表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

霙の夜 ‐みぞれのよる‐


「…あれ? 御主人いねえ…」




「御主人来てないよな?」


「来てませんね。えっ」


「いなかったんだよ…御主人」


「…

展望室は見た?」


「あ、見てないな」


「すみちゃんよく行くよね!」


「確かに…見てくる」




「…

あ。御主人起きてたんだな…


…!!」


「…きょくちゃん」


「御主人…それ…御主人のクオリアか?」


「…うん。

こんなに凍らせてしまってた。

ちょっと怖いよね…触ったら手とかもがれそう」


「こんな…」


「ね。申し訳無い。

俺のって元々なんか変わってるから、ちょっと隠してた…

でも多分もう無理なんだろうね。

身体がね、動かないんだよね」


「…」


「もっと早くに言えれば良かった。

でも…やっぱり、前までの俺にはどうあがいても言える事じゃなかった。

一応すごく勉強して、全力で調べてた…


……今なら……」




恥ずかしいけど涙が止まらない。


でも、今なら…言えるかもしれない。


誰かを殺してしまう前に、言わなきゃいけない。




「………」




言わなきゃ




…そうだな、この痛みは悶えながら心地好く受け入れたらいい。




「………


きょくちゃん…

…悪いけど、ぎゅーってしてくれ」


「!?


…えっと…」


「こう …してよ」


「お、おう…

…解った


…ほら」


「…


あのな、俺…嫌われるの怖いのね。

怒られるのも超怖いし、大きい音も怖くてやだ。

…ちょっと我儘っぽいじゃん。

でもどう頑張ってもまだ直せてない。


…けど、頑張ってきたのは嘘じゃない。

ただ、俺だけの考えじゃ間違ったまま頑張ってるのかも判らない。

自分の事なんて自分が一番判らない…


だから、俺がどうすれば迷惑でないか、きょくちゃんの…

みんなの主観を知れると嬉しい」


「…主観?」


「うん。主観…」


「何で、主観?

個人的なもので役に立つのか?」


「んー…

客観的なのは…逆に情報量が少なすぎて、参考にしにくいんだよね。

客観的な事って、たくさんの主観が重なったほんの一部分の共通点でしかないじゃん…


今この世界に広まってる客観の全部が納得できるわけじゃないから、

…せめて、俺の近くにいてくれるみんなの主観を知っていきたくてさ。


どんな食べ物が好きなのか、落ち着く場所はどういう所か、虫とかはどう思うか、

…とかも、いろいろ」


「……ふーん…なるほどね。

…俺もそう思う。」


「マジで?

…俺 変な事言ってたんじゃない?」


「まあ御主人は変な奴だな。

俺は御主人の話好きだけど」


「………そ……… ……本当に…?」


「嘘ついてどうすんの」


「……マジで………

……きょくちゃ……

…聞いてくれて… 

……あ…… …あ り…が……と…」


「…泣きすぎ。

…解ったから…」







……聞いてもらえて良かった。


結局本物の言葉かどうかは判断できないが、どちらにしても…俺が言われて嬉しいような言葉を選んでくれた事が、


…優しい言葉を聞かせてくれた事自体が、本当に素直に嬉しかった。




打ち明けた話をしたのは初めてじゃない。

試行回数は多くなかったが、ほとんど無防備な所に返された一撃は重かった。


徐々に成功できそうな方法は解っていったものの、揺るがされた自分の支え方は凍らせるくらいしか思い付かなかったし、考える余力も無かった。


死ななきゃいけないとも思った。


そこはやる気の無さに助けられていたのかもしれないけど。


気まぐれとはいえ、部隊を作るという行動を起こしたのも結果的に良かった。

優しい隊員達に出逢えたのはものすごい良運だが、その機会を作ったのはどう考えても自分だった。


確かに独りでは凍らせるしか支えるすべは無かった。


殺す前に強くなれて良かった。

と思う。






「御主人のクオリア、これ犬だな。

首輪だろ、これ」


「そうみたいだね。

逃げられないようにされるのっていいよね」


「…;

なんか誤解しそうな言い方だな…;」


「そうだね…ww

そりゃ自由にならないように縛り付けられるのは嫌だけどね。


それなりに自由にさせてくれるなら、傍に居てくれって言われてるようでいいね。


なんなら支配されてても誘導されてても操られてても…

俺の意思を尊重してくれるなら、どうだっていいかなあ」


「犬だな」


「犬かww」


「犬だなww


…ふーん…

野生の家族を引き離すのも、家で飼われてたのをとりあえず自然に帰すってのも、同じくらい勝手なのか」


「多分そうだと思うんだよね。

その者自身がそう望んだんなら別だろうけどね。


きょくちゃんが聞いてくれたから、俺はみんながいてくれるとすごく嬉しいって事がちゃんと解ったし、

…俺もみんなの支えになれてたらいいなー…っていう…尻尾振って上目遣いな状態」


「…何だこの犬ww

部隊で拾っておかなきゃいけないだろうな

後で隠し部屋に縛って明日まで放っとこ」


「ひどいwww」


「笑っちゃってるじゃねーかwww

御主人変な奴ww変態ww」


「うるせwww」




軽く暴力的な言葉もなんとなく心地好く受け入れられるのは、きょくちゃんが優しいからだろうか。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白波オルカ ▼小説置き場 超次元の海: http://nanos.jp/shiranamioruka/ ▼Twitter:@shiranami_oruka http://twitter.com/shiranami_oruka ▼アカウントポータル(ツイフィール): http://twpf.jp/shiranami_oruka
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ