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屁たれたちの挽歌  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
15/19

15 壊れた藤原

 


 銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。


「藤原!目をつむれっ!やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった!顔見たら石にされてまうぞっ!」


 健太郎が大声で叫んだ。


「……分かった」


 藤原が静かにうなずいて目をつむり、安眠マスクをしようとした。


「藤原君!心配しなくていいよ!僕は、君に危害を加える様な事は絶対にしない、する訳ないじゃない!さあ、目を開けて!」


 雄介の狂喜する声が響いた。


「何を!騙されるかえっ!」


「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」


 藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。


 すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。


 頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。


「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」


 藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。


「……」


 藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。


 彼の目にまず映った物、それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。



「坂口さんも……やられたんか……」


「お、おうっ……」


 突然の藤原の問いに、健太郎が目を泳がせながら答えた。


「や、やつの……ゴホンッ、やつの力はとんでもない(もん)やった……あっちゅう間、ほんまにあっちゅう間やった……あっちゅう間に……坂口さんはやられた……」


「そうか……そやけど健、何でお前の持っとる鉈が、そない血まみれになっとるんや」


「そ……」


 健太郎の顔がひきつった。


「健、まさかお前……」


 藤原がゆっくりと、健太郎に鋭い視線を向けた。


(……何か……何かええ言い方は出来(でけ)んのか……ま、まさか俺が殺したとは言えんし……お、おえ藤原、その目やめてくれ……)


 健太郎の頬に冷や汗が流れた。

 その時だった。


「健、お前……あいつに体、乗っ取られたんか」


 ナイスナイスナイス!それや!それや!


「……あ、あぁそや……お、俺が坂口さんの首を落としたんや……自分の意志ではどないもならんかった……藤原、俺を殴ってくれっ!坂口さんを殺したんは俺なんやっ!なんぼ体を乗っ取られたとは言え、この手で俺がやった事に変わりはない!藤原、頼むっ!」


 健太郎が瞳をうるうるさせて吠える。


 その健太郎に向かい、藤原が一喝した。


「健っ!」


 その声に、健太郎が口を閉ざした。


「お前のせいやない……気にすんな、気にすんな、健」


「ふ……藤原……」


「健、二人で坂口さんの冥福、祈ろやないか」


「あ、ああ……」




 ジョオオオオオオオオッ!




 二人がズボンのチャックを開け、坂口の生首に小便をかける。


「坂口さん、往生してくれやっ!」


「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


 その光景を呆然と見ていた雄介が、ポツリと言った。


「あ……あなたたちは、一体何をしてるんですか……」


「見て分からんのかっ!坂口さんの冥福を祈っとるんやっ!」


「め、冥福……?」


 そして最後の一滴まで丁寧にかけ終えると、二人は揃ってチャックを閉めた。


「さて……お前がこの大阪を滅茶苦茶にした黒幕やな、会いたかったぞ……」


 藤原がゆっくりと雄介に視線を移す。





「正体は分かっとるんじゃぞ中村!一体何のつもりじゃいっ!」





 藤原が絶対的な確信の下、大声で怒鳴った。


 健太郎が頭を抱える。


 しばらく唖然としていた雄介の肩が、小刻みに震えた。


「ち……違いますよ藤原君……僕は中村君じゃありません……」


「へ」


 雄介の言葉に、藤原が気の抜けた声を出した。


「ちゃ、ちゃう……中村とちゃうやと……ほんだら誰なんや、お前……」


 藤原が眉間に皺を寄せて考える。


 そしてしばらくしてはっとすると、ポンと手を叩き人差し指を雄介に向け、これ以上にないドヤ顔で吠えた。




「分かった!石川やなっ!おんどれ、ええ加減にせえよっ!」




「……ち、ちがう……」


「な……い、石川ともちゃうやと……ほんだらお前、何者(なにもん)じゃい……」


 藤原が両手で耳を塞いだ。


「は……はあああああっ……」


 その姿はあのムンクの名画「叫び」の様であった。


「分からん……分からん分からん分からん……」


 健太郎が藤原の肩をポンと叩いた。


「……おえ藤原、ちゃうって……ちゃうちゃうちゃうって……ボケは二回ぐらいにしとけや……あいつは岩崎雄介や……」


「……」


 藤原がムンク状態のまま固まった。


「おえ藤原、聞いとるんか。あいつは岩崎雄介や」


「……」


「藤原っ!」


「へ」


「あいつは岩崎雄介やっちゅうとるんや!中村でも石川でもない!」


「は、はあ……」


「分かったか!い・わ・さ・き・ゆ・う・す・け・やっ!」


「いわちゃきゆーちゅけ?」


「そや!」


「だれ?その人」


「こ・い・つ・や!」


「このひと、いわちゃきゆーちゅけってゆうの?」


「そや!」


「……」


 藤原が何やらぶつぶつとつぶやきだした。


「えーっと、このひとがいわちゃきゆーちゅけちゃん。このおにいちゃんがやまもとけんたろーくんで、このくびがさかぐちさん!」


 キラキラ瞳を輝かせ、ぶつぶつ独り言を続ける藤原を見ながら、健太郎と雄介が頭を抱えた。




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