黄金都市ゴロッド
あるところに、ゴロッドという街がありました。
ゴロッドは全てが黄金で造られた街です。
生活資源の代わりに黄金を掘り当てた街の人々は、建物も道具も作れるものは全て金で作り、食べ物や必要なものも全てお金で調達しました。
当然ながら、ゴロッドに住む人々はみんなお金持ちなので、ゴロッドに住む誰かと恋人になりたいと、外から多くの人がやってきます。
ゴロッドの人々は、その中から自分の気に入った者と結婚するので、ゴロッドで恋人がいない者はいませんでした。
ゴロッドの街で一番のお金持ちの男は醜い容姿でしたが、恋人はいました。
理由はもちろん、男がお金持ちだからです。
そんな二人の間に子供が生まれました。
産声をあげる女の子の赤ちゃんに、二人はゴロッドの名前を借りてロロと名付けました。
目を疑うほどの小さな赤ん坊を、二人で抱き上げ可愛がりました。
そして、ロロが四歳の誕生日を迎える日のこと。
父親は仕事の休みが取れず、ロロの誕生日のお祝いをすることができなくなってしまいました。
誕生日の朝、父親はロロに少し厚みのある封筒を渡し、こう言いました。
「金が入っているから好きなものを買え。それが誕生日プレゼントだ」
確かに、ロロは以前から欲しいおもちゃがありました。
父が買ってくれると約束もしていました。
父からのお金で買えば、決して約束は違えないでしょう。
しかし、父親が仕事に出かけた少し後で、ロロは泣いてしまいました。
ロロは、おもちゃを手に入れることだけではなく、父と母と一緒に出かけることを期待していたからです。
それが楽しみで昨晩なかなか寝付けなかったのです。
事情を聞いた母親はロロを抱えて、書き置きを残し故郷へ帰ってしまいました。
帰宅した男は、大慌てで隣近所に行方を聞いて回りましたが、誰も彼女の故郷がどこだか知りませんでした。
勉強に必要なものも人間関係を築くのにも、お金があればなんとかしてきた男でしたが、どんなにお礼のお金を積んでも、知らないものはどうしようもありません。
男は街に出入りしている業者を雇い、ゴロッドの街を出ました。
知らない街にたどり着き、街中を歩きまわり、彼女やロロのことを尋ねて周りました。
時にはお礼としてお金を差し出すこともありましたが、ゴロッド以外の街の人にとっては、ゴロッドの街の男はただ他人に平気でお金を差し出すおかしな人間でしかありませんでした。
そんな男に協力してくれるものはいませんでした。
ゴロッドの街を出た男は初めて、お金があってもできないこと、お金があるせいでできないことがあることを知りました。
それでも男は妻と子供を探すのをやめませんでした。
移動手段、移動先の宿泊代や食事代、協力してくれた人へのお礼の気持ち、そんなこんなで、ゴロッド一番の金持ちだった男のお金はみるみる減っていきました。
そしてとうとう、もうあとひとつパンを買えるだけしかお金がなくなった時。
また新たな街に着きました。
この街でも見つからなければ諦めようと決心しました。
しかし、やはり見つかりませんでした。
もう歩く気力もなくて、公園のベンチでぐったりしていると、
「お父さん!」
嗚呼、どこかの子供が父親を呼んでいるらしい。
自分にもそんな時期があった。
「お父さん!」
近づいてくる、ひたすら父親を呼ぶ幼い声に、聞き覚えがある気がして顔をあげると、そこには妻とロロがいました。
「あなた。どうしてこんなところにいるの?」
「探していたからに決まっているだろう」
「どうしてここが分かったの?」
「偶然だ。いろんな人に協力してもらって、街から街へ移動するのに同行した」
「痩せたようにみえるわ」
「お前たちのことを知らないか聞いてまわっていたから、お礼に少し渡した。受け取らない者もいたがな」
「そうでしょうね」
「あとひとつパンを買ったら、本当にもうおしまいだ」
「じゃあ、そのパンを三人で分けて食べましょう」
男は、ロロの好きな菓子パンをひとつ買い、三人で分けて食べながら、彼女の家に帰りました。
それからというもの、男は一から仕事を覚え直し、コツコツとお金をためていきましたが、一家がゴロッドの街に戻ることはなく、ほんの少し不便で、ほんの少しの輝きしかない街で、三人は幸せに暮らしました。