初めまして。わたしの名前は
欲望達って食欲や睡眠欲じゃなくてもお腹すいたり眠くなったりするんだろうか?
擬人化だからどうとでもできるかな。
……あれ?なんか日本語として成り立ってない。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
冬の夜空を汽車の煙が灰色に染める。
「しっかしさぁ」
色欲が無欲に話しかける。
「あ?」
「なんだってこんな寒い日に生まれるんだろうねっ」
「……知るか。てーか、欲望は人間によって生み出されるものだろ。俺たちを作った人間が、今回のはそうとう物好きだったんじゃねえの」
言い終わるや否や、無欲はふわああっと欠伸をした。
色欲はそれを見て、一つ、へえ……とつぶやくと眠る睡眠欲を見ながらさらに話を広げる。
「夜だし。おもちゃの汽車に乗る掟とか森の行き方を知ってるのがこの汽車だけとか、そもそも何でこれ空を飛べるのとか色んなことが意味わからないなぁっ…………って聞いてるのかい?無欲……」
喋りながら後ろを振り返ると、帰ってきたのは返事ではなくいびきだった。
「えええっ……。暇なんだけどー……まあいいや。僕も眠ろうっ」
――――数時間後。
ガタン……ゴトン……ががこっ。
汽車が急停止した。
そして眩く輝いたかと思うと、結晶のようにぱりんっと割れた。
眠る欲望たちはそれに気づかず、力の入っていない体は重力に逆らえずそのまま。
どてっ。
「ぐがっ」
「んへっ!?」
「……んむっ」
三者三様に声を上げ、汽車から落ちた。
「ほほ。相変わらずじゃの。お前らは」
「……あー?」
「えっえっ?……あ、着いたのかっ」
「……おはよう……ございます……ぶつよくさま」
ざわざわと揺れる木々に囲まれたぽっかりとした空間。
目の前には穏やかに笑う、欲望が一つ立っていた。
そして、横には金色の髪をしたツインテールの欲望もいる。
「ちょっとアンタ達、挨拶くらい出来ないの?睡眠欲ですら出来てるのにほんっとうにグズなんだから!」
周りにいる他の欲たちから「あいつら今年も落ちてやんの」だの「出たよ知識欲の説教」だのと聞こえてくる。茶化すように明るい笑い声が響いた。
「わああ知識欲ちゃん、ごめんなさいっ。物欲様、お久しゅうございますっ」
慌てて頭を下げる色欲。
ほら、無欲もほらっ、色欲に促され、無欲も頭を下げる。
「……こんばんは」
「ほほ。久しいのう。ここの欲はみな仲が良いようで安心したぞ。――さて、そろそろ生まれ時じゃ」
微笑みながら、物欲が空間の中心に手をかざすと、白く輝く球体が現れた。
「物欲様、今回はどんな欲が来るのでしょうか?」
知識欲が聞く。
「知らぬ。俺とて人間の考えなど未知の領域じゃ。だが――然るべき対処、要は仲良く暮らすのだぞ」
「はい。仰せのままに」
胸に手を当てる知識欲。
他の欲も知識欲に続いて同じ動作をする。
ぱきっ。ぱきぱきぱきっ。
球体にヒビが入った。
「……生まれる」
無欲が呟いた。
ぱきっぱきぱきぱき……ガシャン――。
球体が割れ、中から新しい欲が出てきた。
長い黒髪に紫色の目。雪のように白い肌、白い着物。
雪女を連想させる様な姿をしている。
静かに周りを見回したあと、ゆっくりと、その欲は口を開いた。
「……はじめまして。わたしの名前は――死消欲。……あなたは?」
死消欲は手をかざしている物欲に問いた。
物欲が優しく笑いかける。
「俺は物欲じゃ。生まれたばかりですまぬが、これだけはそなたに問わねばならない。お前は――何故うまれた?」
みんなが見守る中、死消欲は俯いた。
物欲様は男でも女でもないです。
当たった人にはぱちぱちぱちっ(拍手)!