NOsister:共通シナリオ① シスターは吸血鬼なのか?
月の見えぬ深夜―――森に囲まれた廃墟の教会。
『ヴァンパイア―――――神に背く穢れし怪物よ』
パン、パン――威嚇とおもわれる二発の銃声が響く。
男の声はけして大きくはないが、私は耳がいいのでそれを鮮明に聞き取れた。
『ねえ……まだ隠れるんですか、抵抗しないほうが身の為だと思うのですが』
――私は青年に姿を見せる。それはもちろん降伏からではない。余裕があるからだ。
『まだあどけなさ残る少女とは驚きました』
『いかつい化け物を期待したならごめんなさいね』
●
「あれ…」
私は教会の見回りを済ませ、帰ろうとしていたはず。
なのにいつの間にか意識をなくして、夜明け前の、教会にいる私は、聖母の絵と十字架の前にいた。
私は意識をなくした間、変な夢を見た。
あれは現実のような非現実的なもので、尚且つ不思議だった。
《憐れな娘子よ》
――ステンドグラスの中から、羽を生やした美しい女性が現れる。
私の眼前に降り、目映い光をまとった桃色髪の天使は、頭の中に言葉を残し、そのまま天使は消えてしまう。
―――そこで私は意識を失った。
●
「はあ……」
昨日は不思議なことがおきた。
《私の代わりに愛の力を集めて――――》
天使はそう言っていた。
私には天使からの御告げがあったのだ。
しかし、愛には様々な形がある。
天使の云う、愛の力とはなんだろう。
私は生まれたばかりのとき両親に捨てられたらしい。
教会の前に、白い布にくるまれたまま捨てられていたという。
教会に恩返しすべく、シスターとして頑張ろうとしている。
「うわあああ!!」
しかし十字架に触れると、手が痛み、日の光は目が痛む。
ニンニクを食べれば頭痛がし、銀製品は見ているだけで具合が悪くなる。
「お前はどこのヴァンパイアだ?」
―――神父様は頭を抱えた。
「ヴァンパィアなら太陽を浴びた時点で死んでるわ」
私のはただのアレルギーではないか、偶然ヴァンパィアが苦手とするもの限定の。
だが日光だけ平気なのはおかしい。
「まあ元気そうで何よりだ。……そういえば最近霊感商法が流行ってるんだ」
「自由に使えるお金のない私が引っ掛かるわけないじゃない」
大体は懺悔に来る人の話を聞くのは私とこの教会のトップなのであまり外出はしない。
「ならいいが、もうすぐ卒業なんだし頑張れよ」
神父様の言葉の意味がわからなくて、私はしばらく考えた。
「ねえねえ、教会の人間が誕生日になると、裁きの塔の使者が来て天使になれるらしいわよ!」
「えー天使になったら仕事増えるしケーキ食べられないじゃん?」
私の毎日はシスターの服を着てクッキーを作ったり庭の掃除をしたり。
それが当たり前だと思っている。
「あ、もうすぐアナタの誕生日じゃない!」
正確な生まれた日はわからなくて、拾われた日が誕生日。
「教会らしく質素なプレゼントを用意するわ」
――それから一週間後、18の誕生日を迎えた。
「教会を出ていってもらいます」
「え!?」
「あなたは今年で18歳よね、いまは経営難で18になったら孤児院をでる決まりがあるの……」
ななな…なんだってえええ!?
神様ああああ御慈悲をおおお!!
生まれてこの方世俗から離れてフワフワんとシスターごっこして来た私を、自我が固まり修正不可であろう年まで扶養しておき、突如地獄へブン投げられますか!?
餓死しちゃうよ、と嘆きながらも有無を言わさず少ない荷物と共に投げ出された。
首に下げた赤ん坊のときから持っていた十字架と孤児院の安物の十字架。
ポケットには聖水、飲み水、ガロリーメイド(ブルーツ味)くらいでどうしよう。
エクソシストのようにすんごい力でもあればいいんだけど、私はシスターどころかシスターのコスプレの人だし。
いっそ霊感商法でもやっちゃおうか、よしそうしよう。
ちょうど空を飛ぶ悪魔を見つけた。
どうせコスプレだろうけど、注意しよう。
「そこの悪魔!」
「んだテメー?」
「私はシスターのコスプレの人よ!!」
「要するにシスター服と十字架装備の一般人か、黒き闇よ!俺を隠せ」
本物の悪魔だったああああ。
空を飛んでいた時点で気がつくべきだった!!
「シスターのお嬢さん、こんなところでどうしたの?」
「…天使?」
天使のようなふんわりした美男がシスターと呼んでくれた。
いやまあこの格好を見れば誰でもシスターと呼んでくれるけども。
「じつはカクカクシカジカ(孤児院を追い出され…)」
「それは大変だね」
彼は聞くだけ聞いて帰った。
もうだめだ天から見放された。
私は孤独なんだ…地面に座って物乞いでもしよう。
「…フン」
(なんだ鼻でわらいやがってこっち見んな金持ち野郎が!!)
おっと、心に住まう魔が口汚いことを。
あら、向こうの橋でなんか死にそうな人がいる。
「父さん母さんごめん」
「ちょっと待ったああああ!」
「君は!?…迎えに来てくれたの?」
あ、目にクマあるけど結構かっこいい。
「死ぬまえに私にランチとやらを奢ってください(生きていればいいことありますよ!!)」
建前と本音が逆になったあああああ。
「正直なんだねわかった。ランチ奢るよ」
少年はでかいハンバーガーをポケットから取り出した。
恐喝紛いの私に食料を恵んでくれた。
なんていい人なんだろ。
「じゃあねー」
とりあえず彼が明日も生きていることを祈ろう。
「フフ…」
「なんですか」
「ただの通りすがりだよ」
なにやらミステリアスな雰囲気の男性がすれ違っていった。
しばらく見ていると、道中電柱に足をぶつけたり車に引かれそうになったりかなりドジなことをしているので心配になった。
いけない、他人の心配より自分の明日のご飯の心配しなきゃ。
「…シスターあああああああ!!」
「うわ!?」
なんかおぞましいオーラを纏って私を追いかけてくる人がいる。
脱兎の如く、私は必死に逃げた。
「ははは…うふふふ…」
ヤバイヤバイあれ人間だよね、悪魔よりヤバイんじゃないの?
なんか包丁を磨ぐ音がしたのは気のせい?
とぼとぼ歩いていると、向こうのほうに捨て猫がいるのがわかった。
「悪い…買ってやりたいのは山々だけど…」
好青年が猫を撫でたりしている。
なんか彼に見覚えがあるような…。
声をかけるか掛けまいか悩んでいる間にいなくなっていた。
ついに夜になった。
まずは聖水を増やすことから始めよう。
その辺の空き瓶を拾い、川でよく洗い、水を入れ、月光にあてる…。
あとは一晩寝て待てばいいかな。