賞落ちたことが分かった日に部活の記録会の記録が悪くて泣きっ面に蜂な状態なのでどうなってるか分かりませんが……
意外と書いてて面白かったです。
短編とか長編を書いてると途中でだらだらと中弛み状態になってしまうのは何故でしょう……?
取り合えず今回分頑張って書ききります!